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2011/07/09

Rewrite 静流アフター (Rewrite短編)

※このSSは静流ルート及び最終シナリオの壮大なネタバレが存在します。ネタバレが嫌な方は見ない方がよろしいです。

それでも見るというのなら、どうなっちゃっても作者は責任とりませんからね!!

 

 

 

 

 

 

 

 空は雲ひとつ無い快晴で、風も無風ではないものの心地良い程度。
 仕事を終えた私が向かう先は草原に佇む一本の木。…私の大好きな人の元だ。
 
 
 
 世界は鍵の祝福により文明を滅ぼされて、私を含めた数少ない人間が宇宙へ避難する事で、人類滅亡だけは防ぐ事が出来た。
 数ヶ月間に渡る宇宙空間の生活ののちに地球へと帰還した私達は、完全に姿を変えてしまった世界を見ることになった。
 …アスファルトで塗り固められた筈の地面は土と草に覆われ、立ち並んでいたビルなど全然見当たらない。地形を見てかつての街の姿を思い出す事が出来る程度で、かつて人間が築き上げてきた文明は殆どが地表から消失していた。
 どうやら地下にある空間は無事残っている場所もあるらしく、とりあえずはそこを拠点にして生活をする事になるだろうといまみーは言っていた。チャラチャラした印象のいまみーも今では頼れる人類のリーダーの様な立場で、とーかが見たら似合わないと大笑いしそうだ。

 地球に帰ってきて踏みしめた大地、深呼吸して肺に入れた空気。その時の事は忘れる事は出来ないと思う。
 数ヶ月間をあまり広くも無い宇宙船で暮らした後での開放感と、地表を覆い尽くした自然が香る空気。母なる星とは良く言ったもので、この星に戻って来れた事で酷く安心する事が出来た。他の皆も同じらしく、中には泣いている人も居た。
 泣いている人の中にはかつての景色が完全に無くなってしまっている事を嘆いたというのもあると思う。草木しか目に入らない広大な世界は、まるで人間という種が存在していた事が書き換えられてしまったかの様だった。

 地表に降り立った私が最初にとった行動は、この星に残ったあの人が居た場所へ向かう事だった。
 世界が光に包まれて行く中で、それでもまた会えると言った彼。本当ならそんな事あり得ないだろうけど、当時の私はそれを信じられたし、そして今もそれを信じている。
 彼を信じているから? それとも考えたくないだけ? …理由は私にもわからない。不安もあるし怖くもあるけど、また出会えると私は確信していた。それを信じさせてくれる何かが、あの人にはあったのだ。
 そして辿り着いた場所。かつては広い公園だった場所は見る影も無くただただ広い草原で…そして彼と別れた辺りには、一本の立派な木が聳え立っていた。

「…コタロー?」

 見た目は普通の木だ。他の森の部分から外れている点以外はおかしいところなど何も無い。でも、その木からは、まるで彼の様な雰囲気が感じられたのだ。正確には、彼と、彼と共に居た2体の魔物のもの。
 ゆっくりと歩いて近づき、その大きな木を見上げる。新緑色の木の葉が風でザワザワと音を奏で、目に入る木漏れ日に少し目が眩んだ。
 木にそっと手で触れる。暖かい。

「…コタロー」

 声も聞こえないし、二人が繋がっていた時の様に意思を汲み取る事も出来ない。ただ手で触れて、暖かさを感じただけ。
 それでも間違いなく、この木がコタローなのだと理解出来た。その暖かさは、私が彼と共に居る時に何度も感じた、優しく包み込まれる様な暖かさだったから。

「コタロー…ただいま」

 溢れ出てくる涙を拭うのも忘れて、私はそのまま一本の木に寄り添いながらその暖かさを感じていた。
 一度だけ強く吹きぬけた風が木の葉を大きく鳴らし、まるで彼が返事を返してくれた様に聞こえた。

 あれから私は頻繁にこの木の元に来る様になった。
 木に背を預けて座り、また新しい地下空間が見つかったという話や、薬を作れるという能力のせいで忙しくて大変だという愚痴など、色々な事を彼に話していた。
 聞いてくれているのかはわからないし、そもそも彼としての意識が残っているかもわからない。それでも、この時間は私にとってとても大事なものだった。平和に、無邪気に楽しんで生活していたあの頃みたいな感じがしたからだ。

「よぉ!相変わらずだねぇ」
「いまみー…どうした?」
「いんや、俺もたまにはのんびり散歩をしたくなるさ」

 今のいまみーは話し方はともかく、衣服は以前の様な軽そうな印象を与えるものでは無くなっている。本人曰く、ケジメみたいなもんだ、との事。
 人類のリーダーとも言える立場なのでとても忙しいらしく、最近よく「栄養剤とか作れね?」と聞かれたりする機会が多くなった。無理という訳では無いけど、薬だからあまり頼らない方がいいと思う。
 …そういえばいまみーがここに来るのは、周辺の探索で来た時以来だと思う。この木については信じてもらえるかどうかはわからないけど一応教えてあって、伐採しないでいてくれると約束してもらっている。
 その時のいまみーは、何だか昔を懐かしむような遠い目で木を見ていたので印象に残っている。

「それにしても、木になっちまうとは・・・汚染系が何をどうしたら木に変化するんだかねぇ」
「…? コタローが汚染系?」
「ん? あぁ、天王寺の事、西の奴から少しは聞いてるかと思ったけど、何も聞いて無いのか」
「とーか? とーかからコタローの事は聞いて無い」

 …そういえば、とーかは初めてコタローの話をした時に少し様子がおかしかった気がする。他にもコタローとの話の時や一緒にいる時は、ちょっとだけいつもの違う感じもしていた。
 二人とコタローは何か接点があったんだろうか? コタローの方はそんな特別な事は無い様な感じだったと思うけれど。

「何つったらいいか…いやな、俺と西九条と天王寺な、ガーディアンの同期だったんだよ」

 訓練所時代はもう一人居たんだけどなぁ、と言いながら木に触れるいまみー。私は予想外の言葉にとても驚いていた。
 いまみーと、とーかと、コタローが同期…確かガーディアンを抜ける時は記憶処理をする事になってたから、きっとコタローは抜けたって事だと思う。でも、それだと色々とおかしい部分もある。

「…ん? 聞きたいのか?」

 コクリと頷く。いまみーは少し躊躇する様な反応を見せた後、木に向かって「話しちまうからなー」と言って、昔何があったのか話し始めた。

 訓練所の同期として二人と出会った事。同じチームになった事。コタローは組織に入る前から個人で魔物を狩ってて、実力を期待していた事。でも期待はずれだった事。
 あんまり強くは無かったけれど、実際に魔物と戦っていた経験から中々為になる部分もあった。でも、当時のいまみーはコタローは弱いからとあまり期待して無かったという事。
 とーかもコタローに対しては似た様な部分があったと聞いて少し驚いたけど、私がガーディアンに入った頃の事を思い出すと、確かに最初の頃はそんな感じがあったのを思い出せた。
 それで何故あんな風に抱きついてきたりする様になったのかは私には全然わからない。

「んで、初任務が暇そうな地区での見張りの仕事でなぁ。このままじゃ上を目指せないからって、西の奴と二人で命令無視して森の方に行ったんだよ」
「…いまみーととーかが?」
「ま、あの頃は俺らもそこらの新人と同じだったってわけよ。今思うと恥ずかしいやら情けないやら…それに、それが原因で、な」

 コタローを置いて行動した二人だったけど、大した成果を上げる事が出来ずに上から大目玉を食らっただけだった。
 でも、別行動になったコタローは…

「普通に考えりゃ、あいつがそのまま止まってる訳が無かったんだよなぁ。俺も西も功を焦って判断ミスってた」

 遅れて森に入ったコタローは二人とは合流出来ず、見つかったのは瀕死の状態のコタローだった。

「瀕、死…」
「生きてるのが不思議な位だって聞いたよ。誰かが応急処置か何かをしたらしいけど、誰がやったかは不明のままだ。これ以来俺も西も変な事はしない様になったんだよ。…自分達が原因で同僚のが死にかけるのは、かなりキツイぜ?」

 そのままコタローは入院する事になり、何年も目が覚めなかった。コタローの肉体もまるで成長せずに。
 当時の『目』の能力者がコタローを見た時は右腕に正体不明のエネルギーの塊が見えたらしく、それのお陰でギリギリ生還して、それが原因で成長が止まったのでは無いかという話になったらしい。
 結局成長が止まっていた事に関しては今まで原因不明のままだったらしい。

「んで、後は江坂さんが色々やったらしくて俺は詳しくは知らね。知ってるのは記憶処理をして天王寺はガーディアンを抜けたって事くらいだ。だからたまたま見かけた時は驚いたもんだよ」

 西も驚いただろうさ、と最後に笑って話を終えたいまみーは、一度だけ軽く木を叩いた。

「同じチームでは無いとはいえ、また一緒に戦えると思ってたんだけどなぁ…木になるって、意味わかんねぇっつーの。西九条も居なくなって、もうトリオは俺一人じゃねぇか」

 木を見上げているいまみーの横顔からは、普段見せる事の無い寂しさの様なものを感じた。

 地球に戻ってきてから約1年。季節は冬になった。
 冬になったといっても以前の日本の様な気候とは違い、鍵の救済の影響か気候が安定していない。ここ最近はちょっとした氷河期かと思う様な寒さなので冬と言っているだけだったりする。
 たまたま見つけた地下空間で少しボロボロだったものの防寒着が見つかったお陰で外での活動が出来ているけれど、見つからなかったら大変な事になっていたと思う。本当に良かった。

 冬になっても私は木の元へ行くのを止めない。天気の悪い時は流石にいけないけれど、少し風が強い程度なら私はコタローに会いに行っていた。
 …寂しくて、悲しくて、会いたいのだ。お話したいのだ。でも、それは不可能。だからせめて、コタローの傍にいたい。
 私は私が自分で思っていたよりも寂しがりやだったみたいだ。

「ん? 今日も行くのか? 今夜は天気予報で寒波が来るって行ってたから早めに戻っとけよー」
「大丈夫」

 ちなみに天気予報というのは、一緒に避難して生き残ったガーディアンの人間の天気予報だ。特殊な狩猟系の能力者で、狩猟系でも身体能力の強化倍率は低く、環境の調査に秀でてる人だ。
 能力の一環で何となく天気がわかるらしく、その的中率も現代並とは言わないものの結構高い。今回も寒波が来ているかどうかは知らないけど、寒くなるのは本当だと思う。
 今日は早めに帰って来よう。そう考えながら、冷たい風の吹く屋外に出た。

「コタロー、また来た」

 コタローの木は冬になっても葉が落ちていない。いまみーは「普通の木じゃなくて、魔物みたいになってんのかもな」と言っていた。人間から木になったのならその可能性もあると思う。
 ちーの魔物だった咲夜を思い出す。人型の魔物で、私が知っている魔物とは違って自分の意思で活動していた様に見える。いったいどうやって生まれたんだろうと疑問に思う。
 …ちーがいれば、このコタローを魔物にしてもう一度会えたのだろうかと考える。でもちーはいないし、魔物使いも生存者の中にはいない。…魔物にしてでも会いたいなんて、私は相当寂しがりやみたいだ。

「でも…また一緒に居たい」

 そして今日もいつもと同じ、背中にコタローを感じながら、色々な事を話す。ipodで音楽を聴きながら、少しだけ歌ってみたりもする。いつも通りだ。
 そして日が沈んで暗くなった頃に、ipodはコタローが録音したメッセージを流し始めた。

「会いたい…」

 一言呟いた後、突風が一陣吹き荒れる。一際冷たい風に体の熱が奪われる様で、予報通りの寒波が来たんだろうと納得する。
 途端、何かが私と繋がった様な気がした。突風に目を瞑っていた私は瞼を開き…そして、瞳に映った光景に目を奪われた。

 空を覆う様々な色の幕。コタローの能力を思わせるオーロラが天を埋め尽くしていた。
 夜空に浮かぶ満月と、キラキラと宝石の様な光を放つ星と、それらを祝福しているかの様なオーロラの組み合わせはとても美しく見た人の目を奪うだろう。
 でも私はその美しい空模様よりも、その空の下に存在しているソレから目を離す事が出来なかった。

「悪い、ちょっと遅刻した」
「コタロー…?」
「そ、コタローさんです」

 本来現れる筈の無いコタローが、そこに立っていた。あの時と同じ服装で、あの時と同じ外見で。ただ一つ違うとしたら、右腕にオーロラの様なリボンが巻きついてるところ。
 ふらふらと立ち上がり、ゆっくりとコタローへ向かって歩く。一歩、二歩と近づくにつれて、これが幻なのではないかという思いに囚われ、あともう少しの所で動けなくなってしまう。
 コタローにまた会えた。でも幻だったらどうしよう。幻でも構わない? でも、これが幻だったら私は…
 喜びと不安と恐怖で涙が出てくる。近づきたいのに近づけない。触れたいのに触れられない。私は、どうすればいいんだろう?

「…ほら、落ち着け」
「あ…」

 躊躇している私の事をむしするかのように、コタローはあっさりと私に近づいてきて抱きしめてきた。
 感じるのは人の温もりとコタローの匂い。暖かさ。幻じゃない!
 そう理解した途端、もう、止められなかった。

「コタロー…うぅ、コタロー!」
「本当に遅れて悪い。これでも急いだ方なんだけどな」

 悪くない。むしろまた会えて本当に嬉しい。そう言いたいけれど、私の口から溢れるのは泣き声だけで全然止まらない。どうしよう、嬉しすぎて、おかしくなってしまいそうだ。

「体は大丈夫か?今の俺って魔物みたいなもので、前みたいに繋がってるから負担がかかってるかもしれないんだけど…」

 言葉で返事が出来ないので、首を動かす事で否定を示す。そうか、さっきの何かが繋がった様な感覚は確かに、前にコタローと繋がった時に感じたものだった。

「そっか。ぎるとぱにに礼を言わなきゃな…静流に負担がかかってないのは、あいつらと混ざって俺もあいつらと同じ様な、自立した魔物になってるからみたいだからな」

 そうか、あの二人もコタローの中で一緒に居るんだ。驚いたけど、良かった。…良かった。
 
 何とか落ち着いてきた私は、今度は思いっきりコタローの胸の中で泣いてしまった事が少し恥ずかしくて顔を上げる事が出来なくなっていた。
 でも、私はやりたい事があるから、恥ずかしさを我慢して顔を上げる。

「コ、コタロー…」
「もう大丈夫か?」

 コクコクと頷く。これからしようとしている事を考えると尚更恥ずかしくなってくるが、それでも、私がしたいから、我慢する。

「ipodのメッセージを聞いた」
「え? …あー、そか。…うわ何か恥ずかしくなってきた! 俺変な事言ってただろ!?」
「そんな事はない。とても嬉しかった」
「そ、そうか? なら、良かった」
「だから、お礼…」
「え…」

 コタローの首に手を回して、ぐいっと引き寄せる様にして私の顔を近づける。

 ―――また会えた事に喜びを。私を好きと言ってくれた貴方に感謝を。これは、あの録音されたメッセージに対する返答。

 そして二人の距離は零になり、二人の唇は優しく触れ合った。

 ―――愛しい貴方に、愛を込めて。

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