ベルカのスポーツ・○○○の聖王様(リリなの×テニヌ)
ヴィヴィオが通う学校の下見に来ていたなのはとヴィヴィオと、案内役を買って出た騎士のシャッハ。
ひとまず学校の下見が終わったのだが、そのまま学校周辺を見て回る事になった。
「クラブ活動も活発なんだね」
「ええ。中でもスポーツはかなり力を注いでますから」
地球でも見た事があるような競技から知らない競技まで多々見ることが出来るので、ヴィヴィオは勿論なのはもそれなりに楽しんでいた。
ヴィヴィオもクラブ活動に興味がある様なのでこのまま様々なスポーツを見て回るのもいいだろうと、その辺りを中心にして回っていた。
野球の様な競技、魔法を用いた陸上の様な競技、空を飛んでもラグビーの様な競技・・・そして、なのははあるスポーツを見つけた。
「あ、あれってテニスかな?」
「てにす?」
ヴィヴィオが首をかしげてなのはと同じ方向を見る。そこにテニスのラケットのようなデバイスを持っている二人の選手が試合前の握手を交わしていた。
流石魔法世界ミッドチルダ、今更な考えかもしれないがラケットまでデバイスなのかと考えていたが・・・この競技はそんな甘いものではなかった。
試合が始まり、選手がサーブをする。・・・しかし、使った球はテニスボールでは無く特殊な方法で作られただろう魔力弾。それを魔法を使い凄まじい破壊力をもつ弾丸として打ち放ったのだ。
そして繰り広げられる非常識なラリーの応酬。誘導弾のプログラムを組み込んだ一撃で打ち返した弾が異常な軌道で相手のコートに飛び、それを高速移動魔法で追いかけ、更には魔力変換で電撃を帯びさせながら直射弾として相手選手に直撃する軌道で打ち返す。
どう考えても危険すぎる競技になのはは開いた口が塞がらなかった。というか、これはスポーツと呼んでいいのだろうか。
「あれこそ古代ベルカから伝わっている決闘球技、テニヌです」
「テ、テニヌ?テニスじゃなくてですか?」
「はい、テニヌです」
思わずシャッハの顔を見ながら、なんだそのパチモンは!と叫ばん限りに思っていると、コートの方から凄まじい爆音が響き渡った。
慌ててコートへ目をやると・・・そこには吹き飛ばされたのかフェンスに叩きつけられている選手の姿。勿論フェンスは思いっきりへこんでしまっている。
そして選手はそのまま気絶してしまった様で、結局それが勝敗になった様だ。
「も、物凄く危険な競技じゃないですか!?」
「決闘球技ですからね」
「そういう問題じゃ・・・」
そこでなのはは気付いた。なにやら物凄くキラキラとした笑顔でコートを見つめているヴィヴィオの姿に。
「なのはママ!あれやりたい!」
「ええー!?」
「そういえば、最後の聖王であるオリヴィエ聖王女殿下はテニヌの名プレイヤーだったと記されております。恐らくその血が滾っているのでしょう」
「ちょ、ちょっと待ってヴィヴィオ!?あ、待ってコートに行っちゃだめぇ!?」
なのはの叫びもむなしくヴィヴィオはコートに入り込み、すぐそこにあったラケット型デバイスを手にする。そしてコートの中央へ。
コートの中心へと向かって歩いているヴィヴィオの雰囲気が徐々に変わり・・・虹色の魔力光を放ちながら、15歳程度の姿、聖王モードの姿へと変身した。
最早なのはには理解出来ない展開ゆえに硬直するしか無い。しかし聖王の魔力光と変身したヴィヴィオを見た選手達は瞬時に全てを理解したらしく、いつの間にかヴィヴィオvs眼鏡の選手の試合が始まろうとしていた。
流石にここまでくるとなのはも気を取り直して止めようとする。いくら変身しているからといってヴィヴィオはまだ幼い子供であり、しかもこんな競技など初めてやるのだ。もしヴィヴィオが怪我をしてしまったらと考えると恐ろしくて仕方が無い。
なのにシャッハも含めて他の人間は誰も止めようとはせず、むしろ観客が増えている程だ。なのはの内心では最早ベルカが敵になりかけていた。
しかし試合が始まるとなのはは再び思考停止する事になる。
「はぁぁぁ!!」
「くっ・・・まさかここまで・・・っ!」
ヴィヴィオは初めてプレイする筈なのに、何故か熟練の選手の様な動きをしている。高性能の誘導弾で確実に相手の隙を突き、高速移動魔法で相手の打ち返した弾を確実に捕らえる。
更には弾にバインドを纏わせて地面に落ちた時にそのまま弾まずに止まらせたりなど、最早完璧とも言える動きだ。
もう何だかどうでもよくなってきたなのははそのまま観戦する事にした。思考を放棄したとも言える。
「流石は聖王様・・・なら、本気を出そう!」
そう相手の選手が声を発した途端、彼の足元に古代ベルカ式の魔法陣が現れた。周りの観客からはテヅカゾーンがどうこうと聞こえているので、恐らく彼の名前はテヅカなのだろう。
なんだか日本人の苗字みたいだなぁと半分以上停止している思考で考えていると、シャッハが酷く驚いた顔をしていた。
「まさか、彼がテニヌの大会において好成績を残し続けているクニミツ・テヅカだとは思いませんでした。これは、流石に厳しいかもしれませんね」
「はぁ、そうなんですか」
「ええ、彼のレアスキルに魔法操作というものがあるんです。それを使ってあらゆる弾道の弾を自らの元へ引き寄せて打ち返すという脅威の戦法を使い、常勝無敗を誇っている程です」
なんでそのレアスキルをわけわからないスポーツにだけ使っているんだと激しく突っ込みたくなるなのはだったが、今更突っ込んでも仕方が無いとすぐに諦めた。
ともかくそのレアスキルが発動してからヴィヴィオが劣勢になりはじめた。誘導弾を使おうとも全て彼の元に引き寄せられ、バインドをかけても瞬時に解除させられてしまう。
どうすればこの状況を打破出来るのか・・・なのはは何となくそれを見抜いていた。すなわち、彼女の得意技である全力全開の攻撃でぶっ飛ばす事。
そして血の繋がりは無いとはいえ彼女の娘であるヴィヴィオもそれに気付く。そして、その作戦を実行する為の仕込みをした。
それは、相手の魔法操作が緩くなるラケットに当たる瞬間にヒットポイントをずらし、ロブを上げさせる事。
「しまった!?」
緩やかな軌道で宙高くへ舞い上がる弾。そしてその落下点にてラケット型デバイスを構えながら、ヴィヴィオは魔力を収束させる。
「咎人達に、滅びの光を!」
それは、母親である高町なのはの代名詞とも言える収束砲。
「星よ集え!すべてを打ち抜く光となれ!」
周囲に散っていた魔力が流星の輝きの様な光を放ちながら徐々に落ちてきている弾へと集まっていく。そして魔力弾は大きな光の弾へ。
瞬時に狙いを見抜いた相手が妨害しようとするも、収束砲という難易度の高い魔法を、しかも他人の魔法を遠距離から操作するのは至難の業だ。そう簡単に妨害が出来ない。
そもそもテニヌの試合に収束砲など使う選手は滅多に存在していないのだ・・・それこそ、かつて最強と謳われた聖王オリヴィエ以外には。
「貫け閃光・・・スターライトブレイカァァァ!!」
そして放たれた巨大化した魔力弾はネットの上を通り、相手が展開した防御魔法をも紙の様に突き破り、そしてそのまま直線状に吹き飛ばした。
なおも止まる事の無い収束砲はフェンスをも突き破り、客席の人が居ない部分へ着弾、爆音を響かせた。
・・・勝者・ヴィヴィオ。
「Eine Ausubung ist ungenugend(まだまだだね)」
静寂の中、ヴィヴィオの発したベルカ語の台詞がコートの上に響き渡った。
「・・・なんなのこの展開」
そして続いて放たれたなのはの疲れた声は、ヴィヴィオの台詞の直後に響き渡った歓声にかき消されて消えてしまったのだった。
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