安倍総理大臣
安倍総理の中南米政策スピーチ

Juntos!! 日本・中南米協力に限りない深化を
対中南米外交・三つの指導理念

平成26年8月2日

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1. 日本の約束
 こんにちは。本日講演させていただくことを光栄に思います。温かいご紹介を有難うございました。
 中南米で続けてきた旅は、ここサンパウロで締めくくりとなります。よい機会ですから、皆さまにお約束します。日本の総理大臣や閣僚は、お国ブラジルや、中南米の国々に、もっと頻繁にやってまいります。
 外務大臣はもちろん、財務大臣や経済産業大臣など、入れ替わり、立ち替わり、中南米の国々に、顔を出せるようにします。
 そうすることによって、お国の皆さまはじめ、中南米の国々と、日本は何をしたいのか?
 それを3つにまとめて、ポルトガル語に、いえ、拙いポルトガル語にしてみましたから、お聞きください。
 プログレジール・ジュントス(progredir juntos・発展を共に)、リデラール・ジュントス(liderar juntos・主導力を共に)、そして、インスピラール・ジュントス(inspirar juntos・啓発を共に)です。
・・・どうやら通じたようです。
 これら「juntos(ジュントス=「共に」の意)」を、私は、わがくに中南米外交における、「三つの指導理念」と呼ぶことにします。
 これから日本は、中南米との協力に、限りない深化をもたらします。その営みを、常に導く理念です。
 日本とブラジルが、日本と、中南米の国々が、手を結び、心を通わせあって、時として苦労を、また努力を、できるなら歓喜を共にすること、――「juntos」の大切さを、私は強調したいと思います。
 大きな声で言いましょう、日本とブラジル、日本と中南米、juntos!!
 
2. プログレジール・ジュントス(発展を共に)
 では第一の、プログレジール・ジュントスについてです。
 言いたいのは何よりも、いまや力強い前進を始めた日本と、中南米の間で、経済の結びつきを一層深めようではないかということです。
 いわゆるアベノミクスはいま、大胆な金融政策、機動的な財政政策という第一、第二の矢に継いで、民間投資を喚起する第三の矢を、日本の深いところ目掛けて、射ち続けているところです。
 日本では、何十年に一度という変革が、たくさんの分野で始まっています。農業で、医療分野で、あるいはエネルギー産業で、私は、なにものも恐れず、改革を続けています。国と、社会を開き、女性に機会を与えるため、新機軸を打ち出し、努力を続けています。
 そんな日本を、頼れるパートナーとしていただきたい。それがまず、私からの訴えです。
 今度の旅では、日本から、経済界・各界のトップ・リーダーの皆さんに多数おいでいただいています。
 プログレジール・ジュントスが、日本とブラジルの、日本と中南米諸国の企業家たちの間に花開き、互いに実りをもたらすことを、共に願おうではありませんか。
 例えばアマゾン熱帯雨林の状態を、衛星から監視するといった最先端の分野にも、協力の可能性が満ちあふれています。
 そして日本には、とくに産業人材の育成という面で、ユニークな貢献をする力が備わっています。
 20年前、天に召されたアイルトン・セナは、もし生きていたら、そしてこの場にいてくれたなら、こうしたことのひとつ、ひとつに、力強く、うなずいてくれただろうと思います。
 生粋のパウリスタ、セナがホンダのエンジンで疾駆した姿は、いまも記憶に鮮やかです。あの、コーナーに向かって果敢に突っ込む勇気。鈴鹿のセナは、日本人の魂を鷲づかみにしました。
 そのセナが、ホンダについてこう言っています。
 「ホンダの人たちは理想に向かってすべての努力を傾ける。約束は決して違えない。技術の面ではもちろん、人と、人との付き合いでも同じだ」
 それが日本人と日本企業の、ほかにはない特色だと喝破したセナは、「日本と日本のファンは、私の心の特別な場所にいる」のだと言いました。
 日本企業を、世の大方の企業と分かつもの。それは、工場の作業現場が、働く喜びを教える学校のようになる、著しい特色です。
 「日本の企業だけが、労働とは何かという倫理を教えてくれた」という趣旨のことを、私に言ってくれたアフリカの指導者もいました。
 ウジミナスの、日本とブラジルの合弁製鉄事業を指して、いつしか人は、「ウジミナス学校」と呼ぶようになりました。
 造船の合弁、イシブラスでも、人材の育て方を称して、「イシブラス学校」の名がつきました。
 日本企業が、中南米経済の確かな一員となる時、そこにはあの偉大な女性詩人、ガブリエラ・ミストラルが詠った情景が現れます。
 「一輪のバラさえ植える必要がなく、取り組むべき仕事の一つとしてないというなら、世の中は、さぞや悲しい場所だろう」。
 労働とは、歓びであり得るのだと詩人は言いたかったのだと思います。日本企業がもたらすものは、まさしくこの歓びです。
 いまや活力を復活させた日本企業は、中南米に向け、いつにも増して真剣な眼差しを注いでいます。
 最新データによれば、日本企業の対外進出件数で、中南米は、ほかのどこより多い新規進出件数を示しています。
 だからこそ、プログレジール・ジュントス。日本企業を、どうぞパートナーにしてください。共に、発展していこうではありませんか。
 
3. リデラール・ジュントス(主導力を共に)
 リデラール・ジュントス――。
 共に、何を、どんなふうに、リードしていこうというのでしょうか。
 そもそも中南米諸国とは、日本にとって、いつも新しい地平線を開いてくれる国々でした。
 日本が結んだ経済連携協定(EPA)の中でも、メキシコ、チリ、ペルーと結んだものは、いずれも初期の、しかも大いなる成功例です。その実績を踏まえ、これら3国を含む、TPPの交渉に臨んでいます。
 いまはまた、EPAをコロンビアと交渉中です。仕上がったあかつき、太平洋同盟加盟国のすべてと、EPAのネットワークができることになります。
 歴史を遡ってみましょうか。
 日本が近代化に向け格闘していたとき、平等な条件の条約を、日本といち早く結んでくれたのも、それから戦後、日本が国際連合に加盟する時、揃って賛成してくれたのも、中南米の国々でした。
 皆さん、私は思います。いまや日本が、外交の地平を広げようとするとき、中南米諸国こそは、日本が頼りとすべきパートナーなのです。
 日本と中南米には、価値と、志における共通性があります。
 あくまでも平和を希求してきた、歩みの一貫性。それから、自由を尊び、民主主義を大切にし、人権と、法の支配を尊重する価値観。
 日本と中南米が一緒になって、世の中を少しでも良くしていこうとするとき、これらが私たちの足腰を支えます。
 トラテロルコ条約のことを思い出してください。非核化地域をつくる条約として、世界初の例でした。リオ・サミットが、気候変動枠組条約と、生物多様性条約につながったことは、誰もが知っています。
 日本はいま、お国ブラジルとともに、気候変動対策に役立つ議論を、途上国、先進国の垣根を越えて推し進めていけるよう、「『気候変動に対するさらなる行動』に関する非公式会合」を主催しています。
 国際社会をポジティブな向きへ推し進める力として、さまざま困難な国際課題に立ち向かう「リデラール・ジュントス」の、好個の実例です。
 日本とブラジル、日本と中南米諸国は、地球を覆う課題と立ち向かうには、これ以上ない資格を備えていると、私は確信します。
 リオ・グランデから、リオ・デ・ラ・プラタまで、自由と、民主主義、人権と、法の支配を重んじる皆さんの生き方は、幾多の試練を乗り越えながら、常に一貫していたではありませんか。
 私たち日本人は、そこにとても心丈夫なものを覚えます。だからこそ、リデラール・ジュントスでなくてはなりません。
 これから我が国は、まさにこのことを主眼として、中南米諸国首脳の皆さんと、中南米諸国において、またあらゆる機会をとらえて、話し合っていくつもりです。
 今度私は、世界の平和、地域の平和に、日本がもっと積極的に貢献できるよう、安全保障の法制度を整備することにしました。
 ハイチに赴いた自衛隊の活動は、感謝と、称賛をいただきました。ハリケーン被害の救援に出かけたホンジュラスでも、自衛隊員は、感謝の歓呼に包まれました。
 中南米での経験が私たちに与えてくれたものは、もういちどミストラルを引くならば、「エル・プラセール・デ・セルビール(奉仕の歓び)」だったのです。それがひとつの自信となって、いまや日本の旗印、「積極的平和主義」を掲げる決意が育ちました。
 ブラジルの皆さまに、中南米諸国の方々に、訴えたいと思います。世界から不幸を、危険を、法の蹂躙を少しでもなくしていくよう、ともに先頭を歩んで行こうではありませんか。
 軍縮で、不拡散で、さらには環境問題で、「juntos」、一緒に働ける分野が、近年とみに増えました。あらゆる機会をとらえて協働し、世の中を、少しでも良い方向へと、一緒にリードしていこうではありませんか。
 
4. インスピラール・ジュントス(啓発を共に)
 なんのためかといえば、私たちの、子や孫のためです。平和で豊かな世界を築き、残していくためです。
 思えば、日本が中南米へ差し伸べてきたODAは、累計で300億ドル以上に及びます。これが将来世代のための投資でなくて、なんだったでしょうか。
 日本人の本郷豊さんが、セラードで大豆がつくれると信じて、20年以上も頑張れたのは、本郷さんがブラジルの若者に、未来の可能性を見たからに違いないと思います。見込みのとおり、ブラジルはいまや、世界最大の大豆生産国になりました。
 セラード開発は、「不毛の大地」と言われた広大な土地を、穀倉地帯に変えました。大豆という温帯作物を、熱帯地域で立派に育ててみせました。何もなかったところから、食品加工のように、産業の一大バリューチェーンを作りました。
 文字通り、日本と、ブラジルの協力が成し遂げた、世界史的達成です。しかもいまや本郷さんたち日本人と、セラード開発で経験を積んだブラジルの専門家は、土地柄が似たアフリカで、大豆の生育に取り組んでいます。夢の再現、まさしくインスピラール・ジュントスではありませんか。
 チリはいまでこそ、サーモンの輸出量で世界一を誇ります。しかし40年前、チリでサケを養殖しようと思った人はいませんでした。
 そんなとき、厳寒のフィヨルドで、努力を15年も続けた日本人がいましたし、現地で急逝した、養殖の専門家がいました。長澤有晃(ありあき)さんと、1972年、50代半ばの若さでサンチャゴに客死した、白石芳一(よしかず)さんです。
 白石さんは、サンチャゴから2000キロも離れた奥地へ入り、サケを孵化させる設備づくりに奔走しました。
 長澤さんにしろ、白石さんにしろ、中南米の大いなる可能性に、若々しい夢を追った方だったに違いありません。
 彼らの志を継ごうとするなら、私たちに必要な心がけは、インスピラール・ジュントスです。心と、心を、感動の絆で結んでいきましょう。
 日本と中南米には、400年以上にわたる、長い友好があります。そこに、新たないのちを吹き込みましょう。若い世代のため、人と、人との交流を心がけましょう。
 中南米の未来を担う若いリーダーたちとの絆を深めるために、交流事業を拡充していこうと思います。
 早速本年度は、中南米の次世代リーダーと日系人1000人以上の方に、多種多様な交流プログラムを提供することにしました。
 これを皮切りに、次世代同士の交流に役立つプログラムを広げて行くつもりです。
 いま、日系の方々のことを申し上げました。
 6世代にわたって日系の皆さんが築いてこられた信頼こそは、中南米における、日本に対する信頼の礎です。日系の皆さんが忍んだ労苦を思う時、私はいつも、襟を正したい思いに駆られます。
 「日系人次世代育成研修」と、「日系社会ボランティア」のプログラムを、それぞれ大幅に増やすことを、申し上げようと思います。
 日系人の皆さんにお手伝いをいただきながら、中南米で、日本語教育にもっと投資することにしました。
 日本語を教える先生たちを、サポートします。ITを活用し、日本語教育の効率を上げていきます。
 
5. 「しんかい6500」の教えるもの
 juntosの精神で事に臨むとき、私たちの協力が恵み深いものになるのだと教えてくれたのは、昨年、2013年の、4月から5月にかけて起きたある出来事でした。
 ブラジル沖合、深い海の底に、「しんかい6500」は潜りました。
 「しんかい6500」とは、6500メートルの深海まで潜れる日本の有人潜水艇です。
 まだ見ぬ生き物や、海底の地層を探りに行った旅は、日本とブラジル双方の科学者たちが、知恵と、汗、努力を持ち寄った共同研究でした。
 ブラジル沖の探査をリードした日本の学者は、ふりかえってこう言っています。
 「日本とブラジル双方から、違う文化を持ち寄った科学者同士に本当の友情が生まれたことが、一番の思い出だ」。
 つまりjuntosの喜びが、科学的発見にも増して大きな収穫だったと、日本人科学者たちは感じたのです。
 さあ皆様に、「しんかい6500」の栄えある乗組員をご紹介しましょう。
 サンパウロ大学で海洋生物学を研究するヴィヴィアン・ペリザーリ(Vivian Pellizari)さんです、――皆様の、拍手をお願いします。
 ペリザーリ教授、祖国の沖、母なる海の底まで潜ることは、15年間追い求めた夢だったと伺いました。ご覧になった海面下4000メートルの海は、青く、どこまでも透き通っていたのだそうですね。
 花崗岩の地層が見つかったというニュースは、もしやアトランティス大陸の一部かと、日本でも話題になりました。
 そうであっても、なくても、ペリザーリ教授たちがjuntosの精神で、日本の学者、専門家たちと、一緒に働いたというそのこと自体、私は何よりすばらしいと思います。
 ありがとうございました。どうぞお座りください。
 
6. リオから東京、夢のリレー
 ここにおいでのブラジルの皆さんと、私たち日本人との間には、格別のjuntosがあります。
 ブラジルの皆さんには2016年、私たちにはその4年後に、オリンピアードがやって来ます。若者の、祭典がやってきます。
 東京は、リオデジャネイロから、夢のたいまつを引き継ぎます。
 リオでブラジルの、中南米の若者が見る夢は、そのまま東京にリレーされます。
 それが、6年後、2020年のことです。
 ここを一つの目途として、私は日本の若者に、どしどし世界に出て、外国の若者と触れ合うよう促し続けます。
 「Sport for tomorrow」と名づけたスポーツ普及を助ける事業は、中南米でこそ、大いにやるつもりです。
 「どんなに遠くにあると、そう見えたとしても」と、セシリア・メイレレスは美しい詞にしました。
 「あなたたちは、私の記憶に留まり続け、私の念頭に常にあり、私にとって、希望であり続けるだろう」。
 アイルトン・セナと、ホンダの創業者、本田宗一郎は、メイレレスが詠んだとおりの、魂の結合を培ったことを、私たちは知っています。距離は、二人を隔てませんでした。
 発展を共にしましょう。世の中を良くしていくため、一緒に働きましょう。
 すべての土台として、魂と、魂が触れ合って、深い共感を育てるよう、人と、人との交流に、力を注いでまいりましょう。
 日本と中南米を結び、互いの協力をどこまでも深めていく、三つの指導理念です。日本と中南米、Juntos!!
 有難うございました。

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