2014年8月6日05時00分
■慰安婦問題特集 3氏に聞く
朝日新聞は今回の特集で、女性たちが意思に反して慰安婦にさせられたという強制性に問題の本質があることを明確にした。軍・官憲による暴力的な強制連行がなければ日本政府に責任はないという、国際的に全く通用しない議論がいまだにあることを考えれば、改めて問題の所在を明示したことは意義があった。
過去の報道について、訂正や誤った経緯の検証をしたことも、慰安婦問題を理解する上で重要だ。
吉田清治氏の証言については、朝日新聞をはじめ複数のメディアが取り上げていた。証言の信用性が疑われるようになり、強制連行はうそで、慰安婦問題自体が虚構だという一部の主張を勢いづかせるきっかけの一つにもなった。
証言が虚偽でもこの問題に与える影響はない。今回、関連する記事を訂正したことには賛成するが、問題の研究が進んだ1990年代の早い段階でできなかったかと残念に思う。
慰安婦と女子挺身(ていしん)隊の混同についても同様に、もう少し早い対応が望まれた。
問題と感じたのは、今回の紙面を読んでも、慰安婦問題の何が課題で、何をする必要があるのか、朝日新聞が考える解決策が見えてこないことだ。被害者に寄り添う姿勢が紙面からうかがえない。
2日目の日韓関係に関する記事は、両政府の応酬の末に慰安婦問題がこじれていったかのように読める。一番の原因は被害者の声にきちんと向き合おうとしない日本政府の姿勢にある。
そもそも河野談話は「多数の女性の名誉と尊厳を深く傷つけた」と認めたのに、その主体が誰なのか明記していない。女性の人権を侵害した軍や日本政府の責任があいまいにされたため、アジア女性基金では、本来政府が担うべき「償い金」を民間が支払うという根本の「逆転」を許してしまった。これでは被害者は納得できるはずがない。
今回の紙面は、被害者の存在を無視するかのような日本政府の問題について触れていない。2日目の記事は、今年6月に発表された河野談話の検証結果をなぞり、追認しているだけのように見える。
慰安婦問題は日韓請求権協定で法的に解決済みで、女性基金でも対応してきたし、あとは「未来志向」が大切だと日本政府はいうが、こうした姿勢と、朝日新聞も同じ立場なのだろうか。「未来志向」を語ることができるのは被害者であり、加害者は「忘れない」と言い続けるべきだというマイク・モチヅキ氏の指摘を見逃してはいけない。
解決のためには、女性の人権侵害をした主体が軍であることを政府が明確に認めることだ。その上で、謝罪し、補償し、教育にも反映すべきだと思う。
国外では慰安婦問題が浮上したあと、旧ユーゴやルワンダで起きた女性への集団レイプと慰安婦問題が、戦時下での女性への性暴力としてつながっているという認識が広がってきた。しかし、国内ではこの問題が私たちの未来のためにも克服すべき課題だという理解がなかなか進まない。
しかも、慰安婦問題をめぐっては日本の責任を認めようとしない言論が今も一定の支持を集めている。どこの国にも見られるように、根底には自国の誇りや名誉を守りたいという意識があるのだろう。
個人であれ国であれ間違うことはある。それでもその時には過ちを認め、再発防止の措置をとることが誇りにつながるはずだ。
朝日新聞には被害者の立場を忘れずに、慰安婦問題を報道し続けてもらいたい。「過去の克服」をせずに、現在直面する課題に取り組もうとしても、世界の共感は得られないだろう。
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