家族
グラッドフェザー家の双子である俺達は、キエラの城下町で有名だ。
この世界において、男児は六歳になると、剣の道を進むか魔導の道を進むかを選ばなければならない。
それを俺達は四歳にして選び、紋様を胸に刻んだ。
選んだ道は俺も弟も魔導師。
それぞれに師が付き、俺達は着々と腕を上げている。
現六歳にして、胸に刻まれた魔導師の紋様は、Ⅵだ。
この数字は魔導師としての実力を表している。
どういう原理か知らないが、腕が上がっていくに連れて紋様の数字が増えていく。
レベルアップみたいなものだろうか。最初はⅠだった。
Ⅵといえば、魔法使いを名乗れるレベルである。
わずか六歳にしてそんなⅥの数字を刻んでいる俺達が有名にならないはずもない。
しかし、その仲の悪さは誰も知らなかった。
仲が悪いと言っても直接殴り合いをするような仲の悪さではない。
お互いの風評を落とし合う、陰湿な仲の悪さだ。
俺はあいつをとことん嫌っているし、あいつも俺を嫌っている。
しかしそんな俺達だが、互い以外には年齢相応の振る舞いを心掛けていた。
完全に歳相応の子どもを演じきるのは不可能だ。時々ボロが出る。
まあそれでも大人達は俺達のことを天才児としか認識していない。
精神面でもマセたガキくらいにしか思ってないだろう。
前世の記憶があるなんて知れたら大騒ぎだ。
それは避けたい。
なので振る舞いには気をつけるという暗黙の了解が俺達の間にはあるのだ。
「おかえりなさいませ、シークエンス様」
「ただいま」
不機嫌な声で魔法の訓練から屋敷に帰ってきた俺を出迎えたのは、目つきが悪い使用人のソフィーナだった。
彼女の足元にはバケツと雑巾が置かれてある。
床掃除中だったようだ。
ソフィーナの齢は17で、雇っている使用人の中では一番若い。
彼女はある名家の娘だったが、当主が死去し、力を失って以来、グラッドフェザー家の使用人をしている。
しかし、元名家の娘である彼女に仕事ができるはずも無く、彼女は使用人の中でも役立たずの邪魔者扱いされている。
黒髪というのも彼女の印象を悪くさせているのかもしれない。
黒髪が少ないこの世界では、少しだけ異端に見られるのだ。
俺はもともと日本人だったから、むしろ黒髪の彼女に親近感を感じている。
俺は生まれ変わって金髪のサラサラ髪になってしまったが、できることなら黒髪にもどしたいな。
流石に慣れてしまったが、黒髪の方がやはりいいのだ。
「荷物をお持ちします」
無愛想な顔でソフィーナは俺の荷物に手を伸ばした。
「いや、いいよ。ありがとう」
「はい、では床掃除に戻ります」
俺がそう言うと、ソフィーナは無言で床掃除に戻った。
使用人が、主の息子である俺にこんなつっけんどんな態度をとるのは本来許されないことだ。
メイド長のエルザがみたら、すぐさまソフィーナの頬を張ることだろう。
しかし俺はそんなソフィーナを咎めることをしないし、気を悪くすることもない。
なぜなら、このソフィーナの境遇に同情しているからだ。
ソフィーナはいつも一人ぼっちだし、仲の良い友達もいない。
生きてて楽しいのだろうか。
そんなふうに考えてしまうのである。
やはりこれは前世の人生が影響してきているのだ。
必要以上に不幸な他人のことを考えてしまう。
対してソフィーナは、俺をあまりよく思っていないようだ。
まあ嫌々グラッドフェザー家に仕えているわけだから、仕方ない。
俺はソフィーナを横目で見送ると、自室へと向かって歩き始めた。
「あらシーク、帰ってたのね」
廊下で俺を呼びかけたのは、母のディシャータだ。
「ただいま帰りました」
「ちょうど良かった。
もうすぐご飯の用意ができるから、ヴェルを呼んで来てくれる?」
「はい、分かりました」
内心舌打ちをしながら、俺は二階にあがってヴェルの部屋に向かった。
ヴェルの部屋は俺の部屋の隣にある。
俺はヴェルの部屋の前に立つと、その扉を勢い良く開こうとする。
鍵がかかっていていて開かない。
鍵付きの部屋を6歳の子どもに与えるのはどういうことだろうか。
俺も有効活用させてもらっているわけだが、俺達を甘やかしすぎにも思える。
「なに?」
しばらくすると、ゆっくりと弟の部屋の扉が開いた。
ヴェルは心底うざそうな目つきで俺を睨んでいる。
顔つきはかなり整っている。
どうみても美少年の部類だ。双子なので、もちろん俺はこれと瓜二つ。
よく間違われる。
容姿もそうだが、今のところあらゆる面で俺達に差はない。
前世の知識なんてこの世界ではゴミ同然なので、前世のボーナスの差もない。
強いて言うならヴェルの方が少しだけ周りから好かれているという点だ。
まあそれはこいつの方が俺より少しだけ人と接しているというだけ。
そのせいで周りのやつらがこいつに取り込まれないように俺も必死だ。
「飯だ。降りてこい」
簡潔にそう告げ、俺は先に階段を降りていく。
ダイニングルームにつくと、すでにディシャータとロンディーノは席についていた。
ロンディーノというのは父の名前だ。
「おおシーク! 今日はフロスカルゴのステーキだぞ!
座れ座れ!」
「シーク、ヴェルは呼んでくれた?」
「ええ、直に降りてきます」
俺が席についてしばらくすると、二階からヴェルが降りてきて俺の向かいの席に座った。
それから四人で今日の訓練はどうだったかとかを談笑していると、ダイニングルームの扉が開いて食事が運び込まれてきた。
テーブルの上にいつも通り豪勢な料理が並べられていく。
キッチンワゴンを運び込んできているのはエルザだった。
エルザは手慣れた動きで料理を並べ終えると、一礼してダイニングルームを後にした。
「さて、良い食事を」
ロンディーノの声によって食事が始まる。
今でも「いただきます」が出そうになるが、この世界では食事の前にいただきますをする文化はないみたいだ。
「どうだヴェル、シーク!
フロスカルゴのステーキは美味かろう?」
「ええ、おいしいです父様!」
ヴェルはそう言ったが、俺は顔をしかめそうになるのをこらえていた。
なんて不味いんだこの肉……!
「どうしたシーク?」
「いえ、美味しいですねこの肉。
フロスカルゴというと、海辺の洞窟にしか生息しない貝獣種ですよね?」
「そうだ! よく知ってるなぁ。父さんも若い頃はよく狩って食ったもんだ。
剣で身をほじるのが中々に難しくてな……」
ああ、ロンディーノの武勇伝がまた始まる。大して凄いってわけでもない話を聞かされるのは中々に辛い。
俺達とヴェルは、こんなロンディーノに剣を教わるのが嫌だから魔法の道を選んだようなものだ。
最近はかろうじて並以上だった剣の腕も落ちて、どんどん紋様の数字が減っていっているらしい。
こんな父を褒めちぎりながらの食事は、すでにグラッドフェザー家の恒例となっていた。
1:1つけたカス出てこい
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