挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

すれ違う意識2

蒼矢視点。

 不幸中の幸いで、暴走しかけたにも関わらず、他になんの被害がなかった。
 これで双子や天城たちを巻き込んで死なせてしまっていたらと思うと、蒼矢は自分の失態が許せなかった。
 また、暴走せずとも、双子がそのまま連れ去られることになったら。
 後で聞いた話では、犯人は双子の血を売り飛ばそうとしていたのだという。
 吸血鬼にとって血は誇りだ。
 それを金で売れるものと思われたとは、聞いた時には怒りでどうにかなりそうだった。
 そこまで考え、あることに気づいた。

(なぜ吸血鬼ハンターは双子が吸血鬼であることを知っていた?)

 蒼矢が眉間にしわを寄せる。
 吸血鬼の存在は秘されている。そして近年は純血の減少と人間との交配が進み、現在の吸血鬼はほとんど人間と変わらないものが多い。
 純血の蒼矢ですら、普段力を抑えてしまいさえすれば、ほとんど人と見分けがつかない。
 外見で吸血鬼などとわかるはずはない。
 しかも現代の吸血鬼は昔ほど他人の血を必要としない。
 力の衰えとともに血への渇望も薄く、力の弱いものであれば、生涯一度も血を口にせずにいたという事例まで出ている。
 純血であればたしかに定期的に吸血行為への欲望は出てくるが、人間との交配である双子は吸血衝動が薄いだろうし、吸血鬼たちはその存在を隠すため、吸血鬼の力の及ぶ土地以外での人間からの吸血行為を禁止している。
 裏戸学園などであれば、見られた故の犯行である可能性はあるが、今回捕まった犯人はまったく学園に縁のない者たちだった。
 そんな人間が、どうして双子が吸血鬼などと知っているのか。

 天城は知らないが、実は吸血鬼ハンターは吸血鬼の監視下にいる。
 ハンターの所属するギルドは吸血鬼が出資して運営している。
 昔からいろいろな因縁のある相手だが、いっそこちらで管理してしまえば、危険もなくなると、百年ほど前から、ギルドは吸血鬼の委託を受けた人間が運営している。
 もちろん、そんな機関なので実際に彼らに吸血鬼を狩らせたりしない。
 彼らに狩らせるのは事故などにより吸血鬼の血に不用意に触れてしまったために、魔力に狂った元人間だ。
 その吸血鬼もどきは、本物と比べるべくもないほど外見が醜悪で、ただその吸血衝動だけで人を襲う彼らを相手にしているだけの吸血鬼ハンターがなぜ黄土の双子が吸血鬼だなどと思ったのか。
 おそらく天城は吸血鬼ハンターがいたから双子が吸血鬼だとバレたのだと、思っている。しかし、それこそ蒼矢からすればありえない。

(…内部の情報漏えいか?)

 信じたくはない可能性だがそうとしか思えない。
 誰か、身内が双子を陥れようと吸血鬼ハンターへ情報を漏ら(リーク)した可能性が高かった。

「捉えられたのは二人。元傭兵となのる男と吸血鬼ハンター、だったな」
「…そうです。…あの、それで、会長にもう一つお聞きしたいのですが…」

 今は蒼矢が質問する番なのだが、思いつめた様子の彼女の様子が気になった。

「なんだ?」
「会長があの場にいたとき女の姿をみませんでしたか?」
「っ!」

 蒼矢が目を見開いた。
 女、天城は女といった。
 あの場で女といえば、気絶していた天城や聖利音以外で一人しか思いつかなかった。
 今までは自分一人しか彼女の存在を知る者はおらず、蒼矢は不安だった。
 彼女は本当にいたのか、全て自分の妄想で彼女は最初から存在しないのではないか。
 だが、天城ははっきりと『女』と言った。
 蒼矢は望みが繋がった気がした。

「天城…お前も見たんだな?あいつを…」

 確かめるように聞き返すと、天城は力強く頷いてくれた。
 だが次の言葉に蒼矢は頭が真っ白になった。

「やはり、会長は見られていたんですね。もうひとりの犯人の女!」

 一瞬何を言われたのかわからなかった。
 だが、目の前の後輩のまるで親の敵でも思い出すような激しい怒りをたたえた瞳に言葉の内容を理解した。

 瞬間思い出したのは、幽霊の涙だった。

「…違う…」

 蒼矢は知らずつぶやいた言葉に、天城の不思議そうな顔が妙に癪に障った。

「…会長?どうかされたので…す…か?」
「っ違う!」

 突然の否定の言葉に天城の顔が驚きと恐怖に彩られる。
 だが、蒼矢は止まらなかった。
 何を言われているのか分からないのだろう。
 ただ目を見開いた天城を蒼矢は睨みつけた。

「…っいつは、あいつは。犯人の仲間なんかじゃない!」
「か、会長?何を…」

 幽霊について思い出せる全ての記憶から彼女が誰より双子たちを心配していたのは蒼矢が一番わかっている。
 双子と聖利音を助けろと言った自分のことを無視した無欲な願い。
 願いを叶えると行った時の、笑顔。
 間に合わなかった?と嘆く声が耳に蘇る。
 あんなに必死になっていたのに。なのになぜ犯人呼ばわりされなくてはならないのか。

「天城、お前にあいつの何がわかる!」
「な、…なぜ?」

 怒りのあまり力が漏れ出していたが、蒼矢には抑えることができなかった。
 あまりに理不尽な天城の言葉に、今ここにいない幽霊に代わって自分がわからせる必要があると思った。
 天城の顔は真っ青を通り越して、白くなりつつあった。
 人間である彼女に蒼矢のむき出しの力は強すぎる。

「あいつは、あいつは、双子たちを助けようとあんなに必死になっていたのに。お前はそんな奴を疑うのか?」
「か、…い、ちょ…」

 天城の声が小さくなる。
 だが、蒼矢には力を抑えることができなかった。
 酸欠状態で今にも天城の意識が飛びかけた時だった。

「…おやめなさい」

 一陣の風が吹き、突然すさまじい力が蒼矢と天城を引き裂いた。
 一体何が起きたのか、わからなかったが、次の瞬間感じた気配に蒼矢の背筋が凍った。

「ごほっごほっごほ!」

 見れば、酸欠から解放され、激しい咳をする天城の姿が見えた。
 気管支の痛みか涙の滲んだ彼女の姿に、自身のしでかしたことを思いだし、蒼矢は後悔した。
 だが、今彼女に近づけばまた怖がらせることになるだろう。
 蒼矢が動けずにいる間に、ひとつの影が天城の前に立った。

「…大丈夫?」

 咽せ続ける天城に綺麗な絹のハンカチを差し出していたのは、赤い髪の美しい女性だった。
 シンプルな紅いロングドレスを着ており、その上からショールを羽織っている。
 やや癖の強い背中までの髪を結うこともなく背中に流しており、とても大きな子供がいるようには見えない。
 どこか従兄弟に似た面差しだが、外見の華やかさとは対照的に表情の動きは薄い。
 やや幼げな大きな瞳はどこかうつろだったが、その存在感たるや、決して蒼矢に引けを取るものではない。

「…か、母様」

 視線を伏せていながらも睥睨されるような存在感を放つ蒼矢の母、蒼矢藍子(あいこ)だった。

シリアスなのになぜか笑える。
蒼矢クオリティ。
-------------------------------



-------------------------------



[拍手してやる]

7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ