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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

とある純血の後悔1

蒼矢視点。
 嘘つき。

 嘘つきめ!

 約束したのに。
 ちゃんと後で話すと約束したのに、消えてしまった。

 腕の中に確かにあの温もりがあった。
 たしかに感じる暖かさも柔らかさも覚えている。
 雨の中、寒さのためか真っ青な顔にふわりと赤みが刺した瞬間、自分の顔を見てふわりと笑った顔が忘れられない。
 他の誰かを心配して泣きじゃくる姿を抱きしめた時に香った甘い香り。
 幽霊の癖に暖かくて柔らかい体が預けてくる心地よい重み。

 この手の中に確かにいたのに。
 どうして消えた?
 どうして。

━━━━どうして、お前はここにいない?


*****


 蒼矢がその奇妙な電話を受けたのは、休日返上で働いていた月下騎士会室でのことだった。
 ここのところ、月下騎士会の仕事を放り出し、休み時間や放課後になるたびに校舎裏に行っていたことが副会長の緑水にバレたのだ。
 幽霊に出会うためなどという言い訳はできず、連休を溜まった仕事をこなすことを強制された。
 確かに自分に非があることなので、蒼矢は黙々と溜まっていた書類を片付けた。
 もともと、蒼矢は書類仕事は嫌いではないし、何においても優秀で仕事のスピードも早い。
 貯めていた仕事も、早々に初日に終わらせ、その日は今後また時間を作るために来週の仕事を前倒しでこなしていた。
 仕事を片付けていた机上で突然携帯が着信を告げる。
 ディスプレイには「黄土統留」の文字が映し出されていた。
 珍しい、と最初に思ったのが最初の感想だった。
 月下騎士として共に働く中だが、年が二歳離れていることもあり、黄土兄弟がプライベートで電話をかけてくることは実はほとんどなかった。
 だが、たまにかかってきた電話の内容を思い出して、げんなりする。

 黄土兄弟は悪戯好きだ。
 その内容は可愛いものからあまり褒められたことではないものまで多種多様だ。黄土兄弟から電話がかかってくると、悪戯電話である確率が高い。
 以前など悲鳴と共になにか壊れる音が聞こえて、突然通話が途切れたため、なにかトラブルにでも巻き込まれたかと、慌てて護衛を動かして駆けつければ、ドッキリ成功の文字を見せられ、恥を掻いたこともある。
 その他諸々の前科があるので、あまり出たくはないのだが、気づいた以上無視するわけにもいかず、ややげんなりしながら蒼矢は通話ボタンを押した。

「…俺だ。今度はなんの悪戯だ…よ?」

 声の応答はなかった。
 代わりに聞こえたのは、雑音と共に聞こえる遠い小さな女の悲鳴。
 その声にどこか聞き覚えのある気がして、蒼矢は驚きつつ、耳を澄ませた。
 だが、よく聞こうとした瞬間。がしゃん、とものが壊れる音がした後、ぶつっ、と通話は途切れた。

 蒼矢は珍しく途切れた電話を持ったまま呆然とした。
 一体なんの電話だったのか。
 普通の通話でなかったことだけは確かだった。
 そして、遠く聞こえた声は。

(あの幽霊の声に似てる…?)

 若い女の声が小さく聞こえただけなので、断言はできないが、よく似ていた。
 なぜ幽霊の声が双子の電話からしたのか。
 ……もしかして心霊現象なのかと思い思わず背筋がゾクリとした。

 しかし、なぜ双子の携帯からだったのか。
 不思議に思い、携帯を操作してGPSで双子の現在地を探す。
 月下騎士会は緊急を要する招集があることもあるので、それぞれの居場所を常に伝えるよう、GPS機能付きの携帯を持たされている。
 すると奇妙なことにGPSの指す双子の位置は森の中だった。

 蒼矢は眉間にしわを寄せた。
 確か、双子は今日、聖利音という<古き日の花嫁>(ラ・マリエ・ダンタン)と一緒に出かけているはずだ。
 一体いつの間に休日共に遊ぶほど仲良くなったのか、当初の接近禁止令を考えれば呆れかえるところだが、プライベートのことなので、余計なトラブルは起こさぬよう注意するにとどめた。

 女連れと言うことは、おそらくどこかの遊興施設にでも行ったのだろうと思っていたのだが、どうして彼らは何もない森にいるのか。
 妙な胸騒ぎがした。
 なにかトラブルに巻き込まれたのかと考え、黄土の本家に伝えたほうが良いのかと考えたが、双子の前科を思いだし、電話に伸びかけた手を止める。
 GPSを見れば、それほど遠い場所ではない。
 幸い双子は人間ではない。
 なにかトラブルが起こったとしても人間相手に引けを取ることはないし、非力な女子生徒が一緒でも、すぐにどうという可能性もない。
 ならば、一度自分の目で状況を確認してからでも遅くないだろうと、急いで蒼矢は席を立った。
 なにより、一瞬だけ聞こえた声を確かめたかった。

 蒼矢は車を呼び、森へ急いだ。
 辿りついた場所で蒼矢はその場所に座り込む小柄な姿を見つけた。
 その姿に一瞬件の幽霊かと思ったが、振り返ったその姿は濡れておらず、知り合いの顔をしていた

「…蒼矢会長。どうしてここに?」
「天城、お前こそどうして」

 双子の親衛隊にして彼らの護衛たる天城美香がそこにいた。
 彼女のそばには(もぬけ)の殻の車と、壊れた携帯電話が転がっている。
 その様子に、どうやら、これはいたずらではないようだと悟る。
 いくら双子でもこれほど凝った事件現場を作ったりはしないだろうし、なにより目の前の少女の真っ青な顔がそれを否定する。

 事情を聞けば、双子は聖利音と遊ぶため、天城に護衛は必要ないと本家に彼女を残したらしい。
 彼女はそれに従う代わりに、彼らに特殊な携帯電話を渡していた。
 それは双子の指紋を感知して、それ以外の者が一定時間持っていると緊急信号を送った上でロックがかかるという代物だったらしい。

「双子にはそのことを再三説明して、絶対に誰にも貸さないようにと念を押しました。
 悪戯で触らせない条件で本家に残ったんです」

 壊れた携帯電話を握りしめてうつむく彼女に、ますます悪戯の線が薄くなっていくのを感じた。

「蒼矢会長はどうしてこちらに…」

 聞かれたので電話の話をしてやると、ますます彼女の顔が青くなった。

「やっぱり、尾行してでもついていくべきでした」
「…自分を責めても仕方がないだろう?それより、…本家への連絡は?」
「…先ほど既に済ませました。ですが待っていられません。
 双子の気配はさぐれます。私は先行します」

 それでは、と一秒でも無駄にできないと小さな魔力の動きを感じたかと思うと天城の姿は消えた。
 止める間もない。
 消えた天城のいた場所を見ながら、蒼矢は舌打ちをした。
 双子を連れ去るような相手に天城が対処できるのか疑問だった。
 しかも、彼女は今、頭に血が上っている状態だ。冷静じゃない。
 護衛としての訓練を受けているとはいえ、彼女は人間でしかも女性だ。
 彼女を止めず、まして双子がなにかトラブルに巻き込まれているのを知っていながら何も動かなければ、蒼矢の名に傷がつく。
 蒼矢はため息を一つ落としてから、自身の乗ってきた車の運転手に黄土と蒼矢への連絡と正式な応援要請をしておくよう伝える。
 天城から既に連絡済みとはいえ、黄土の内情を考えると連絡を行ったのが天城という点で不安が残る。
 不安そうな運転手にその場で待機するようにとだけ言い残し、双子の気配を追って森に入った。
環の電話が蒼矢にかかったのは、連絡帳の番号の一番上に彼の名前があったからです。
まあ、偶然ww!
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7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



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