挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

すみません。
眠くて、投稿遅れました。

暴力表現があります
流血はないけど
苦手な方はプラウザよりバックプリーズ。
 開いた扉の奥には何もない空間が広がっていた。
 かつては客席が置かれていただろうそこはガランドウでただ薄暗い空間が広がるばかりで、見た目人の姿はない。
 風雨に晒されたらしい床は腐って見るも無残な有様だ。
 いつの間にか完全に日が落ちたようで、どこか穴のあいているらしい屋根から入る月明かりか幾筋もの光を散らし、一種神秘的な光景を作り出していた。

 恐る恐る、会長の後について扉の中に入る。
 あたしが会長についてきょろきょろ見回した。
 会長がいうのだから絶対にここに彼らはいるはずなのだ。
 というかいないと困る。

「あ、の。会長?本当にここですよね?」
「間違いない。気配は、こっちからだな」

 迷うことなく歩いていく、会長に慌てて見失わないようについていく。
 暗闇の中、足場の悪いところを進んだせいか、多分そんなに距離は動いていないのに移動に時間がかかってしまった。会長の手を借りて、進んだ先にもう一つの扉の前にたどり着く。
 あたしがたどり着くのを確認した後、会長がためらいなく扉を押しあけた。
 その大胆な行動に思わず、「待ち伏せされていたらどうすんだ」とひやりとしたが、幸いなことに扉の奥から飛び出してくる影はない。
 大胆に中に入っていった会長の後ろ姿を見ながらふと、立ち止まった。

(…もしかして、あたしいらなくないか?)

 実際このまま救出の段になってもあたしじゃ双子はもちろん聖さんも運べるかわからない。そもそも会長自身がこの場を案内したのも含めて、今のあたしってなんなのだ?
 完全にお荷物でしかなくないか?

 それに、会長を見ていて今更思ったが、これってもしかして、会長と聖さんのイベントか?
 聖さんが攫われ蒼矢会長がそれを助けにきた。そんなシナリオじゃないのか?
 最初双子のデートイベントから発生していたから双子のイベントとして考えていたが、会長が今回のヒーローならば、こんなイベントありはしなかっただろうか?
 思わず、脳内検索仕掛けたとき会長の声が聞こえた。

「おい、統瑠!翔瑠!しっかりしろ」

 その声に考えを中断し、慌てて会長のあとを追った。

 開けた扉の奥は小さな小部屋になっていた。
 相変わらず屋根に穴が空いているようで、わずかな月明かりが指している以外光源はなく薄暗いが、あたしはそこでようやく目当ての姿を見つけた。

 聖さんと双子の姿がそこにあった。
 会長が双子の前に片膝をつき、安否を確認していた。

 背後から見る彼らは相変わらず気を失っているようだが、見る限り外傷はないし無事なようだ。

 聖さんは流石にベットの上というわけにはいかず、意識を失った状態で、後ろ手で縛られ、ぐったりと倒れ伏している。特別外傷はないし、顔色も特に悪いようには見受けられなかった。
 ベットからの格下げはおそらく聖さん派の吸血鬼ハンターに発言権がなくなったせいだろうなあ。

 鎖で縛られ猿轡をハメられているが、双子は最後に見た姿で変化はない。
 先程吸血鬼ハンターへの暴力行為を見たせいか、彼らが何らかの暴力を受けていないか心配だったのだが、無事な様子に少しだけほっとした。
 まあ、双子は彼らにとって商品だ。
 無茶な扱いはしないとは思っていたが、気が気でなかった。
 無事な様子に安心するのと同時に、そのノンキな寝顔になんだかモヤモヤしたものが湧き上がる。

 こちとら、ずぶ濡れの上に風邪っぴきで体ダル重なのになにこの差。
 会長が揺さぶったり頬を軽く叩いたりしているが彼らは起きない。
 よくこの危機的状況で寝てられるよね?結構時間経っているし、これだけの扱いされて目を覚まさないなんて、どんな強力な睡眠薬を盛られたのか。
 人外なら人外らしく、もっと薬に対して耐性もっとけよ、となんだか八つ当たり気味な思考に思わず、 睨みつけるように顔を覗き込んだと同時に双子の一人のまつげが震えた。
 突然のことに驚くとともに、うっすらと開かれた瞳に呆然とする。
 驚くこちらと対照的に、その瞳はぼんやりとしており、おそらく状況は把握していないだろう。
 会長はそっと名前を呼んだ。

「…翔瑠。無事か?」

 会長の声に、ゆるゆると視線が向く。
 その視線が会長を見たあと、会長越しにあたしに向くのを感じた。
 あたしを視認すると同時にその目が僅かに開かれた。
 心底驚いた顔になんだか、複雑な気持ちがした。
 いや、そんなに驚かなくても。一応意識を失う直前まで一緒にいただろう。
 双子も聖さんも今まで全然起きなかっただろうし、あたしが一度逃げたのも目撃していないから目の前にあたしがいても何ら驚くことではないとおもうのだが。
 あ、でも、あれか。普通に考えれば、あたしみたいななんの特技もない女だけがなんでピンピンして縛られもせず目の前にいるんだ、って話か。

 ともあれ、三人の無事を確認してホッとする。
 同時に、周囲にブルーローズやバレットの姿がないのが気になった。
 三人だけをこんなところに残して彼らは一体、どこに行ったのだろう?

 気にはなったが、これは好機だとも思った。
 三人をここから連れ出してしまいさえすれば、なにも犯人と争う必要もない。
 気を失った三人というのは運び出すのは大変そうだが、ここは会長に頑張ってもらって安全な場所まで運んでもらえばいい。
 そうだ、そうしよう。

 会長に声をかけようと口を開こうとした瞬間だった。

 ばちぃ!

 突然何かが弾けるような鋭い音が聞こえた。
 あまりに突然のことに思わず目を閉じる。
 ピリピリと何か軽い電流のようなものが体に走るが、音の割に衝撃は少ない。
 言ってみればせいぜい低周波治療器を当てた程度。
 それもすぐに収まり、閉じていた目をそっと開いた。
 そんなあたしの前に信じられない光景が広がっていた。

「っ!か、会長!」

 倒れ伏して蹲る信じられない会長の姿だ。
 あたしは慌てて彼に駆け寄った。

「か、会長!?蒼矢会長?どうしたんですか?いきなり?ねえ!」
「ぐっうぅ…う…」

 だが、あたしの言葉に応えるのはただのうめき声だけだ。
 脂汗がとめどなく流れ、目の焦点が合っていない。
 苦しそうにもがく会長にあたしは何もできない。
 一体何が起こった?

「…どうやらそっちのお嬢ちゃんは完全に人間のようだな?」

 その声にぎくりとする。
 声の先にはいつの間にか目出し帽を相変わらずかぶった男、バレットがいた。
 部屋の入口を塞ぐ用に立つその瞳が下卑た笑いを作っている。

「本当、効くなあ?対吸血鬼用のトラップなんざ、信じてなかったんだが」

 そっちのお嬢ちゃんにもよく効いたしな、という言葉に彼の視線の先を追えば、双子や聖さんのさらに奥、暗がりで気づかなかったが黒髪の小柄な体が見えた。
 だが、気を失っているのか、その体の持ち主はピクリともしない。
 その姿を認めてあたしは体から力が抜けるのを感じた。
 それは天城さんだった。
 一体いつの間にここに来たのか。
 双子の危機を何らかの方法で感じ取ったのかもしれない。
 だが、ここまで来て吸血鬼用のトラップに嵌って捕まった?

 あたしは血の気が引くのを感じた。
 対吸血鬼用のトラップ。
 それは吸血鬼ハンターの持つアイテムだ。
 あいつらの仲間に吸血鬼ハンターがいる時点で警戒すべきだった。
 あの吸血鬼ハンターの彼は犯人一味と対立していたから失念していた。

 もちろんその名の通り、吸血鬼に対して高い効果を持つ。
 普通の人間には効果はない。
 ただ、吸血鬼だけでなく吸血鬼の血を受けた人間にも効果がおよぶため、おそらく吸血鬼の花嫁である天城さんもその効力から逃れられなかったのだろう。

 おそらく会長が倒れたのはそのせいだ。
 会長は純血の吸血鬼だ。
 吸血鬼ハンターのアイテムはその血が濃ければ濃いほどその効力を増す。
 他の吸血鬼の比でなく苦しいに違いない。

「か、会長!し、しっかりして!」

 何もできない自分がもどかしくて、思わず彼に縋り付くが、会長は意識を失ったのかピクリとも動かなかった。浅い呼吸と未だ眉間に寄せられたしわが未だ彼がトラップにとらわれたままなのだと告げていた。不安にあたしはきゅっと彼の手を握った。

 ああ、あたしはまた間違えた。
 わかっていたのに。
 どうしてあたしは知識を活かせないのだろう。
 どうしたら、どうしたらいい?

 誰か教えて!私はどうしたら…。
 その時、あたしの眼に白いものが飛び込んできた。
 聖さんのスカート。
 あたしの眼の先に彼女がいた。

 あたしは頭にひらめいたものがあった。
 あたしの知識、ゲームの知識。
 現状を打開する方法はそれしか思いつかなかった。
 だが、一つ問題があることに気がつく。

(…やるのか、あれを?)

 背中を嫌な汗が伝う。思い出すだけならなんともないのだが、自分でできるかが心配だった。
 だが、もはや道はない。使えるものは何でも使うしか生還できない状況まで追いやられている。
 女は度胸だ。
 なにもできないと嘆いていても状況は好転しない。
 あたしが、動くことを決めた時、あたしの前に不意に影が落ちた。
 ぎくりとして顔を上げるとフードの女、ブルーローズが立っていた。

「…どうして戻ってきたのです?一度なら見逃してあげたのに」
「え?」

 女の言葉にあたしは耳を疑った。
 見逃した?この人が、あたしを?

「なぜ…?」
「なぜ?むしろこちらが聞いているのですけど?
 どうして戻ってきたのです?
 陳腐な正義感でも振りかざすおつもり?
 …こんな化け物どものために?」

 そういってブルーローズはあろうことか倒れている会長の頭を蹴り飛ばした。
 あたしは真っ青になった。

「な、なにするんですか!意識のない人に!」

 あたしは慌ててそれ以上彼女が会長に何もしないように会長の頭を抱えてかばった。
 だが、それが気に食わないのか、目尻を釣り上げ汚らわしいものでも見るかのように顔を歪めた。

「人?その化物が?笑わせないで?
 貴方、知らないのですか?その化物の正体を」

 憎々しげに会長を睨みつけるブルーローズは吐き捨てた。
 知ってますとも、誰より、多分本人より知ってる。
 けれどそんなことを話せない。

 黙ったあたしに構わず、ブルーローズはなおも憎々しげに会長を見下す。
 その視線にあたしはゾクリと背筋が凍るのを感じた。
 これまでこのフードの女はずっと冷たいだけの人間だと思っていた。
 しかし、その視線の強さは他の誰より強く、そして憎悪はたぎるように熱かった。

 なぜ。
 こんな風に吸血鬼に憎悪する存在をあたしは知らなかった。

(…知らない?…いいえ、そうじゃない)

 思い出すのはゲームの記憶。
 こんなふうに吸血鬼に憎悪を抱く人間が大勢いたではないか。
 その中に彼女に該当する人物はいなかったか?
 緊張と焦る思考に思い出せない。
 本当になんて役に立たない記憶だろう。

 だが今は自分を責めている時ではない。
 あたしはそっと周囲を見回した。
 彼女が話に夢中になって、あたしが何もできない無力な女と思っているのは好機だ。
 あたしはそっと会長の体を床に置いた。
 体は相変わらず熱が出ているのかだるさが半端ないが、死ぬことを考えれば気にしていられない。意を決して足に力を込めた。

「こいつらは下賤で卑怯で、人間の尊厳を平気で踏みにじる最低な生き物よ!
 さらにその中でもそいつは…」

 今だ。
 あたしは思いっきり足に力を込めて、力の限り彼女を突き飛ばした。

「っ!きゃあ!」

 不意打ちが効いたのか、倒れこむブルーローズに構わず、あたしは素早く立ち上がると、双子の奥にいる聖さんへと手を伸ばす。
 聖さんが縛られて転がされているにも関わらず、その風情はまるでお姫様だ。
 あたしは、その首から彼女がいつもぶら下げているロザリオを申し訳ないと思いつつ、引きちぎった。
 そのままロザリオを胸に抱き、可能性をかけて念ずる。
ゲームの知識より再生される聖さんの言葉を追うように、ヤケクソ気味に叫んだ。

「la balle argent. La lune écarlate. Mots mystiques de parution!」

 ひいいいい!恥ずかしい!でも、仕方ないじゃない!
 厨二!厨二汚染か!?
 しかし、死亡フラグに背に腹は変えられない。

 言い終わると同時に、手の中のペンダントが緑色の発光を始める。
 わわわ、すごい!ファンタジーだよ!
 すごいよゲーム世界!
 光は徐々に輝度を増し、あたりを一瞬照らしたかと思うと、すぐに収縮するように消えていった。
 え?これだけ?

 何が変わったかすらわからないそれに呆気にとられる。
 だが、呆然としていられたのはそこまでだった。
 次の瞬間、背後から伸びた腕に髪を掴まれ引き倒された。

「この女!?一体何しやがった!?」
「っ!!」

 髪を引っ張られて、あまりの痛さに声にならない悲鳴を上げる。
 背後から伸し掛る様に押さえつけられ、恐慌状態に陥る。
 やばいやばいやばい!
 限りない死亡フラグにくらくらした。

「バレット!どきなさい!」

 伸し掛られた体がふっと重力を失ったかと思うと、凄まじい衝撃が肩口に叩き込まれ、あたしは倒れ込んだ。

 あまりの痛みに動けない。
 倒れたまま見上げる視界に、特殊警棒を構えた肩で息をして怒りと憎悪に染まった仮面の女の姿。

 フードは脱げて、その長い黒髪が見えてしまっているが、本人は気づいていないようだ。
 ふと、その光景になぜかあたしは既視感を覚えた。
 しかし、それを思い出す前にあたしの頬に鋭い痛みが走った。
 今度は手で打たれたと思った瞬間、ジワリと頬が熱を帯びるのと同時に口の中に鉄錆の味が広がる。

「なにすんのよ!!この牝豚が!」
「お、おい。流石に殺しはまずいって」
「おだまり!」

 女の剣幕に流石のバレットも焦った声を出すが、逆上しているブルーローズは聞く耳を持たない。
 ブルーローズが怒り狂ったようにあたしを罵り、再びあたしに特殊警棒をふり下ろそうと振りかぶったのが見えた。

 明らかに頭を狙っているそれは一撃受ければ、きっとただでは済まない。
 だがあたしにはもはや逃げるだけのちからも残っていなかった。
 本当にさっきのが精一杯だったのだ。
 もはや痛みと朦朧とする意識で動けない。

 ああ、なんかもう本気の死亡フラグだ。
 思えば、短い人生だったなあ。幸い周りには良い人に囲まれていたけれど。
 こんなことなら、もっと親孝行しとけばよかった。
 それに香織、あんな喧嘩別れみたいなことになったままで、分かれてしまった。
 いつでも帰ってきていいと言ってくれたのに、結局帰れないなんて。
 …本当に情けない。ゴメンネ。本当にさよならだ。

 あたしはせめて最後くらい、あっさり死ねるように祈りながら目を閉じた。
-------------------------------



-------------------------------



[拍手してやる]

7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ