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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

状況把握と回想

今回のキャッチコピーは
「牢獄から始まる死亡フラグ」です。
 どうしてこうなった?

 いくら考えても目の前の鉄格子は消えてはくれない。
 見回せば、薄暗い四畳半くらいの四角い部屋に転がされていた。
 奥を見れば背の低い衝立の向こうに申し訳程度の便器が見えた。
 掃除がされていないらしく汚物の匂いがここまでにおってくる。
 とても使う気になれない。

 ここまで言えば、懸命な皆様はお気づきでしょう。
 はい、今あたしはなぜか牢屋にいます。

 いや、この現代日本でなぜ普通の高校生でしかないはずのあたしがこんな場所にいるのか。
 むしろあたしが聞きたい。

 あたしはズキズキと痛む後頭部を抑えながら、こうなった経緯を思い出していた。


*******


 連休初日、聖さんから逃げるべく幼馴染の家に行き、そこで赤毛吸血鬼と遭遇した翌日、あたしは学園へ戻るため、駅への道を急いでいた。
 連休は三日あり、本来であれば最終日に帰るつもりだったのだが、予定を早めたのだ。
 答えは明白、紅原が藤崎堂に現れたからだ。
 あたしはゲームの舞台が学園だけだったので、学外にいればゲームの住人に関わらずにいられると思っていたのだが、その考えを浅はかとあざ笑うかのような出来事だった。
 どこにいたところで、あたしがゲームの世界から逃れることができないのなら、学園に帰ることにしたのだ。
 まだイベントの状況が比較的わかっている学内の対処はしやすいし、何より藤崎堂の人たちを巻き込めない。
 幸い、聖さんと双子のデートは今日の午前中からのはずなので、朝に出れば、彼らと入れ違いで寮に戻れるだろう。

 突然帰ることを告げると、香織は怒り狂った。
 当然だな。いきなり来ていきなり帰るのだ。
 礼儀知らずにもほどがある。
 母さんにばれれば正座付で説教一時間は確実だろう。
 竜くんには「…あいつのせいか?」と聞かれるし、おばさんも「なにが不満だった?」と泣き出すし、なだめるのに苦労した。
 不満なんかまったくない。
 むしろ感謝の気持ちでいっぱいなのだが、理由も話せないためもどかしい。
 だが、彼女たちを巻き込めないあたしは、「紅原は関係ない。週明け提出の課題を忘れてたから」と嘘をついて出てきたのだ。

 竜くんは何度も確認してきたから、その都度紅原とはなんの関係もないことを告げると、なんとか納得してくれた。…なぜそこまで信用がないのか。
 すこしだけさみしくなった。
 しかも、なぜか戸締りはしっかりするように、とまるで母親のように言われた。
 そんなに頼りないか?あたし。年上なのに。

 おばさんはぐずりながらも、おじさんに叱られなんとか納得してくれたけど、香織は難しい顔して最後までにらんだままだった。
 …まいった、絶対嘘だってばれてる顔だ。

 昨日は散々学園について根掘り葉掘り聞かれて誤魔化すのに苦労した。
 結局普通じゃない学園の機構とか喋らされたけれど、月下騎士の秘密やゲーム知識などは断固として口を割ませんでしたよ。
 内緒にしていることはバレているので、香織はずっとあたしに疑惑の視線を送ってくる。

 ああいう顔をしている香織は危険だ。
 昔、一度だけ香織に隠し事をした時のことだ。
 まだ小学生の時、父のことであたしをいじめて怪我をさせたさせられたことがあった。そのいじめっ子があたしを脅したのだ。
 もし、このことを誰かに言ったら、そいつともども殺す、と。
 今思えばそんなこと子供ができるわけないし、単純な脅し文句だったと思えるけど、その時のあたしは 男の子が怖くて、その言葉を信じた。
 あたしの怪我を見た香織があたしを問い詰めたが、あたしは絶対に言わなかった。
 わが身可愛さもあったが、香織を殺されたくなかったからだ。
 香織がどうしてもあたしが口を割らないとみると、矛先を別に向けた。
 つまり周りに聞きまくって、とうとういじめっ子を見つけ、そしてぼこぼこにしてしまった。

 実は香織は空手の有段者。
 幼いころから、おじさんに寝る前に布団の上でプロレス技をかけられ、仕返しに強くなろうとした結果だった。
 あたしもお泊りの時、同じようにかけられたけど、香織のようなハングリー精神は持ち合わせていなかったため、ただ関節技が痛かったという思い出しかない。

 香織は一度こうと決めたら絶対にやり遂げるまで、あきらめない。
 別れ際の香織の眼はまさにあの時の眼だ。
 狙った獲物は逃がさないとばかりの執念深さに不安が募る。
 …変なことしなければいいけど。
 まあ、裏戸学園のセキュリティしっかりしてるし、香織が来るということだけはないだろう。

 それに岩崎先輩のこともある。
 今、香織は彼のことであまり大それたことはできないだろう。
 いろいろトラブルメーカーな質の岩崎先輩だが、その点はありがたい。
 嫌な予感はするものの、今は帰ることに専念すべきだ。
 裏戸学園は山奥にあるため、公共の交通機関で帰るのは結構骨が折れる。
 学園に通う学生で自家用車(運転手つき)を持っていない人間はほぼ皆無なため、仕方がないのだろうが電車やバスの本数が極端に少なく、時間がかかる。
 早朝に出てもたどりつくのは昼過ぎだ。
 連絡も悪く、一本乗り遅れたら半時間以上待つはめになる。
 すべては、帰ってからだと、荷物を抱えなおしたときだった。

「あ、環ちゃん!発見!!」

 突然聞こえてきた声にあたしの背中に一面びっしりと鳥肌が立った。
 聞き覚えのある声。そして絶対に聞きたくなかった声だ。
 信じたくなくてあたしは固まった。

「あれ?聞こえてない?環ちゃん!環ちゃんってば~!」
「利音ちゃん、どうしたの?突然」
「え。あ、統瑠くん。あそこに環ちゃんがね」
「僕は翔瑠だよ?利音ちゃん、まだ見分けついてないの?」
「え?あ、ごめんなさい」
「まあ、いいじゃない。翔瑠、そんな風に言わなくても」
「統瑠がいいならいいけど。でも…」

 うううう、なんだか聞きたくない単語と聞きたくない声が増えていく気がする。
 あたしは振り返ることなく、ダッシュで逃げようとした。

「ねえ、いつまで無視するつもり?」

 いつの間にかあたしの腕を双子の片割れが握っていた。
えらい状況から始まりました。
死亡フラグの匂いプンプン。

次回彼らが登場。
…わかりきった人たちですが。
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7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



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