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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

送迎

「おい、あんた。迎えだそうだぞ」

 あたしたちが会話していると、竜くんが呼んだ。
 見れば、こっそりおじさんが帰っていくところだ。
 あたしの視線に気づくと、片手だけ挙げてくれた。
 隣で紅原が軽く会釈すると、顔を少し引きつらせて脱兎のごとく逃げていった。
 ……なんかさっきので紅原に対する苦手意識持ったみたいだな。
 おじさん、昔から畏まったこと嫌いだったな。敬語は聞くだけでむず痒くなるとか。

「ああ、そうみたいやね。運転手からメール来たわ」

 いつの間に取り出したか、片手で携帯を触りながら紅原はそう言うが、店の前には車の影はない。
 首をひねったあたしに気づいた紅原が説明することには、予想外にここの道路幅狭くて、店の前に乗り付けられないらしい。広い大通りで待っているということだった。
 そういえば、金持ちの乗る車って、やたらと車幅でかかったな。……ついでに態度も。
 裏戸学園で見た高級車を考えれば確かにこの商店街の細い路地などに入って来れないだろう。
 でもなんでそれを竜くんが知ってるんだろう?

「親切にもおじさんが知らせてくれたぞ。大通りにリムジンだとよ。
 なんの嫌がらせだ。……お前、一応ここの道路事情考えてから車種考えてから呼べよ」

 リムジンって……あれですか?妙にナガーイ車。
 確かあれで学園に乗り付けた学園の生徒が怒られていたな。
 長い上に車幅もでかく、あれで大通りは確かに邪魔だな。
 なぜか不機嫌な竜くんが命知らずにも人外に絡むが、紅原は涼しい顔をしたままだ。

「……確かにここの事情を考慮に入れなかったんは失態やね。」
「そうだ。えらい迷惑だよ。ここは駅前に近いから止まっているところは通行の邪魔だ。
 さっさと帰れよ。ここはお前みたいな、金持ちが来るところじゃない!」
「ちょっ、竜くん。どうしたのよ?」

 あまりの竜くんの紅原に対する強い口調に慌てて、あたしは間に入った。
 相手は人外で大企業紅原の関係者だ。
 あまり下手な物言いをして、怒らせては商売に差し支えるかもしれない。

「そんな風に言うものじゃないでしょう?
 確かに紅原様は空気の読めないお金持ちだし、突然来るしで、自分の好き勝手に状況引っ掻き回すけど、そんな風に言うものじゃないわ」

 一気に言うとあたしの勢いに飲まれたのか、竜くんが黙った。
 しかし、その代わりに、後ろから声が聞こえた。

「……へえ、それが環ちゃんの俺への評価なわけね」

 ぞくっ!。
 しまった、つい本音が。

「気、変わったわ。環ちゃん、大通りってどこかわからへんわ。案内して」

 パチンと、携帯を閉じて紅原がニッコリと笑った。
 だが、その目は全然さっきから笑っていない。

「う……、そんなの携帯で調べたらいい話で……」

 ガシャンと突然破壊音が聞こえて、見れば紅原の携帯が地面でバラバラになっていた。

「あ、ごっめーん。落として壊してもうたわ。これでは調べられへんな」

 ひいいいい。なんか睨まれた。
 こ、ここまでするか?送ってもらうだけで携帯壊したよ、この人外!
 さすがの竜くんも紅原の剣幕に押されているのか、固まっていたようなのだが、先ほどの破壊音でハッと正気に戻ったらしく、ありがたいことに加勢してくれる。

「わ、わからないなら、俺が案内してやるから……」
「俺は環ちゃんにお願いしてるんやけど?」

 そう言いながら紅原はあたしのすぐそばまで寄るとあたしの耳にだけ聞こえる声で囁いてきた。

「……なあ、鞠菜中学の王子様?」

 その言葉にあたしは全身が硬直するのを感じた。
 な、なんで紅原が知ってるわけ?
 これは、クラスメイトだけの秘密で……。

「な、なぜそれを……?」
「壁に耳あり障子にメアリー。俺、ちょぉっと人より聴覚よくてな。ここに来る道すがら聞こえてきたんよ?」

 嘘つくな。ちょっとで、店内の声が外を歩いていた人間に聞こえるもんか!
 くう、これだから人外は!

「さて、環ちゃん?俺を送りたくなってきたやろ?」

 脅しだ。脅しやがった、この人外め。
 ううう、なんということでしょう。あの黒歴史をこんな人外に聞かれるとは、不覚だ!
 だが、逆らうことはできない。あたしは涙を飲んで、脅迫に屈した。

「り、竜くん……あたし紅原様送ってくる!」
「え?多岐、なんで……」
「竜くんには店番あるでしょ?それにそんな距離じゃないし。行ってくる」

 あたしは竜くんがそれ以上言わないうちに、紅原を押し出すように外に連れ出した。


*******

「……………………」
「…………………………」

 何なんだろう。この沈黙は。
 あたしはなぜか紅原の数歩前を一人で歩かされていた。
 藤崎堂を出てすぐに、紅原から大通りまでの道案内をする際、前を歩くように言われたからだ。
 なんでそんなことを言われるのかわからなかったが、「王子様、お願い」の一言であたしは従うしかなかった。

 連休初日の夕方の商店街はそれなりに賑わっている。
 外食するのか、やたらと家族連れやカップルなどが歩いている。
 既に主婦の買い物の時間をすぎた時間なので、一人で歩いている人間は少ない。
 そんな中あたしはただひたすら連れがいるというのに一人で歩かされている。
 なんなんだ?この状況は。

 もちろん距離が空いているから、会話はない。
 ああ、それにしても寒い。
 まだ春先の冷たさの残る中、急いで出てきたものだからコートを着てくるのを忘れてしまった。
 袖を摩りながら、ちらりと後ろに視線を送るが、紅原は視線も合わせようとしてくれない。
 なんだか、ムカムカしてきた。

 脅してまで案内を頼んでおきながら、この扱いはなんなのだろう?
 もう、口も聞きたくないくらい怒ったってこと?
 それならなんて心根の狭いやつだ。
 たかだか欠点をあげ連ねただけじゃないか。
 それなら紅原の方がもっとひどいことしているじゃないか。
 その気もない恋愛ベタの女をからかって遊んだり、それをネタに慌てる様をニヤニヤしながら鑑賞して。
 あたしは小市民で、相手はお金持ちの上に人ですらなくて。
 色々背負っていて、あたしはそれを知っていて。

「……なんであたしなんだろう?」

 思わずつぶやいた声は商店街の雑踏の中に消えていった。
 なんでこんな記憶があるんだろう?
 こんな記憶がなければ、きっと必要以上に彼らを警戒せずに済んだ。

 あの記憶があるから、気になってしまう。
 彼らのこと、何もかも優れているだけの天上人だと信じていられたのに。
 でもそれだけじゃないことを記憶が教える。
 彼らは人ではないけれど、人と同じように悩みを抱えて苦しい思いも悲しい思いもしているって。
 どうして、この記憶があたしにあるんだろう。
 聖さんだったら、良かったのに。
 聖さんがこの記憶を持っていればよかったのに。

 彼女には彼らを救う力がある。
 あたしと違って、可愛らしくて、包容力も行動力もあって、ちょっと空気読めないところもあるけれど、ああいった何もかもを突き破る勢いみたいなものを持っている。
 誰からも愛されるお姫様。
 ああ、あたしじゃこの記憶自分が死なないように使うことしかできない。
 いや、もしかしたらそれでも死んでしまうかもしれない。
 あたしに彼らを救える力はない。
 そう、考えることすらおこがましいとしか言いようがない。

 なぜ、この記憶はあたしにある?
 なぜあたしの周りに彼らは現れるんだろう?
 わからない、わからないな。
(ΦωΦ)フフフ…紅原に王子様がバレました。
脅されましたね。
でも、ただ送って欲しいだけで携帯壊すなよ、と思います。
これだから金持ちはー。q( ゜д゜)pブーブーブー


そして環はちょっと落ち込み気味です。
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[拍手してやる]

7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



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