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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

トラブルメーカー

「それより、どうして紅原様がここに居るんです?」
「環ちゃんを追ってきたって言ったら嬉しい?」

 軽い一言。どうやらいつもの調子を取り戻したらしい。

「冗談はやめてくださいって言ってますよね?」
「あはは、すっごい眉間の皺やで。さすが環ちゃん。そんな嫌そうな顔されたの初めてや」

 なにが流石だ。なにが。
 そりゃ、あんたにそんなことを言ってもらえば、十人中九人くらいは恥ずかしがりながらも嬉しそうにするでしょう。
 外見美形だもん。カッコいいのは認めます。
 しかし、誰でもそう思うと思っているところが、ちょっとイラっとした。
 あたしはあんたのファンクラブでもなんでもないんだ。
 確かに、顔は好みだし、キャラとしては好きなんだけど、聖さんの恋愛対象に赤面するほど不毛な趣味は持ち合わせていない。
 人外に顔を青くはしてもな。

「からかうだけなら、別に答えなくていいです」

 あっさり興味をなくし、視線を背ければ、なぜか慌てたような紅原の声が降ってきた。

「あ、ごめん。本気で怒った?」
「別に。あたしが怒ろうと紅原様には関係がないのでは?」

 こいつにとってあたしは聖さんのルームメイトという認識しかないだろうな。

「そんなこと、あらへんよ。いつだって気になる娘の機嫌が悪くなって喜ぶ男はおらへんよ」

 気になるって。…あー、はいはい。そうですね。
 好きな女子のルームメイトの機嫌損ねて変なこと吹き込まれたら困るもんね。
 そりゃ気になるわ。

「別にあたし個人の感想を聖さんに告げ口したりしませんから安心してください」
「…環ちゃん。なにを言っとるん?なんでここで利音ちゃんの名前が出てくんの?」

 え?違うのか?
 紅原円は聖さんの攻略相手で、この世界の重要キャラクターだ。
 そんなキャラがあたしを気にする理由ってそれくらいしか思いつかないのだが。

「え?だって…」
「盛り上がっているところをすまない」

 突然声をかけられて、慌ててそちらに視線を送ると、話が終わったのか香織と岩崎、竜くんがこちらを見ていた。
 彼らの中から一歩前に進み出てきたのは岩崎だ。
 あたしの前に来るとすっと手を差し出してきた。

「突然押しかけてすまなかった。
 俺の名前は岩崎亮介だ。香織と付き合わせてもらっている。
 君が多岐さんだね?香織からよく話は聞いているよ」

 …どんな話だろう?
 なんかあんまりいい話されていない気もするが、そこを今突っ込んでも仕方がないのスルーし、差し出された手をそのまま握った。

「多岐環、です。えっと岩崎先輩?」
「ああ、それでいいよ。裏戸学園に通っているんだろう?
 だったら君も後輩だからね。
 …でも、驚いたよ。香織に君のことを聞いて、庶み…いや、君みたいな生い立ちの人間はさぞ裏戸の校風には面食らったんじゃないか?」

 手を離しながら岩崎先輩が苦笑混じりで聞いてくる。
 そりゃね、まあ、庶民には計り知れない場所ではありましたよ。

「確かに、驚きましたけど慣れました」
「そのようだね。まさか円と友達とは思わなかった」

 なぬ!?そんなふうに見えたのか?
 やばい、馴れ馴れしくしすぎた。
 改めなければ死亡フラグ確実だ!
 岩崎先輩の爆弾発言にあたしは慌てて否定する!?

「と、友達じゃありません!」
「そうです、先輩。環ちゃんと俺は友達なんかじゃないですわ」

 おお、なぜか珍しく紅原と意見があった、と喜んだのも束の間。

「もっと深い仲ですわ。」
「そんなわけないじゃないですか!」

 茶化した言い方で言う紅原に思わず突っ込んだ。
 まったく油断も隙もないな。
 変な誤解を周囲に与えて、死亡フラグが立ったらどうしてくれる。
 紅原の軽口をまともに受けないで欲しいと岩崎先輩に言おうと向き直ると、そこにはなぜか安堵の表情があった。

「よかった。…さっきから見ていたが。円、お前のその様子。…もう、大丈夫そうだな」
「?…何がです?」

 岩崎先輩の言葉に紅原は珍しく困惑を浮かべた表情をした。
 だが、そんな紅原の表情に気づくことなく岩崎先輩は嬉しそうに続けた。

「いや、よかった。中学時代のあれで精神不安定でひどい状況だったじゃないか。
 あの事件、解決する前に卒業してしまったから心配だったんだ。
 …そうか、その様子じゃ克服できたんだな」

 岩崎先輩は何か勝手に自分で納得して頷いている。
 その言葉に、今度は紅原が驚いた顔をした。

「…え?中学時代?精神不安定?…何の話です?なんか中学時代ありました?」
「…おいおい、なんだ。まさか覚えていないのか?中学時代、あんなに大きな事件…」
「事件?事件って…?覚えていない?俺が?」

 そこまで聞いて、あたしは紅原の様子がおかしいことに気がついた。
 顔から血の気が引いて、視線がおかしい。
 あ、そういえばコイツって…。
 あたしは慌てて岩崎先輩との会話を遮った。

「あ、あの!…それより、ここで立ち話はなんですし、場所を移しませんか!」
「え?あ、ああ。そうだな。お義父さんに見つかったらまずいしな」

 後で聞いた話、香織のお父さんにはこの交際は反対されているらしい。
 そりゃそうだよね。金持ちの許嫁のいた御曹司と突然自分の娘が付き合ってる、と聞かされて、はい、そうですかって言いにくい。
 庶民の娘の方が遊ばれているのかもと思ったっておかしくないもん。

「でもお店が…」

 香織がうつむく。
 さすがに店番を仰せつかっている身で、それを放り出すのは気が引けるようだ。

「行ってきなよ。香織。あたしが代わりにしておくから」
「え?何言ってるの?環。お客のあんたにそんなことをさせられるわけないじゃない」
「でも、久しぶりにあったんでしょ?積もる話もあると思うし行ってきなって」
「でも…」
「ああ、もう。俺がやっておくから、行ってこい。いい加減、営業妨害だ。」

 香織の逡巡にしびれを切らしたのか、竜くんがそう言ってくれた。

「……いいの?」
「別に俺は親父みたいに反対はしてない。応援もしないけど。
 けど、あの人の顔見て親父が不機嫌になると色々うるさいんだよ。だから、早くいけ。」
「ありがとう、竜。なにかお土産買ってくるから」

 嬉しそうに岩崎先輩の腕に手を絡ませる香織。
 ああ、なんか今まで見たことないほど幸せそうだな。
 …あ、そういえば思い出した。
 岩崎先輩の顔、どこかで見たと思ったら、さっきの雑誌だ。
 御曹司特集合の一ページに彼の写真があった。
 もしかして香織、他の誰でもなく彼の写真があったからあの雑誌を買ったのか?
 …なんか、すっごい乙女してんな、香織。
 まさか、そんなことをするようになるとは。
 少し一緒にいない間の、親友の変貌にあたしはすこし寂しくなった。
サブタイは岩崎を指す。
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7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



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