親友と御曹司
ちょい短めです。
「ちょっ、友達の前で質の悪い冗談はやめてください!」
睨みつけても相手は全く動じない。悔しくて涙が出そうだ。
何を考えて、どうして香織たちの前でこんなことを言うんだろう。
わけがわからなくて混乱する。
「冗談…?」
竜くんのつぶやくような声が聞こえて、慌てて振り返った。
「冗談なのか?」
「もちろんよ!当然でしょう!」
力いっぱい否定すると、香織が情けない声を上げた。
「ええ、そうなの?」
「当たり前でしょう!もう、あたしなんかが紅原様となにかあるわけないじゃない」
「…まあ、確かにねえ。環となんて想像もつかないわ」
なんて、とはなんだ!なんて、とは。
くっそぉ。他人に言われるとなんか腹立つがこの際気にすまい。
「本当なんだな?冗談って」
「竜くんまで、本気にしないでよ!」
力いっぱい否定した。
ここで少しでもためらえば、彼らに変な誤解を与えたままになる。
ここはしっかりと念を押しておかねば。
「ともかく、相手はあたしなんかとは比べ物にもならない天上人なのよ。
あたしたちをからかっているだけ!本気にしない!」
紅原に聞こえないように、しかししっかり力は込めて否定する。
その甲斐があってか、竜くんも香織も頷きかけた。
しかし、そこへ軽薄な声が邪魔しにくる。
「ひっどいなあ、それじゃあ、俺嘘つきみたいやん」
う、そういえば、相手は人外でした。
聞こえていたらしい。
もはや隠しだてしても意味がなさそうなので、渋々相手に向き合った。
「本当のことです」
「どうも相互認識がうまくいってないみたいやね」
一生食い違っても構わないけどね。
紅原はどこか芝居めいた様子で、ため息をつく。
「俺冗談は嫌いなんやけど。確かに君にキスをした」
否定しているのにいけしゃあしゃあとまだ嘘を続ける気らしい。
「そんな事実はありません!大体、いつですか?」
「忘れてるん?最後にあったときのこと」
最後にあったとき?それって、あの特別棟でのこと?
あの血を舐められた時か?あれはキスじゃないだろう?
「あ、あれはっ。貴方が勝手にほっぺを舐めただけで…キスじゃないでしょ!」
再び店内に沈黙が落ちる。
ん?なぜみんな黙る?
あたしは本当のことを言っただけで。…言っただけで?
「……」
「紅原様からほっぺを舐められたって…」
香織の言葉に自分が何を言ったのか、理解できた瞬間顔に熱が集まるのを感じた。
と同時に思った。
よかった。マジでよかった。
ここが、本当に学園でなくてよかった。
多分ここが学園だったら、あたしの命運はここで尽きているだろう。
って、そこじゃない!大事だけど、今はそこじゃない。
あたしは慌てて振り返った。
見れば、驚きも通り越して、竜くんはかたまり、香織はなにかブツブツと言っている。
あたしが紅原を見れば、憎たらしいことに満足そうに笑っているではないか!
「俺は別に嘘は言ってないやろ?」
いけしゃあしゃあと、微笑まれれば、本気で殺意が湧いたときだった。
「…円くん。あまり女性をいじめるものではないよ」
男の人の声が響いた。
見れば、スーツ姿の男性が店内に入ってくるところだった。
知らない顔だ。知らない顔なのだが、なぜだろう。なんかごく最近どこかで見たような。
なんか、さっきの竜くんといい、あたし健忘症気味なのだろうか?
…苦労してるからな。自分で言うのもなんだけど。
「…まったく、突然走るからびっくりしたよ?」
「亮介先輩」
名前を呼んだことで、どうやら紅原の知り合いらしいとわかる。
しかし、彼に反応したのは紅原だけではなかった。
「亮ちゃん!」
その声はあたしの後ろから聞こえた。
振り返ると香織が驚いた顔をしていた。
一体どういうことなのだろう。紅原の知り合いが香織の知り合い?
「どうして。今日来るなんて何も…」
「香織、久しぶりだね。」
亮ちゃんと呼ばれた男の人は柔らかい笑みを浮かべると突然香織が男性に抱きついた。
「亮ちゃん!会いたかった!」
「…ゴメンな。なかなか会いに来れなくて」
え?
どういうこと?
突然の親友のメロドラマに呆気にとられていると、竜くんが困った顔で進み出てきた。
「亮介さん。困りますよ。親父今いないからまだいいけど」
「すまない。竜輝くん。近くに来たから、少し顔を出しただけなんだ」
え?香織だけじゃなくて、竜くんも知ってるって。
誰なの?この人?
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7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。
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