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ダークファンタジーで乙女ゲームな世界で主人公のルームメイトが生き残りをかけてあがいております(書籍版:ダークな乙女ゲーム世界で命を狙われてます) 作者:夢月 なぞる

2章 帰郷

呪いのキーホルダーとお客?

後半にようやく男キャラ登場。

…さて、誰でしょうかねww
「まあ、昔話ついでに聞きたいんだけど、あんた、あげたキーホルダーどこやった?」
「え”」
「いつもあんた、今日持ってたカバンにつけてたわよね?
 なんか朝から違和感あったんだけど今気づいた。どうしたの?」
「それは…」

 あたしは口ごもるしかなかった。
 実はあの時失くしたキーホルダーは香織があたしにくれたものだ。
 高校が別々になるあたしにお守りとして渡してくれた。
 あたしは嬉しくてそれをいつでも身につけていた。
 しかし、まだキーホルダーは見つかっていない。

 あの水かぶり事件の翌日の昼休み、あの場所に行ったのだが、探せなかったのだ。
 なぜかあの場所に蒼矢会長が立っていて、近づくことができなかった。
 何の用であそこにいるのか、わからないが、しばらく待っても立ち去る様子がない。
 幽霊が怖くて、気絶までした場所なのに何故そんな場所にいるのか。
 人外が何を考えているのかわからないが、ともかく彼に近づけば初日の聖さんのようにファンクラブの 制裁が待っているため、その日は諦めた。
 だが、次の日もその次の日も会長はあの場所にいた。
 そんな感じで探せず週末を迎えてしまったのだ。
 帰郷する気もなかったため、のんびり構えていたのも悪かった。
 口ごもったあたしに香織が眉根を寄せた。

「まさかなくしたなんて言わないわよね?」
「ま、まさか!ここにないだけで学校にはあるわよ!」

 嘘は言ってない。
 あのキーホルダーはあたしにとっては大事なものだが、あの学校に通う人たちがわざわざ懐に入れてしまうような価値のあるものじゃない。
 もとよりあの場所はあまり人が通る場所ではないし、まして今はいつ行っても蒼矢会長がいる。
 蒼矢会長なら落し物を見つければ、先生に届けてくれるはずだ。
 腐っても月下騎士会会長だ。そのへんくらい信じたい。

 しかし、先生に落し物がなかったか聞いてみたのだが、届いてはいなかった。
 だとすれば、あの場所に今もあると考えたほうが良いだろう。
 一番恐れているのはいじめっ子たちにあれを発見されることだ。
 下手にあたしのものだと知られればおそらく捨てられてもう二度とあたしのもとには戻ってこないだろう。
 だが、あの場所を確認するにも会長がいなくならないことには探せない。

「本当に?」

 疑いの眼の香織にバレないように、視線を合わすと香織はようやく納得したように頷いてくれた。

「…ならいいんだけど。
 あの時言い忘れたんだけど、あのキーホルダーには強力な呪いがかかっているから、なくすととんでもない不幸が起こるってあれを売ってくれた占い師さんが言ってたから」

 ほら、よく持ち主を不幸にするダイヤとかあるじゃない、と笑う香織にあたしは凍りついた。

「え?なにそれ!聞いてないわよ!」
「言い忘れたのよ。
 あのキーホルダーあたしのと対になってて、二つをそれぞれが持っていると、ずっと仲良くいられるんだって。
 でもどちらかがなくすと、失くした方にとんでもない不幸が襲うと言われてるクリスタルが使われているとか…」

 香織の言葉に血の気が引いた。
 普段なら笑い話かもしれない。
 だが今現在のあたしの死亡フラグ乱立する状況を考えれば、決して笑い飛ばせはしなかった。
 と、とんでもない不幸って、なに?まさか、学園壊滅エンド!?
 まさかのこんな学園外の場所でも死亡フラグが免れないのか!?

「ど、どうしてそんなものを」
「いや、なんかネタ?安かったし、そんなものにそんな効果があるわけないじゃん」

 それになくしてないなら問題はないでしょ、と朗らかに笑われれば、こちらも笑うしかない。
 あたしは帰ったら速攻何を置いてもキーホルダーを探すことを決めた。
 会長がいようともはや関係ないわ!我が身が可愛いです。


*****

「うーん、それにしても母さん遅いねえ」

 香織の言葉に時計を見れば午後四時を回っていた。
 結構喋っていたようで、その間店番をしていたのだが、お客が一人も来ていない。
 大丈夫なのだろうか、この店は。

 そんなことを考えていれば、突然入口が空き、男の人が入ってきた。
 男の人といってもよく見ればまだ若い。あたしとそう歳は変わらないだろうか。
 スポーツでもやっているのかややがっしりとした体つきで、スポーツマンらしい清潔な短髪にややタレ目気味な一重、イケメンの部類に入る顔立ちでなかなかにモテそうな雰囲気だ。
 見たことのない顔だった。
 藤崎堂は地域密着型の和菓子屋さんなので、お客は常連が多く、昔はよく店番を手伝っていたので大抵のお客は分かるつもりだった。
 しかし、その中にはいない。

(…でも、どっかで見たことがあるような…)

 もともと和菓子店なので男性のお客は少ないし、こんな若いお客なら忘れようもないと思うのだが、すぐには思い出せなかった。
 しかし、思い出せなくてもお客はお客だ。
 あたしはかつての看板娘、香織のお母さん直伝のにっこり営業スマイルを浮かべた。

「いらっしゃいませ!藤崎堂へ。和菓子をお求めですか?」
「っ!?」

 あたしの声になぜか男の人はぎょっと目を向いたかと思うと、盛大に目をそらされた。
 あたしは首をひねった。なにかあたしはおかしいことをしたか?
 いかん。いかんぞ、環!
 おじさんにも教わったではないか。
 不機嫌な客をそのまま帰すな、と。
 クレームに発展する前に店内で食い止めろと言われたではないか。
 ましてや、ここは恩人のおじさんたちのお店だ。
 絶対に評判を落としてはならない。

「あの、お客様。ご機嫌を損ねるようなことをしてしまったでしょうか?」

 聞くが、相分からず男性客は顔を背けたままだ。
 あたしは、カウンターから出て、彼の目の前に立つように移動した。
 何事も目を合わせて話さなければ、気持ちを伝えることはできない。
 謝意をきちんと受け取ってもらって初めて信頼を得られるというものだ。

「あの、お客様?」
「うわっ!」

 覗き込むと、今度は声まで上げられ、背を向けられた。
 さすがにその姿にむっとしたが、商売に短気は損気と教えられているので我慢だ。

「すみません、お客様」

 再び、彼の前に移動するが、またしてもそっぽを向かれる。
 そしてまた移動してもさらに背を向けられる。
 その様子にあたしもなんだか根比べみたいでムキになってきた。
 あたしが追えば、彼が背を向け、またあたしがそれを追う。
 そんなことを二、三繰り返したときだった。
 ぶはっ、と香織が盛大に吹き出した。
 その姿にあたしは青くなった。
 ただでさえ、不機嫌な客に対してそんな態度を取れば、さらに怒らせるだけだ。

「し、香織。お客様の前でなんてこと…」

 しかし、香織の笑いは収まるどころかさらに大きくなった。

「あはあははは!環、環!それ客じゃないから!」
「え?」
「ははは…はひっ。ああもう、ほんと、あんたといると笑い死ねるわ」

 涙を浮かべて笑い転げる香織に男性客が憮然とした声を上げた。

「…弟をそれ呼ばわりすんじゃねえよ、ばか姉貴」

 その言葉にあたしはあたしの勘違いを悟った。

「り、(りゅう)くんなの!?」
「久しぶり、……多岐」

 ニコリともしないぶっきらぼうの挨拶にかつての記憶が重なる。
 藤崎竜輝(ふじさきりゅうき)
 香織の一つ下の弟だった。
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7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。



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