雑誌
「で?どうなのよ?」
再び先を促す言葉に首をひねる。
話せることは話したので、これ以上追求されても困るのだが。
「なにか他に言ってないことがあった?」
「あるわよ!あるある!で?あんた、ラブは?どうなのよ?」
香織の言葉に一瞬思考が停止した。
あたしは停止した思考のまま首を斜めに傾がせた。
「ラブって、犬の?」
「それはラブラドール」
「絵画の…」
「それは裸婦!」
「洋梨…」
「それはラ・フランス!」
「…ああ、石の」
「それはラブラドライト!ええい!いちいちマニアックなのよ!あんたの例えは」
それに答えるあんたもな、香織。
「ともかく高校といえば恋愛でしょ!なんかないの!あんた」
「いえいえ、高校といえば学業でしょ?一番大切ですよ?」
「そんなおためごかしはいいのよ!で?いい男はいないの?あんたの学校?
結構レベル高いって評判なんだから。実際どうなの?」
おためごかしって…あんた、本当にあたしと同い年か、香織?
レベル、…確かに顔とか見れば確かに、と思うような人間はいるが、人外もいるな。
顔だけ見るなら確かに眼福だな、人外たち。
あくまでも遠くからみるだけならな。
「顔だけなら、まあ、確かに?」
「なによそれ?性格最悪ってこと?」
あたしの答えに香織の顔がこわばる。
あ、やばい。
変にいじめられていることを疑わせるようなことを言ってしまったらしい。
「ううん、そうじゃなくて。顔がいい人ってあたしと接点無いから知らないというか」
「ああ、まあそうよね。お金持ちの学校だって有名だもんね。あんたの学校」
「そうそう、そうなの!」
ふいー、なんとか騙されてくれたらしい。
「で?あんた自身の方はどうなのよ?」
はい?どういうことでしょう?
「あんた自身、気になる男はいないのかってことよ」
ニマニマと気持ちの悪い笑を浮かべる香織。
そうきたか。
言われて思い浮かんだ面々の顔を思い出す。
気になる男という定義では確かにそうなる。
動向が気になる。主に関わりあいになりたくない方向で。
だが、あたしの数瞬の沈黙を勘違いしたようで、香織が目を輝かせて身を乗り出してきた。
「お?その顔はいるね?誰?教えなさいよ!」
「…言っても香織にはわからないでしょう?」
「そんなことないわよ!これを見なさい!」
突然カウンターの中から香織が何かの雑誌を取り出した。
一体何だと思って、表紙を見た瞬間、あたしの顔は盛大に引きつった。
「…その雑誌ってなに?」
「見ればわかるでしょう!今をときめく大企業のイケメン御曹司特集!これを見れば玉の輿?号よ」
突き出された雑誌にはどこかで見た顔が見慣れた制服姿でなく、髪をなでつけたスーツ姿で写っている。
これだけ見れば下手なモデルよりかっこいいな。さすが人外!
いや、だがそこが問題ではなく。
「なんでそんな雑誌が出てるの!?」
「そんなこと知らないわよ。
でもいいじゃない。かっこいいは正義!
で、それはみんなで分け合うものよ!今の時代。」
訳のわからない理屈を力説される。
人外たち以外にも裏戸学園の男子がかなり載っているらしく、この中に気になる男子がいないのか、と無理矢理押し付けられる。
拒否権はないようです。
恐る恐る雑誌をめくってみると、プロの仕事により普段とは違う彼らの姿が次々と現れる。
「今話題なんだから!ね!かっこいいでしょ?」
うん、確かにかっこいい。そこは否定しない。
だが、ふとめくった先に裏戸学園が誇る会長様の写真。
赤いバックに黒いスーツ姿で、豪華そうな緋毛張りの長椅子に腰掛け、色っぽい流し目で写っている。
ページの隅を見れば気鋭のフォトグラファーの名前がある。
ああ、この人に言われてのポーズなんでしょうが。
数日前のあたしの姿を幽霊だと勘違いして、ブッ倒れた情けない姿を思わず思い出して、噴出さないようにするのが困難を極めた。
とりあえず、吹き出しそうな会長の写真は見ないようにして、ざっと雑誌に目を通す。
…おっと、珍しいな。笑顔の副会長様だ。営業スマイルなんですね、わかります。
聖さんに向ける笑顔と明らか違うし。
…てか、少し怒ってる?なんか魔王オーラが写真越しに伝わっている伝わる気がして、なんか寒気するんですけど?
ああ、赤眼鏡は相変わらずのニヤケ顔、と思いきや真面目な顔だ。
あ、珍しくメガネとってる。
こう見ると、やっぱり会長と少し似てるんだな。
そういえばこの間の特別校舎以来姿見ない気がするな。
まあ、見たくないからいいけど、どっかいってるのかな?
一応あれでも御曹司だし、家の事情とかで出張があるとか公式設定資料集にあったよね。
後日談でもそれにくっついて旅行するってのもあったし。
まあ、それは聖さんの話だからどうでもいいけど。
あ、双子はやっぱりセットなんですね。
前ページ絡んで写ってます。写真の双子は全く同じ服を着ている。
あ、この写真解説間違ってるな。右が統留で左が翔留となっているけど、実際には逆だ。
誤植か双子のいたずらかが判断つきかねるところだ。
しかし、すごいな。
まあ、ファンクラブとかできるような人たちだから、人気は外でも出るとは思っていたけれど、これほどとは。
「このイケメンたちが全部あんたの学校の生徒会なんでしょう?
どんな学校なのよ、て、すっごい噂なんだから」
「どんなって、普通の学校だよ」
香織に心配させないために、あえて嘘をつく。
階級制のある学校が普通であるはずはない。
「本当に?」
突然、興奮していた香織の声のトーンが落ちた。
雑誌に落としていた目を上げると、香織の顔が真顔になっていた。
「香織?」
「本当に普通の学校なの?」
「それは…」
二度聞かれて再び嘘はつきにくかった。
さりとて、本当のことも言い出しづらくて、思わず黙ってしまったあたしに香織はさらに続けた。
「実は聞いちゃったんだよ。
友達に裏戸学園OBの人がいてさ。学内の事情聞いたんだよ。普通じゃないでしょ?
階級制のある学校なんて。
あんた、本当にやっていけてるの?そんな学校で」
香織に指摘されて、あたしは背中に冷たい汗が伝うのを感じた。
もしかして、ラブのこととかの振りはこのことを聞くための前フリだったのか?
…いや、ないな。香織だもの。あれは本気で聞いていた。
だが、困ったな。まさか、香織に知られるとは思わなかった。
裏戸学園は外に対してとても閉鎖的な学校だ。
もともとあまり人のこない山奥にある上、外からの人の出入りを極端に嫌っており、学園の敷地に通じる門には常にガードマンが立っており、証明書がないと入れないという念の入れようだ。
学生にも学内のことは外で喋らないようにと、通達もされている。
金持ちの子供を預かっている学園だから、変な噂とか外に漏れたら格好のスキャンダルネタになるとか、誘拐の危険性があるから個人情報を守るためとか色々聞いていたけれど、ゲームの知識から考えれば、それは学内の吸血鬼を守るための措置なのだろう。
もちろんそれは卒業生にも適応されるはずだった。
一体それを香織に伝えた卒業生とは誰なのか。
全く、余計なことをしてくれたものだ。
だが、今は名も知らないOBを詰っても仕方がない。
こうなったら、ごまかしは効かないだろう。
あたしは一つ深呼吸した。
香織の持っていた雑誌は素人さんばかりが掲載された雑誌です。
モデル業とかはやってないよ。さすがに人外。
-------------------------------

-------------------------------
[拍手してやる]
7/20 新しいSS拍手公開。但し鬱系になりますのでご注意を。(7/27全五話アップ)拍手2回すると出ます。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。
この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。