■勘で、ふらっと、普通の店で
米・シアトル在住のフードライターの著者が、妻と幼い娘とともに東京でひと夏を過ごしたことを中心につづった食紀行エッセーだ。
本になった経緯がユニーク。もともと米国で出版しようとしたがうまくいかなかったため、ネットで多くの人から少額の資金を集める仕組みを利用し、電子書籍として自費出版した。それを目にとめた東京の編集者が「面白い」と、日本で出版化を進めた。現在、3刷1万6千部と快調だ。「思いがけず日本で多くの方に読んでもらえてうれしいです」
著者と娘は日本食好きで、「いつか東京に行きたい」と一緒に貯金していた。そして2010年に娘(当時6歳)と2人で、12年には娘と妻とやって来た。
情報通のグルメっぽい態度とは無縁。知人のつてで中野に小さなアパートを借り、勘で、ふらっとごく普通の店に入り、食事を楽しんだ。暑い日に食べた冷やし中華や青唐すだちしょうゆうどんのさわやかさ、アナゴ天ぷら注文時に最後に出てくる骨を娘が気に入ったこと、焼き鳥のぼんじりの脂ののりに感動したこと、たこ焼きの素晴らしさ……。
「チェーン店でも何でも、娘が日本で食べるものひとつひとつに感動する。そのことに感動しました」
庶民的でおいしい店があちこちにある中野の魅力にもハマったそう。
日本では英国人の著書『英国一家、日本を食べる』がベストセラーになっている。「米国では知らなかったので、最近読みました。面白かったです。あちらは日本全国、高級店まで食べ歩いていますが、僕は普通の店ばかり。あわせて読むのもいいかもしれませんね(笑)」
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関根光宏訳、エクスナレッジ・1836円