ブライアンとデヴィッドの関係は70年代にデヴィッドが率いていたトーキング・ヘッズのプロデューサーを手がけた頃にまで遡り、二人でのコラボレーションとなる1981年の『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースツ』や08年の『エヴリシング・ザット・ハプンズ・ウィル・ハプン・トゥデイ』もこれまで手がけてきている。
ブライアンはかねてからパレスチナ問題についてイスラエル批判を繰り広げてきていて、今回、デヴィッドに自身の書簡を託したというが、特にアメリカ世論にイスラエルの行状の正当性を問うため、アメリカ人であるデヴィッドを頼ったものと思われる。デヴィッドはサイトで、ブライアンからの手紙を自身のスタッフの間でも回覧し、ブライアンのヘヴィーだが読まれるべきメッセージを広く伝える責任があるとの意見の一致をみて公開に踏み切ったと説明している。
基本的にブライアンはパレスチナの一般市民を巻き込んだイスラエル側の非人道的な数々の攻撃を批判していて、なぜアメリカはこんな国家を支持しているのかと問いかけている。アメリカではユダヤ系の政治団体が大きな影響力を誇っていて、戦後アメリカは一貫して親イスラエル政策を推し進めてきているが、ブライアンはこの「不文律をあえてこの手紙で問い直してしまうことになるような気がするが、もう問わずにはいられない」と次のように綴っている。
「今日ぼくはパレスチナ人男性が泣きながら肉片の入ったポリ袋を掲げている写真を見かけたんだ。袋の中身の肉は男性の息子の身体だった。この少年の身体は明らかにフレシェット弾を使っていたイスラエルのミサイル攻撃を受けて、ばらばらに切り刻まれることになった(と病院は説明している)。フレシェット弾とはなにかもうご存知だと思うが、これは小さな鉄製の矢じりを数百個爆薬の周囲に固めた爆弾で、これが爆発すると人間の皮膚を切り刻んで剥がしていくことになるんだ。少年は名前をモハメド・カラフ・アル=ナワスラといったそうだよ。5歳だったそうだ。
ぼくはふと、この男性の袋に入っていた少年の肉片が自分の息子でもおかしくなかったのだと気づいて、その思いにもう何年も感じたことのない腹立たしさに捉われることになったんだ。
その後、国連がガザ問題についてイスラエル側に戦争犯罪を犯している嫌疑があるとして調査委員会を設立したいと表明していることを読んだんだ。でも、アメリカはこれに同意しないというんだよ。
一体、アメリカではなにが起きているんだ? アメリカのニュースがいかに偏向しているか、ある事件についての報道があったらそれについての別な見方をほとんど誰も提供しようとしないということもぼくは自分の経験から知っている。でも、本気で調べようと思ったら、実はすぐにでもわかることじゃないか。このあまりにも一方的な、ほとんど民族浄化のような行いをなぜアメリカは盲目的に支持しているんだ? どうしてなんだ? ぼくにはどうしてもわからない。これが単純にAIPAC(アメリカ・イスラエル公共問題委員会。親イスラエル政策を政府に推すアメリカのユダヤ系政治団体)の影響だけでそうなっているんだとぼくは思いたくない。もし本当にそういうことなら、アメリカ政府は基本的に腐敗しきっているということになるからだよ。いや、これだけが原因だとは考えられない……けれども、ほかにどんな原因があるのかぼくには思い当たらないんだ」
さらにブライアンはエルサレムなどパレスチナ自治区のヨルダン川西岸地区への現地調査に赴いた時の経験も綴っていて、パレスチナ人住民が常日頃からイスラエル軍より受けている暴力や嫌がらせの数々を目撃してきたことについて触れ、こうした事態を「アメリカ人は本当にこれを許容しているのか? 本当にこんなことでいいと思っているのか? それとも知らないだけ?」と問いかけている。
さらにイスラエル・パレスチナ和平プロセスについてブライアンはイスラエルが望んでいるのは和平ではなく、実現させる気のない和平へのプロセスだけで、その時間稼ぎの間に西岸地区に武装移民を送り込み続けるのが目的なのだと批判している。しかも、こうした移民の大半はイスラエルで生まれ育った者でさえなく、神に約束されたという土地をアラブ人から収奪するために、ロシアやウクライナ、モラヴィア、南アフリカやブルックリン(ニューヨーク)から近年移り住んできたような者たちで、アラブ人は害虫という認識しか持たないこういう人間たちの行状はかつてのアメリカ南部で横行していた人種差別となんら変わりはしないと指摘している。また、ブライアンは締め括りに次のようにデヴィッドに詫びている。
「こうしたさまざまな問題をふっかけてしまって申し訳ないと思う。きみがいろんな意味で政治アレルギーだということもぼくはわかっているつもりだけど、これは政治を越えた問題なんだ。いくつもの世代にわたって人類が蓄積してきた文明の資本を今現在浪費して使い尽くそうとしているのはぼくたちなんだよ。ここでの問いかけに大袈裟なものなど一つもないんだ。ぼくにはまったくわからないし、わかれば楽なのにとも思うよ」
なお、イスラエルのガザ攻撃を受けて、ワン・ダイレクションのゼイン・マリック、リアーナ、セレーナ・ゴメス、エディ・ヴェダーらが反対を表明していて、ニール・ヤング、バックストリート・ボーイズ、ポール・アンカらがイスラエル公演を中止にしている。
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