佐渡島庸平×加藤貞顕が徹底討論!「コンテンツ商売は技術でどう変わるのか?」
2014/08/05公開
見どころダイジェスト
文章や写真、イラスト、音楽、動画などの投稿サービス『note』が8月1日にメニューを強化した。クリエーターによるコンテンツの有料販売に継続課金機能を追加したのだ。これにより、閲覧者は毎月一定額を支払えば、雑誌を定期購読するように特定のクリエーターの“note”を読んだり見たりできるというものだ。
noteは今後、どのように成長していくのか。そして、日々着実に進んでいく技術革新を受け、コンテンツ業界の未来はどう変化していくのか。
noteを運営するピースオブケイク代表取締役CEOの加藤貞顕氏と、noteも活用しながら、漫画家の三田紀房氏や小山宙哉氏ら、クリエーターのエージェント業務を手がけるコルク代表取締役社長の佐渡島庸平氏に聞いた。
それぞれ独立前は出版社所属の編集者として働いていた共通点を持つ2人。しかし、話を聞いてみるとデジタルコンテンツの拡散について、目指す理想は同じであれど、アプローチ方法は異なることが窺えた。
株式会社コルク 代表取締役社長
佐渡島庸平氏
1979年生まれ。南アフリカで中学時代を過ごし、灘高校、東京大学を卒業。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。『バガボンド』(井上雄彦)、『ドラゴン桜』(三田紀房)、『働きマン』(安野モヨコ)、『宇宙兄弟』(小山宙哉)、『モダンタイムス』(伊坂幸太郎)、『16歳の教科書』などの編集を担当する。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社、コルクを設立。
株式会社ピースオブケイク 代表取締役CEO
加藤貞顕氏
1973年生まれ。大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了。アスキーにて、雑誌の編集を担当。ダイヤモンド社に移籍し、単行本の編集や電子書籍の開発に携わる。『ゼロ──なにもない自分に小さなイチを足していく』(堀江貴文)、『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(岩崎夏海)などの編集を担当する。2011年に株式会社ピースオブケイクを設立。2014年4月に『note』をリリース。
クリエーター生き残りのためにはコアファンとのつながりが重要
――まず、加藤さんに伺います。2014年4月にnoteのサービスが始まってから3カ月以上が過ぎました。手応えはいかがですか。
加藤 ユニークユーザー数がすぐに100万人を超えて、予想以上の反響を得ているなというのが実感です。クリエーターの側では特にミュージシャンの方からの反応が大きく、インターネットでビジネスを可能にする仕組みが必要とされているのを感じます。
すでにnoteにはくるりの公式ファンクラブ『純情息子』がありますが、今後、こういった形での利用は多くなると思います。
佐渡島 コルクが海外展開をサポートさせてもらっている平野啓一郎さんもnoteを使いはじめました。定期購読機能はいい機能ですね。お金を出してまで読みたい、という“熱いファン”がいれば、クリエーターが安定してお金を得ることができて、作品作りに集中できる。
創作活動だけで生活していくためには熱狂的なファンとのつながりが重要と話す加藤氏
加藤 そうなんです。他にも、今、菅原敏さんという詩人の方と一緒に仕事をしているんですけど、詩人としての活動だけで食べていくのってとても大変なんです。
でも、例えば、500人の濃いファンとつながることができて、noteで1人あたり月額1000円を支払ってもらえれば、彼はほかの仕事をしなくても、詩人としてのクリエイティブな活動に没頭できます。
佐渡島 月収50万円が保証されますからね。ある程度のお金を出してまで作品を見たいというコアなファンと、思い切った金額は出せないけどとりあえず興味はあるという薄いファンのバランスをどう取るかが大切ですね。
加藤 今、映画のDVDなどはそういう仕組みで販売されていますしね。まずは5000円のものを出してコアなファンに買ってもらって、少し時間を置いて2980円で売って、だいぶ時間が経ってから500円で売る。そうすると、500円でなら買ってみようという人も手に取るようになります。
佐渡島 時間差もあって、5000円で買った人が早く見れて満足しているのなら、損をしているわけでもないですしね。
加藤 課題は、500円で売っていることをどう多くの人に知ってもらうか、僕の立場としては、それをいかにシンプルなアーキテクチャで実現するかになります。
場作りから始めるnote、人にスポットを当てるコルク
佐渡島 noteは、僕らみたいな立場にとって、使いやすいところと、使いにくいところがありますね。
加藤 おっ、ぜひ聞かせてください。どこですか?
佐渡島 まず、クリエーターが簡単に課金できるのが素晴らしいですね。使いやすいです。
加藤 自由に課金ができても、公序良俗に反するコンテンツがないのも、noteの強みです。クリエーターが安心して活動できるように、心を砕いて制度を整備しています。
JASRACとも契約を進めていて、正しく音楽を扱えるように環境を整えています。それに、noteはクリエーターとファンが長く続くリレーションを作る場所なので、変なことは起きにくいんです。
佐渡島 なるほど。noteを現実に喩えるならば、まっさらな土地に作られた新しい商業施設のようなものだと、僕は考えています。
一方のクリエーターは、そこに出店する人。商業施設には、たくさんの人が訪れます。
佐渡島氏のnoteについての意見を真剣な表情で聞く加藤氏
すでにブランドを持っているクリエイターが課金をするのには、いいプラットフォームですが、ブランドのない新人クリエーターにとっては使い勝手のいい場所ではない気がしています。
コルクは新しい才能を発掘・育成したいので、そこが使いにくい。
加藤 うーん、言いたいことはいろいろあるんですが、続けてください(笑)。
佐渡島 加藤さんは編集者ですけど、ケイクスはエンジニアの会社だと思いました。発想が、仕組みよりかなと。エンジニアの方が、編集よりも多いですよね?
加藤 10人くらいがエンジニアとかデザイナーとか、開発関係ですね。編集者も5人います。
佐渡島 一方で、僕の会社は編集者寄り。いわば、noteはたくさんの人が入れる商業施設を作っていて、僕らは強い個人商店を作ろうとしている。
加藤 なるほど。
佐渡島 だから、“1店目”を作る時に、いきなり大きな商業施設の中でいいのか? というジレンマに陥るわけです。noteは、すでにブランドを持っている人にはいいんだけれど、新人のクリエーターは埋没してしまうんじゃないかと。
デザインなどの自由さもきかないので、はじめは集客よりも、個性を出しやすい場所の方が、いいかもしれないと考えています。
加藤 なるほど。佐渡島さんはnoteについてそう思っているんですね。せっかくの機会なので、弁明というか、説明をさせてください(笑)。
佐渡島 ええ、ぜひ(笑)。
「新人のデビューの場としてのnote」に関して2人の意見が割れる
加藤 僕は、新人のデビューの場にもnoteは適していると思ってるんですよ。
佐渡島 おっ、楽しみ。もっと聞かせてください。
加藤 Webはnoteよりも広い海です。新人であれば特に、ファンに定期的に自分のサイトに見に来てもらうのは大変なことです。でも、noteにはフォローという仕組みがあって、ファンと簡単につながりを作れます。実は課金システムよりも、これこそが大切な機能だと思っています。
――そのフォローの概念は、FacebookやTwitterのものと同じですね。一度フォローすると、自分のホームに、随時、新しい情報が配信されてくる。
加藤 はい。その上で、課金の仕組みがあるんです。noteのユニークユーザーはサービス開始から1カ月で100万人を超えて、今も増え続けています。
だから、そこから500人のファンを得て、有料ユーザーになってもらうというのは非現実的な数字ではありません。
佐渡島 なるほど。ただ、ファンは、noteに来て、たくさんのクリエイターを同時に楽しみますよね。僕らは、このクリエイターがいい、この人だけを見ていたい、と思うようなファンとの関係を作りたいのです。ライトなファンを取り込んで増やしてから、コアなファンを増やすのではなく、コアなファンを生み出してから、ライトなファンを育てていく。