習近平国家主席がついに大トラ退治を断行した。7月29日、石油閥のトップ、かつ前政権のトップ9として公安部門を率いた周永康氏を、重大な規律違反の疑いで立件に踏み切った 。この事態はいったい何を意味するのか。習国家主席の意図はどこにあるのか。今後、習指導部は何を目指すのか。中国問題の研究者で、日中の架け橋としても活動する天児慧・早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授に聞いた。
習近平国家主席は、胡錦濤政権において序列9位の実力者として力を誇った周永康氏の取り調べ に踏みきりました。これをどのように評価していますか。
早稲田大学国際学術院アジア太平洋研究科教授
専門は中国政治とアジア現代史。社会学博士。1947年生まれ。早稲田大学を卒業し、一橋大学大学院博士課程修了。外務省専門調査員として在北京日本大使館に勤務した経験を持つ。近著に『日中対立』(ちくま新書)など。(撮影:菊池くらげ 以下すべて)
天児:ついに、腐敗の中心にメスを入れたなと思いました。周永康氏は石油閥のボスです。中国が経済成長を続けるにつれて、エネルギー需要も拡大してきました。石油はその中心です。大きな利権が同氏の周りに集中していたと考えられます。
習国家主席は2012年秋の第18回党大会で中国共産党総書記に就任する際、腐敗を撲滅することを言明していました。そして、厚い信頼を寄せる王岐山氏を党中央規律検査委員会書記に任命し陣頭指揮を取らせきた。彼らは周永康氏を取り巻く人物を捜査し、非常に慎重にことを進めてきました。その上で、習国家主席がついに決断したのでしょう。
第18期中央委員会第4回全体会議(四中全会)を10月に実施することも発表しました。この場で周永康氏に対する処分を決めるメドが立ったので実施日を明らかにしたのだと思います。反腐敗政策は、これで一つの山を越えたと言えるでしょう。
中国では、政治に対する民衆の不満が高まっています。経済格差が拡大し、環境問題は深刻の度を増しています。民衆の動きは公民権運動の形を取り始めました。今回の立件はこうした動きへの対策という面もあります。
習政権は民衆の動きを、力をもって弾圧しています。それを正当化するためには、腐敗撲滅政策にも取り組んでいる姿勢を示す必要があります。民衆だけでなく、身内である共産党にも厳しくしていると見せる。周永康氏のような象徴となる大物を対象にすることで、民衆に対してアピールしているのです。
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