交通機関の発達で、地球はどんどん小さくなっている。

 人や物が世界中を行き交うのに伴って、さまざまなリスクも往来するようになった。

 その一つが感染症である。

 西アフリカのギニア、リベリア、シエラレオネ、ナイジェリアの4カ国で、エボラ出血熱の感染拡大が続いている。

 世界保健機関(WHO)の最新のまとめでは、1440人の患者のうち826人の死亡が確認されたという。

 エボラ出血熱が1976年に発見されてから、最も大規模な感染拡大になっている。

 日本からは遠いことのようにも見えるが、こうした感染症はいつ国内に入ってくるか分からない。

 今のうちに態勢を着実に整えておきたい。

 米国は今回、医療援助でリベリアに入っていて感染した米国人医師を、隔離室のあるチャーター機で帰国させ、アトランタの大学病院に入院させた。全米でも4カ所しかない高度隔離病棟施設という。

 日本でも、エボラやマールブルグ病など特に危険な一類感染症の患者については、感染症法に基づいて、各都道府県に置く第一種感染症指定医療機関に隔離することになっている。

 施設がたくさんあるのは一見いいことだが、医療スタッフの練度は大丈夫だろうか。定期的に点検しておきたい。

 より深刻なのは、エボラウイルスなどを研究できる施設が国内にはないことだ。

 間違っても病原体が漏れ出さないよう、最も厳重な高度安全実験施設(BSL4施設)でなければならないが、世界には約40カ所あるのに国内はゼロ。

 実際に国内で患者が発生したり帰国患者を受け入れたりしても、感染した血液や組織を迅速に調べられず、診断や治療が後手に回る恐れがある。

 今年3月に日本学術会議はBSL4施設が必要とする提言をまとめた。最終的な候補地がどこになるにせよ、地元の理解を十分得られるよう、厳格な安全運用などの基本構想づくりを急ぐべきだろう。

 感染症対策は設備だけではない。たとえば、エボラは重症化した患者の血液や体液との接触で人から人への感染が起きるほか、野生動物の肉を食べて感染することもある。

 感染地域にはできるだけ近寄らず、正しい知識で感染を予防することが重要だ。

 「感染症は知識で予防する」というのは、いつでも何の感染症にも通じる鉄則である。