(2014年8月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
米テキサス州の海岸から60マイル離れた沖に停泊中の1億ドル相当の原油を積んだタンカーが、天然資源を生産・販売するクルド自治政府(KRG)の権利を巡り、イラクの中央政府とKRGの最新の舌戦の的になっている。
クルド地区には、イラク南部のような巨大な油田はないが、もし活用すればクルド地区をエネルギー市場で新たな主要プレーヤーにする可能性を秘めた未開拓の莫大な資源基盤を持つ。
イラク政府は7月末、ユナイテッド・カラバーフタ号に積まれた100万バレルの原油は準自治が行われているクルド地区から許可なく密輸されたものだと主張し、テキサスの裁判所に訴えを起こした。
判事は当初、原油の差し押さえを命じたが、その後、タンカーが停泊している岸からの距離を考えると、米国には管轄権がないと述べた。KRGは、原油は合法的に生産、出荷、輸出されたものだと主張している。
裁判所が審理を続ける中、政治的、経済的な自治を確立しようとするKRGの最新の試みは、クルド地区の主都エルビルはエネルギー大国として正当性があることを世界に納得させられるかどうかという疑問を再燃させている。
「この原油の販売が大詰めだ」。クルドおよびイラクの石油産業アナリスト、シュワン・ズラール氏はこう語る。「この論争は2006年の探査から始まり、油田の発見に至り、その後、パイプラインが建設された。これはバクダッドの中央政府の権威に対する究極の挑戦だ。石油の販売こそが、彼らがずっと待ちわびてきたことだ」
独立目指して先走りすぎたKRG
イラク国内の他地域よりも治安状況と投資環境が良いことで知られるKRGは、数多くの石油探査・生産会社を引き寄せてきた。過去2~3カ月というもの、イスラム原理主義の武装勢力との戦いでクルドの民兵組織「ペシュメルガ」の方がイラク政府軍の兵士より強いことがはっきりすると、KRGの立場は強まった。
バグダッドにとって腹立たしいことに、KRGは宗派間の戦闘を、新たな領土に勢力を拡大し、石油の輸出に踏み切り、イラクの石油収入から得る分け前を増やす機会として利用した。
だが、クルド地区は石油産業の開発に対する障害に直面する。ロンドンに本拠を構えるコンサルティング会社エナジー・アスペクツのリチャード・マリンソン氏は言う。「KRGはこの1カ月で、独立した存在を確立しようとして先走りしてしまった。最近の石油輸出の試みは、バグダッドとの関係を一段と悪化させたこと以外に何の成果も上げていない」
KRGの石油産業は活況に沸いているが、生産量はまだ日量20万バレルを若干上回る程度だ。