寝ても覚めても:監督のくじ運=冨重圭以子
毎日新聞 2013年10月31日 12時35分(最終更新 10月31日 12時38分)
プロ野球のドラフト会議を取材していて、ずっと感じていた。指名選手が競合したときのくじ引きは、監督よりも、フロントなど背広組の方が当選率が高いのではないか。
単なる印象なのだが、今年のドラフトでも、5球団が競合した松井裕樹投手(桐光学園高)の交渉権を獲得したのは、楽天の立花陽三球団社長だった。残りくじだったから、立花社長のくじ運がいい、とは断言できないが、逆に見れば、ソフトバンクの王貞治球団会長とともに、日本ハム・栗山英樹監督、DeNA・中畑清監督、中日・谷繁元信監督の3人の現役監督は、そろって当たりくじをのがしたことになる。
大瀬良大地投手(九州共立大)の交渉権を獲得した広島も、過去3回外した野村謙二郎監督が、担当スカウトに代打を頼んで成功した。
ドラフト史をひもといても、くじ運の強い「黄金の手」を持った人は背広組に目立つ。1980〜90年代当時のヤクルト・相馬和夫球団社長はチームの中心となる選手を次々引き当て、元祖「黄金の左手」として鳴らした。楽天の島田亨取締役は球団社長時代、田中将大投手を右手で、翌年には5球団競合の長谷部康平投手を左手で当てた「黄金の両手」の持ち主だった。
監督が高い競争率の中、意中の選手を引き当てたケースもある。昨年は、阪神の和田豊監督が4球団競合の藤浪晋太郎投手を当てた。でも今年は2度外し「黄金の左手」は1年限りだった。8球団競合の野茂英雄投手、4球団が争った松井秀喜選手のときは、当時の近鉄・仰木彬監督、巨人・長嶋茂雄監督がくじを引いた。でも、2人とも残りくじ。他の人たちが外したというべきだろう。監督で本当にくじ運が強かったのは6球団競合の菊池雄星投手と大石達也投手を2年連続で引き当てた渡辺久信・現西武シニアディレクターくらいか。
なぜ、現役監督のくじ運は悪いのか。科学的な根拠はないが、一つ思いついた。監督たちは、ツキはユニホームを着たときにとっておきたい、と考えるのではないか。もちろんわざと外すはずもないが、人間のツキの総量が決まっているとしたら、彼らは試合に使いたいと思うだろう。抽選は背広組にお任せ、というのは、監督の精神上もいい手かもしれない。(専門編集委員)