今、精神科医療を巡り国の政策に当事者から抗議の声が上がっています。
長年、患者の隔離収容が行われてきた日本の精神科医療。
今でも精神科病院に長期入院する患者はおよそ20万人と世界の中でも際立って多く人権侵害に当たると批判されてきました。
今月、国は精神科病床の削減を決定。
しかし、退院患者の受け皿として病床の一部を居住施設にすることを認めたため波紋を呼んでいます。
背景にあるのは退院した患者を地域で受け入れる態勢作りの遅れです。
現場では今さまざまな専門スタッフが連携し長期入院していた患者を地域で支える模索が続いています。
どうしたら長期入院を減らせるのか。
日本の精神科医療の在り方を考えます。
こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
うつ病や統合失調症などの精神疾患で精神科の病棟に入院している人は全国で32万人。
このうち1年以上入院している人は全体の7割近く20万人に上っています。
日本の平均入院日数は先進国の平均30日に比べご覧のように、突出して長くおよそ290日。
また精神科のベッド数も人口10万人当たり先進国平均のおよそ4倍ととても多いのです。
適切な治療や支援があれば精神疾患の症状も改善し自宅や地域で日常生活を送ることができるといわれていますが医療上の必要性が低いにもかかわらず10年以上入院している人が少なくありません。
長年、隔離収容政策を取ってきた影響が大きいのですが国は2004年入院中心の医療から地域生活中心へと、かじを切る方針を打ち出しています。
しかし、10年たっても進展はほとんどありません。
国は長期入院を解消するため今月、精神科病床を削減する方針を決めました。
しかし、空いた病棟の一部を退院者の居住施設に転換することを認めることにしたため根本的な解決にはならない。
患者を地域から切り離すことになるなど波紋を呼んでいます。
1月に日本でもようやく批准された障害者権利条約ではすべての障害者は、住みたい場所そして誰と暮らしたいかを選択できるとうたわれています。
患者一人一人の自由な選択を尊重しながら、差別や偏見がまだ根強い社会の中でどのように理解を得ながら地域で暮らしていけるのか。
精神科病院の長期入院をどうやって解消していけるのか。
その実態をまずはご覧いただきます。
1年半前、精神科病院を退院した時男さんです。
それまで40年にわたる入院生活を送っていました。
10代のときに統合失調症と診断された時男さん。
今は症状も落ち着いています。
40年もの入院生活から抜け出すことができたのは東日本大震災がきっかけでした。
病院が被災し避難を余儀なくされたため思いがけず退院できたのです。
16歳のとき上京して働き始めた時男さん。
人間関係のストレスから次第に妄想に襲われるようになり都内の精神科病院に入院しました。
そこは劣悪な環境でした。
国が進める隔離収容政策のもと当時患者は大部屋に閉じ込められ体を拘束されることもあったといいます。
時男さんは数年後ふるさとの病院に移りました。
このころからは、症状も安定。
生活訓練として病院のちゅう房作業を引き受け規則正しい毎日を送れるようになりました。
しかし、待ち望んでいた退院はかないませんでした。
当時、退院には家族の受け入れが原則でした。
ところが、周りの差別や偏見が根強いことから一緒に暮らせないと言われました。
30年が過ぎたとき唯一面会に来ていた父親が他界。
時男さんはとうとう退院したいという意欲を失いました。
2004年国はようやく、時男さんのように長期入院を余儀なくされている患者への対策に乗り出します。
精神医療や福祉の在り方を示した政策、改革ビジョンです。
ここで入院中心の医療から地域生活中心へとかじを切ると宣言。
7万2000人もの患者が入院治療が必要ないにもかかわらず長期入院していると公表。
10年後にゼロにすると打ち出しました。
しかし、この10年間、状況はほとんど変わりませんでした。
全国の精神科病院で作る団体の理事、千葉潜医師です。
背景には、退院を進めにくい制度の問題があるといいます。
病院には入院患者1人につき平均で年間およそ500万円の医療費が入ります。
しかし入院が減るとその分、収入は減ります。
一方、退院を進めるには専門の支援スタッフが必要ですが人件費などの補助が十分ではなく経営は一層、圧迫されます。
さらに社会の偏見も根強いため受け皿となる住まいを確保するのも難しく病院の努力だけでは限界があるといいます。
東日本大震災がきっかけで40年ぶりに退院できた時男さんです。
ただいま。
その後、避難生活の中で理解ある仲間に出会い今は共同生活をしています。
なぜ40年もかかってしまったのか。
残された人生は自由に生きたいと時男さんは願っています。
今夜は、精神障害者の社会的支援に携わってこられました、精神科医の伊藤哲寛さんをお迎えしています。
時男さんは40年間、病院で過ごしたあと、今、新たな人生のスタートを社会に溶け込んで始められてらっしゃるわけですけれども、その姿、どのようにご覧になられました?
40年間という、長い間入院されて、新しい人生を大震災ということを契機に始められたわけですね。
それで、長い入院にもかかわらず、生き生きと地域で生活されてる、生活を楽しんでおられる姿を見て、本当にうれしく思います。
それと時男さんのような方が、まだまだたくさん精神病院の中にはおられるということも、皆さんに分かっていただきたいと思います。
実際はもうちょっと、時男さんよりもうちょっと、病状がまだ、改善が十分でない方でも、地域で十分生活できてます。
時男さんを見て、地域でみんな生活できるんだということを分かっていただけるかと思います。
勇気づけられる方も多いと思うんですけれども、欧米は早い段階で、入院から地域での生活に切り替えた。
日本は10年前に、その方針を打ち出していますけれども、それでも遅れてはいたんですけれども、この10年たってもほとんど変化はなかった。
なぜ、これほど遅れたというふうに見てらっしゃいますか?
やはり精神科の病院が、ほとんどが民間病院、9割が民間病院ということがありまして、病床を減らすと、病院の経営が苦しくなるという、そういう状況の中で、政府は病床転換を進めようとしたんですけれども、現実には、地域移行は進まなかったわけですね。
だから今後は、この構造をどうやって変えていくかということが非常に大事になるんだろうと思います。
改めて今月、長期入院者を解消するための、病院の削減を行う方針を打ち出したわけですけれども、厚生労働省が。
その具体的施策としては、入院患者は、地域の生活に直接移行するというのが、大原則。
ただ、退院意欲が固まらない方々に対しては、病院の建物の一部を居住の場として活用することを認めたというふうにしているんですけれども、これに対しては根本的な解決にはならないという声も上がっています。
退院意欲が固まらない方々に対して、こういう病院の敷地内での居住っていう施設を作ることについては、どう捉えてらっしゃいますか?
私は、基本的には、本当の地域移行につながらないんじゃないかなっていうふうに心配してます。
集会で関係者の方が今回の施策について、非常に反対の声を上げたわけですけれども、やはり形だけの地域移行、形だけの病床削減になってしまうんじゃないかということですね。
ですから、まず、新しい居住施設に移れるような方は、すぐ地域に帰れるはずじゃないかなと、私の経験からはそういうふうに思います。
期限は設けるとしても、ある程度、例えば戻れる方でいらっしゃれば、最初から戻れるんではないかということですね。
2年間とか、期限切るということもありますけれども、そんな必要ないと思います。
今の社会的入院っていわれてる方は、もっと力はあるんじゃないかと思います。
そもそもその意欲がない理由というのは、時男さんも一時、自分はもう、病院からは出られないんじゃないかと、意欲を失われたということですけれども、これはやっぱり長期入院がもたらしたそのものというふうに思ったらよろしいんでしょうか?
意欲がなくなったり、退院に自信がなくなったりするというのは、専門用語でいえば、施設症というふうにいうんですけれども、長い入院の中では、そういうことが起こるわけですね。
だけどそういうことが起こった原因は、本人にあるんじゃなくて、そういう処遇をしてきた、われわれ病院側の責任なんですね。
ですから、意欲がないから地域移行が進まないというのは、なんかご本人の責任にしてるようですけど、そうじゃなくて、むしろ、そういう施設症を生んでしまった医療関係者の責任だというふうに思うべきではないでしょうかね。
患者の方々が安心して退院できる態勢をどうやって作れるのか。
この模索を続けてきた地域をご覧いただきましょう。
患者の退院支援を地域ぐるみで進めている北海道の十勝地方です。
ここでは、精神科病院のスタッフだけではなく福祉や行政の専門家が連携し退院した患者を地域で支える態勢を取っています。
メンバーの一人沼田和祥さん。
8年前から長期入院する患者の退院をサポートしてきました。
定期的に精神科病院を訪ね患者の相談相手になっています。
この日、沼田さんに50代の女性が声をかけてきました。
入院生活が長くなり外で暮らすことが不安だといいます。
実は、沼田さんも20代のころに統合失調症で入院を経験。
当事者だからこそ分かる悩みを共有し不安を和らげていきます。
患者が退院したあとも買い物や交通機関の利用など自立して暮らせるようになるまで支えます。
一度は地域に戻る意欲を失った人も沼田さんのようなピアサポートによって退院。
今ではおよそ20人が生活を軌道に乗せています。
この取り組みのきっかけを作ったのは、精神保健福祉士の門屋充郎さんです。
かつて、精神科病院で働いていた門屋さん。
受け皿を作るには医療者みずからが地域に出て患者中心の体制を作ることが必要だと考えました。
まず地元の空き家などを提供してもらい、患者が暮らせる住居を確保してきました。
さらに近隣住民の不安を解消するため用意したのが24時間連絡できるホットラインです。
緊急のときには病院のソーシャルワーカーがすぐに駆けつけ対応。
トラブルを未然に防ぎ地域の理解につなげてきました。
門屋さんたちの活動を自治体も後押しするようになりました。
退院を支えるピアサポーターの養成や生活相談、そして就労支援など患者を支える態勢作りに助成金を出し取り組みが加速したのです。
その結果、地域にある6つの病院では積極的に退院を促すようになり10年で病床を4割減らすことができました。
地域の中核を担う精神科病院です。
ここでは今、外来診療に力を入れ退院した患者が再び入院しないようにしています。
さらにことしからは通院の難しい患者の自宅を医師が訪問。
暮らしぶりを見ながら診療を続けています。
入院治療に比べて採算を取るのは難しいのが現状ですが、新たな手応えを感じているといいます。
伊藤さんも、この十勝の取り組みには関わってこられたわけですけれども、病床を4割も減らすことができた、一番の鍵はなんだったんでしょうか?
地域のいろんな職種の方ですね、医療関係者、それからケースワーカー、それから当事者、それからボランティアの方、さらには行政の方も巻き込んで、地域でいろんな活動を展開してきたということですね。
そのことが社会資源を増やし、病床を減らすことにつながったんだろうと思います。
ただ地域の方々には、病院からの移行に対する反対の声はなかったんでしょうか?
初めのころは、やはり、例えばグループホームを作ろうとしたときに、住民の反対ということもありました。
しかし、最近は少なくなったんだろうと思います。
それは、地域で生活する障害者の方が、たくさん、いろんな活動をしてて、それを見てる、理解してくれる方が増えたからだと思います。
時男さんのように、周りの方々が皆さん、障害も分かって接してくれてるようになると、本当に障害者の方々にとっては、過ごしやすい地域になるんだろうと思うんですけれども、ただ一方で、これまで進まなかった最大の理由として、先ほど、伊藤さん、おっしゃった、病院の経営が成り立たないと、この点が、どうやって今後、乗り越えていくのか。
精神障害の治療を行う病院としては、どうやって経営を成り立たせていくんでしょうか?
政府も急性期の治療とか、それから外来を充実させた病院には、医療費高くする施策は取ってきたんです。
それからもっとそれを進めて、慢性期の病床はあまり使わずに、急性期を十分充実させるということで、収入を上げると、病院の経営が楽になると、そういう施策をもっともっと進めるということですね。
それから病床を削減して、機能を上げた病院が、成功するというようなことにしないと、うまくいかないんじゃないでしょうか。
もっとそういうふうにしてほしいですね。
診療報酬の仕組みを変えていくと?
変えていただければ。
そうすると医師や看護師の方々は、地域医療にもう少し?
もう少し振り向けることできます。
そういうふうに転換していくと。
そして、最大の、ご本人が地域に出ていきたいと思えるようになるには、何が一番大事だと思われますか?
本当は、皆さん、退院したいって気持ち、持ってるんですね。
ただ、自信がないだけです。
それを取り戻すためには、やはり先に退院した方、ピアサポーターの方が、これだけできるんだよというふうにして、一緒に退院を考えてくれると、そういうようなことが非常に有効だと思いますね。
十勝の例でも、皆さん、理解していただいたと思いますけれども。
実際に、そういう接する場などを作ってこられたんですか?
はい。
それは例えば退院した患者さんが、定期的に入院してる患者さんに会いに来ていただくとか、退院したらこんなにすばらしいんだよということを伝えていただくこともやってみました。
本人が自分の潜在力を信じられるようになるというのが一番でしょうね。
ありがとうございました。
2014/07/25(金) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「精神科病床が住居に?長期入院は減らせるか」[字][再]
精神科の社会的入院を解消するため、国は病床削減を決定。退院者の受け皿として、病棟を「居住施設に転換」する構想が波紋を呼んでいる。長期入院の実態と解決策を探る。
詳細情報
番組内容
【出演】精神科医…伊藤哲寛,【キャスター】国谷裕子
出演者
【出演】精神科医…伊藤哲寛,【キャスター】国谷裕子
ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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