クローズアップ現代「幼い命がなぜ… 〜東京女子医大病院 医療事故の深層〜」 2014.07.23

東京女子医科大学病院で心臓の手術を受けた男の子。
この3か月後、亡くなりました。
手術のあと大量に使われていたのが副作用のリスクが高いプロポフォールという薬でした。

心からおわび申し上げたいと思います。

先月、記者会見を開いた東京女子医大病院。
プロポフォールを投与した子ども13人がその後、死亡していたことを明らかにしました。
このうち病院が死亡との因果関係を認めているのは1人だけ。
しかし、ほかのケースでも医師が薬の危険性をよく知らないまま安易に投与を続けていた実態が明らかになってきました。

わが子にプロポフォールが使われていたことを初めて知らされた遺族。
真相の究明を求める声が高まっています。

幼い命を守るべき小児医療の現場で何が起きているのか。
その深層に迫ります。

こんばんは。
「クローズアップ現代」です。
幼い子どもは体力も免疫力も低く難しい手術を受けたあと大人以上に万全の術後管理体制が必要だといわれています。
容体が目まぐるしく変わることが少なくなく常に注意深く見守らなければ急変への対応が遅れ重い障害が残ったり命に関わる事態にもなりかねません。
加えて子どもに使える薬は少なく症状によっては子どもへの投与が原則禁止されている薬を親の同意を得て慎重に使わざるをえないのです。
こうしたことから小児集中治療の現場には子どもの容体を24時間管理する主治医が必要だとされています。
専門知識を持つ人材そして体制が整った施設はご覧の全国に29か所。
専門医も設備も限られている中で幼い子どもが犠牲になる悲しい医療事故を防ぐには病院の役割を明確化し治療の難しい患者を体制の整った医療機関に集めることが必要だと長年いわれてきたのです。
しかし、集約化は進んでいません。
こうした中幼い子どもの命が失われる事故が小児集中治療体制が不十分な東京女子医大病院で起きました。
きっかけは子どもへの投与が原則禁止されているプロポフォールという薬です。
手術後、人工呼吸器が必要になった場合など体が動かないように安静を保つための鎮静薬です。
東京女子医大病院は13人の子どもがプロポフォールの投与のあと亡くなったことを発表。
このうち2歳の男の子については死亡と薬の因果関係を認めています。
ほかの12人については因果関係はないと見られるとしているものの調査を続けています。
薬の危険性がきちんと認識されず容体の管理も不十分な中で起きた事故。
病院の実態をご覧ください。

5年前東京女子医科大学病院で心臓の手術を受けた男の子です。
その後、退院することなく生後5か月で亡くなりました。

先月、両親のもとに突然病院から手紙が届きました。
このとき初めて両親はわが子にプロポフォールが投与されていたことを知りました。

驚いた両親は病院からカルテのコピーを取り寄せました。

カルテにはプロポフォールが投与された実態が克明に記されていました。

男の子は生まれつき心臓の働きが弱く生後2か月のころ心臓の血管を広げる手術を3回受けました。

手術は成功したと伝えられた両親。
これで元気になると回復を信じていました。
カルテによるとプロポフォールの投与が始まったのは手術の2日後。
男の子が動いて人工呼吸器が外れないよう安静を保つために使ったとしています。
大人でも1週間を超えて投与しないことになっているプロポフォール。
しかし男の子には2か月近く投与され続けました。
さらに、その量も次第に増やされていったことが記されています。
心臓の手術を終えたばかりで慎重な対応が必要だった男の子。
なぜ安易に投与をし続けたのか。
両親が主治医に問いただしたところ長期間使用してはいけない薬とは知らなかったと答えたといいます。

手術から3か月後男の子は多臓器不全で亡くなりました。
病院は薬の投与と死因との確実な因果関係は見られないと説明しています。
しかし、その説明に納得できない両親は真相の究明を求めています。

病院がプロポフォールの投与と死亡の因果関係を唯一認めているのは2歳の男の子のケースです。
ことし2月、首に出来た腫瘍を取る手術をしたあと4日間プロポフォールを投与され、亡くなりました。
事故の背景には病院の医療体制に構造的な問題があることも明らかになってきました。
男の子の主治医は手術をした耳鼻咽喉科の医師。
手術のあと、人工呼吸器が必要となった男の子はICU・集中治療室に入りました。
そこには術後の管理を担当する医師がいましたが、主治医は治療が長期に及ぶ可能性を伝えていませんでした。
一方、ICUの医師は治療が短期で終わると思い込みプロポフォールの使用を決定。
しかし治療が長引く中ICUでの引き継ぎも十分に行われず投与が続いたのです。
主治医もICUの医師に任せきりにしていました。
この間、薬剤師が投与量が多いと指摘しましたがその後もプロポフォールの投与が続けられました。
結局、男の子に投与された薬の総量さえ誰も把握していなかったのです。
病院の関係者は部署の間の風通しが悪く閉鎖的な体質にも問題があったと指摘しています。

漫然とプロポフォールが投与され続けた2歳の男の子。
命に関わる危険な兆候も何度も見過ごされていました。
投与が始まって4日目。
午前6時47分。
心電図に副作用と見られる異常が出ていましたが医師には、その情報が伝わりませんでした。
その4時間後、午前10時35分。
ICUの医師が心臓が正常に動いていないことにようやく気付きます。
しかし小児の治療経験が乏しく直ちに対処する必要はないと判断しました。
その後も有効な処置は取られないまま、午後7時59分男の子はプロポフォールの副作用による急性循環器不全で亡くなりました。

今夜は医療事故で長女を亡くされた経験から、患者の立場で、医療の安全性についての提言を続けていらっしゃいます勝村久司さん、そして取材に当たりました社会部の米原記者と共にお伝えしてまいります。
まず勝村さん、病院側はどれだけ薬が投与されたか、その総量について把握していないと。
病院側は因果関係を認めている、その2歳の男の子のケースについてどうご覧になりました?
本当に悲しい事故で、遺族の思い、察するに余りあるという感じがします。
特にスタートの時点で、本当にその薬を使うということが伝わっていない。
日本の医療は少し前まで、自分自身のカルテとかを見ることもできない、だから本当の病名もよく分からないっていうようなことが続いてたんですけど、今はカルテも開示できる、診療明細書といって、医療の中身もすべて患者に渡すようになってきたにもかかわらず、まだインフォームド・コンセント、しかもこの薬は、小児には禁忌、使ってはいけない薬、それを使わなきゃいけないならば、やっぱりその必要性、副作用、そういうことをきちんと説明して、遺族の納得を得て、スタートするということが絶対必要だったと思うんですね。
そこのスタートの時点で、すごくいいかげんに始まってしまうと、そういうことに許されるんだったら、医療も、最後までずっといいかげんでよくなってしまうんじゃないか。
そんな感想を持ちました。
米原さん、その医療体制、集中治療体制のほうも不十分で、危険な兆候を見逃していた。
ご両親としては、助けられたのではないかという思いを持っていらっしゃいませんか?
遺族はもっと早い段階で適切な治療を始めれば助かったのに放置されたと訴えています。
特に、亡くなる前の日の午後の時点で、尿の色に変化が出ていると気付いた医師がいて、すぐに検査や治療すれば、救命できたはずだったと訴えています。
このケースについては、警察が業務上過失致死の疑いで捜査を始めています。
そして病院側が因果関係はないと見られるとしている、冒頭に出てきました5か月の男の子のケースでも、納得していないとご両親の方々はおっしゃっているんですけれども、ほかの12例につきまして、実態の解明というのはどのように進んでいくんでしょうか?
5か月の子どもを含めた12人については、病院は病気の重さであるとか、薬を投与し終わってから亡くなるまでに一定の期間があるということなどから、因果関係はないと見られるとしています。
最終的な結論は外部の専門家による調査を進めて、来月中に出したいとしています。
しかし、因果関係だけではなくて、VTRで出てきたような安易な投与がなぜ行われたのか、病院側はきっちり調べて遺族に丁寧に説明し、結果を再発防止につなげる必要があると思います。
このプロポフォールを巡る問題ですけれども、不十分な医療体制が医療事故を引き起こしたというふうに見られるわけですけれども、東京女子医大病院だけの問題でしょうか?
東京女子医大だけの問題ではないと思います。
今回の問題を受けて、日本集中治療医学会が調査した結果、2割の病院が同じようにプロポフォールを投与したことがあると答えました。
問題は、このうち80%の施設では子どもの年齢や体重による使用基準がありませんでした。
また85%は保護者に説明して同意を得ていなかった。
使用にあたっては医師個人に任せるのではなくて、施設や学会できちんとルールを作るべきだと思います。
原則禁止の薬に対して、ルールが明確化されていないということもありましたけれども、今のリポートを見ますと、勝村さん、そのチーム医療体制が十分に取られていない、連携が希薄だとか、縦割りの問題とか、非常に慎重な集中治療体制が求められる子どもを対象にした医療を行っている病院として、本当にこれでいいんだろうかというふうに思ってしまいますね。
そうですね。
特にICUのような集中治療をする所では、厳重な監視というものが求められているはずです。
チーム医療というのは、非常に声高く、ずっと大事だといわれ続けてきて、薬学部も6年生になり、看護師や薬剤師も本当に専門性を高めて、一緒にチーム医療に参加していって、事故をなくしていこうという機運が高まっていたはずです。
にもかかわらず、このように日本の医療の見本となっていかなきゃいけない大学病院でこのような状況であるということは、本当に日本の医療全体が改めて信頼回復のために考え直していくっていうことが、やはり必要だと思いますね。
お伝えしているように、子どもの集中治療を専門に行う人材、そしてその施設は29か所にあるわけですけれども、限られた設備、そして人材をどうやって医療の安全に結び付けていくのか、模索をご覧いただきましょう。

子ども専門の集中治療室・PICUがある大阪の病院です。
心臓や肺などに重い症状があり24時間目が離せない子どもたちの治療に当たっています。
子どもは大人に比べ使える薬の種類が少なくやむをえず、この2年で13人にプロポフォールを使ったといいます。
使用にあたっては投与の量や検査の回数など細かくルールを決めています。

症状が重く、リスクが高い薬を使う子どもの安全を守るため5年前、病院は集中治療の体制を大きく見直しました。
ここでは、かつて外科や内科などそれぞれの診療科の医師が主治医を務めていたためICUの医師と主治医のどちらが治療の責任を持つのかあいまいになっていました。
そこで、この病院は集中治療が専門のICUの医師を主治医にして、責任を明確化。
診療科の医師と連携しながら治療に当たることにしたのです。
生後1か月のこの赤ちゃんは1日前に心臓の手術を終えたばかり。
麻酔や栄養剤に加え心臓を動かすための薬や血流をよくする薬など20種類の薬が投与されています。

症状が急変しやすい子ども。
専門の訓練を受けた13人の医師が心拍や血圧、体温などの変化を見逃さず薬の副作用が起きてもすぐに量を調節するなどして対処しています。

こうした子どもの集中治療室があるのは全国で29か所だけ。
限られた専門の施設をどう有効活用するのか。
新たな取り組みも始まっています。
この病院のPICUは神奈川県内の病院から重症の子どもを受け入れ高度な治療を行っています。
しかし、このPICUにあるベッドは8床。
軽い症状の患者まで受け入れる余裕はありません。
そこで神奈川県では限られたベッドを生かすため37の病院がネットワークを構築しています。
高度な医療が必要な重篤な症状の子どもは県内2か所のPICUがある病院に集約して治療します。
容体が落ち着いた患者や軽症の患者は地域の病院に移して役割分担を明確にしているのです。

PICUを持たずネットワークに参加している病院の一つです。
この日は40度の高熱を出した生後3か月の男の子が運ばれてきました。
PICUがある別の病院に搬送する必要があるかどうか症状を見極めた結果この病院で治療できると判断しました。
病院どうしの連携があるからこそどんな症状の子どもが運ばれてきても安心して対応できるといいます。

しかし、症例を診られる、きちっとした小児集中治療ができる病院を、集約していくべきだとずっと言われながら、なかなか進んでこなかった、この進んでいない原因というのは、どのように見てらっしゃいますか?
公的な機関が本当の意味で日本の医療をきれいに機能分化させていこうと、リーダーシップを取る形になっていないんですよね。
学校なんかだったら、きちっとそれぞれの都道府県、または国で、きちんとこういうふうに整備していこうということがされていますけれども、日本の医療というのは、どうしても民間任せになってしまっているので、本当の意味で患者の視点に立ったきれいな機能分化という本当に患者の立場に立った必要な医療を提供していく体制を作るって形になれていない。
そういう大幅にもっと公的な、医療というのは公的なものなんだという考え方をもっとしっかりと国民全体で持っていくべきだと思うんですね。
PICUがある所は、本当に偏在していて、全国にもあるような状況ではない。
しかし、患者さんは全国にいらっしゃって、自分の子どもは本当に大丈夫なんだろうか、難しい手術を受けた場合、きちっとした術後管理体制のある所でやってもらえるんだろうかというふうに、心配なさっている親御さんたちも今、いらっしゃると思うんですけれども、事故が起きないように今の状況の中で、どうしたらできるようになるんでしょうか?
やっぱり患者側は、ぜひ情報をたくさんもらおうということを進めていくべきだと思うんですね。
やっぱりインフォームド・コンセントができてなかったということがやっぱり今回、一番問題だったわけで、チーム医療ということも、医療者だけでチーム医療をするのではなくて、自分の患者や家族を真ん中に置いたチーム医療というのを実現していくべきで、看護師どうしや医療者どうしで、共有しようとしている情報を、患者や家族にも伝えていくことで、医療者たちは、より安全を担保できるだろうし、患者側もより納得のいく医療になっていく。
そういう患者や家族を中心にしたチーム医療、そのための情報提供、情報共有という医療を始めるスタートの地点をしっかりしていく、そこで患者側もやっぱりより安全な信頼できる医療になっていくと思うんですよね。
いい意味での緊張関係のある医療現場になっていくと。
申し送り事項なんかも共有していくという方向でしょうか。
きょうはどうもありがとうございました。
2014/07/23(水) 00:10〜00:36
NHK総合1・神戸
クローズアップ現代「幼い命がなぜ… 〜東京女子医大病院 医療事故の深層〜」[字][再]

今年2月、東京女子医大病院で手術を受けた2歳の男児が亡くなった。なぜ幼い命が失われたのかを描き、小児医療の現場で何が起きているのか伝える。

詳細情報
番組内容
【ゲスト】医療過誤原告の会常任幹事…勝村久司,【キャスター】国谷裕子
出演者
【ゲスト】医療過誤原告の会常任幹事…勝村久司,【キャスター】国谷裕子

ジャンル :
ニュース/報道 – 特集・ドキュメント
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

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