熱気ムンムンのとあるイベント会場。
その舞台に一人の男がさっそうと現れた。
向かい合う男もファイティングポーズ。
一体何が始まるのか?実はこれ…その名もズバリ…えりすぐりのプロ棋士と対決するのはえっロボット?インターネットの生中継で200万人が注目した大勝負。
その結果はいかに?なんとコンピューターが強豪のプロ棋士を圧倒!人間には考えつかないような常識外れの戦術でプロを負かしちゃったんです。
これを見ていた天才棋士から衝撃発言。
進化したコンピューターが繰り出すさまざまな新戦術がプロの世界にも大革命を起こしてるって言うんです。
え〜!400年の歴史を持つ将棋のセオリーが覆される?プロ棋士の運命はどうなるの?
(テーマ曲)いや〜プロ棋士の方がコンピューターに負けてしまうってちょっと残念な結果でしたよね。
ちょっとショッキングな感じですよね。
渡辺明さんというとプロのタイトルを2つ持っている将棋界の頂点の人ですよ。
その彼が人間のセオリー全然違うじゃんってこれ大ごとですよね。
さあこの春行われたコンピューターとプロ棋士との夢の対決電王戦。
2012年に始まりました。
最初の年はコンピューターが現役を引退したプロ棋士を破ったんですね。
去年は現役のプロ棋士も負け越してしまったんです。
「サイエンスZERO」では去年その最終戦を特集しました。
当時八段だったプロ棋士と東京大学の研究者が開発したGPS将棋との戦い。
GPS将棋は700台近いコンピューターを総動員して将棋の手を1秒間におよそ2億8,000万手も読ませる事ができます。
その技術でプロ棋士が思いもつかないような一手を指して勝利しました。
相手がコンピューター700台っていったらちょっと人間には厳しいですよね。
という事で今年は電王戦ルールが改正されました。
パソコン一台だけを使いましょうという事になりました。
じゃあコンピューターの能力が制限されたって訳ですね。
それから今度は事前に対戦相手のコンピューターとソフトこれが渡される事になったんですよ。
相手の弱点を研究する事ができるようになったという事です。
じゃあプロ棋士の方ちょっと有利になったんじゃないですか?今年熱い戦いを繰り広げたのがこちらです。
あっ去年よりプロ棋士の方も段位が高い方が多いですよね。
関係者の多くも今回はプロ棋士が勝ち越すんじゃないかってみんな思ってたんですよ。
ところが蓋を開けてみると4戦までの成績でコンピューター側が3勝1敗だったんですよ。
うわ〜。
中でも衝撃的な内容だったのがお互いの最強同士が対決する頂上決戦です。
その戦いをご覧下さい。
4月12日に行われた電王戦の最終局。
プロ棋士側の大将は屋敷伸之九段です。
屋敷さんはなんと18歳の若さでタイトルを獲得。
その後成績トップクラスの棋士が集うA級リーグで活躍してきたスゴ腕の棋士です。
対するは最強の将棋コンピューター…開発したのはゲームプログラマーの山本一成さんと会社員の下山晃さんです。
Ponanzaはコンピューター将棋のイベントで…今や敵なしのコンピュータープログラム。
イエ〜イ!つわもの同士の対決を一目見ようと生中継を見る会場にはこの人だかり。
期待が高まります。
午前10時戦いの火ぶたが切られました。
先手は屋敷九段。
飛車の前の歩を進めます。
縦横自在に動ける最強のフォワード飛車を敵陣に近づける作戦です。
すると対するPonanzaも負けじと飛車を前に進めてきました。
これを見た屋敷九段Ponanza対策として準備してきたある戦術を実行に移します。
それが…。
青野流という形ですかね。
青野流とは攻め将棋のスペシャリストとして知られるベテラン棋士青野照市九段が編み出した切れ味鋭い戦術。
攻撃の要飛車を前線に置き後方から斜めに一気に攻め上がる角や1マス飛ばしで前進する桂馬など攻撃のスター選手を総動員する超攻撃型の作戦です。
ただし相手からカウンター攻撃を受ける危険もありプロ棋士でも先を読むのが難しい戦術なんです。
実はPonanzaかつてアマチュア棋士に青野流で挑まれ負けそうになった事がありました。
苦手な戦術で攻められたPonanza。
中盤に入ると人間とは全く違う作戦をとり始めます。
屋敷九段は駒を集めて王将の守りを固めながら最強フォワードの飛車2枚を持ち駒に攻めるタイミングをうかがいます。
プロらしい堅実な作戦。
一方のPonanza。
飛車を取られたもののとにかく相手の駒をたくさんゲット。
持ち駒の数で圧倒するつもりのようです。
そんなPonanzaの攻めはエスカレート。
相手の駒をバンバン取りに行きます。
それが60手目。
まっすぐ進む飛び道具の香車で屋敷九段の角を狙った一手にご注目。
角が逃げるとPonanzaは執ように追いかけ始めます。
更に大事な持ち駒まで投入してとにかく角を集中攻撃。
王将には目もくれず角ばかり追い回すPonanzaの将棋に観戦していたトッププロも首をかしげるばかり。
これはもう屋敷九段が優勢かと思いきや…。
このあと屋敷九段がだんだん悩ましい顔つきに。
そしてついには…。
え〜悪い手だったはずなのに何でコンピューターが勝てたんでしょうか?完全に青野流の術中にはまった感じでしたけどね。
その謎をこれから解明していきたいと思います。
…がその前にまずはこちらをご覧下さい。
おお〜。
ズラズラズラッと数字が出てきました。
これは将棋がいかに難しいかというのを示した数字なんです。
とんでもない数字ですね。
2手指すと80の2乗6,400とおり。
この選択肢あまりにも大きいので例えばスーパーコンピューターの京で完全解明しようとすると太陽系の寿命が尽きてもまだ計算が終わらないそうです。
え〜!という事でコンピューター将棋も実際には限られた時間の中で十数手先まで読んでその中からいい手を選ぶという事をやっているんですね。
それではコンピューターは先を読んだ中からどうやってよい手を選んでいるのでしょうか?そこで使うのがプロ棋士が過去の対局でどんな手を指したかを記録したデータ。
棋譜といいます。
まずはこの棋譜を大量に集めてコンピューターに覚えさせます。
次にコンピューターは得意の計算力を駆使して膨大な局面の中に多く現れる駒の並び方の特徴的なパターンを探し出します。
プロが考え抜いた局面に多く現れるという事は勝利につながる駒の配置に違いない。
そうやって見つけ出したのが勝利の図形です。
コンピューターは盤の上にこの勝利の図形がたくさんある局面ほど有利な局面だと判断します。
こうした基準で選択肢を吟味し最善の手を選び出しているんです。
勝利の図形去年もやりましたよね。
基のデータがプロ棋士たちの英知の結集だからそれはね強くなるだろうなと。
そしたらもう人間は勝てっこないって事なんですかね?どうすればいいんでしょうかね?ここでゲストをお迎えして考えていきましょう。
コンピューター将棋や人工知能がご専門の公立はこだて未来大学松原仁さんです。
コンピューターに人間はもう勝ち目はないんでしょうか?いやコンピューターもプロ棋士に負ける可能性はあると思います。
それはまさにコンピューターがプロ棋士を先生にしてるからなんですよね。
どういう事ですか?これがその一つなんですけれども矢倉囲いっていってですねこれはお互いに王様がここにいて金銀3枚で守っているって非常に固い格好で…そうするとコンピューターはこの局面はよく勉強しているので正確な手が指しやすいとそういう事になります。
なるほど。
では屋敷さんが準備していた青野流はどうだったのでしょうか?ここ10年で行われたプロ棋士の対局2万5,000局余りを戦術別に分けたグラフなんです。
青野流はどれだと思いますか?え〜。
でもあんまり多い手じゃないんでしょうね。
これ。
比較的少なめの…どうだろう?さあ正解はこちら。
えっ?どこ?この部分です。
実は青野流戦術がとられたのは僅か110局。
全体の0.4%しかないんですよ。
そんなに少ないんですか。
これだけデータが少ないとやっぱりコンピューター判断に苦しみますよね先生が少ないので。
ただそういう意味では作戦としては成功だと思うんです。
じゃあどうして負けてしまったんですかね?実はコンピュータにもう一つ秘策が今回あったんですよ。
Ponanzaの秘策とは一体何なのか?それは開発者山本さんの試行錯誤の過程で生まれました。
東京大学在学中に趣味でPonanzaの制作を始めた山本さん。
勝利の図形作戦などこれまでの技術を参考にしてPonanzaを急成長させてきました。
しかしトップクラスのコンピューターは強くなる技術を同じように使っているためぬきんでる事ができませんでした。
そこで3年前山本さんが目をつけたのがコンピューターが次の一手を探索する方法です。
それまではとにかくたくさんの選択肢を先読みしてその中から最善の一手を選んでいました。
しかしこれだと制限時間内で局面を深く読み切れません。
その時見つけたのがコンピュータープログラムの世界で試されていたたくさんの選択肢をグンと絞り込む技術。
それは…。
山本さんその新しい技術を応用して選択肢を超大胆に刈り取る方法を編み出しました。
それがこちら。
これまでと違い選択肢を一気に読むのではなく少し先の展開だけ読みその時点で点数の低い選択肢は全てカット。
そしてまた少し先の展開を読み再び得点の低い選択肢を切り捨てます。
こうして早い段階で選択肢を絞り込んだ分有力な手を深く読む事に成功したんです。
はあ〜枝刈り。
だから1台でも先の展開まで読めちゃった訳ですね。
ちょっと疑問なのはあんまり早い段階で枝刈りをやっちゃうと実は後でいい手だったのにっていう事もあるんじゃないですか?そうですあります。
だから…え〜!どういう事ですか?
(松原)弱い時には間違えてるって言えたんですけど強くなっているともうあがめるしか…。
「コンピューター様がこの手が正しいとおっしゃってる」って。
それではどうやって今コンピューターの開発者はいい手かどうかって判断してると思いますか?でも人が無理ならコンピューター同士でバトルとか?そうなんですよ。
(松原)コンピューターは疲れないから実験でたくさんやらせて…そこまでしないと強さが分からないんですね。
何で最近このPonanzaとかが枝刈りをして強くなったかっていうとそれこそ…昔はそれが間違ってたんでそれで並べるといい手を捨ててたんですけど今正確になってきたのでコンピューターがいいと言う手はほとんどいい手なんですよね。
だから枝刈りでいい手が残るようになって強くなってきたと。
じゃあこれって勝利の図形と枝刈りの両方の合わせ技?いわば両輪なんですよね。
ではここでもう一度そのPonanzaが指した驚がくの一手を振り返りましょう。
屋敷さんが青野流というお互いが激しく攻め合う戦術でPonanzaを攻めます。
それにPonanzaは相手よりもたくさんの駒を取る事で対抗します。
そして60手目。
王将と離れた位置にある角を取ろうとPonanzaは香車を使ってその角を追い回し始めます。
どうしてこんな指し方をするんでしょうね?これじゃあ何かへぼ将棋って感じですよね。
だけど先を深く読んでいるかもしれないんですよね。
さあその先の局面Ponanzaはどのような展開を考えていたのでしょうか?Ponanzaはどうして角を追い回したのか?その真の狙いが明らかになるのがこの場面。
Ponanzaの香車から屋敷九段の角が逃げた時です。
その時のPonanzaの思考データを見てみましょう。
枝刈り作戦で32手先まで深く読んだ結果最善だと選んだのがこちらの手。
そこには香車で角を追いかけたあとその香車を使って相手の陣地に攻め込むという作戦が書かれていました。
こうして右から追い込めば屋敷九段の王将は左へ左へと逃げるはずと読んでいたのです。
そんな深く読んでたんだ。
結構狡猾ですよねこれ。
Ponanzaの香車は作戦どおり屋敷九段の陣地に攻め込み次第次第に王将に近づいていきます。
そして80手目には自由に斜めに動ける角も使って屋敷九段の王将を更に右側から追い込みました。
苦しい展開になった屋敷九段。
王将を左に逃がしたんです。
読みどおりだ!屋敷九段更に王将をどんどん左へと逃がします。
するとここでPonanzaがまたしても驚がくの一手を繰り出します。
斜め後ろに動ける銀を使い王手をかけたんです。
これだと追い込むどころか王将は更にどんどん逃げてしまいます。
だからここでは9六歩と打って狭い方に閉じ込めなさいというのがセオリーなんですがこう打っちゃうと広い方に逃げちゃう訳ですよね。
追い詰められているという実感は多分湧いてこないと思いますね自分だとしても。
むしろラッキーみたいなこんな銀打ってくれてっていう…。
じゃあどうしてPonanzaは銀で王手をかけたのか?36手先まで読んだデータを見ると逃げる屋敷九段の王将に次々と王手を繰り返す作戦を狙っていました。
そうする事で屋敷九段の王将を守りから引き離しPonanzaの駒が集まるエリアに引きずり出せると考えていたんです。
すると読みどおり屋敷九段の王将がPonanzaの陣地の方へズルズルと引っ張り出されていきます。
すると106手目ついには王将の周りをグルリとPonanzaの駒が取り囲む展開に。
駒が動ける範囲を示すとほら王将の逃げ道はほとんどありません。
またも追い込まれた屋敷九段。
勝負は10時間を超え疲れの色が見えてきました。
そして運命の130手目。
疲れを知らないPonanzaは正確無比な攻めで屋敷九段を更に追い込みます。
終わってみると屋敷九段の王将の周りはPonanzaの駒だらけ。
動ける隙間はまるでありません。
屋敷九段最後まで攻撃に転じる間もありませんでした。
コンピューターの読み的中してましたね。
枝刈りすごいな〜。
これパソコン1台でプロの読みを上回っているって感じですよね。
この枝刈りですがコンピューターならではの方法かと思いきや実はプロ棋士もそれと同じような事をしていたんです。
プロ棋士の脳の働きを調べる理化学研究所の実験プロジェクト。
その中で将棋のある局面を見てもらいプロ棋士がどの部分を見ているかを計測する実験が行われました。
実験で見せたのがこの局面。
はい皆さん今どこを見ましたか?ちなみにこれ相手に攻められそうな王将をいかに守るかという局面。
普通はこの辺りを見るものだそうです。
これをプロ棋士に見せるとどうなるか。
プロ棋士の視点の動きを表す青い点にご注目。
スロー再生でもう一度。
局面を見始めて1秒かからずに王将の危機を察知。
次の1秒で今度は自分の持ち駒を確認します。
そして再び王将付近に視線を集中。
盤面を見てから僅か3秒以内に重要なポイントを見極めそこに視線を集中させていたんです。
へえ〜重要じゃないとこを見ないって事は枝刈りみたいな事をしてるって事ですかね?コンピューター将棋は強くしようとして工夫していたら結果的にはプロ棋士がやっている事に似てしまった。
何かコンピューターがプロ棋士を超えつつあるのかなという感じですよね。
確かに。
それがまだプロ棋士の頂点は超えてないんですよね。
現在の将棋界の頂点に輝く3人です。
(松原)コンピューターだいぶ強くなりましたけれども頂点の3人だと勝てるかどうか分かんないですね。
全く歯が立たないという事はないと思うんですけどやっぱりプロ棋士の頂点に勝つという事で多くの研究者開発者みんなそれを今でも願っているんです。
さあその頂点との対局は実現するんでしょうか?その可能性について渡辺明二冠にお話を伺っています。
すごい覚悟はできている感じですね。
一将棋ファンとしては何かちょっと怖いなっていうのは正直なところですよね。
複雑本当。
今から何十年後っていうふうになるとコンピューターやっぱり今からすごく強くなっちゃいますからね。
そうするとそろそろ今がいいタイミングなので今でしか見られないという歴史的な対局が是非とも実現してほしいと思いますね。
是非私は先生には申し訳ないですけどプロ棋士の方に勝って頂きたいですね。
松原さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」…。
次回もお楽しみに!2014/07/06(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「プロ棋士大苦戦!進化する将棋コンピューター」[字]
プロ棋士とコンピューターの将棋バトル「電王戦」。今年はパソコン1台の計算能力で、一線級のプロ棋士を圧倒。その背景にはどんな技術があったのか。最終局を徹底解剖。
詳細情報
番組内容
いま将棋界で最も熱いイベント、プロ棋士とコンピューターが対戦する「電王戦」。3年目の今年、コンピューター側は指定されたパソコン1台しか使えないという不利なルールだったにも関わらず、プロ棋士に圧勝した。パソコン1台の能力でもトップ棋士が読み切れないほど「深く先を読める」新たな技術を取り入れていたのだ。コンピューターはどれほど深く読んでいたのか?人間はもうコンピューターには勝てないのか。
出演者
【ゲスト】公立はこだて未来大学教授…松原仁,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
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