人はなぜ老化するのか。
老化を防ぐにはどうすればよいのか。
私たちの体を作り上げている細胞の研究からこの永遠の謎を解くカギが次々と見えてきました。
走り回る元気なマウスと弱々しくうずくまるマウス。
実は2匹とも人で言えば同じ80歳。
でもそうは見えませんよね。
私たちも持っているある細胞がそのカギを握っています。
(悲鳴)夜な夜な若い女性の生き血を吸いよみがえる吸血鬼。
このドラキュラ伝説に老化にあらがうヒントがある事も最新科学が発見。
更に細胞レベルで若返る耳より情報も。
週2日たった5分間でいいって本当なの?細胞がカギを握る老化の謎。
その最前線に迫ります。
(テーマ曲)まあでも老化と言われてもね奈央ちゃんは全然ぴんと来ないでしょう。
いやそんな事ないですよ。
やっぱりだんだんお肌の変化とか。
やっぱり50歳を越えてくると本当にこう不老長寿って欲しいなと思いますよ。
やっぱりそうなんですか。
さあ誰もが気になる老化。
今回はですね3つのキーワードで迫っていきます。
まずは「世界記録の超長寿マウス」。
こちらご覧下さい。
これ右のマウスに注目して下さいね。
これこそがまさに超長寿マウスなんです。
えっ小さい方ですか?そうなんです。
これ5歳。
人で言うと200歳まで生きたという事です。
すごい!そうなんです。
で実はこのマウスあるものが働かないマウス。
えっ。
それこそが長寿の秘密でもあるんです。
そのあるもの何でしょうか?何でしょう。
え〜っ。
あるものが働かない?この超長寿マウスを育てたのは…育ての親アンドレイ・バーケさんが見せてくれたのは2つのグループのマウスたち。
全て生後6か月だといいます。
しかしよく見ると右側のマウスの方が小さいですよね。
長生きなのはこの小さなマウス。
でもどうして長生きできるのでしょうか。
普通のマウスの寿命は2〜3年ですがこのマウスはその1.4倍は生きるといいます。
マウスの寿命を競うコンテストでも11年前に優勝。
その記録はいまだに破られていません。
でもなぜ成長ホルモンが働かないと寿命が延びるのでしょうか。
最近成長ホルモンとがんの密接な関係が明らかになってきました。
成長ホルモンは肝臓でIGFー1というホルモンを作ります。
カギを握るのはこのホルモンです。
通常細胞は強いストレスでダメージを受けるとがん細胞になるのを避けるため自ら死んでいきます。
アポトーシスといわれる仕組みです。
ところがIGFー1にはダメージを受けた細胞をアポトーシスから守る作用があります。
すると細胞は傷を持ったまま増殖。
そのため成長ホルモンが多いとがんになりやすくなると考えられるのです。
この仮説の裏付けになるのがラロン症候群の人たちです。
エクアドルのある地域に多く住んでいます。
超長寿マウスと同じように成長ホルモンが働きません。
そのため身長は120cmぐらいまでしか伸びません。
研究者が注目したのは彼らが極めてがんになりにくい事でした。
同じ地域で17%の人ががんになったのに対しラロン症候群の人たちでは1%。
しかも致命的なものではなかったというのです。
更に驚くべき事に糖尿病の患者は一人もいませんでした。
実は超長寿マウスも同じような特徴を持っています。
え〜成長ホルモンってあればあるほどいいのかなって思ってました。
やっぱり成長する上で。
ただがんを引き起こす作用があるってびっくりでした。
ただどうしても成長ホルモンとそれから糖尿病が老化とどう結び付くのかいまひとつ分からないですね。
そうですね。
その辺りの事を詳しく伺っていきましょう。
東海大学で老化について研究している石井直明さんです。
成長ホルモンってあればあるほどいいって思ってたんですけどそういう訳じゃないんですね。
ええ成長ホルモンというのは細胞分裂を盛んにする作用があるんですけどもそうすると同時にがん細胞があればそれも増殖を…。
そっか。
促進させちゃうっていう意味はありますよね。
ただ過剰だとそうなんですけども少なければいいかってそうでもなくて子どもの頃に成長のためにすごい必要ですよね。
確かに。
それに成長ホルモンというのは10代をピークに年齢とともにだんだん下がっていくんですね。
大人でも傷ついた細胞を修復したりするのに必要だから非常にですね…多くても駄目少なくても駄目っていうバランスが非常に大事という事ですよね。
成長ホルモンが多いとがんになりやすいって事とお年寄りになるとがんの進行が遅いっていうのは関係があるんですか?それはやはり加齢とともに年を取ると成長ホルモンが少なくなっていくんでがんを増やすという作用がなくなってくる訳ですから。
一般的には糖尿病と老化っていうのもあまりイメージが結び付かないような気がするんですけども糖尿病っていうのはやっぱり老化を早めちゃうんですか?そうですねあの…100歳以上の方を見るとさまざまな病気を起こしてるんですけども実は糖尿病になってる方って少ないんですよね。
ただし糖尿病の患者さんでもしっかりと血糖をコントロールしてれば100歳までいけるんですけどもそこがうまくコントロールできない人っていうのは早く老化するといわれてますね。
だけど成長ホルモンを働かなくするっていうこの研究実際に私たちの長寿にもつながりそうなんですかね?多くの人が昔は老化っていうのは要するにものが朽ちると同じに自然崩壊の過程だと。
だから我々は何もできないで寿命が尽きるのを待ってるしかないと思ってたんですけどもこうやって成長ホルモンとか体の働きの中で老化の原因があると分かった以上そこを調節すれば寿命はコントロールできるんじゃないかと思い始めてみんな研究を始めた訳ですよね。
そこはやっぱりすごい事だと思いますね。
では老化の謎2つ目のキーワードにまいりましょう。
一体どういう事なんでしょうか。
老化とともに現れるさまざまな病気。
そのほとんどの発端が免疫細胞にある事が分かってきました。
免疫細胞と老化の関係を物語る興味深い実験をご紹介しましょう。
免疫細胞の一種好中球の働きを20代の若者と60代のお年寄りとで比べたのです。
好中球は病原体目がけて勢いよく突き進んでいきます。
しかし60代の好中球の足取りはのろのろ。
病原体を見失ったのかうろうろしているだけのものまでいます。
敵に向かう能力が大幅に落ちているのです。
それだけではありません。
老化した免疫細胞は守るべき細胞に害を及ぼす事さえあるのです。
これは肝臓の中の様子です。
免疫細胞マクロファージが激しく動き回っています。
病原体の進入に備えてパトロールしているのです。
ところがこちらでは矢印の部分に群がっています。
実は攻撃しているのは病原体ではなく本来は守るべき正常な細胞。
その結果炎症が起きています。
年を取ると全身の至るところでこうした免疫細胞の暴走が起き病気を引き起こすのです。
でもなぜこんな事が起きてしまうのか。
それは全ての免疫細胞の司令塔T細胞の宿命のせいです。
免疫細胞は見事なチームワークで外敵と戦っています。
まず働くのは…異物を見つけるとすぐさま捕らえ司令塔T細胞へと運びます。
司令塔のT細胞はそれが攻撃の対象かどうかを判断。
敵と判断すると…攻撃命令を伝える物質を噴き出します。
この命令を受けてマクロファージが病原体を次々と退治します。
ところが要となる司令塔のT細胞意外とまだ若いうちに判断力を失い始めるのです。
司令塔のT細胞は胸腺と呼ばれる臓器の中で育ちます。
ところがこの胸腺思春期をピークに縮み始め20代が終わる頃にはほとんど失われてしまいます。
そのため…つまり司令塔のT細胞が早々と判断力を失っていくせいでほかの免疫細胞も暴走を始めるのです。
え〜胸腺って20代のうちからもう縮み始めてるんですか?結構早すぎる気がしますけど。
じゃあもう僕の体の中のT細胞って判断力を失いつつあるって事ですか?嫌だなあ。
先生どうしてこんなに早くなくなっちゃうんですか?生物の目的っていうのは子孫を増やす事ですよね。
ですから体の全ての能力を…放置されちゃうという事ですよね。
え〜じゃあそのあとは惰性で生きてるみたいなそんな感じですか?はい。
残念ながら。
ちょっとそんな事聞いちゃうとこれから年重ねるのが不安になってきちゃうんですけど。
T細胞ってリニューアルとかできないんですか?京都大学ではもう既に…非常に期待持てるんじゃないですかね。
期待したいですね。
ねえ。
欲しいですよね。
では老化の謎に迫る最後のキーワードにまいりましょう。
これ何なんでしょうね。
意味が分かんないというか本当に細胞が隠居するんですかね。
分裂を繰り返す若い細胞。
しかしそのペースは落ちていきやがて分裂は止まってしまいます。
細胞の形は乱れ核を2つ持つものまで現れます。
分裂をやめて隠居したような状態いわば隠居細胞になるのです。
ではこの隠居細胞は老化にはどのように作用しているのか。
アメリカメイヨークリニックで興味深い実験が行われました。
結果は驚くべきものでした。
2匹とも人で言うと80歳ぐらいの年寄りマウスです。
左の普通のマウスは弱々しくうずくまっています。
一方隠居細胞を除去した右のマウスは毛艶もよく生き生きと動き回っています。
細胞レベルでも違いはあります。
普通のマウスの方が細胞が小さく見えます。
老化で縮んだのです。
これがしわが出来る原因の一つです。
一方右の隠居細胞を除去したマウスの方が大きく見えるのは細胞が縮まなかったからです。
つまり…隠居細胞は老化の原因。
それならば体の中で作られないようにすれば更なる若返りが期待できそうですよね。
しかし実験してみると結果は意外なものでした。
大きながんが出来てしまったのです。
なぜこんな事が起きたのでしょうか?実は細胞が分裂を止めて隠居するのには重要な意味がありました。
細胞がストレスでダメージを受けた時そのまま増殖するとがんになってしまいます。
隠居細胞が分裂の途中で自ら増殖を止めるのはがんになるのを防ぐためだったのです。
しかしこの隠居細胞おとなしく隠居するばかりではありませんでした。
私たちが年を重ねるにつれ隠居細胞はだんだん蓄積していきます。
隠居細胞は居座って新しい細胞に入れ代わる新陳代謝の妨げとなり臓器の機能が低下するのです。
更に隠居細胞はSASP因子というさまざまな物質を周りの細胞に分泌します。
その中に炎症を起こすものも含まれています。
老化による病気の多くにこうした蓄積した隠居細胞による炎症が関わっていると考えられています。
その一つが動脈硬化です。
血液中にコレステロールが多く含まれているとコレステロールは血管表面の細胞の下に潜り込みます。
そこに隠居細胞がたまると分泌するSASP因子によって免疫細胞マクロファージが集まってくると考えられています。
マクロファージはコレステロールを攻撃しようと細胞の下へ潜り込みます。
こうして隠居細胞が作用して動脈硬化が進んでいくのです。
更になんとがんにも隠居細胞が関わっているといいます。
この隠居細胞の二面性に最初に注目したのがアメリカバック老化研究所のジュディ・キャンピシさんです。
隠居細胞って分裂をやめた細胞だったんですね。
ちょっとよく分からないですね。
ストレスを非常に受けた時にがんという事を避けるためには隠居細胞になるっていう事は悪い事じゃないですよね。
でもそれがたまり過ぎるという事が問題で慢性炎症を起こしたりがんになるっていう事をしてしまうという事ですよね。
でもストレス受けると…ストレスの大きさによるんですよ。
非常に強いストレスを受け続けると細胞が機能しないって判断した場合は細胞はアポトーシスにいくんですね。
ところが小さいストレスがチョコチョコチョコチョコ蓄積していくとそれはアポトーシスにいかずに今度は細胞分裂を止めて隠居細胞にいくという。
VTRの最後にトレードオフっていう言葉も出ましたけど若い時はメリットになるのに老化していくとそれがデメリットになってっちゃうっていうのがなんとも…不思議というかどうしたらいいんだろうって感じですよね。
人間も含めて生き物の定めなんでしょうね。
そっか…。
隠居細胞の研究って実際の医療に役立つんですかね?これ気になりますよね。
だってマウスの場合は隠居細胞を除去する薬がある訳だからそれを人に使えばいいような気もするんですけど…。
隠居細胞だけを特異的に殺すというのは非常に薬として作るのは難しい。
だから当然副作用が起こるんで人に応用するのは難しいんじゃないですかね。
一方隠居細胞というのは増殖が止まってますからなぜ止まったかというそのメカニズムが分かれば今度はがんを隠居させるという事でがんを治療するという側面では大きな研究になると思いますね。
がん細胞を殺したりするんじゃなくて隠居させればいいっていう発想の転換ですねじゃあ。
お休みしてもらうという…。
ところでオープニングでちょっと言っていたドラキュラ伝説の研究ってどうなったんですか?気になりますよね。
実はですね老化の謎を探るために今世界の研究室で行われているこのような実験なんです。
実験に使うのは若いマウスと年を取ったマウスです。
年を取ったマウスの方は明らかに毛が抜けて元気もありません。
実験では2匹のマウスを手術で人工的につなぎ合わせます。
すると2匹の血液が混ざり合って両方の体を循環します。
その結果何が起きるのでしょうか。
1年後のマウスたちです。
どうですか?大きさこそ違うものの見た目はほとんど変わらなくなりましたね。
という事はなんと年寄りのマウスが若返ったんです。
最も若返ったのは筋肉の組織。
衰えていた細胞が増殖を再開。
筋肉の量が見事に増えていました。
驚きですよね。
ねえ!ドラキュラは若い女性の生き血を吸って復活する訳ですけども何かそれが実際に起きちゃうんだなっていうね…。
人には応用できないですよね。
実はもう実用化を考えている人はいると思いますね。
本当ですか!?というのは若いマウスの血液の中には若さのモトがあるという事をこの実験で証明した訳ですから…。
既にその筋肉だけじゃなくて最近の報告ではこの実験で年寄りのマウスの脳の神経細胞が若返り認知機能まで向上したという事で大変注目を集めてます。
例えば記憶力がまた戻るとかそういう事ですか?そうですね。
へえ〜。
若さのモトの原因物質というか化学物質を特定したらそれを薬にすればいいと。
合成して入れるかその若さのモトが増えるような薬を…。
どちらかですよね。
それ早く作ってほしいですね。
ここまで老化の謎に迫るさまざまな研究を見てきました。
でも奈央さん竹内さん。
老化を防ぐ遅らせるために自分でできる事があるとすればそれはやはり知りたいですよね?知りたい。
今回取材に協力して下さった研究者の方から科学的な裏付けがあるアドバイスを頂いてきました。
免疫細胞の暴走を研究しているロードさんが最近取り組んでいるのはお年寄りの免疫細胞を若返らせる方法です。
それは運動。
な〜んだとお思いかもしれませんが僅か5分の運動を週2日するだけで免疫細胞に大きな変化が表れるのです。
この運動を10週間続けるとその効果は一目瞭然。
免疫細胞の動きが若さを取り戻しました。
隠居細胞を研究するキャンピシさんは老化の原因隠居細胞が多い人にはある共通の傾向があるといいます。
ほう〜健康のために運動や食事はやっぱり気を付けた方がいいと思ってましたけど実際科学的にも…。
理由があるんですね。
でも思ったより短時間でもいいっていうのを知って気軽にできそうですよね。
これはどうしてよいのかって分かってるんですか?最近分かったのは筋肉細胞がさまざまな物質を分泌する器官であるという事も分かったんですよ。
体を動かす事によってその体にいいような物質を分泌するんですけども動かないと今度は炎症を促進するような物質の分泌を助けてしまうような事が分かっていますね。
石井さんは老化についての研究っていうのは今後どのように進んでいくと思いますか?老化のメカニズムというところに関しては今研究が始まったばっかりですよね。
やればやるほど複雑になってくる。
ただそこのもっともとをつかさどるようなメカニズムは必ずあるはずですよね。
そこが分かれば老化というのが分かって寿命を延ばしたりですね老化による疾患を減らしたりする事は可能になってくると思いますね。
実際アメリカでは老化による病気を治す事も大事なんですけどそれより老化の速度をスローダウンするという研究に今注目が集まっている。
根本を治してしまうという…。
今回印象的だったのがいろんな機能が思春期がピークだっていう…。
もう私もそれは過ぎてるので老化に向かっていくんだなって事を知ってちょっとショックでしたね。
やっぱり食いつきが今日はドラキュラのとこですね。
若さのモトっていうのがあるんだってちょっとびっくりで…。
ただそれがまだ解明されてないと。
だからまだこれからの分野なんだなって気がしましたね。
石井さんどうもありがとうございました。
それでは「サイエンスZERO」。
次回もお楽しみに!2014/07/20(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「老化の謎に迫る〜見えてきた!カギをにぎる細胞〜」[字]
長寿のカギはどこにあるのか?「世界記録を持つ超長寿マウス」「免疫細胞の暴走」「隠居細胞」をキーワードに世界中の研究者を徹底取材。ドラキュラ伝説にもヒントが!?
詳細情報
番組内容
誰もが願う健康長寿。そのカギはどこにあるのか、サイエンスZERO取材班は世界中の老化研究者を徹底取材しました。そこで見つけたキーワードが、「世界記録を持つ超長寿マウス」「免疫細胞の暴走」「隠居細胞」。さらに、ドラキュラ伝説にも科学的根拠があるかもしれないと思えるような、世界中で注目されている驚きの実験も紹介。さまざまな細胞の営みをコントロールさえできれば健康長寿が実現するかも!?
出演者
【ゲスト】東海大学教授…石井直明,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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