NHKスペシャル「ストーカー 殺意の深層〜悲劇を防ぐために〜」 2014.07.06

ストーカーの問題に取り組むNPOの活動を取材中電話の向こうで加害者が突然殺意をあらわにした。
(サイレン)今全国でストーカーによる凶悪な事件が相次いでいる。
・被害は過去最悪の年間2万件を超えた。
規制や取締りの強化にもかかわらず収まる気配はない。
繰り返される悲劇。
今年2月群馬県で元交際相手に付きまとわれていた26歳の女性が殺害された。
5月には大阪市の路上で38歳の女性が殺害され知人の男が逮捕された。
いずれのストーカーも警察の警告を無視して犯行に及んだ。
この3年で命を奪われた被害者は14人に上る。
20代の女性。
逮捕されたあとも殺意を持ち続けた知人の男に殺されそうになった。
(サイレン)なぜ加害者は相手の命を奪うまで突き進むのか。
悲劇を防ぐにはストーカーの心理に迫り犯行を未然に食い止めるしかない。
加害者を徹底取材する事で解決の手がかりを探る事にした。
見えてきたのは恨みの感情に支配され歯止めが利かなくなる強い衝動。
殺意を抱くストーカー。
その心の闇に迫った。
ストーカー問題に取り組む…この日は深刻な被害を受けた女性の相談に乗るため西日本に向かった。
被害者は20代の女性。
元交際相手の男に付きまとわれ警察に相談していた。
しかし警察が警戒する中男は夜女性の家に窓から侵入。
女性は胸を刺され傷は肺まで達した。
(ノック)・はいどうぞ。
こんにちは。
女性は一命を取り留めたが事件のショックから人と会う事ができなくなり弁護士が代わりに説明した。
女性は仕事を辞め表情も乏しくなり精神科の治療を受けているという。
被害者の人生まで変えてしまうストーカー犯罪。
今後家族からも話を聞き女性の心をケアしていく事を決めた。
東京・大田区にあるNPOの事務所。
警察とも連携しストーカーへの対策に取り組んでいる。
小早川さんは自身も被害に遭った体験から15年前活動を始めた。
心理カウンセリングを学び被害者の心のケアや保護を続けてきた。
自己紹介もないし名乗りもしなかった訳ですね?その方は。
相談記録の中には500人を超す加害者の情報も含まれている。
17歳の高校生。
元交際相手に一日何十通ものメールを送りカッターで切りつけた。
74歳のストーカーは結婚を断られた60代の女性の家に押しかけ窓ガラスを割るなど嫌がらせを繰り返した。
エスカレートする加害者の行動。
その心理を解き明かさなければ被害を防げないと考えるようになった。
(チャイム)は〜い。
こんにちは。
小早川さんは今年間40人の加害者のカウンセリングを行っている。
この日訪れたのは20代の男性。
知人の女性へのストーカー行為を繰り返し「殺す」というメールを送って警察に逮捕された。
このままでは事件を起こすのではと心配した母親に去年連れてこられた。
男性は自分の言い分を聞いてほしいと今では自ら進んで通っている。
それはわかってると。
そういう…相手が拒否しているにもかかわらず付きまといなどを繰り返すストーカー。
世界の専門家の間では危険度が3つに分類されている。
「やり直したい」などと相手にすがり今後行為がエスカレートするおそれがあるリスク。
相手の拒絶によって怒りが芽生え攻撃性を増すデインジャー。
この段階までは警察の警告によって8割は行為が収まるという。
そして人の命を奪いかねない最も危険なポイズン。
警告や逮捕も抑止にならなくなる。
20代の男性は女性への殺意をあらわにし最も危険なレベルに達したと小早川さんは見ている。
なぜ男性は好意を持った相手に殺意を示すまでに至ったのか。
その経緯を自ら数十枚の報告書に詳細にまとめていた。
ストーカー行為の対象は高校で知り合った女性。
きっかけは卒業後にやり取りしたメールだった。
男性は誰にも話せていないという仕事の悩みを打ち明けられ自分は特別視されていると思い込んだ。
「会いたい」と伝えたが「そのつもりはない」と断られた。
男性は納得できず何度もメールで理由を問いただした。
メールを繰り返し送る男性に対し相手の家族は「女性は怯えている」「次は法的措置をとる」と告げた。
しかし男性は怒りが沸き上がり「2人の問題に介入するな」とその後もメールを送り続けた。
そして殺意をあらわにするほど怒りを増幅させる出来事が起きた。
警察からの警告だった。
女性との接触を禁じられ一方的に連絡を遮断された事で憎しみが抑えきれなくなったと主張する。
怒りのやり場を失った男性は家で暴れるなど別人のように攻撃的になったという。
女性への恨みの感情に支配された男性はついに「殺す」というメールを送り逮捕された。
苦しみから逃れるにはその原因である相手をこの世から消すしかない。
この心理が男性を最も危険なレベルにまで押し上げる要因になったという。
私の目から見るとこのギリギリの辺にいる人っていうのは増えているというふうに感じる訳ですね。
(チャイム)
(小早川)は〜い。
また一人ストーカー加害者がやって来た。
都内の会社に勤める20代の女性。
小早川さんを訪ねてくるストーカーの半数が女性だという。
かつての交際相手が拒絶しているにもかかわらず女性は電話やメールを何十回も繰り返した。
警察から「次は逮捕する」と2度目の警告を受けている。
多くのストーカー加害者には自分は被害者だと思い込む特有の心理が見られる。
自覚がないため行為はエスカレートしていく。
あくまで自分の正当性を主張するストーカー加害者たち。
殺意に向かうゆがんだ心理の一端が見えてきた。
小早川さんが加害者と向き合う必要性を突きつけられたのは2年前に起きた事件だった。
加害者の男は警告を受け逮捕されたにもかかわらず一人の女性の命を奪った。
小早川さんが相談に乗りながら唯一命を守れなかった被害者だ。
梨絵さんが亡くなる前に小早川さんと2人でやり取りしたメール。
信頼に応えて守ってあげたいと思っていた。
しかし1年半後事件は起きた。
もうあの…ドキッていうかしまったと思いましたよね。
まずしまったと思いました。
取り返しがつかない事になったっていう…。
加害者は事件直後に自殺。
心の中に潜んでいた強い殺意を見極め切れなかった事を小早川さんは今でも悔やんでいる。
私は…。
そうですね何と言うか…自分がしなくちゃいけない事は分かってますから…。
だから逗子の事件以降の私はこの責任を取り続けている訳ですよね。
ストーカーの恐ろしさを初めて社会に知らしめたのは埼玉県桶川市で起きた事件です。
平成11年女子大学生が白昼の駅前で刺殺されました。
元交際相手による執ようなストーカー行為を受けていた女性。
警察に何度も相談していましたが個人のトラブルには介入できないと対応してもらえず悲劇は防げなかったのです。
命を奪われた…「お父さんお母さんへ最後の手紙」っていう事で…。
詩織さんは殺害される半年前から自らの命の危険を感じ家族や友人に遺書を残していました。
「猪野詩織で生まれてきて本当によかった。
20年間幸せにしてくれてお父さんお母さんありがとう」。
「父親の愛情をいっぱいもらって育った子だね」っていつも外で言われるらしいんですよね。
そういうところを誇りに思ってたみたい。
(取材者)お父さんの事大好きだったんですね。
そう…。
駄目ですねこれ…。
この事件を機にストーカーを規制する初めての法律が14年前に成立。
事件を起こす前に警察が警告を出せるようになりました。
しかしその後も凶悪な事件が後を絶たずこの3年で14人の命が奪われています。
感情を抑えて娘の事をちょっと忘れようって思うと事件が起こってくる。
「あっとんでもない!また起きたじゃないか」って…。
やはり娘に置き換える…特に若い女性がとなるとね自分の娘のように思えるんですよね。
増え続けるストーカー被害。
去年警察に寄せられた相談は初めて2万件を突破。
過去最悪を記録しました。
なぜストーカーは増え続けているのか。
背景の一つが携帯電話やインターネットの普及だと専門家は指摘しています。
常に連絡が取り合えたり相手の行動が把握できたり。
思いを断ち切りにくい環境が生まれているというのです。
東京都内の若者2,000人を対象に行ったアンケートです。
一方こうした加害行為を行ったという人は…社会問題化するストーカー被害。
警察も加害者への対応強化を迫られています。
被害者の自宅付近に加害者が出没していないか警戒を強める神奈川県警です。
(無線)「30代の男と30代の女口論しているもよう」。
この警察署だけでも20人以上のストーカーの動向を注視しています。
・ストーカー事件を扱う対策室。
加害者の情報を集め危険度を見極めています。
この日2人のストーカーを警察署へ呼び出し警告を出しました。
そういう事で間違いないね。
逮捕されたあとも元交際相手にメールを繰り返し送った30代の男性。
そして町で見かけた女性の後を付け回した60代の男性。
去年全国で出された警告の数は2,400件余り。
しかし2割ほどはストーカー行為をやめないとされどう対応するかが課題となっています。
ストーカー加害者のカウンセリングを続ける小早川さん。
先月大阪に向かっていた。
今最も危険な状態になっていると感じるストーカーに会うためだ。
48歳のこの男性20年間で3人の女性にストーカー行為を繰り返してきた。
1か月前からカウンセリングを続けてきたがこの日いきなり感情をあらわにして怒りをぶつけてきた。
小早川さんに送った相談のメールに返信が少ないと腹を立てていたのだ。
ひと言言おうか?うん。
孤独になる事を極端に嫌う男性。
カウンセリングを始めて以来小早川さんから連絡が途切れる事を恐れるようになっていた。
男性から多い時には一日100通を超えるメールが送られてくる。
「電話に出て」と懇願するメール。
攻撃性をあらわにするメール。
相手への強い依存と感情の激しい浮き沈みが読み取れる。
男性が初めてストーカー行為に及んだのは20年前。
その後も相手を替えて繰り返し30代の時は逮捕までされた。
この日落ち着きを取り戻した男性が逮捕された時の事を詳細に語った。
案内したのは女性を待ち伏せしていたという駐車場。
この辺ですね。
相手は会社の同僚の女性だった。
交際を断られたが諦めきれず付きまとい続けた。
接触を拒まれているうちに憎しみが沸き上がってきたという。
男性は駆けつけた警察官に逮捕された。
しかしその後もストーカー行為が止まる事はなかった。
なぜストーカー行為をやめられないのか。
小早川さんはその原因の一端が過去の体験にあるのではないかと考えた。
加害者には幼少期に心の傷を負った人が少なくないという。
(チャイム)過去に一体何があったのか…。
この日小早川さんは対話の中から手がかりを探ろうとしていた。
母親による虐待を告白し始めた男性。
ちょっと涙出るわ…。
突然泣き始めた。
(小早川)ちょっと待ってね。
そして一番つらかったという体験を語り始めた。
やばい…。
(小早川)泣いていいから。
(涙声で)かわいそうで…。
子どもの頃家で飼っていた犬をかわいがっていた男性。
母親がその犬に餌を与えず餓死させたという。
母親に虐待され犬も餓死させられたという記憶。
小早川さんは幼少期に刻まれた心の傷が男性のストーカー行為につながっているのではないかと考えた。
回復をする…。
男性は過去の体験から来る不安と怒りの感情を抑える訓練を続ける事になった。
ストーカー加害者にカウンセリングを行う取り組みは日本ではまだごく一部にとどまっている。
凶悪化するストーカーとどう向き合うべきなのか。
オーストラリアでは世界に先駆けた取り組みが進められています。
10年前ストーカーなどの問題行動に対応する世界初の専門組織が設置されました。
精神科医や臨床心理士ソーシャルワーカーなど30人が勤めています。
ストーカー研究の第一人者…これまで500人を超えるストーカーにカウンセリングや薬による治療を行ってきました。
現在はストーカーの治療に当たる専門家の育成に力を入れています。
センターではストーカーの危険性を見極めその対応策を示したマニュアルを開発しました。
まず本人から聞き取り調査を実施。
被害者との関係加害行為を始めた動機などからストーカーを分類します。
ふられ型恨み型など異なる5つのタイプごとに危険度の判定法や治療の指針が確立されています。
ストーカーの半数を占めるのが以前のパートナーを追いかける…脅迫や暴行など凶悪化する危険性が高いとされています。
この日カウンセリングを受けていたのはふられ型と分類された加害者。
幼少期の体験や現在の対人関係などを聞き取り加害行為の原因を探っていきます。
治療は何年にもわたって行われる事もあります。
最も繰り返して行われるのは一瞬にして殺意にまで達する怒りの感情を自分の力で静める訓練です。
自分の中に沸き上がった怒りの大きさを温度や言葉に置き換えます。
自分を客観的に眺める事で怒りが増幅するのを抑える力を身につけます。
日本ではオーストラリアなどを参考に警察が加害者に治療を促す試みが今年から始まっています。
センターは警察や裁判所と密接に連携しています。
警察の危険度の判定に専門的な立場からアドバイスを行います。
更に裁判中の加害者とも面談し危険度の高いストーカーには判決で治療を命じるよう裁判所に進言する事もあります。
メルボルンで開かれるストーカーの裁判は年間500件。
その判決の半数近くが加害者に刑罰だけでなく治療を受ける事を命じています。
(テレビ)「22歳の飲食店従業員の女性がはさみで刺されて死亡した事件で…」。
先週また事件が起きた。
元交際相手の男が一度逮捕されたにもかかわらず女性を刺殺した。
(テレビ)「元交際相手で隣のマンションに住む飲食店従業員の加藤美穂さんの首や背中などをはさみで刺して殺害しようとしたとして…」。
ストーカー行為を繰り返してきた48歳の男性。
自分の心に潜む危うさを見つめ直す出来事があった。
自宅のすぐそばでストーカーによる殺人事件が起きたのだ。
亡くなったのは2人の子どもを持つ母親。
逮捕された男は複数の女性にストーカー行為を繰り返していた。
男性は今も小早川さんのもとでカウンセリングを受けている。
自らの心の闇を見つめさせる作業が時間をかけて行われる。
NPOには殺意をあらわにする加害者からの電話が今も続いている。
ストーカー加害者の心の奥底で生まれ続ける殺意。
その殺意に脅かされる命。
悲劇の連鎖を断ち切るために社会が向き合う時が来ている。
救いを求める声はやむ事はない。
2014/07/06(日) 21:00〜21:50
NHK総合1・神戸
NHKスペシャル「ストーカー 殺意の深層〜悲劇を防ぐために〜」[字]

昨年、過去最悪の2万件を突破、増加の一途をたどるストーカー被害。番組ではストーカー加害者の実態を徹底取材。ストーカーの心の闇の深淵(えん)に迫る。

詳細情報
番組内容
昨年、過去最悪の2万件を突破したストーカー被害。規制法の強化や被害者保護の取り組みにも関わらず、被害は増加の一途をたどっている。番組ではストーカー加害者の実態を徹底取材。なぜストーカーは生まれ、彼らは何を考えているのか、悲劇を止めるために何が必要なのかを検証してゆく。
出演者
【語り】松重豊

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
ニュース/報道 – 報道特番

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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