この広い宇宙はどうやって始まったのか。
そして宇宙の未来は一体どうなるのか。
人類が何千年にもわたって探究してきた宇宙は今も多くの謎に包まれたままです。
そんな宇宙の謎に最新の数式を駆使して立ち向かっているのが…研究テーマは「宇宙の始まりから終わりまで」。
私たちの常識をはるかに超えた不思議で魅力に満ちた宇宙の姿を明らかにしてきました。
今回一般市民を対象に行われた特別講義。
最新の理論が描き出す驚きの宇宙像が次々と飛び出します。
「ダークマター」や「ダークエネルギー」など次々と紹介される最先端の宇宙論。
必死に講義についてゆき驚きの世界を体感しようとする生徒たち。
4回にわたる講義で宇宙物理学者が立ち向かう未解決の謎にまで迫っていきます。
さあ今回はいよいよ現代宇宙論への大きな扉が開かれます。
まずは20世紀前半に発見された「宇宙は膨張している」という驚くべき事実。
この発見は宇宙が未来永ごう膨張し続けるのか逆にいつかは縮み始めるのかという新たな疑問を投げかけます。
クラウス教授はそれを解明するためには星や銀河が持つエネルギーを知る事が重要だと言います。
今回の講義で最も重要なのは人類最高の発明品の一つ「エネルギー」の概念だ。
それは日常生活のスケールから銀河系の秘密へと私たちを導いてくれる。
そしてダークマターの存在に気付かせてくれる事をお見せしよう。
(拍手)みんなどうもありがとう。
ようこそ。
また会う事ができてうれしい。
前回の講義で物理学者が使う秘密の「道具」を紹介した。
通常とは異なる視点で物事を捉えたり複雑極まりない宇宙を理解しやすくしてくれたりするような考え方だ。
今後の講義ではその道具を使って宇宙の究極の謎に挑んでもらいたい。
宇宙の過去に何があったのかそしてその未来がいかに悲惨なものになるかについても知ってもらいたいんだ。
まずは私たちの宇宙観を大きく変える事になった出来事について話そう。
「宇宙は膨張している」という事実の発見。
1929年の事だ。
それ以前の科学者たちは宇宙は永遠に変化しないいわば「静かな存在」だと考えていた。
だが1929年全てが変わった。
「宇宙には始まりがあった」という事実が明らかになったんだ。
それは「宇宙の終わりはどうなるのか」という新たな疑問まで生み出した。
その全てを変えた男は私の偉大なるヒーローの一人だ。
エドウィン・ハッブルはアメリカの天文学者で私たちの銀河系以外にもたくさんの銀河が存在する事を初めて発見した人でもある。
実は1925年ごろまでは宇宙にはたった1つの銀河しかないと思われていた。
たった1つだ。
宇宙には私たちの住む銀河系しかないと思われていたわけだからその後の宇宙観の変化がいかに大きなものだったか分かるだろう。
ハッブルは望遠鏡を駆使した観測で他にも多くの銀河が存在する事に気付いた。
それ以前は天文学者たちが「星雲」と名付けたぼんやりとしたものが見えていただけだった。
ハッブルはそのぼんやりとしたものは実は私たちの銀河系の外にある別の銀河だという事実を突き止めたんだ。
そして彼は更に驚くべき事実を発見した。
それらの銀河は私たちから遠ざかっていたんだ。
彼の発見はこんなイラストで表す事ができる。
私たちの銀河系がこのイラストの真ん中にあるとするとそれぞれの銀河はおおむね私たちから遠ざかっているという事だ。
ちなみに私たちのそばにあるアンドロメダ銀河は重力の作用で近づいてきている。
でも視野を広げてみると銀河は私たちから遠ざかっているんだ。
そして驚くべき事に2倍遠い所にある銀河は2倍の速度で遠ざかっていて3倍離れた銀河は3倍速く遠ざかっている。
数式で表せば「速度は距離に比例する」という事だ。
ハッブルが発見したのは…この比例定数はハッブルにちなんで「ハッブル定数」と呼ばれている。
さてこのイラストは一見すると別の事を表しているように見える。
それは宇宙が膨張しているというよりも私たちは宇宙の中心にいるんじゃないかという事だ。
問題は私たちが自分たちを中心に物事を考えてしまいがちだという事だ。
でも前回までに学んだ「物理学者の道具」を使えば表面的な事に惑わされずその奥に隠された真実を見つけ出す事ができるようになる。
そのためには私たちは自己中心主義を捨てなければならない。
そこで宇宙を単純化してもし宇宙が2次元だったらと考えてみよう。
これは銀河の一つ一つを丸として描いたものだ。
前回の講義に出てくれた人にとっては牛の群れに見えるかもしれない。
左側は等間隔に銀河を配置したもので右側はそれがその後膨張し銀河同士が離れた様子を表している。
こうして宇宙全体を俯瞰して見る事ができれば右側の図が左よりも膨張している事は明らかだ。
ではこの中の1つの銀河を選んでそこから宇宙を眺めると一体どう見えるのか。
選んだ銀河を中心に2つの図を重ねてみると…ハッブルが見た宇宙とちょうど同じように見えるようになる。
2倍の距離にある銀河は2倍速く遠ざかっているし3倍離れた銀河は3倍速く遠ざかっている。
ここで重要なのはどの銀河を選んでも結果は同じだという事だ。
例えばこれを選んでも同じ事が起きる。
ハッブルの観測結果は私たちが宇宙の中心ではない事いや宇宙には中心がない事を明らかにしたとも言える。
楽観主義者なら「どこもが宇宙の中心だ」と言うかもしれない。
ハッブルのこの重要な発見は宇宙観を一変させた。
君たちにはその発見がどのようになされたのかを教えよう。
ハッブルによると「銀河の遠ざかる速度」は「その銀河までの距離」に比例する。
これは銀河を観測する事によって発見されたものだ。
つまり銀河の「速度」と「距離」を測定する必要があった。
ではまず「速度」の測定だがこれは簡単だ。
ここフェニックスに住むこの2人の男性だって知っている。
列車が通り過ぎるのを見ながら彼らはこんな会話をする。
(笑い)彼らが何の事を話しているのかは君たちの多くにも分かるだろう。
列車が目の前を通り過ぎる時汽笛の音色が高い音から低い音へと変わる。
列車がこっちに向かってくる時は音の波長が押し縮められ一方遠ざかる時は引き伸ばされるからだ。
実は光に関しても同じ事が言えるんだ。
物体が私たちから遠ざかっているとその物体から放たれる光の波長は引き伸ばされる。
引き伸ばされて色で言うと赤みがかって見えるようになるんだがこれを「赤方偏移」という。
恒星は光を放つ。
例えば太陽も光を放っている。
ニュートンのすばらしい発見の一つは星は七色の光を放っているという事だ。
私たちはその7つの色を見る事ができてそれを「スペクトル」と呼んでいる。
星が私たちから遠ざかるとそのスペクトルの帯が全体に長い波長の方赤の方にずれる。
赤色の度合いによって銀河がどれくらいの速度で動いているのかが分かる。
ある銀河の赤方偏移の度合いを調べればその銀河の遠ざかる速度が分かるんだ。
「速度」を測るのは簡単だと分かったが問題は「距離」だ。
銀河までの距離をどう測るか。
長い巻き尺があるわけでもない。
だからこれも物理学を使おう。
ではこの部屋の明かりを100ワットの電球1つを残して全て消したと考えてくれ。
ここで重要なのは電球の見た目の明るさは電球からの距離の2乗に反比例して減少するという事だ。
つまり今この場所での見た目の明るさは1ワットだったとすると電球の本来の明るさは100ワットと分かっているからちょっと計算すれば電球からの距離が分かるはずだ。
もし宇宙が100ワットの電球ばかりで出来ていたら話は早いんだがそうではないので本来の明るさが分かっている星を見つけなければならない。
「標準光源」と呼ばれるものだ。
だがそれを探すのがとても難しかった。
標準光源さえあればその光の本来の強さは分かっているので見た目の明るさから星までの距離が分かるはずだった。
でも完璧な標準光源はなかった。
これはハッブルが調べ上げたさまざまな銀河の速度と距離のデータだ。
ハッブルがすばらしかったのはこの一見バラバラなデータを見て距離と速度は比例するという事を見抜きそれを示す直線を引いた事だった。
彼は正しい推測をしたんだ。
だが実は距離を10倍間違えて測定していた。
彼の時代には信頼できる標準光源がなく距離を測るのが難しかったからだ。
でも今我々は信頼できる標準光源を知っている。
この写真は私のお気に入りの一枚だ。
この銀河は私たちからものすごく遠い場所にある。
数千万光年も離れた距離にあるのでその光が私たちの所に届くまで何千万年もかかる。
この銀河は私たちの銀河と同じように渦を巻いていてその中には1,000億もの星がある。
そしてこの端っこの方に銀河の中心と同じくらいの明るさで輝いている星が写っている。
この星はより手前にある私たちの銀河系の中の星が写り込んだものではない。
この銀河の端っこで普通の星の100億倍の明るさで輝いていたんだ。
これは「超新星爆発」と呼ばれる現象でいわば宇宙で最も明るい花火だ。
星は超新星爆発を起こすとあるものは数か月間普通の星の100億倍もの明るさで輝く。
ところで星が頻繁に爆発しないのは幸運な事だ。
太陽だって45億年以上も爆発しないでいてくれている。
でも実は星が爆発する事はとてもありがたい事なんだ。
さもなければ君たちの体を構成している原子はつくられなかった。
原子は初めから宇宙にあったわけではない。
星がつくり出したんだ。
君たちの体の炭素や窒素酸素鉄リンなどはビッグバンではつくられなかった。
ビッグバンでつくられたのは水素やヘリウムといったものだけだった。
超新星爆発で生まれた高い圧力によって初めてこの宇宙の物質を形づくる原子が合成された。
だから君たちの体をつくっている原子はかつて超新星の中にあったんだ。
だから宇宙で最も激しい爆発を経験していると言える。
しかも一度きりでなく何度も。
さまざまな原子をつくり上げるには何回もの爆発が必要だからだ。
およそ50億年前私たちの銀河系の中で一つの超新星が爆発しそのチリやガスが再び集められて新しい星が生まれた。
それが太陽だ。
その周りに惑星が誕生し今君たちがいる。
星の爆発はとても重要で君たちはいわば星のかけらなんだ。
君たちは単に気持ちの上で宇宙とつながっているのではなく真の意味で宇宙とつながっているんだ。
さて話を戻すと超新星爆発の中でも「