世界中で読み継がれる「ファーブル昆虫記」。
南フランスで観察した虫の生態が10巻にわたって生き生きと描かれています。
ジャン=アンリ・ファーブルがこの本を書き始めたのは50歳を過ぎてからの事でした。
貧しい家に生まれたファーブルは教師として家族を養う事で精いっぱい。
虫の研究に専念する事ができなかったのです。
しかしそんな状況でも情熱を失う事はありませんでした。
「ファーブル昆虫記」。
今回は生涯をかけて追い求めたファーブルの虫への強い思いに迫ります。
(テーマ音楽)「100分de名著」司会の…さあ今回の名著は「ファーブル昆虫記」でございます。
ちょっと楽しんでらっしゃいますね。
もともと好きで楽しめるとは思ってたんですけども何でしょうねうれしい裏切りというか。
「ファーブル昆虫論文」ではなくて「昆虫記」であると。
ファーブルが昆虫が好きで好きでいろいろ研究していったその人生を回顧してるという。
そうなんですよね。
虫の事だけじゃないという。
ファーブルの事も入っている。
だから虫なんて興味ないという方も多分ぐっとくる局面がいっぱいこれからもありそうですから。
さあ「ファーブル昆虫記」2回目指南役はフランス文学者で埼玉大学名誉教授の奥本大三郎さんです。
よろしくお願いします。
ファーブルは昆虫学者だと僕は決め込んでいたんですけど…ではないわけですよね。
まあ広い意味でのナチュラリストというか博物学者というか。
万能な人なんです。
しかもその「ファーブル昆虫記」も昆虫に関する図鑑とか論文とかそういう事ではまたない。
そうですね。
だから「昆虫学的回想録」というのが原題なんですけどね苦労話もありますしね。
今日はちょっとそういう所にも焦点を当てていきたいと思うんですけれどもファーブル長い生涯の中で昆虫とどう向き合っていったのか見ていきますがいろんな苦しみがあったんです。
ご覧頂きましょう。
1823年南フランスサン=レオンの自然豊かな村に生まれたファーブルは9歳の時家族と共に都会へと移り住みます。
ロデーズはサン=レオンに程近い商業都市。
両親はこの街でカフェをオープンしました。
ファーブルは教会に併設された学校に入りギリシャ語やラテン語を学び始めます。
家計は苦しかったものの聖歌隊でミサの手伝いをする事を条件に学費が免除になったからです。
そんな中でも生き物への興味は変わらず学校が休みの日には自然の中に鳥や虫を探しに行きました。
しかし一家に不幸が訪れます。
カフェの経営が全くうまくいかずファーブルが14歳の時に一家は離散。
ファーブルは一人放浪生活を強いられる事になったのです。
ファーブルは鉄道作業員など肉体労働をしながらその日暮らしをしていました。
このころの昆虫に対する気持ちをこう表現しています。
苦しい生活の中でもファーブルの昆虫への思いは消えずその美しい姿を心の支えにしていました。
ある時ファーブルに救いの手が差し伸べられます。
教師不足に悩んでいたフランスが奨学生を公募。
合格すれば師範学校の学費が無料になる上住む場所と食事の提供まで受けられるのです。
15歳になったファーブルは試験を受けトップで合格。
数学や物理を学び18歳の若さで教師としての人生を歩み始めました。
ファーブルは小さい頃はねすごく自然豊かな所で育っていたのに若くして都会に出てそのあとものすごく苦労するんですね。
ファーブルはどんな仕事をしてるんですか?このカフェが潰れちゃったあとは。
ちょうど鉄道が敷かれる時代ですフランスに。
その鉄道を…一生懸命線路を造るとか。
本当に肉体労働で。
ええ。
一日十数時間働いてですから。
それでも薄いスープとパン食べるだけがやっとという。
この時代のファーブルはね…もう飛ばしてしまおうというんです。
貧しくて大変な暮らしの中だけども昆虫への愛はうせなかった。
でも本当に好きってそういう事かなってちょっと思いますけどね。
だってさっきのコガネムシの写真見たじゃないですか。
虫に興味ないとそんなにきれいでもないでしょ?まして触角だけ見てあれで元気が湧くかといったらやっぱりそれは好きだから湧くんだしあの虫がいなかったら頑張れないんだと思う。
そもそもすごいのはこんな貧しい状況じゃないですか。
なのに勉強はできた?忘れなかったんですね昔習った事を。
それと数学とか化学とかそういう学問にもものすごく憧れを持ったみたいですよ。
憧れそして好奇心というか。
勉強と昆虫に何とか支えられてますね。
それがなくて体が弱かったら死んでますね。
いやそうですよ。
そうですね。
教師になった時のすてきなエピソードがあるんだそうですね。
子供を連れて測量の実習をやるんですね。
そしたら子供たちが測量をやらずにしゃがんで何かなめたりしてるんですね。
何だろうと思ったら石の上に黒っぽいハナバチが巣を作ってるんですよ。
カベヌリハナバチっていうんですがその蜜をわらしべで吸ってるんです。
先生もなめてみるんですね。
そうすると甘いと。
普通だったら「勉強しろ!」って言ってもおかしくないけど自分も嫌いじゃないわけでしょ。
その昆虫大好きだから。
「どれ先生にも吸わせてみろ」なんて。
それからそのハチの事に興味を持って…ひとつき分の給料!?「節足動物誌」という本を買いましてね。
もうその月はほとんど奇跡的な節約をして何とか耐え忍ぶという。
その時の事をフリップにしたんですけどね。
「いつか昆虫学者になろう」とおぼろげに…。
だけどそんな事は夢のまた夢だと思ってたんですね。
その当時の学問をする人というのはある程度の身分があって生活を保障された人の名誉職みたいなもんです。
貴族とかブルジョアの家庭の出身ですからね。
貧しい中やっと何とか教師の職に就いて。
ひとつき分の給料ですよ。
そうですね。
ほんとに褒め言葉としてのバランスの悪さすごいじゃないですか。
だけど今振り返ればその作業が無ければこの「汝もまた虫の生活史を記す者となるであろう」という内なる声なんて聞こえなかったでしょうから。
その後ファーブルはさまざまな人物と運命的な出会いをする事になるんです。
25歳の時コルシカ島の高校に赴任したファーブルは運命的な出来事に遭遇します。
地中海に浮かぶコルシカ島は2,000mを超える山々が連なり温暖でありながら雪が積もります。
この複雑な地形と気候が独特の生態系を育んでいたのです。
この島で出会ったのが博物学者のモカン=タンドンでした。
タンドンは植物の目録を作成するためコルシカ島を訪れていました。
ファーブルは彼の調査に同行。
植物や生物について意見を交換するうち互いの才能を認め合うようになります。
タンドンはファーブルにこう言いました。
この言葉をきっかけにファーブルは生物への興味を抑えられなくなります。
タンドンとの出会いのよくとし。
ファーブルはコルシカ島を離れ南フランスのアヴィニョンの高校で物理の教師となりました。
ここでも人生を変える出来事が待っていました。
それはある論文との出会い。
昆虫学者レオン・デュフールのカリバチの生態に関する論文です。
カリバチと呼ばれる種類のハチはバッタなど昆虫の獲物を捕らえ幼虫の餌にするため巣穴に持ち込みます。
しかし幼虫が育つまでの間獲物はいつまでも腐る事がありません。
この不思議な現象を発見したデュフールはカリバチは獲物を針で刺して殺してから防腐剤のようなものを注射するのではないかと結論づけていました。
当時昆虫学といえば標本を作って分類する事が主流でした。
生きたカリバチの生態を観察し記録したデュフールの論文は画期的なものだったのです。
しかし大きな感動を受けながらもファーブルは未知の防腐剤を注射するというデュフールの考えに疑問を持つようになるのです。
またまたちょっと人生の転機がやって来ましたね。
新たな出会いが。
そうですね。
モカン=タンドンというのはね本当に偉い生物学者なんですね。
そういう生活があるんだ。
自分はでも無理かもしれないけど憧れを持つわけですね。
レオン・デュフールは雑誌で論文を読むわけです。
それでこういう方面があるんだという事にほんとに大きなヒントになるわけ。
今までは死んだ虫を研究してた。
言われてみれば昆虫採集と飼育観察ってちょっと別のものですもんね。
ファーブルは自分もやってみようと思うけどその時にこの論文に何か欠けたものがあるという事を直感で嗅ぎ取るんですね。
それもすごいですね。
だってね自分の中でもう本当に目が見開いちゃうほどの衝撃的なものって妄信してもおかしくないじゃないですか。
そこはそれ。
何か引っ掛かるものがあるというそこは。
それはやっぱり直感というか天才的なものではないんですかね。
「未知の防腐剤」と言ってると。
その「未知の」の未知の部分をやってみようと思うわけです。
狩りをするハチの論文これに出会ったファーブルは防腐剤を注射するという結論に疑問を持って真実への挑戦へと向かいました。
1855年カリバチの観察を始めたファーブルはまず獲物がどのような状態になっているのか確かめてみる事にしました。
カリバチが獲物を巣穴に運んでいます。
確かに獲物は死んでいるかのようです。
全く抵抗しません。
しかし巣穴から取り出してみると…。
かすかに動いているのが分かります。
獲物は全身が麻痺しているだけで生きていたのです。
「獲物を針で刺し殺してから防腐剤を注射する」というデュフールの論文にファーブルは更に疑いを強めます。
ファーブルは獲物にベンジンをたらしたり電流の刺激を与えたりして体が反応して動く事を確認しました。
そしてこう推論したのです。
ではどのように獲物の運動神経を傷つけているのか。
ハチが獲物を倒す瞬間を見なければ分かりません。
こちらはクモを専門に狩るカリバチです。
獲物を運ぶ様子を観察する事は比較的簡単ですが刺す瞬間に立ち会うには途方もない時間と手間がかかります。
ファーブルはあるアイデアを思いつきました。
カリバチが獲物を運ぶ途中で取り上げ生きているものと取り替えるのです。
やってみると…。
成功しました!獲物が生き返ったと勘違いしたカリバチが一瞬の攻撃で完全に獲物を麻痺させたのです。
スローで見てみましょう。
クモのおなかの部分をカリバチが刺しているのが分かります。
ファーブルは獲物を解剖した結果針を突き刺した場所は運動器官をつかさどる神経節が集中する部分だと確信します。
1855年ファーブルはこの研究をまとめ論文を発表します。
こうして昆虫の研究者として一歩を踏み出す事になったのです。
もうドラマチックだね。
はい!すごいね。
自分にこう天啓を与えてくれた本の中に疑問を見つけてそれを乗り越えようと。
観察をしてまず生きてるじゃないかと。
これは死んで防腐剤なんて事じゃない。
デュフールの論文を読んで感心するのは誰でもしますけど大体そこで終わっちゃいますよね。
大抵防腐剤の方向へ行っちゃいますよね。
そうじゃなくて…そしてその時に自分で選んだその実験動物をですねいろいろ工夫するこの工夫がすごいんですよ。
普通ならば天然の状態で自然の状態でハチが刺すところをあてどもなくさまよって偶然に頼ろうとしますよね。
とんでもないアイデアじゃないですか。
途中で取り上げてすり替える。
そのハチは「おや?」と思って刺したはずなのにと思ってもう一回刺すんですよ。
その時にどこを刺すかを詳しく詳しく見てみるとここなんですね。
ここ。
足が3対あります。
その3対の足の動かす神経節というのはこの辺りにあるんです。
この集中してる虫だけが獲物になるんです。
お〜!このカリバチは。
すごい。
おまけにこのゾウムシは全身が硬い鎧です。
この柔らかい所ここだけ薄い膜になってるんですね。
だから刺さるんです針が。
じゃあ虫の中でもその神経の集中してる所がばらけてるようなものはもうそもそも狙わないというか。
それの場合はまた刺し方が別なんですけど…ジガバチが。
ええ〜!?もうベテランはり師ですよ。
ツボも分かってるわけだ。
最低の手間でやるにはここしかないんだという事が。
でもほんとに食うや食わずの教師の生活。
だけれどもやっぱり昆虫の研究へとそっちに最終的には行くという本当にこの人の虫好き。
その情熱ですね。
やっぱり子供の時からの何か一貫したものがあるでしょ?子供の時からのその考える頭ですね。
美しいものを見たいという気持ちとか。
それがず〜っとあったからいろんな事を発見…引っ掛かってきたんでしょうね。
ファーブルの時代みたいに絶えず緊張状態があって飢えがあって…だからそのあまり情報が無いという不便さと探せば見つかるんじゃないかみたいなそのバランスというか。
今大抵の事それはあの本に載ってるこの本に載ってるネットのあれに載ってるよそんなのみんな調べてるんだって。
誰かやってるし知ってると。
だからもう見えないものはない存在しないみたいな感じになってますけど…それがいいんじゃないでしょうかね。
こう今に投げかけてくるものが見えてくるような感じがします。
今なんてコンピューターで何か答えはそこにあるってどこに行って調べなくてもそこにあるというふうに。
情報はタダだし生活は楽だし。
検索すればそこにある。
だけど若者の生活我々の生活が本当に幸せなのか長生きはしてるけども。
それぐらいもう後戻り…スマホのない生活戻れませんよ。
今ほんとにとてもいい事を仰ったのは疑問を持ってるのが大切なんだと思うんです。
「スマホを持っただけでは幸せじゃないのかもしれない」から「じゃあどう使おう」みたいなところからもしかしたらスマホのカメラで新しい昆虫を発見するやつもいるわけですよ恐らく。
そうですね。
なんですよね。
やっぱり根本のところで自分は何が好き何をしてる時が幸せみたいな事に立ち返りながら便利清潔効率的みたいな事とうまく組み合わせていかないと多分ファーブルよりずっと恵まれたおうちに生まれたのにそういう生活にならなかった人いっぱいいるでしょうから。
さあそれができるでしょうかという事ですね。
そうですねそうですね。
さて次回ですけれどファーブルがようやく観察を始める事ができたカリバチ狩りするハチですね。
なぜ獲物を殺さずに麻痺させて巣穴に持ち込むのか。
更にいきますか!そう。
その謎に迫っていきたいと思います。
奥本先生どうもありがとうございました。
2014/07/16(水) 05:30〜05:55
NHKEテレ1大阪
100分de名著 ファーブル昆虫記 第2回「昆虫観察を天職と知る」[解][字]
第2回では、ファーブルが昆虫学者となるまでを見つめる。一家離散、極貧の中、苦学して教師になった彼の人生を変えた論文とは? 昆虫の驚くべき神秘が明らかに。
詳細情報
番組内容
ファーブルが9歳の時、一家は離散。彼は苦学しながら師範学校を出て教師となる。だが当時昆虫は趣味に過ぎなかった。人生が変わったのは31歳の時。虫を食料とする狩り蜂の論文を読んだのがきっかけだった。そこには狩り蜂が捉えた虫はいつまでも腐らないと書かれていた。驚いたファーブルは自分でも観察を行い、驚がくの事実をつきとめた。第2回では、ファーブルが昆虫学者となるまでを見つめる。
出演者
【ゲスト】仏文学者大阪芸術大学教授・埼玉大学…奥本大三郎,【司会】伊集院光,武内陶子,【語り】斎藤英津子,【声】池水通洋,島田敏
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
ドキュメンタリー/教養 – 文学・文芸
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
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日本語(解説)
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