月夜の町に浮かび上がる一軒の店
鳥取市にある小さな雑貨店です
レゲエミュージックに合わせてご機嫌に踊っているのは…
そしてたった一人の従業員…
西川さんは音楽が大好き。
水原さんから音吉と呼ばれています。
音吉さんは去年10月から住み込みでこの店で働き始めました
「雇った以上は音吉を一人前にしてやりたい」。
水原さんはいわゆる丁稚奉公だと考えています
音吉さんは水原さんの思いに応えられるのか。
80歳のレゲエおばちゃんと生き方に悩む29歳の若者。
年の差51歳の2人の不思議な関係を見つめました
鳥取市は人口19万の静かな城下町
この町の一角に小さな雑貨店ラスタがあります
おはようございます。
(取材者)おはようございます。
お邪魔してもいいですか?どうぞどうぞ。
おばちゃんの店は築60年の古い木造住宅。
音吉さんはこの家の一部屋を間借りして暮らしています
めっちゃいい匂いがする。
これは何を作ってるんですか?
食事の準備から掃除洗濯まで家事のほとんどは音吉さんの仕事。
家賃代わりだそうです
おはようございます。
体調大丈夫ですか?お疲れって聞いたんですが。
あっごめんなさい。
おばちゃんはまだ入れ歯をつけていませんでした
じゃあまた後で。
音吉さんの方にカメラ戻って。
音吉さんが作っているのは今日の昼と夜ごはんのおかず肉じゃがです
音吉さんは肉じゃが好きなんですか?肉じゃがはちょっと好き。
野菜が嫌いでお肉が大好きなおばちゃんの健康を考えた献立です
かなり手際がいいですよね。
実は音吉さんはここに来る前は料理の修業をしていました
やっぱり1日置いとかないけんな。
すごい偉い。
ちゃんとだしをとってますね。
味が染みんかもしれん。
音吉さん自分の店を持ちたいと夢みていた事もあったそう
すごい失礼な言い方かもしれないですけど…。
はい何でしょう?音吉さん料理人向いてるんじゃないですか?それはおばちゃんにも言われてますけどね。
何で向いてないんですか?それおばちゃんの?そうですよ。
洗ってるんですか?入れ歯を?えっ?それも音吉さんがするんですか?洗った事あります?今まで。
ここに来るまで。
人の入れ歯洗いたいですか?洗いたい?いや洗うでしょう。
おばちゃんが自分の歯を全て失ったのは6年前の事。
近所に散歩に出て歩道を歩いていたところ脇見運転の車にはねられたのです
奇跡的に一命を取り留めましたが今も歩くと痛みが走ります
おばちゃんは13年前夫に先立たれてからこの家でずっと独り暮らし。
2人の子どもは東京で就職しそれぞれ家庭を持っています
歯がだって全部無くなる事故ってすごいですよね。
今では音吉さんが身の回りの世話を全て引き受けています
肉の塊がしゃぶれんくなったら困るからな。
お店の名前はラスタ。
ヒンディー語で道という意味です。
海外旅行が大好きなおばちゃんがインドを訪れた時に知った言葉です
ここはもともとおばちゃんの夫が営んでいた薬局でした。
しかし夫が病気で倒れ店を続けられなくなったためやむなく雑貨店を始めたのです
店内にはアジアや中南米の雑貨がずらり。
おばちゃんが自ら東京まで行って買い付けたお気に入りの品々です
定休日は週1回日曜日。
午前11時から夜8時半までの営業でお客さんが来ない時は腕のリハビリをして過ごすのが日課です
この野郎この野郎この野郎この野郎。
仕事が終わってからだよ。
仕事が終わってからだよ。
全く仕事に身が入らない音吉さん。
おばちゃんは音吉さんが何か本気になるきっかけを作ってあげたいと思っていました
音吉さんに料理を任せているのも「自分の店を持つ」という夢にもう一度挑戦してほしいからです
弁当箱に入ってるのは何ですか?これですか?
この日のメニューは音吉さんが初めて作る創作レシピですが…
もうちょっとしょうゆの味が…。
甘い。
何になる?おやつ?ほら言われた。
ある日の閉店間際
もしもし?どうもどうも。
店に来る予定の常連さんから連絡が入りました
おばちゃんに背中を押され3か月前に就職した35歳の営業マン。
残業で疲れて今夜は来られないといいます
お店を始めて20年。
これまで何十人もの悩める若者がおばちゃんに励まされ時には厳しく怒られて独り立ちしていきました
じゃあね。
うん。
は〜い。
残念でした。
だいぶお疲れみたいでしたね。
言われてます。
のらりくらりの音吉さんにこの日はおばちゃんいつもより厳しく当たりますが…
まあでも音吉さんも実際は心の奥底では多少のやる気を。
どうでしょう?ない。
ねえよ。
ないかな。
してますよ。
してないよ。
バカもんが。
言うに値せん人間。
音吉さんも自分を思ってくれるおばちゃんの気持ちは痛いほど分かっています。
音吉さんは元高校球児。
プロを目指して大学も野球の名門校へ進学。
しかし入学直後ささいな事からいじめに遭ったといいます
何にもないですよ。
ただ単に無視されるっていう。
監督がおったら別にこれといって何にもないけど監督がおらんようになったら孤立してますよね。
部員は何人ぐらい?部員は50人ぐらいかな。
50人。
その全員から無視されるんですか?そうですね。
いや〜つらかったでしょう。
つらかったけえそのまま逃げちゃったんでしょうね。
言ってしまえば。
僅か半年で大学を中退しコンビニやガソリンスタンドでアルバイトをしながら職を探す毎日。
そして派遣社員として働き始めたお酒の卸問屋でついに正社員の誘いを受けました
酒屋さん一生懸命頑張ってたんですか?一生懸命頑張ってたと思いますよ自分の中じゃ。
飲めんお酒を覚えましたからね。
しかしそんなやさきリーマンショックで会社の経営が傾き正社員どころか派遣契約すら打ち切られてしまったのです
雇いましょうって話が出たんですけどガソリンも上がるしお酒も上がるしっていうので雇えませんって言われて。
どこら辺まで話は進んでたんですか?もう契約で判を押す寸前かな。
契約書みたいなもんもサインして来月から雇いましょうかっていう話をもらってたんですけど…。
もう一遍呼び出されてごめんけど雇えそうにないと。
ああそうですかって。
ああどうもカラオケスナックラスタです。
入店時3,000円になります。
音吉さんはその後料理人を目指しましたがうまくいかず半年前おばちゃんの店に転がり込んだのです
ただ全く自信はないけど。
いまだに。
この日音吉さんと仲のいい常連さんがやって来ました
英会話学校で講師をしている…
家族とアメリカで暮らしていたゆうたさん。
3年前祖母のいる鳥取に一人やって来ました。
そしてこの店の常連に
僕に対抗しとるん?ああでもすごいオシャレ。
ちょっと意地悪な会話。
でも実は2人とも音吉さんを奮い立たせてやる気を出してほしいと思っているんです
さすが違うな。
ねっ?あっちとは。
あっちとはな。
あっちとは違うよ。
そんなゆうたさんもこの日はおばちゃんに相談したい事がありました。
友達相手に英語の個人レッスンを引き受けていいか悩んでいたのです
しないですね。
何だろうな?自分の子どもはこういう人であってほしいみたいなのがあるけえ。
気に食わない事とか子どもが言ったら多分駄目みたいになりますけど。
おばちゃんはそんなんないけえ何を言っても…変な感情にとらわれずにこれはこうだよって言って教えてくれるけえ。
親よりも何かねえ。
相談に乗ってくれるしいいアドバイスをくれる。
「一歩踏み出すきっかけを作ってあげたい」。
この日おばちゃんは音吉さんを店の外へ連れ出しました
行きましょう。
へい。
第一線で活躍する写真家の展示会の手伝い。
そこで何か刺激を受けてほしいと考えたのです
おばちゃんは相変わらずのらりくらりとしている音吉さんが歯がゆくてたまりません
どんな仕事も自分から飛び込んでいかなければ何も得られない。
失敗する事や否定される事を怖がり続ける音吉さんをどうしたら変えられるのか。
おばちゃんは辛抱強く見守ります
夜おばちゃんは大好きな海へ音吉さんを連れていきました
海見るといつもそう思う。
大好き海。
いつもの朝にいつもの2人。
いつもどおりの開店準備です
もちろん食事を作るのは音吉さん。
メニューはこの日もおばちゃんの好きな肉じゃが
実は音吉さん自分の料理の腕を生かす道を見つけてしまいました。
でもそれはおばちゃんにはないしょ
2014/07/01(火) 13:05〜13:35
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV「頼り 頼られ また頼る」[字][再]
鳥取市で雑貨店を営む水原和美さん(80)は、去年10月に、路頭に迷っていた西川祥之さん(29)を住み込みの店員として雇った。年の差51歳の2人の不思議な同居。
詳細情報
番組内容
鳥取市で雑貨店を営む水原和美さん(80)と従業員の西川祥之さん(29)は去年10月から共同生活をしている。アルバイトを転々とし路頭に迷っていた西川さんを、水原さんが住み込みの店員として雇ったのだ。店番や家事を担ってくれる西川さんは頼もしい存在だが、水原さんは「自分のやりたい事を見つけて自立して欲しい」と願っている。水原さんの思いは西川さんに届くのか。年の差51歳の二人の不思議な関係を見つめる。
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
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