(新番組)あすなろ三三七拍子 #01 2014.07.15

(広子)ねえホントにやるつもりなの?パパ。
(大介)えっ?
(広子)何だか雨が降りそう。
大丈夫だって。
せっかく準備したんだ。
絶対やる。
(広子)おすしでも取ればいいじゃない。
わざわざこんな日にバーベキューなんかやらなくても。
ぜいたくさすな。
(広子)じゃあピザか何かにする?ゆうべも言ったろう。
これは試験だ。
その男が本当に美紀にふさわしい男なのかどうか。
バーベキューってのはな人柄が出んだぞ〜。
口ばっかしでまったく手を動かさないやつもいれば黙々と働くやつもいる。
人の焼いてた肉を取っちゃうやつ。
後片付けになったらすっといなくなるこすっ辛いやつ。
そういうところをな大人の目線から見極めてやる。
(広子)じゃあパパはどういうタイプなの?
(大介)あっ俺か?俺はな…。
聞いといていなくなるかな…。
(広子)ねえ美紀〜。
(美紀)んっ?おすしとピザとどっちがいい?翔君どっちが好きかしら。
(美紀)えっピザだと思うけど。
(広子)よし。
じゃあピザにしようっと。

(チャイム)
(広子)嘘…。
ママまだ電話もしてないのに何でピザが来るの?
(美紀)ピザじゃなくて翔君だし。
はい!
(広子)あっそっか。
だいたいにしてなふざけてんだな。
大学生の男が付属の女子高生と付き合うなんてな。
いや…俺はまだ許したわけじゃないからな。
家に呼んだからって許したことには…。
あっ。

(広子)パパ〜翔君いらしたわよ!「いらした」って…敬語使うな敬語!
(雷鳴)
(男性たち)おす!おす!おす!おす!おす!おす!おす!おす!
(太鼓の音)
(一同)・「多摩川の水面に光るわれらが汗と」・「涙こぼれる友らの絆」
(美紀)ごめんね翔君。
ぬれちゃった?
(翔)いや駅着いたら超雨降ってきて…。
あっどうも。
ち〜っす。
(一同)・「世田商世田商わが母校」・「世田商世田商わが故郷」・「世田商わが胸に未来の光あれ」
(荒川)わが応援団は今や存亡の危機にある!
(荒川)10年前わがセタショーは砧女子大学と合併をし「翌檜大学」とその名を変えました。
以来わが応援団は凋落の一途をたどっているのであります。
武運拙く本年度の団員はそこに控えまする山本君ただ1名であります!
(山本)おす!
(荒川)その山本君もこの3月に卒業の運びとなり…。
それすなわちわが伝統ある歴史ある応援団に団員は一人もいなくなるという非常事態であります!やっぱ駄目だあいつ。
なっ?新之介。
はい。
なっ?
(広子)はいタオル。
これで拭いて。
(翔)あ〜ありがとうございます。
それともお風呂入る?すぐ沸くけど。
(翔)ああ大丈夫っす。
その代わりドライヤー貸りてもいいっすか?ちょっと髪の毛気になっちゃって。
パパがいるからって遠慮しなくてもいいのよ?この間は入ってったじゃない。
うちのお風呂は広くて気持ちいいって。
(翔)フフフ。
やだパパ!いつまでもそんな所にいたら風邪ひくわよ。
何だよ「この間」って。
あいつ今日初めてじゃないのか?えっいつも来てるわよ。
知らなかった?知らないよ。
じゃあ何か?お前はあいつらのこと黙認してたってことか?おい…。
(権田)断じて団をつぶすわけにはいかん。
それは重々承知しております。
大学当局は団員がいなくなるのを機にセタショーのイメージを一掃し生まれ変わろうともくろんでいるやに思われます。
本当にこのままでは団はつぶされてしまいます。
(一同)おす!権田先輩!どうかわれらに!知恵を授けてくださいますようお願い申し上げます!おす!
(一同)おす!
(権田)う〜ん…。
断じて団を…つぶすわけにはいかん。
(広子)でもエステとか行く子もいるんでしょ?
(翔)あっそういうやつもいますけれどもさすがに俺はないですよエステは。
(美紀)えっでも翔君お肌奇麗じゃない?
(翔)ああ…それすごい言われる。
(美紀)うんうん。
(広子)ホントに男の子じゃないみたい。
つるつるで…。
《普通ならここで注ぐだろうビールを》《ほれ金髪ピアス》《気が利かないやつだな》ヒアルロン酸すごいいいですよね。
パックはしてないけど。
あっそう!
(翔)でもお母さんだってじゅうぶんイケてますよ。
手貸して。
ほらすべすべ。
もう現役ばりばりって感じ。
やだ翔君ったら!
(翔)お父さんこぼれてますけど大丈夫ですか?お父さん大丈夫?
(翔)ハハハハ!何さっきからぶすっとして。
感じ悪っ。
あっ…君ねビールぐらい付き合いなさいよ。
(齊藤)おす!第三十八代団長齊藤!いただきます!お〜。
(山下)おす!第三十八代副団長山下!いただきます!翔君お酒駄目な人なの。
お酒もたばこもやらない健康的な人だから。
すいません。
僕これで。
おすし食べちゃってもいいっすか?
(広子)どうぞどうぞ。
(翔)いただきます。
《すしにコーラ?》それで将来のことはどう考えてる?将来?あっ美紀ちゃんとの結婚のことっすか?その前に就職があるだろう。
そうっすよね。
就職…。
金融とかメーカー…あ〜でも商社もいいっすね。
あのね君にはそのポリシー…。
(翔)あっお父さんってエール物産なんですよね。
あそこの社長ってうちのOBなんですよ。
知ってました?君が知ってて社員の僕が知らないわけないだろう。
そうっすよね。
美紀ちゃんのお父さん鋭い。
フフフ…。
ハハハ。
あの方はね裸一貫であの会社をここまで築き上げてきたたたき上げの人なんだ。
第十五代団長荒川剛!いただきます!
(広子)社長さんって応援団の団長さんだったのよね。
親分肌でね。
男たるもんはああじゃなきゃな。
男の価値ってのはねお肌のお手入れで分かるもんじゃないんだ。
おとこ気だ。
なるほど…おとこ気っすか。
カッコイイっすね。
ハハ。
俺はあの人を心から尊敬してるからな。
(男性たち)いただきます。
いただきます。
いただきます。
齊藤山下久しぶりだな。
(齊藤・山下)おす。
おす。
実は権田先輩自分に秘策があります。
(翔)あっでもセタショー時代の応援団っていったら超頭悪いんじゃないですか?何か噂なんだけど…。
(美紀)うん。
(翔)アサガオの観察日記1年付けただけで卒論通ったって。
(美紀)え〜?何それウケる。
えっホントなの?カワイイ。
ねっ?パパ。
(翔)フフフ…。
社会に出たらね学校の勉強なんてのはどうでもいいんだ。
でもお父さん大学早稲田ですよね。
すごくない?関係ないんだよそんなのは。
そうっすかね?そうなんだよ。
そうかもね。
パパいまだに総務課長だし。
営業一筋だったのに飛ばされちゃって…。
もう残業代も出なくなっちゃったし。
(荒川)要は4月に新入生が団員として入ればいいわけです。
そこで不肖荒川奥の手を考えました。
(荒川)自分はある男に団の命運を懸けたいと思ってます。
藤巻課長。
んっ?「トイレットペーパーの納品書に印鑑押してください」って頼んでたんですけど…まだですか。
ごめんごめん。
また忘れてる。
営業から追い出されるはずよね。
・藤巻課長。
んっ?人事部からお電話です。
あっ俺?何?
(社員)何か「社長室に来てほしい」って言ってますけど。
応援団っていうのはいったい…。
常日頃から君らに言い聞かせてるように団は俺にとって心の古里だ。
いや魂と言っても過言ではない。
この会社がここまで大きくなったのも団という心の支えがあったからこそ。
セタショー…いや元い現翌檜大応援団をこのままみすみすつぶすわけにはいかんのだ。
頼むこのとおりだ。
いやあの…社長おやめください。
君が翌檜大に入学し応援団を立て直してくれた暁には必ずや社に戻すと約束する。
むろん社内的には出向という形を取る。
あっう〜ん…。
もちろん社長のお気持ちはじゅうぶんお察し申し上げます。
ですがその…なぜ私がそのような…。
君が適任だと思ったからだ。
(荒川)これは首の皮1枚ぎりぎりの温情だ。
エール物産社是復唱!まず汗をかけ。
汗が出なければ恥をかけ。
汗も恥もかけないときは…。
辞表をかけ。
つまり首だ。

(荒川)《これは応援団OB全員からの誠意だ》おす。

(広子)いってらっしゃい!
(美紀)嘘…。
何それ学生服って。
(広子)社長さんにねプレゼントしてもらったんだって入学のお祝いに。
(美紀)いや…いくらもらったからって今どき誰も着ないよ学生服なんて。
(生徒)ちょっと何あれ。
(生徒)超ウケる!
(生徒)ヤバい!
(広子)そうよね。
そんなところで律義にならなくてもいいのにね。
(美紀)そもそも何で大学へなんか行くことになったわけ?
(広子)それが私にもよく分からないのよ。
もう1回経済を勉強し直すとかマーケティングが何とかって言ってたけど。
ほらお父さんの言ってることっていつも理屈が通ってるようでよく分かんないじゃない?
(美紀)う〜ん…まあ何か経済用語とか使うわりに当たり前のことしか言わないしね。
(広子)でもいいんじゃないかな。
お給料もらえて大学に行けるなんて楽しそうだし。
(美紀)嫌だよ。
お父さんに学校で会ったらどうするの?あっそっか。
それもそうよね。
あ〜もう信じらんない。
私の身にもなってよ。
(荒川)学ランはどうした?あっあの…洋服の方は大学に着いてからと思いまして。
バカ者!学ランは団の魂だろ!町中で制服っていうのも…。
問答無用!返事はおす!「押忍」の精神で乗り切れ!おす。
違う!おす!おす。
おす!おす!
(舌打ち)着替えてこい。
(荒川)本日より君はセタショー元い翌檜大学応援団第五十八代団長だ。
おす。
ありがとうございます。
(荒川)君もこれから大学へ行き恥ずかしい思いをすることまた下を向いて泣きたくなるようなことあるだろう!だが学ランの襟がなぜそんなに高いのかお前は知っているか?はあ…なぜでしょうか?学ランを着て下を向けるか?うつむかないようにするためだ!おす。
大学までは付き添えんが君のことはある者たちに託してある。
ある者たち?聞き返すな。
行けば分かる。
団のこと頼んだぞ。
返事は!おす!よし!もういっちょ!お〜す!
(警備員)おいおいおいおい…。
部外者の人は入校証もらって入って。
おい。
入校証もらっていただけますか?自分は学生ですが。
(警備員)あっ…。
恐れ入りますが学生会館ご存じですか?学生会館?ああ…塹壕館のことですか?塹壕館?
(原)私が応援団の顧問に?なぜ?
(事務局長)原先生の専門分野であります女性学…つまりフェミニズムは女性の解放と地位向上そして男女同権による健全なる社会の構築を目指しまた先生は常日頃から現存する男性社会を痛烈に批判されていると認識しております。
(原)痛烈も何も私は批判しているつもりはございませんが。
失礼いたしました。
(原)それで?応援団はご覧のとおり指導部チアリーダー部吹奏楽部という3つの部門から成り立っております。
チアリーダー部は年々実力を上げておりますし吹奏楽部は昨年の都の大学連盟大会で3位入賞という快挙を成し遂げました。
ですが問題は指導部でございます。
指導部って?あの「フレーフレー」って言う?時代錯誤の?
(学部長)指導部だけがかつて世田谷前科大学と陰で呼ばれていた世田谷商科大学時代のあしき風習を守り続けている。
(学部長)応援団はあっていいのです。
だが健康的で明るくかつ芸術的なものであってほしい。
(事務局長)翌檜大のイメージダウンにつながるような指導部はできることなら…。
ぶっつぶしちまえと?この私に。
(ため息)
(原)松下さんちょっといいかしら?
(沙耶)はい。
(玲奈)あ〜やっぱりいた。
ハハハハハ!あっすいません。
マジで団室使うんですか?かび臭くて病気になっちゃいますよ。
ヤバ過ぎ。
ねえゼンちゃんヤバいよねマジで。
あの…。
あっ…あっ私あのチアリーダー部の部長で応援団副団長の葉月玲奈です。
よろしくお願いします。
あっそうですか…。
土台やってます。
土台?でこっちが吹奏楽部部長でで同じく応援団副団長の園田善彦君です。
あっあの…。
藤巻大介と申します。
どうぞよろしく。
(善彦)あの…。
はい。
会社辞めて団長やるってホントですか?あっいやまあ…あの会社まだ辞めてないですよ。
あの…社会人入学しただけですから。
応援団を立て直すためにね。
物好きですね。
(玲奈)ゼンちゃん。
あ〜いやまあねあの…僕はほらあの会社の命令で仕事として来てるだけですから。
一言言わしてもらっていいですか?どうぞ。
吹奏楽部は吹奏楽をするためのものです。
ああ…そりゃそうだ。
吹奏楽部は本年度より一切応援活動に参加しません。
いやあのちょっと待ってよ。
あの…吹奏楽部も応援団でしょ?あの…応援には漏れなく吹奏楽が付いてくるわけで。
だからそれをことしから廃止したいんです。
以上です。
あのねえちょっ…。
あんまり気にしないでください。
ゼンちゃんああいう言い方しかできないですけど根はそんなに悪い人じゃないんで。
いやまあ彼の人格は置いといてさ…。
それにしても「吹奏楽部は参加できません」っていきなり宣言されてもな。
(玲奈)でもチアと違くて吹奏楽の人ってもともと応援やりたくて入ってきたわけじゃないんですよ。
全体練習始めるぞ。
(一同)はい。
音楽やりたいと思って吹奏楽部に入ったのに年中応援団の活動に駆り出されて。
ふ〜ん…なるほどね。
(玲奈)雨の中の試合とかで演奏すると楽器とか傷んじゃうみたいだし。
去年なんか風邪ひいて定期演奏会に出られなくなっちゃった子とかもいて。
私が何とかゼンちゃんに言っときますけど…。
だってさすがに指導部がおじさん…。
あ〜…。
あっ藤巻…藤巻大介。
うんうん…。
さすがに指導部が藤巻団長一人だとあんまりだし。
あっ!あっあっあっ…あっ!入学式の新歓ステージマジヤバいですよ。
どうします?何?「新歓ステージ」って。
えっ?えっ何も聞いてないんですか?えっ?えっ何で?入学式に…だから応援団のデモンストレーションで団長エール切るんですよ。
新入生の前で。
えっ!わ〜おホントに何も知らないんですか。

(齊藤・山下)・「世田商わが故郷」・「世田商わが胸に未来の光あれ」お〜す!
(電子音)
(沙耶)塹壕館応援団指導部団室にやくざと見まごう中年男性2名乱入。
意味不明な掛け声。
しかも意味なく声がでかい。
彼らは何者なのか。
また密室で何が行われるのか。
閉鎖的空間での応援団のあしき慣習が観察できる可能性あり。
(電子音)お前が第五十八代団長藤巻って者か?はい。
出迎えがなかったようだのう。
あっすみません。
あの…社長にはあの「団室で待ってろ」って言われたもんですから。
どアホ!「待ってろ」と言われて団室で姉ちゃんとくっちゃべってるやつがあるか!まずは先輩の出迎えじゃ!
(山下)まあまあそう吠えるな齊藤。
わしら荒川先輩に頼まれて自分の教育係になった者や。
こっちが齊藤でわしが山下や。
よろしゅう頼むわ。
はい。
あのこちらこそよろしく…。
返事は「おす」じゃろうが〜!おす。
(齊藤)しかし緩い時代になったもんだのう。
OBが来るのに出迎えの一人もいないとは。
これもご時世や。
いつまでも昔話しとったら笑われんど齊藤。
ハハハ分かってるわ。
(山下)人数も違うんや。
わしらのころみたいにOBの出迎えにいちいち兵隊出せるかいな。
兵隊?昔は良かった。
OB1人に出迎え3人出せたじゃけえ。
ああ…1人につき3人ですか。
出迎えは3人いるやろ。
理屈で分からんか?はっ?まずは荷物持ちや。
ああ…荷物持ちが3人?アホ!団が3人おったら家の引っ越しができるわい!のう?
(齊藤)おう。
あのじゃああとの2人は…。
露払いと太刀持ちや。
それが応援団っちゅうもんや!はあ…。
あっいえ…おす。
齊藤これは時間かかるで。
世間知らずやさかい。
あのそれって世間知らずっていうんですかね?姉ちゃんそんなとこでぼうっと突っ立ってないで早う出てってチアの稽古しろよ。
(玲奈)あっすいません。
何か映画みたいだったんでマジ面白くてフフ…がん見しちゃいました。
(齊藤)何だと?
(山下)まあまあまあまあ…。
(玲奈)それじゃ失礼しま〜す!あっあの…。
(齊藤)何じゃ?「露払い」って何ですか?
(齊藤)いいから出てけこら〜。
おす。
失礼しま〜す。
何で怖がらないんだ?あの姉ちゃん。
しゃあない。
これもご時世や。
のう?おす。
よし。
これから特訓じゃ。
えっ?入学式に向けてわしらが稽古つけたるっちゅうとんねん!一世一代乾坤一擲。
新年度の始まりを飾る新入生歓迎のリーダーは団の最も重要な行事じゃ。
分かったか?おす!
(真由美)すごいですねタダで大学行かせてくれるなんて。
今どきないですよそんな太っ腹な会社。
学費も出してくれるしお給料ももらえるのよ。
(真由美)そんな優遇されてるなんてご主人よっぽど優秀なんですね。
さあそれはどうかしら。
でも気を付けた方がいいですよ。
若い女子大生に囲まれて変な気とか起こさないように。
まさか。
そんなことあるわけないわようちのパパに限って。
ないない。
そういえばけさ変な親父見たな。
(真由美)えっ?それがさう〜ん…一昔前の長ランっていうの?『花の応援団』みたいな制服着てさ。
(真由美)何ですか?『花の応援団』って。
知らない?「クエクエクエ〜!」って。
春になると変なのが出てくるから気を付けないと。
ねっ?藤巻さん。
(広子)はいそうですね。
ハハハハ…。
藤巻!これぐらいでへばってどないするんじゃ!
(齊藤)気合入れていけ!おす。
(山下)団長のど根性見したらんかい!
(沙耶)革靴と学ランでの無意味なランニング。
無意味などう喝。
気合?おす。
おす…?無意味な掛け声。
これ以上観察する必要もなし。
(電子音)
(齊藤)ここが世田商応援団の稽古場じゃ。
オエッ…。
(山下)懐かしいのう。
荒川先輩のころはここら一面ススキが生い茂ってまずはその草刈りから始めたそうじゃ。
いうてみたらこの河原には歴代先輩方の汗と涙が染み込んどるわけや。
おう。
のう藤巻。
はい。
おす。
団は運動部と違うて何の取りえもない連中の集まりじゃ。
野球がうまいわけでも足が速いわけでもない。
いうたらスポーツ武道は素人じゃ。
素人がその道のプロを応援するのは本来傲慢なことじゃ。
そこを忘れんな。
おす。
せやからわしらはできることをとにかくひたすら懸命にやる。
これしかないねん。
喉つぶせや。
はっ?今のお前には喉をつぶすことぐらいしかできんじゃろ言うとるんよ。
それが団の誠意っちゅうもんや!
(山下)よっしゃ。
エール切ってみるか。
齊藤に聞かしたれ。
ここからですか?そうや。
ここからあそこまで…。
ご託の多いやっちゃのう!向こう側に届いたら齊藤がサイン出すさかいそれまであんじょう気張ってやらんかい!おす!まさかエールの切り方も教わってこんかったんか?おす!荒川先輩丸投げか。
おす!
(山下)腕はもっと上やろが!痛っ…。
お前親指は…こら!上に向けんかい!痛い…。
(山下)「痛い痛い」言うな!ほらこうや!それでやってみ!よし。
やってみるか。
おす!おす!翌檜大学の〜!勝利を期して〜!フレー!フレー!あ〜す〜な〜ろ〜!
(山下)何や?今の。
自分わしの言うたこと聞こえんかったんか?わしは齊藤に聞かしたれ言うたんじゃ!
(虫の飛ぶ音)
(山下)もう一遍や!おす!フレー!
(齊藤)あ〜…。
おっ。
おっ!フレー!あ〜す〜な〜ろ〜!
(学生)ケイガ〜ク!
(学生たちの掛け声)
(学生)何だ?あれ。
(学生)翌檜の新入生か?
(学生)何だ?あのエール。
めちゃくちゃだな。
(江本)何しゃべってんだ!さっさと走れ!
(学生たち)おす!
(学生)ケイガ〜ク!
(学生たちの掛け声)
(学生)ケイガ〜ク!
(学生たちの掛け声)
(学生)ケイガ〜ク!
(学生たちの掛け声)
(山下)のう藤巻。
リハーサルはもう済んだか?そろそろ本気出してもらわな日が暮れてしまうがな。
誰が休め言うたんじゃい!さっさとやらんかい!お言葉ですが山下さん私は仕事としてこの学校に来てるんでいくら先輩とはいえそっそこまで…あなたに…。
何じゃおら!何が仕事じゃ!今度言うてみこら!多摩川沈めてまうぞ!はいもしもし。
サニー損保の山下でございます。
はい。
あっ加藤さまですか。
いつもお世話になっております。
あっ私今外に出ておりまして。
明日の朝一には…。
はい。
必ずご連絡を。
はい。
失礼いたします。
はい。
何や?あっいえ…。
失礼ですがあの…先輩のご職業は?あっ?損保会社の営業所長や。
ああ…保険会社の所長さんでいらっしゃる。
あの…あちらの先輩は?
(山下)齊藤か。
齊藤は三つ葉社いう出版社の営業や。
漢字もろくに読めんやつが何をとち狂ったか今じゃ本を売り歩いとる。
世も末や。
ええか?藤巻。
わしら遊びでこんなことやってんの違うぞ。
わしらホンマに本気で団をつぶしとうないんや。
団がつぶれたら困るんや。
ええか?われ。
よう見てよう聞いとけ。
声を届かせよう思うな。
わしらが届かせるのは根性や。
魂のメッセージや。
お〜い!齊藤聞こえるか〜!?何じゃ〜!
(山下)藤巻はまだまだあか〜ん!分かっとる〜!気合が届いたら返事したれや〜!お〜!声は届かんでもええ。
気合を届けたれ。
それが応援の基本や。
おす!フレー!フレー!あ〜す〜な〜ろ〜!フレー!何してるのかしらパパ。
遅いわね。
案外女子大生と合コンとかしてたりして。
(翔)えっマジで?あっそういえばパパ昔合コン好きだったわね。
そうなんすか?ママの行ってた短大とパパの大学って隣同士だったの。
(美紀)ふ〜ん。
で合コンに行くと必ずいるわけ。
えっお父さんが?マジ?え〜ウケる。
そこで知り合ったんすか?
(広子)うん。
でもお母さん鬼モテたっしょ。
(広子)モテた。
鬼色んな人に言い寄られた。
ねえ「鬼」の使い方ってこれでいい?
(翔)合ってます。
(美紀)じゃあ何でお父さんと結婚したの?そこなのよ。
そこが全然思い出せないのよね。
えっお母さんサークルとか入ってなかったんすか?入ってたよ。
私はシーズンスポーツ同好会ででパパは…。
あれ?パパ何だっけな。
(美紀)何?そうだ。
チー研。
(翔・美紀)チー研?・
(ドアの開く音)・ただいま!
(広子)おかえりなさい。
ねえパパって大学のとき確か松山千春研究会…。
あっ…。
えっ!パパ!大丈夫!?ねえ美紀翔君ちょっと来て!パパが…パパが!
(美紀)何?えっ!どうしたの?
(翔)あっ美紀ちゃんのお父さん大丈夫っすか?あっ…お前が何でいるんだ!俺はお前たちのこと許したわけじゃ…。
(美紀)えっ?
(翔)え〜!いってくるぞ新之介。
これも仕事だ。
お父さんなこれやんないと会社首になっちゃうんだ。
信じらんないだろ?でもな…。
・「水面に」
(齊藤)いいか?藤巻。
新歓エールは一発勝負じゃ。
やり直しは利かん。
おす。
何ちゅう声出しとんねんおい。
ほれあめちゃんなめ。
おす。
ありがとうございます。
(山下)齊藤切っとかんでええんか?
(齊藤)おう忘れるとこだった。
(山下)あ〜会社にバレたらえらいこっちゃ。
そろそろわしらも着替えるか。
(齊藤)うん。
あっ先輩たちも参加していただけるんですか?当たり前じゃ。
何のために会社サボって来とると思うとるんじゃ。
お前団の三大魂何か言うてみ。
おす。
え〜団旗太鼓そして学ランです。
おう。
その団旗と太鼓を今日はわしらが受け持ったるっちゅうとんねん。
ああ…。
(玲奈)団長!チアのスタンバイできました。
(山下)ノックぐらいさせたんかい!
(玲奈)あっすいません。
あっこの子がえっと…サブリーダーでトップの小泉紫乃です。
(紫乃)小泉紫乃と申します。
本日はよろしくお願いします。
おす。
じゃお先に行ってま〜す。
おす。
わしらのころはバトン部ももう少し格好がおとなしかったけどな。
うん…これもご時世や。
(齊藤)フッ。
(齊藤)か〜!藤巻…。
(山下)何しとんねん藤巻。
露払いなしでOB歩かすんか?走れ!前に出んかい!おす!
(山下)走れ走れ!おす。
藤巻こけてみ!
(齊藤)ハハ…冗談じゃ。
頑張れ団長!フレーフレー団長〜!
(山下・齊藤)ハハハハ…。
《死ぬ。
このままではいつか死ぬ》《1人でも団員が増えればその分楽になる》《1人より2人2人より3人》《そのためには新入生を勧誘しなければ》・
(吹奏楽の演奏)おい頑張ってるぞ前座も。
わしらのころよりごっつうまなっとるな。
アホ。
鼓笛隊にうまい下手もあるか。
生意気に独立宣言なんてしやがって。
しかし姉ちゃんが多いのう。
新入生の割合は女子が男子の4倍だそうです。
何が悲しくて女子大となんか合併したんだ。
(山下)合併いうより占拠やぞ。
完全に乗っ取られとるで。
(善彦)ありがとうございました。
吹奏楽部に興味のある方は気軽に部室の方へ遊びに来てください。
なおもしも吹奏楽に興味を持ちながらも「応援団とセットになっているから」という理由で入部をためらっている人心配には及びません。
ことしから応援団とは無関係です。
純粋に音楽を楽しみたい方ぜひわが吹奏楽部へ。
くそっ!あのモヤシ野郎。
調子に乗りやがって。

(吹奏楽の演奏)
(部員たち)あ!す!な!ろ!やっぱり翌檜ナンバーワン!
(部員たち)レッツゴー!翌檜!ゴー!ファイト!ウィン!ゴー!ファイト!ウィン!ゴー!ファイト!ウィン!曲芸やのう。
(齊藤)ケツ丸出しじゃぞ。
そやからそれもご時世や。
皆さんありがとうございます!
(部員たち)ありがとうございます!おっ終わったで。
いよいよわしらの番じゃのう。
おす。
(玲奈)続い…続いてトリを務めますのは指導部です。
皆さんぜひごゆっくり見てってください!その場所でそのまんまぜひ楽しんでってください!藤巻…何だ?このざま。
何で人が集まらないんだ?あっ…。
おす。
申し訳ありません。
(電子音)こうやってあしき男どもの慣習肉体的精神的暴力で男は上下関係…いや主従関係をつくり出しがんじがらめにし洗脳していく。
その負の連鎖が脈々と続いていくのだ。
意味のない罵声。
意味のない暴力。
意味のない体力の消耗。
理解不能だ。
(電子音)
(齊藤)いいか?校歌の後のエールはエンドレスじゃ!
(山下)根性入れてエール切りよったら人は集まってきよる。
(齊藤)お前の気合でがきどもを集めるんじゃ。
うつむくな!胸を張れ!おす!人生は気合と根性じゃ。
その2つがあればどんなことでも乗り切れる。
おす!『翌檜大学校歌』せ〜!・「多摩川の水面に光るわれらが汗と」・「涙こぼれる友らの絆」・「美しき心美しき魂」・「激しき息吹熱く」・「翌檜翌檜わが母校」・「世田商」
(山下)・「世田商」・「わが故郷」・「翌檜わが胸に未来の光あれ」翌檜大学新入生諸君の〜!前途を祝して〜!頑張れ藤巻。
ご時世に負けたらあかんで。
フレー!フレー!あ〜す〜な〜ろ〜!よし。
声は出てんな。
あとは気合や。
気合で人を呼んでみ。
フレー!はい!フレーフレー翌檜!フレーフレー翌檜〜!《この野郎ふざけやがって》《なめんじゃないぞ》《こっちを向け》《聞こえないのか?》《お前たちの大学の名前を呼んでるんだぞ》《見えないのか?》《あの人が持ってる旗はお前らの学校の校旗なんだぞ》《分かってくれ》《この2人は仕事をサボって一銭にもならない応援をお前たちと団のために…》《おいせめて足を止めろ》はい!フレーフレー翌檜!《金髪こっちへ来い》《笑ってもあきれてもいい》《本気で美紀と付き合いたいなら恥を忍んだ大人の酔狂を真正面から受け止めてみ…》翌檜〜!
(齊藤)ぼけ!リーダー振っとる最中にひっくり返る団長がいるか!情けない…ホンマに情けない。
団の面目丸つぶれや!
(齊藤)団員が集まらんかったらお前永遠に学生のまんまじゃぞ。
そんな…。
(齊藤)荒川先輩に理屈が通じると思うか?
(山下)藤巻わしら冗談で言うてんのちゃうぞ。
荒川先輩は本気や。
荒川先輩だけやない。
世田商応援団歴代団長以下全員のこれは団への…団への!・
(健太)おす!
(齊藤)誰だ!?
(健太)失礼します。
(山下)何や?われ。
中坊が何か用か?自分は中学生ではありません。
文理学部新入生の野口健太と申します!先ほどの応援に感動し応援団に入団したくやってまいりました!あのそれ…ホントに?おす!かねてより応援団に憧れていました。

(沙耶)希望者は1人ではありません。
私も入団を希望します。
女子。
(齊藤)女。
あの君ねえ…。
女性が応援団指導部に入ることに何か問題はありますか?あっいやそれはですね…。
2014/07/15(火) 21:00〜22:09
関西テレビ1
[新]あすなろ三三七拍子 #01[字]

重松清原作の人気小説ついにドラマ化!突然応援団に出向させられる中年サラリーマンの悲劇!このままでは死ぬ…!▽柳葉敏郎 剛力彩芽 風間俊介 反町隆史

詳細情報
番組内容
 藤巻大介(柳葉敏郎)は、エール物産で総務部課長を務めるサラリーマン。
 ある休日、娘の美紀(飯豊まりえ)の恋人が遊びに来るとはしゃぐ妻の広子(菊池桃子)を見て、1人面白くない大介。家にやって来た保阪翔(風間俊介)の、金髪ピアス姿、そして敬語を使えずチャラチャラしている様子に腹を立てる。
 とあるホテルで開かれている旧・世田谷商科大学応援団のOB会。今はエール物産で社長をしている幹事長の
番組内容2
荒川剛(西田敏行)をはじめとしたOBの齊藤裕一(反町隆史)、山下正人(ほんこん)らは、10年前に女子大と合併して翌檜(あすなろ)大学と名前を変えて以来、応援団が衰退の一途をたどっていることを嘆く。
 数日後、社長室に呼び出された大介。荒川から、翌檜大学へ社会人入学をして廃部寸前の応援団を立て直してほしいと頼み込まれる。荒川は大介がリストラ候補であることを告げ、強引に了承させる。
 3月。翌檜大学の
番組内容3
応援団室へ向かった大介は、チアリーダー部部長の葉月玲奈(高畑充希)と出会い、新歓ステージの存在を教えられる。そこへ齊藤と山下がやって来て、大介を河原へ連れ出す。多摩川の土手を学ラン姿で走らされ、応援団の特訓を受ける大介。その様子を遠くから観察している謎の女子大生・松下沙耶(剛力彩芽)。
 翌檜大学入学式。講堂では新歓ステージが始まり、大介は新入生勧誘のため必死で覚えたてのエールを披露するが・・・。
出演者
藤巻大介: 柳葉敏郎 
松下沙耶: 剛力彩芽 
保阪翔: 風間俊介 
葉月玲奈: 高畑充希 
野口健太: 大内田悠平 

藤巻美紀: 飯豊まりえ 
藤巻広子: 菊池桃子 

荒川剛: 西田敏行(特別出演) 

原智子: 森口瑤子 
山下正人: ほんこん 
齊藤裕一: 反町隆史
スタッフ
【原作】
重松清「あすなろ三三七拍子」(講談社文庫刊)(C)重松清/講談社 

【脚本】
吉田紀子 
ふじきみつ彦 

【編成企画】
水野綾子 

【プロデュース】
小林宙 

【演出】
土方政人 
植田泰史 

【音楽】
大友良英 

【劇中歌】
Sachiko M 

【制作】
フジテレビ 

【制作著作】
共同テレビ

ジャンル :
ドラマ – 国内ドラマ

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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