(アナウンス)「第86回選抜高等学校野球大会の開会式を行います」。
春センバツ。
あのチームが帰ってきました。
(アナウンス)「池田高校徳島」。
おなじみ胸に「IKEDA」のユニホーム。
徳島県立池田高校22年ぶりの甲子園です。
チームを率いるのは岡田康志さん53歳。
池田高校のOBで選手としても甲子園に出場した経験があります。
今回監督として晴れの舞台に戻ってきました。
(歓声)野球王国四国の人たちが長い間待ち望んだ池田高校の復活。
その陰には知られざる物語がありました。
前行ったらあかんぞ。
岡田さんはかつて自分も体験した池田高校の野球をどう受け継いでいけばいいのか模索を続けてきました。
恩師故蔦文也監督から贈られた言葉です。
「鍛錬千日之行勝負一瞬之行」。
岡田さんはこの言葉に込められた恩師の教えを忠実に守ろうとしてきました。
しかし長い葛藤の末に蔦さんに縛られず自分なりに野球と向き合えるようになったのです。
別に昔こうやられてたから…そういう気持ちになったですね。
恩師を乗り越えて一歩ずつ「自分流」でつかみ取った甲子園。
岡田さんの歩みを見つめます。
徳島県三好市池田町。
池田高校野球部は今も変わらずこの場所で白球を追い続けています。
先ほど…やったぜ〜!
(部員たち)イェーイ!1月24日。
22年ぶりの吉報がもたらされました。
岡田さんがまず報告に向かったのが13年前に亡くなった蔦さんの自宅でした。
こんにちは。
こんにちは。
すんません。
あっこんにちは。
いやいやもう座っとって座っとって。
迎えてくれたのは妻のキミ子さん。
蔦さんに代わって岡田さんを祝福してくれました。
ありがとうございます。
まあありがとうございます。
分かりました。
はい頑張ります。
いつも雪に悩まされる池田の冬。
なかなか本格的な練習が始められません。
練習場では地面にブルーシートをかぶせて霜が降りるのを防ぎます。
この日はブルーシートの上におよそ5cmの雪が積もっていました。
少しでも早く練習を始めたいと岡田さんも選手と共に雪かきです。
(取材者)やっぱりボール握ってないからですかね?センバツで岡田さんはかつての池田のイメージに縛られない今の池田高校の野球を見せたいと考えていました。
そういうスタイルで得た甲子園ですから。
(実況)「バッターは4番ピッチャーの畠山。
畠山の当たりレフトへ!これは大きい!」。
かつて池田の代名詞だった…蔦監督が鍛え上げた強力打線で春・夏合わせて優勝3回。
地方の公立高校の快進撃に日本中が熱狂しました。
(実況)「優勝!池田高校初優勝。
夏・春連覇です」。
岡田さんは昭和54年夏の甲子園にキャプテンとして出場し準優勝。
蔦監督のもとで池田の輝かしい歴史を作った一人です。
その後最先端のスポーツ科学を研究する筑波大学に進学。
卒業と同時に母校の教員になりました。
岡田さんは当初から蔦イズムを受け継ぐ存在として期待されていたのです。
平成3年高齢の蔦さんに代わって岡田さんが野球部の監督に。
就任直後は甲子園出場を果たしたもののその後は周囲の期待に応えられませんでした。
常勝池田のブランドは失われ岡田さんは追い詰められていきます。
そんな岡田さんの支えとなったのは高校時代に蔦さんからもらった言葉でした。
「鍛錬千日之行勝負一瞬之行」。
「勝負はたった1球で決まる。
その一瞬のために日々精進せよ」という教えです。
「千日」とは高校3年間の事。
がむしゃらに努力を続ける事で結果が得られる。
岡田さんはこの言葉に高校野球の神髄があると信じて疑いませんでした。
逆にそうする事によって…池田の復活を目指して懸命に闘っていた岡田さん。
36歳の時転機が訪れました。
人事異動により14年間勤めた池田高校を離れる事になったのです。
赴任先は県立穴吹高校。
ここでも野球部の監督に就任しました。
当時の野球部は僅か4人。
そのうち2人は初心者で甲子園を目指すようなチームではありませんでした。
当時の部員の一人…今は地元の病院で介護職員として働いています。
大舘さんは池田高校から新しい監督が来ると聞いて期待に胸を躍らせたといいます。
池田っていうとなんか横綱みたいな感じで。
まして穴吹高校に来てくれるとは思ってなかったんですよね。
「どんな練習なんだろう?」って先輩らと話をしたのを覚えてますね。
岡田さんのもとで大舘さんたちは「野球がうまくなりたい」とひたむきに練習を続けました。
野球のエリート街道を歩んできた岡田さん。
懸命に取り組む彼らの姿に大切なものを見いだしました。
穴吹高校に来て8年後積み上げてきた指導が結果となって表れました。
春の県大会でベスト4に進出したのです。
やらされるのではなく選手が自ら練習に取り組めば成果は出る。
胸に「Anabuki」と刻まれたユニホームを着た12年間を経て岡田さんは指導者として新たな一歩を踏み出しました。
センバツ開幕まであと1か月となった2月下旬。
雪も解けたグラウンドでは試合を想定した実戦的な練習が重ねられていました。
今年のチームは守備の堅さが特徴です。
かつて甲子園を沸かせたOBたちが練習に駆けつけました。
今のも正面いけるぞ!グラブにも当たらんか!夏・春連覇を果たした池田黄金期のキャプテン…
(江上)どうや!?だぁ〜もう一丁!かつては猛練習を課していた岡田さん。
今では全体練習の時間を減らし自主練習は選手の判断に任せています。
個別の指導はほとんど行いません。
課題にどう取り組むのか選手自身に考えさせています。
穴吹高校での経験からたどりついた岡田流の指導理念です。
実際にやってるのはこの子たちですから。
ちょっと分からんとこがあったり道が違う方向いきよる時に「それはちゃうぞ」っていう事だけ教えてやっとったらその方が伸びていくと思うんですよね。
先生に言われて動くようでは…そんなんではやっぱり逆に勝てるチームにもならんだろうと思うし。
岡田さんが最近気にかけている選手がいます。
控えの…渡邉投手はもともとエースとして活躍していました。
期待されてマウンドに上がった渡邉投手。
(歓声と拍手)しかし結果を残せず悔しい思いをしました。
「抑えなければ」という力みから上半身だけで投げるようになりフォームを崩した事が原因でした。
岡田さんは考えるきっかけだけを与え渡邉投手が課題をどう克服するのか見守ります。
渡邉投手が練習を終えて帰宅するのは夜9時ごろ。
コーチや仲間のアドバイスをヒントに自分で考えてトレーニングを続けます。
上半身だけでなく体全体を使って投げられるよう自宅の柱で腰回りを鍛えます。
毎日およそ1時間自主トレーニングを積み重ねる渡邉投手です。
センバツまであと2週間。
池田高校は最後の仕上げとして鹿児島に遠征しました。
練習試合の相手は全国屈指の強豪樟南高校です。
岡田さんは6回から渡邉投手をマウンドに送りました。
この日の渡邉投手はランナーを出しても力まず体全体で投げて相手を抑えます。
マウンド上で落ち着きが出てきました。
今やったと思ったわ。
喜びを隠さない岡田さん。
集中集中!渡邉投手が自分なりの工夫で結果を出した事を評価しました。
手応えをつかんだ岡田さん。
落ちるなよ。
乾杯!あ〜できた。
甲子園を前につかの間の休息です。
じぃじの元気の源やんな。
な?センバツへ向けて目指すチームづくりができたと感じていました。
高校野球の指導者となってから片時も忘れる事のなかった恩師の言葉。
「鍛錬千日」には蔦監督とは違う岡田流の解釈が生まれていました。
結局それが……という事を今大事に考えてます。
22年ぶりの甲子園。
岡田流の池田野球を見せる時がやって来ました。
長年追い求めてた所ですから久しぶりにこのグラウンドに立ててほんとうれしいです。
(拍手)この試合持ち味の守備が頑張ります。
(歓声と拍手)守りでリズムをつくって接戦に持ち込む。
岡田さんがねらった試合展開です。
9回裏。
(実況)「低め!ショートは…捕れない!三塁ランナー帰ってきて二塁ランナーも帰ってきました!サヨナラ!池田高校4対3海南高校を破りました!」。
・「しののめの上野が丘に」・「花めぐり」・「そびゆるいらか」・「たたえよ池高」・「輝く池高」・「池高池高」・「おおわれらが池高」
(部員たち)ありがとうございました!校歌を聴いた時にはねちょっとじ〜んときました。
やっぱりね。
この校歌をもう一回甲子園で歌うんだ流すんだっていう思いを持ってねずっとこの二十何年間やってきたんで。
続く2回戦。
4対1とリードされた8回裏。
もう1点もやれない大切な場面で岡田さんは渡邉投手にマウンドを任せました。
ランナーを出しながらも後続を打ち取った渡邉投手。
リリーフの役目を果たし期待に応えました。
試合には敗れましたが岡田さんの目指す野球が甲子園に刻まれました。
あしたから4月。
新たなスタートです。
岡田さんは選手たちと共に部室の掃除を行っていました。
新入部員を迎えるための恒例行事です。
岡田さんの気持ちは夏に向かっています。
今やってる生徒たちがこうして一生懸命やってくれてた事が結果として…一つ結果として生まれたと思います。
だからそれをこれからの池田高校の野球とかにつなげていかないかんと思いますよね。
「もう一度あの甲子園に帰りたい」という気持ちが…。
今はそういう気持ちでいっぱいですね。
前の膝が開くなよ!当たる前に開いとるやつは力が逃げとるぞ!一歩ずつ「自分流」で。
池田の伝統に新たな1ページを開いた岡田さんと選手たち。
次の挑戦が始まっています。
2014/06/30(月) 15:15〜15:41
NHK総合1・神戸
ろーかる ドキュメントしこく「一歩ずつ“自分流”で〜池田高校 甲子園への道〜」[字]
22年ぶりに甲子園を沸かせた池田高校。監督の岡田康志さんは「やまびこ打線」で全国制覇を成し遂げた故・蔦文也さんの教え子です。その監督哲学に迫るドキュメンタリー。
詳細情報
番組内容
この春、22年ぶりに甲子園を沸かせた池田高校。監督の岡田康志さんは「やまびこ打線」で全国制覇を成し遂げた故・蔦文也さんの教え子だ。偉大な恩師と比較され、重圧に苦しんだ時期もあったという。転機となったのはかつて赴任した高校で、野球経験のない生徒たちと向き合い、ゼロからチーム作りをした経験だった。恩師を超えようと、葛藤の末につかんだ“自分流”で甲子園に臨んだ岡田さん。挑戦の日々を見つめる。
出演者
【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – スポーツ
ニュース/報道 – ローカル・地域
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