札幌の住宅街になぜか全国から客が集まるレストランがある。
振る舞われるのは北海道の海の幸山の幸。
30年その料理法を突き詰めてきたシェフによる極上の一品だ。
そのシェフはいつも陽気でおしゃべり好き。
パンパンって。
北海道から世界にその名がとどろくフレンチシェフ。
中道の真骨頂はその開拓魂。
あくなき探求心で料理の地平を切り開く。
(主題歌)北海道の食材を主役に据えた独創的なフレンチ。
その味は…田舎にうずもれたくないともがき苦しんだ30代。
初夏料理人泣かせと言われる魚で新作料理に挑む。
行き詰まる厨房。
自問自答が続く。
北の大地北海道。
陽気なシェフの知られざる闘いに密着!中道の店は札幌市の住宅街にある。
朝8時半。
中道の一日は店の植木に水をやる事から始まる。
中道はどんな時も至って楽しげだ。
中道の厨房には近場で取れた新鮮な食材が毎日運ばれてくる。
食材の産地である強みを生かして中道は北海道フレンチと呼ばれる独自の料理を切り開いてきた。
一般にフランス料理はオーケストラに例えられる。
さまざまな食材とソースを組み合わせ多彩な味のハーモニーを生み出す。
だが中道は一皿に使う食材をあえて絞り込む。
そしてその食材の味を徹底的に引き立たせるために技を駆使する。
地元産取れたてのアスパラガスを取り出した。
味も食感も申し分ない。
だが中道が最も注目したのはその香りだ。
もともと豊かな香りを更に際立たせるために使うのはむいたあとの皮だ。
この皮を水に浸して香りを抽出しそれでアスパラを茹でる。
純粋な香りだけを取り出すために2時間かけるこの水出しに行き着いた。
中道は自らが求める料理をこう表現する。
「粗野である」とは食材そのものの味が力強く感じられる事。
だがそれだけでは雑味や臭みもあり本当の意味で食材の魅力を伝えたとはいえない。
食材の持つ力を予想を超える形で伝えてこそ料理人。
中道はそう信じている。
粗野なおかつ上質。
それを目指して中道は自らの料理を進化させてきた。
コース料理の最初に登場するのは…牛蒡を一度凍らせ皮ごと砕く事で土の風味が豊かに立ち上がるスープを生み出した。
次に出すのはあのアスパラガス。
香りの詰まった煮汁で茹でていく。
香り食感味。
全てが最高の状態になるタイミングを秒単位で狙う。
いっぺんに?はいジャーッといって下さい。
一気に?ジャーッと。
(ウエーター)いい感じ。
すばらしい完璧。
そしていよいよメインディッシュに取りかかる。
カスベのムニエルだ。
カスベは淡泊な味わいと弾力のある食感が魅力の魚。
その魅力を極限まで引き出すために中道は独自の方法を編み出した。
カスベをバターで焼き始めた。
アロゼは火を均一に入れかつ表面の乾きを防ぐために使う基本的な技法だ。
だが中道はこの基本の技術を徹底的に突き詰めてきた。
バターが僅かでも焦げれば淡泊なカスベの風味が損なわれる。
かといって温度が低すぎるとバターが香ばしくならない。
そのギリギリの温度は110℃。
泡の大きさで温度を見極めながら溶けたバターを丹念にかけていく。
温度が上がる直前のタイミングで冷たいバターを加え110℃を保ち続ける。
人が驚くような斬新な料理法では決してない。
だがこんな地道な工夫にこそ本当の進化があると中道は言う。
焼き上がると即座に客席に運ぶ。
この日カスベのムニエルを食べた有名パティシエが驚きを伝えにやって来た。
北海道フレンチを掲げるシェフ中道博さん。
最高の食材にこだわりたいと自ら産地を駆け回っている。
この日は車で3時間かけて契約している野菜農家を訪ねた。
新しい野菜が収穫時期を迎えたという連絡が入ったのだ。
おお〜いいね!農家の橋さん。
年間70種類もの野菜を育てその味で中道さんをうならせている。
夫婦。
仲いいんだよ。
(橋)いや仲良くない。
(中道)仲良くない…ハハハ!中道さんが農家を足しげく回るのはその姿勢から刺激をもらうからでもある。
(中道)そうでしょ?言ってやってよ。
何とかいいものを作ろうと意地を張っている姿を見ると力が湧いてくるのだという。
農家の橋さんから新たな野菜を手に入れた5月半ば。
中道は大きな仕事に備え始めた。
2週間後に東京で開かれる大規模なパーティー。
全国から一流料理人や評論家が集う中北海道の食材を披露する。
メニューの試作が始まった。
作り始めたのはヒラメのカルパッチョ。
今回中道はヒラメよりも橋さんの野菜を主役に据えたいと考えていた。
パーティー当日を迎えた。
カルパッチョの準備に取りかかった中道がある事に気付いた。
冷蔵庫から出した皿にすぐ水滴がつくほど東京は気温も湿度も高い。
これではヒラメが温まりうまみが強く出過ぎて野菜が負けてしまう。
本番まで1時間を切っている。
北海道の食材を料理する者として強く意識している事がある。
中道が動き出した。
ヒラメのうまみは抑えられない。
ならばソースの微調整で野菜の甘みを引き立てる。
酸味のあるビネグレットソースを減らしオリーブオイルを補う。
ヒラメのカルパッチョですね。
本番ギリギリで完成したカルパッチョ。
料理は客を北海道の世界に引きずり込んだ。
(中道)どうもありがとうございました。
ぜひよろしくお願いします。
どうもありがとうございましたぜひ来て下さい。
ありがとうございました。
どうもありがとうございました。
おいしかったですよ。
中道さんにはお気に入りの場所がある。
北海道の歴史を紹介する資料館だ。
食ってるやつ?
(中道)これだよ。
原野を切り開いた開拓者たちの写真を折に触れて眺める。
今この土地をこよなく愛する中道さん。
でもその気持ちが生まれるまでには長い葛藤の日々があった。
中道さんはもともと北海道の育ちではない。
加賀百万石の伝統息づく北陸金沢で少年時代を過ごした。
中道さんが15歳の時金箔職人だった父の仕事がなくなり移住を余儀なくされた。
移り住んだ先は母の故郷北海道登別。
そこで一家は小さな食堂を営む事になった。
金沢と比べると閑散とした町並み。
北海道は好きになれないと感じたという。
高校卒業後調理師学校でフランス料理を学んだのは北海道を離れ外国で暮らしたかったから。
そして23歳の時フランスに渡った。
日本には帰らない覚悟で必死に勉強した。
必死必死。
これ分かるでしょうこの汚れ具合。
この汚れ具合分かる?まあ全然分からなかったからね。
メキメキと腕を上げ有名レストランで働けるようになった3年目。
思わぬ事態が待っていた。
父が難病にかかり看病が必要な状態になった。
一人息子としては北海道に帰るしかなかった。
しかたなく札幌に小さな店を開いた。
中道さんは必死で最先端のフランス料理を作った。
その料理はすぐに地元テレビで取り上げられ話題になった。
でも中道さんの心は満たされなかった。
「所詮物珍しさが受けているだけ。
本当に厳しく料理が評価されているわけではない」。
「この場所では自分の成長が止まってしまうのではないか」。
日に日にいらだちは募りスタッフにどなりちらすようになった。
ついにある日何もかもが嫌になった。
厨房を飛び出しやみくもに走り電柱に激突した。
「もうやめたい」。
捨てばちな気分の時友人にある場所へと誘われた。
車で2時間の真狩村。
飲んでほしい湧き水があるという。
一口飲んで驚いた。
こんなにおいしい水はかつて飲んだ事はない。
近くの畑で取れた野菜を食べさせてもらうとそのおいしさにも衝撃を受けた。
聞けばその畑は親や祖父母が原野を一から開墾した宝物だという。
一つの思いが込み上げてきた。
北海道には世界のどこにも引けを取らない食材がある。
ならば自分はその食材を最高に引き立てる料理を作り上げてみせる。
胸の中に確固たる決意が生まれた。
あの日から20年。
今中道さんのもとには東京や大阪から出店の誘いが数多く寄せられる。
でも中道さんは全て断っている。
「北海道こそ自分の生きる土地」。
誇りを持ってそう言い切る。
この日厨房に初夏を告げる食材が運ばれてきた。
通称アブラコ。
コクのある甘みとしっとりした食感が味わえる北海道を代表する魚だ。
中道は30年にわたってソテーや蒸し焼きなどアブラコへのあらゆる火の入れ方を研究してきた。
だがアブラコの魅力を最高に引き出す究極の料理法はいまだ見つかっていない。
更なる進化を求めて今年も宿敵との格闘が幕を開けた。
アブラコと向き合って30年。
今年中道には新たなアイデアがあった。
アブラコを煮出してコクのあるソースを作る。
骨や頭だけではなく身ごと使ってダシをとる。
アブラコのブイヤベースソースが出来た。
問題はこれに合わせるアブラコの焼き方だ。
今年は炭火を試してみる。
去年羊を焼く時に会得したという特別な火の入れ方で身のほっくり感をねらう。
果たしてどうか。
(調理スタッフ)先にソースを…。
ブイヤベースのソースをかけ試食する。
だがナイフを入れた瞬間。
身の表面から水分が抜けしっとりした食感が失われていた。
やはりアブラコは難しい。
更に別の方法を試してみる。
ブイヤベースにアブラコを入れて加熱しアロゼを続けてみる。
繊細な身が固くならないよう60℃ほどの低温でゆっくり火を通していく。
少量のリゾットを添えてみた。
身のしっとり感とコクのある甘みが両立した。
山口!中道は新たなアブラコ料理を生み出せる手応えを感じていた。
究極のアブラコ料理を目指して更に微調整を続けていく。
4日後。
・はい。
オーダーが入った事を想定し客に出すまでの手順を確認する。
(中道)いいか?そしたら…どのタイミングで調理すれば最もおいしく提供できるか。
1名アブラコいきます。
(中道)はい。
初めて食べる店のスタッフが客の役をする。
だがスタッフの反応は芳しくない。
なぜかソースに僅かな魚臭さが加わってしまっている。
作り方はほとんど変えていないのに一体なぜなのか。
はい。
あ〜あ。
火の入れ方タイミング温度。
細かなポイントを考え続ける。
料理人になって40年。
壁にぶつかりながらつかんだ流儀がある。
翌日。
新たな料理法を一晩中練っていた中道が再びアブラコに向き合う。
あはい。
すんません。
まずは火の入れ方を変える。
アロゼをやめ鍋に蓋をして穏やかに蒸す事で身のしっとり感を高める。
そしていよいよなぜか魚臭さが感じられたソース。
昨日まではアブラコの身を煮た煮汁をそのままソースに使っていた。
コクを出すため煮汁をソースにするのはフランス料理の鉄則だ。
だがそれが落とし穴ではないか。
アブラコの場合は繰り返し煮ると煮汁に魚臭さが移るのではないか。
あえてまっさらなブイヤベースをソースに使ってみた。
ついに壁を乗り越えた。
(調理スタッフ)ちょっとやってみます?これ食っちゃえ。
宍戸食っちゃっていいよ。
アハハハ。
翌日アブラコの新作料理を初めて出す。
披露する特別な相手は隣町に住む80歳の本宮哲郎さんと78歳の妻末子さん。
長年通ってくれている2人。
だが年を取るにつれ外出が減っているという。
(末子)ああ苫小牧かな?わあほんとだ。
その本宮さん夫婦に北海道の初夏を感じてもらいたい。
(ウエーター)はいどうぞ。
いただきます。
うん。
本宮さん夫婦はソースの1滴まで残さずアブラコを平らげた。
(主題歌)ソース空っぽのところ写して。
中道が挨拶にやって来た。
アブラコのブイヤベース仕立ては大評判になった。
色もきれいですしね。
決して歩みを止めない開拓者。
北の大地の誇りを胸に闘いは果てしなく続く。
当たり前の事を大事に続ける事。
淡々と続ける事っちゅうのは結構自分に対してあるものを突きつける事が多いのでまあそういう事のできるっていう事がプロという事なんじゃないでしょうかね。
2014/07/14(月) 22:00〜22:50
NHK総合1・神戸
プロフェッショナル 仕事の流儀「フレンチシェフ・中道博」[解][字]
その料理を味わいたいと、全国から客がやってくる北海道の三つ星フレンチシェフ・中道博。食材を極上へ誘う開拓者魂に迫る。初夏、新たなアイナメ料理に挑む姿を追った!!
詳細情報
番組内容
その料理を味わいたいと、全国から客がやってくる北海道の三つ星シェフ・中道博(62)。エゾシカやカスベなど地元の食材に徹底してこだわった「北海道フレンチ」の確立に心血を注いできた。こだわるのは“上質にして粗野”な一皿。火入れの時間や温度を細やかに調整し、食材の自然なうまみを最高に引き立たせる料理は、ミシュラン三つ星に輝く。初夏、中道はアイナメを使った新作料理に挑んだ。北国のシェフ、熱き開拓魂に密着。
出演者
【出演】フランス料理シェフ…中道博,【語り】橋本さとし,貫地谷しほり
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