にっぽん紀行「人生まだまだ負けられへん!〜京都 餅上げ道場〜」 2014.07.14

世界遺産の京都醍醐寺に来ています。
こんにちは案内人の山西惇です。
ご覧下さい。
ずらっと並んだこの鏡餅!毎年2月23日この鏡餅にちなんだちょっと変わった行事がこちらの舞台で行われているんです。
いきます!ウッ!ウゥ…。
無理です!この大きな鏡餅を持ち上げてその力を納める「餅上げ力奉納」です。
なんと京都にはこの伝統行事に挑む人たちのための「道場」があるんです。
一体どんな人たちが通ってるんでしょうか?ズコーンっと!そうそうそう。
あかんあかんあかんあかん!
(テーマ音楽)何にも形を残せない自分じゃなくて…京都市の中心部から車でおよそ30分。
世界遺産…創建は平安時代。
時の天皇や豊臣秀吉ゆかりの歴史ある寺です。
ここで年に一度京都の人たちから注目を集める伝統行事が執り行われます。
戦後の物資が乏しかった時代お供え物の代わりに大きな鏡餅を抱きかかえたまま耐えその力を奉納したのが始まりです。
やがて鏡餅を持ち続けた時間を競うようになり男女それぞれの優勝者は「横綱」として京都の人たちからたたえられるようになりました。
(男性)よっしゃ〜!
(女性)すごいすごいすごい!この横綱を目指す場所が京都市内にあります。
マンションの1階広さ15畳ほどの「餅上げ」専門の道場です。
上げろ!よいっしょ!30代40代を中心におよそ15人が通っています。
道場主の田中美枝子さんと夫の清春さん。
元横綱の夫婦です。
「餅上げ」に挑む人たちの力になりたいと自宅を道場として開放しています。
稽古で使うのは鏡餅に見立てたタイヤ。
中には鉄とコンクリートが詰められています。
女性用が120kg男性用は170kgもあります。
はぁ〜。
力任せに持ち上げようとすると…。
(女性)あかんあかんあかんあかん!体重の倍以上の重さがのしかかってきます。
持ち上げるためには独特の技術が要ります。
膝の上に台を載せひっくり返るように抱きかかえるのです。
この時台を水平にすると手に負担が集中。
立て過ぎると足への負担が大きくなってしまいます。
台の重さが手と足にうまく分散されるようバランスを保たなければなりません。
一度持ち上げたらひたすら我慢!ただこれだけを競います。
7分!もう無理。
自分を限界まで追い込まないと横綱にはなれません。
何度挑戦しても持ち上げられずにいる人がいました。
奈良から通う林真由美さん45歳です。
あぁ…恐いです!恐いです。
恐いですごめんなさい。
もうちょい引っ張る!恐いです。
どうもないどうもない。
諦めたらあかん。
諦めた諦めた。
持ち上げる勇気が持てない林さん。
弱気な自分を変えたいと道場に通っています。
林さんは公務員の家庭で生まれ育ちました。
学校の成績は常にトップクラスでした。
しかし保険会社の契約社員として働いていた30代半ば。
不況のあおりを受け失業してしまいます。
その後独身のまま職を転々とし今は飲食店でアルバイトをしています。
うまくいかない事が積み重なるうちに何事にも自信が持てなくなっていったといいます。
(林)現状はやっぱし…1回ぐらいちゃんと…ね?
(美枝子)もうちょっとのとこやな。
何度挑戦しても持ち上げられない林さんの事を道場主の美枝子さんは誰よりも気にかけていました。
努力したもんがみんな実る…世の中そんな甘いもんちゃうもんな。
私も今まですぐ諦めててん。
何でも「できんや〜めた」って。
せやけどこの醍醐の…。
美枝子さんは自分もかつて自信を失っていた時期があると打ち明けました。
野菜の卸売り業を営んでいた40代。
厳しい価格競争の中で経営難に陥りました。
従業員にも十分な給料が払えなくなっていました。
みんなにそんな朝早から仕事させてそれに見合うような給料払えへんかったら情けないね腹立ってくるよね。
もうほんとに嫌やってん。
自分自身が嫌いやってん。
失意の中美枝子さんが出会ったのが「餅上げ」でした。
ここにね「女性横綱42歳の田中さん」ていうて…。
2年間稽古を積み重ねた結果横綱の称号を手にしたのです。
拝み倒さはるしね。
本当の意味の私本来の私を取り戻せたっていう日ですね。
自信持って。
自分を救ってくれた「餅上げ」。
林さんにも自信を取り戻すきっかけにしてほしいと願っています。
よっしゃこいや〜!餅上げ力奉納まで1か月。
道場の稽古はより一層熱を帯びていました。
お〜!
(美枝子)押せへんがな早すぎて。
はぁよいしょ。
金岡伸昭さん。
去年準優勝し今度こそは横綱になると意気込んでいます。
内装業を営む金岡さんは45歳。
年齢を重ねても挑戦し続ける気持ちを失いたくないと道場に通っています。
しかし…。
あ〜なんかあかん。
最近調子が良くありません。
そこに金岡さんを脅かす存在が現れました。
一回り以上若い30歳の消防士堀尾泰寛さんです。
ここがすごい!えっすごい!えっカッチカチや!すごい!お〜りゃ!ほとんどの人が持ち上げるまでにひと月以上かかるところをなんと初日でクリアしました。
(林)最短!ものすごいの来たんちゃいます?
(笑い声)金岡さん心中穏やかではなさそうです。
闘志に火がつきました。
バランスを崩しそうになっても気迫で持ちこたえます。
なんと今年最高の記録をたたき出しました!だいぶコンディション戻ってきたぞ。
なんかテンション上がってきた。
よっしゃ〜。
その後も堀尾さんが記録を伸ばせば…。
金岡さんも負けじと…。
下ろします。
記録を更新していきます。
心の中は燃えてますからね。
負けないですよ僕は。
フフフッ。

(岡山)絶対要救助者を助ける。
自信を持ってやっていかないとできない事ですんで。
諦めない心で横綱になれたって事が今の自分の心の支えになっているかと思います。
こんばんは〜。
(美枝子)いやこんばんは!久しぶり。
フフフ…。
ご無沙汰してます。
お久しぶりです。
(美枝子)大きなったな〜ちょっと!えらいべっぴんさんになって。
ありがとうございます。
ギュッギュッギュッギュッと…。
(大橋)これから厳しい社会に出ていくのに諦めずに頑張って仕事に打ち込める。
そういうふうにやってもらいたいですね。
待って…。

(清春)今が直角やで。
そっからず〜っと後ろへもっと…。
林さんは毎週休まず道場に通っていました。
あかんのかな?ちょっと休憩させて下さい。
しかし稽古の成果をなかなか出せずくじけそうになっていました。
そんな林さんのために道場主の美枝子さんが持ってきたのは自分が横綱になった時の服です。
「いくつになっても人生を切り開いていける」という美枝子さんの思いが詰まっています。
あかんのは気持ちやな…。
(美枝子)うん。
気持ちやな!気持ちがあかんねんな。
(深呼吸)再び鏡餅と向き合う林さん。
(清春)もうちょいもうちょい…。
ほ〜ら落ちた。
(ため息)この日は何度失敗しても挑み続けます。
(林)あっ…もうちょっと。
(美枝子)もうちょっとやったな。
(林)もうちょっとでしたね。
そして…。
(清春)まだまだ。
そっからやぞ。
そっからまだ後ろ…。
もうちょっとや。
そっからもうちょいや。
あっ!あっ…。
(清春)危ない危ない。
あっちょっと…。
ついに持ち上げる事ができました!はい…はい…。
(清春)よし離せ。
大丈夫です。
(林)あっ何とか…。
ありがとうございます。
ハァ…。
ここまで頑張ったのってもう30年…え〜?何年ぶりですわこんな頑張ったん。
ありがたいですわ。
この年になるとね…いろいろ孤独な事感じる事多いですからね。
(美枝子)ほんまやな。
うん。
(ほら貝の音)いよいよ餅上げ力奉納当日。
(行司)さあ上がった!今年男性の部には79人が。
女性の部には38人が参加しました。
(行司)よし上がった!
(観客たち)あ〜!詰めかけた何千人もの観衆。
その注目を一身に集めます。

(観客)粘れ!もうちょっと!男性の部。
金岡さんのライバル消防士の堀尾さんです。
(拍手)
(行司)ありがとうございました。
ただいまの奉納時間…
(拍手)トップに躍り出ました。
(行司)よろしくお願いいたします。
いよいよ45歳金岡さんの挑戦です。
・膝入れろよ思いっきり!膝入れろ膝を!
(行司)さあ上がった!
(拍手)堀尾さんの記録を抜きました!・いける!・いけるよ〜!
(拍手)
(行司)ご奉納誠にありがとうございました。
ただいまの奉納時間…
(行司)大変力強いご奉納誠にありがとうございました。
トップを守った金岡さん悲願の横綱です。
・もっともっと立てて。
・落としたらあかんで!・大丈夫か?アハハハハ。
・おめでとう!そして女性の部。
林さんの出番が近づきます。
美枝子さんからもらった勝負服を身にまとい大一番に挑みます。
(深呼吸)「今日こそ弱い自分に打ち勝つ!」。
心に決めていました。
(行司)よし上がった!・頑張れ!・ゆっくりいけよゆっくり!
(どよめきと拍手)
(どよめきと拍手)・いいぞ!徐々に大きくなっていく声援が林さんを後押しします。
真由美頑張れ!あと根性やで!・大丈夫!真由美ちゃん!まだいける!・もうちょいで新記録や!
(歓声と拍手)
(行司)まだできる!・頑張れ〜!・もうええぞ!
(行司)11分!
(歓声と拍手)
(歓声と拍手)なんと歴代最高記録です!真由美っていうんです。
すごいね〜。
ええよええよ!・よう頑張った!・よかったよかった〜!林さん今持っている力を全部出し切りました。
(林)ありがとうございます。
ところが上には上がいました。
(行司)11分。
(歓声と拍手)同じ道場に通う女性が記録を塗り替えました。
(行司)ただいまのご奉納時間…あぁ…。
あ〜駄目でしたね。
残念ですけどしゃあないですね。
いやいやこの成績で駄目な事ないであんた。
駄目な事ない。
横綱は逃したけど45歳もうあかんたれやないで。
ちょっとは…ね負けず嫌いな性格になれたかな。
ちょっとはね悔しいとか。
まだ45。
まだまだまだまだ若い。
まだまだ先があると思って。
まだまだです。
まだまだ頑張りたい!10日後。
こんばんは。
お世話になります。
来年こそは横綱!林さん早くも練習再開です。
また一年よろしくお願いします。
せやな頑張ろうな!一年なんてあっという間やさかい。
自分自身と向き合い挑戦する心を支える餅上げ道場。
人生まだまだ負けられへん!こっからが勝負やで!2014/07/14(月) 00:25〜00:50
NHK総合1・神戸
にっぽん紀行「人生まだまだ負けられへん!〜京都 餅上げ道場〜」[字][再]

重さ150キロもある鏡餅を持ち上げるために稽古を積むという、ちょっと変わった道場が京都にある。通う人の多くは40代。ただ持ち上げる事にかけるその思いとは。

詳細情報
番組内容
巨大な鏡餅を持ち上げ、その時間を競う京都・醍醐寺の「餅上げ力奉納」。餅の重さは、女性用で90kg、男性用は150kg。そう簡単には上がらない…。今回の舞台は、その「餅上げ」専門のユニークな道場。通う人の多くは40代、いわゆる中年層だ。「若い頃の情熱を取り戻したい」「何事も中途半端な自分を変えたい」。自らの人生を重ね合わせながら稽古に励む。餅上げに込めるそれぞれの思いと、道場の人間模様を見つめる。
出演者
【語り】山西惇

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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