廃炉作業が続く東京電力…この日2号機原子炉建屋にあるコンテナが運ばれました。
出てきたのはロボットです。
人が近づく事ができない高い放射線量の建屋の中で廃炉に向けた調査を行っていました。
代わってこちらのロボット。
飛び出したアームの先には暗闇の中を撮影するカメラが。
事故で破損した所から汚染水が漏れているのをしっかりと映し出していました。
今回「サイエンスZERO」は原子炉建屋のすぐそばにまで接近。
そこには廃炉ロボットにとって大切なある箱が。
この箱一体何なのでしょうか。
福島第一原発廃炉に向けた最前線。
ロボットの活躍の様子からその舞台裏まで一気に迫ります。
(テーマ曲)福島第一原発の廃炉早く進めてほしいですがそれにはロボットが必要なんですよね。
そうですよね。
やっぱり放射線量が非常に高いのでどうしてもロボットに頼るしかありませんよね。
水野さん福島第一原発ではロボットは今どんな事をしてるんですか?廃炉に向けて建屋内のあらゆる場所が一体どうなってるのか調査を行ってる段階なんですね。
こちらでちょっと説明したいと思うんですが。
福島第一原発の廃炉に向けた…溶けた燃料は特殊なクレーンのアームが伸びてきてつかんで出すと。
また燃料を非常に放射線が強いですので水で満たしてこの放射線を遮蔽すると。
そのためには格納容器の壊れた部分を修復しなければなりません。
作業員も建屋内に入るんですけどそのためにはフロアの除染も必要になってきます。
廃炉の工程表では2020年から取り出す計画なんですね。
何か2020年って意外ともうすぐって感じがしますけど。
そうですね。
あとまあ6年しかありませんのでそれぞれの場所に合わせたロボットが必要になってくるという状況です。
具体的に言うと除染のためにはまず内部の線量がどうなってるのかそれを調べなきゃいけません。
そこでなくてはならないのが原子炉建屋の中を調査するロボット。
その開発の現場を見ていきましょう。
今年3月2台のロボットの操作訓練が行われていました。
こちらのロボットは千葉工業大学が原子炉建屋の調査用に開発した…そしてその相棒の…今回のミッションはRosemaryに搭載したこの円筒形のガンマ線カメラを使って放射線量を調査する事です。
一体どんな調査かと言うと…。
これは去年12月1号機の1階で行われた別のロボットによる調査です。
ガンマ線カメラを通して見ると…。
放射線量が色で示されるのです。
今度は天井へ向けてみます。
すると…。
捉えたのが一般の年間被ばく限度を僅か3秒で超える高い放射線。
人の立ち入りが極めて困難な場所が確認されたのです。
しかし以前のロボットには課題がありました。
それは?そこで急な階段でも上る事ができるRosemaryに2階と3階の調査が任される事になったのです。
Rosemaryは無線で操作します。
自由に動けるのが持ち味ですが壁などに電波が遮られると指令が届かなくなります。
一方相棒のSakuraはケーブルつき。
有線で確実に通信ができるので中継役になるのです。
2台の作戦がこちら。
まず有線で確実に通信できるSakuraが調査ポイントの近くへ移動。
Sakuraからの電波を受けてRosemaryが操縦されます。
無線で動くRosemaryにはこれまで手付かずだった狭い場所での放射線量調査が期待されているのです。
RosemarySakuraの調査は現場でどのように行われるのか。
向かったのは原子炉建屋から離れた場所にある免震重要棟。
事故直後から収束作業の最前線となってきた場所です。
ロボットなどを遠隔操作する専用の部屋が1階にありました。
ちょうど調査チームの皆さんが作業の真っ最中。
ロボットが調査ポイントに向けて階段を上るところでした。
中央が前方カメラの映像です。
階段を上って2階3階の調査ポイントを目指します。
Sakuraからの無線を受けていよいよRosemaryの出発です。
ここからはRosemaryの映像です。
水素爆発の影響でしょうか。
中へ進むとがれきや落下した機器の一部が床に転がっています。
調査チームは設計図面と変わり果てた光景を入念に照らし合わせ調査ポイントを確認。
目的のポイントに着くとガンマ線カメラの計測が始まりました。
溶けた核燃料が残る原子炉建屋。
その123号機全てでRosemaryとSakuraは2か月かけて詳細な調査をするのです。
Rosemary階段があってもスムーズに上ったりがれきもちゃんと進んでて大活躍しそうですよね。
この調査で廃炉はどう進むんですか?
(水野)今回のRosemaryは除染の前段階の調査なんですね。
詳しい線量が分かれば次にどういった除染ロボットを開発すればいいのか分かってくるんですね。
実際に除染をするロボットも開発されているんです。
例えば床を除染するためのロボットとか垂直な壁を除染する事ができるロボットなんです。
(水野)天井の配管のような高い所の除染ロボットっていうのを今開発中なんですね。
ところで奈央さん現地でロボットの操作をしている皆さんの様子を見て何か意外に感じた事はありませんでしたか?えっ意外に感じた事?何だろう。
これ2011年の事故直後の様子なんですが。
事故直後はこんな感じだったんですもんね。
そうなんです。
当時は原子炉建屋の近くで操作せざるをえなかったんですね。
防護マスク更に放射性物質が付着しないようにゴム手袋を2重にはめているんですね。
ちょっとこれだと操作しづらい部分もありましたよね。
今回私たちが取材に行ってきた所なんですけどもそこは放射線量は3マイクロシーベルトで事故直後の具合と比べれば格段に低いと。
という事は長時間ロボットの操作ができるという事で綿密な調査ができるようになってきたんですね。
長時間ロボットを操作できるようになったのはある技術が要になっていました。
案内されたのは…この辺りの放射線量は操作室の100倍…この箱がロボットの操作に欠かせない設備だというのですが…。
確かに箱には「ロボット」の文字が。
箱の中を見てみると…。
黄色の光ケーブルは操作室のある免震重要棟からつながっています。
メディアコンバータを経由してLANケーブルが中で活動するロボットへとつながっていました。
そう。
原子炉建屋内のロボットはLANを使ったネットワークで操作されていたのです。
このネットワークの構築は事故直後から始まっていました。
配管ルートを駆使して総延長25kmもの光ケーブルを引いたのです。
免震重要棟までつながったネットワーク。
放射線量が屋外より大幅に低い環境でのロボット操作を実現したのです。
廃炉ロボットを支える技術は原子炉建屋にあるあの箱の中にあったのです。
あの…ネットワークを整備した事で作業員の方が防護服なしで安全により作業しやすい環境が出来たっていうのが一つ大きいんじゃないかなって思いましたね。
ここからは専門家と一緒に見ていきましょう。
東京大学の淺間一さんです。
ロボット操作のためにあれだけケーブルを引いてるってすごいですね。
通信っていうのは遠隔操作するロボットにとっては命綱なんですね。
で一旦引かれればあれを使っていろんなロボットが非常に遠隔から操作しやすくなるという環境が作れる訳です。
こういう通信を使った技術っていうのは実は日本にはこれまで実績がある技術なんです。
えっどういう事ですか?こちら長崎県の雲仙普賢岳です。
1991年火砕流で大きな被害がありました。
その後土石流を防ぐ工事をしています。
あれ?人が乗ってないのに動いてますね。
(淺間)実はこの現場ではまたいつ土石流が起こるかも分からない。
非常に危険だという事で遠隔から無線によって操作しながらいろんな工事を行っているという事なんです。
(竹内)この雲仙の技術っていうのは福島第一原発ではどのように使うんですか?福島でもがれきの除去というのが屋外で行われた訳ですけれども非常に線量の高いがれきがたくさんあったという危険な環境での作業だった訳ですね。
そこでこの実績のある技術を使ってこのがれきの除去をやろうじゃないかっていう事でこれがいち早く導入された訳なんです。
ちゃんと実績があるものなんですね。
ただ原子炉建屋の中になってきますと壁があったりとか障害物があったりとかで無線がなかなか奥の方まで届かないという事が起きます。
そこで有線のネットワーク通信のケーブルを使った遠隔操作というのも中の調査の時にはやっている訳なんです。
福島第一原発っていうのは最も過酷な現場である事は変わりないと思うんですね。
今回も外に行く場合は防護服に全面マスクと。
ちょっと歩くだけで本当に疲れるんですよ。
そういう状況でロボット操作しろって言われても大変なんですね。
その意味でやっぱりネットワークのすごさっていうのを現場で感じましたね。
今度は見る場所を変えてみましょう。
お〜下がっていきますね。
はい。
原子炉建屋の地下でもロボットによる調査が行われているんです。
水が見えますね。
これは普通の水ではなくて一度溶けた核燃料に触れた高濃度の汚染水なんですね。
ですので地下は特に放射線量が高いんですね。
で2020年に溶けた燃料を取り出す計画なんですけれどもそのためにはまず格納容器の地下のどこから水が漏れてるのかこれを特定してそして修理していかなければならないんです。
そこで次に見ていくのは汚染水が漏れている箇所を探す調査ロボットです。
今度は水の中ですよね。
一体どのような作戦で挑むのでしょうか。
この日地下の水中調査に向けて技術者たちによる訓練が行われていました。
訓練のために造られたのが高さ11mのこちらの設備。
原子炉建屋地下にある調査ポイントを再現しました。
その場所は高さ40mの格納容器に隣接した部屋の一角。
地下の汚染水で水没しています。
この部屋には海側にある隣の建屋とつながる配管があります。
ここから汚染水が漏れ出ていないか確認する計画です。
そのための実寸台模型でいよいよ開発を進めてきた調査ロボットの性能を試します。
こちらがその新型ロボット。
その名も…田んぼでスイスイと泳ぐあの昆虫にちなんでいます。
計画では1階の床に穴を開けて地下へ下ろします。
ここからがげんごROVの見せ場です。
水中を自由自在に進みます。
スムーズな泳ぎにこだわったのには訳がありました。
見えてきたのが水漏れが疑われる配管です。
こんな入り組んだ場所で調査をするためにはゲンゴロウにも負けない遊泳能力が必要だったのです。
間もなくげんごROVは実際の原子炉建屋で調査に挑みます。
一方こちらの会社では別の場所での水漏れを調べるロボットを開発しました。
超音波を使って見えない場所の水位を調べるロボットです。
その足回りに使われているのは強力な磁石です。
こんな垂直に近い壁でも自在に走行する事ができるんです。
調査するのは通称サプチャンと呼ばれるドーナツ状の部屋です。
壁面をなぞるように進み超音波を当てて中の水位を調べます。
もし水位が外側より高いならサプチャンからは水が漏れていなくてもし水位が外側と同じならサプチャンに破損があり水が漏れていると考えたのです。
水位測定ロボットが福島第一原発へ調査に入りました。
しかしそこには調査チームが思いも寄らなかった大きな障害が待ち受けていたのです。
実際の調査の映像です。
ロボットをサプチャンの表面へ向かわせようとしたその時水面に大量の機械油が浮いていたのです。
想定していなかった現地の厳しい姿でした。
更に超音波測定そのものもうまくいきませんでした。
サプチャンの表面です。
本来オレンジ色に塗装されていて表面は滑らかです。
ところが下の方は塗装が剥げ落ち表面が凸凹になっていたのです。
そのため超音波がうまく当たらずこの調査では水位を特定する事ができませんでした。
ロボットも大変ですよね。
水位測定ロボットですか。
あれは一体どうなっちゃったんですか?結局3か月かかって超音波いわゆるエコーを使ってそのはね返りで水位を推定するという方法なんですがこういう悪環境でも確実にとれるような方法に変えて1月に再度入れ直して外側の水位とほぼ同じだという事が分かりましてまあ結局そこから漏れているという事がやはり分かった訳なんです。
やっぱり事故が起こった原発ですから想定できない事もあるんですね。
確かに現場はトラブルの連続なんですね。
今回私たちがRosemaryの取材をしてる時私は操作画面を見ていたんですがそうしたら途中で画面の風景がガタッと90度変わってしまったんですね。
あ〜。
これは何が起きたんですか?右の映像を見るとロボットが斜めになりながら階段を4〜5段ズルズルズルッと落ちてきて最後に転倒して上向きか横向きになっちゃってると推測できますね。
私なんか見てビックリしたんですけれども意外と操作している方は冷静だったのはちょっと驚きでしたけれども。
実際には…無事に調査は進んだ訳ですね。
そうですね。
こういう失敗も想定内だったっていう事ですかね。
(淺間)はい。
できるだけ失敗はしないように開発をする訳ですけれども一つにはロボットが導入される環境がよく分からないという事とそれからこれは一品生産なんですね。
どういう事ですか?一般の製品の場合にはプロトタイプを作って試験をしていろんな不具合を改良してっていう事を何回か繰り返した結果として最終的に製品を作っていく。
今回の場合にはやはり廃炉っていうのをいち早くやらないといけない訳ですね。
短期間でプロトタイプであってもです。
まあそれを入れて実際にできるだけ成功率高く作業をやっていこうと。
そんな戦略で実は開発と導入を進めている訳なんです。
これまでに通信が途絶えたりというロボットは5台ぐらい建屋の中に取り残されたままのものもあるんですね。
(淺間)次に開発する時にはそういう事が起こらないようにという…淺間さんは現場でのロボットのトラブルこれを防ぐために提言をされているそうですね。
はい。
注目しているのは原子炉建屋の中で計測している3Dレーザースキャンの情報なんです。
3Dレーザースキャン?
(淺間)はい。
これは普通のカメラで撮った映像ですね。
こちらが3Dスキャンで撮った映像ですね。
暗い部分も非常に詳細にどうなってるのかお分かりかと思います。
ああ確かに3Dだと細かい所までちゃんと見えますね。
はい。
こういう3次元のデータがとれると今度はこれを使っていろんなシミュレーションというのをする事ができます。
実際にちゃんと3次元の例えば床の形状がどうなってるのかどこに溝があるのかというのが忠実に分かっていればシミュレーションであそこでロボットが転倒するかもしれないというのが予想できたかもしれないんですね。
なるほど。
廃炉の現場っていうのはエンジニアの方々にとってはチャレンジの連続ですね。
ここで開発された技術っていうのは廃炉にしか使えないようなものではなくて今後またどういう災害なり事故がどこかで起こらないとも限らない訳ですね。
そういった時にここで開発したロボットが導入される。
そういうふうになるとまさにここの存在意義っていうのはますます重要になってくるんじゃないかというふうに思うんですね。
廃炉の現場というのはなにも後ろ向きな現場じゃないよと。
世界最先端の技術を開発する前向きな現場なんだと。
そういう情報を世界に発信して若い研究者も集まってもらうと。
何せ40年かかる訳ですからそういう意味で人材面でも体制を整えていかなきゃいけないんじゃないかなというふうに思いましたね。
そうですね。
ロボットの活躍って確かにあるんだけどもその背後にいる人っていうんですかね。
人間とロボットが一緒になってオールジャパン体制で頑張ってるんだなっていうそんな印象でしたよね。
2020年に取り出し開始を目指す事故で溶け落ちた核燃料。
しかしその姿はまだ捉えられていません。
その姿を捉えるためまた新たなロボットの開発が進められています。
この細長い管は格納容器につながるルートを再現したものです。
格納容器は分厚いコンクリートに覆われた巨大な容器です。
中へ入るルートはペネと呼ばれる計測機器などのための貫通部だけ。
このペネからロボットを投入できれば溶け落ちた核燃料を見つけ出す可能性があります。
しかしペネの直径は僅か10cm。
ペネを通り抜けるためロボットは細長い形をしています。
更にこのロボットペネから出てくると…。
徐々に形が変わります。
そう。
これは変形型ロボット。
機動力を高めて格納容器の中を調査する設計なんです。
ロボットは溶け落ちた核燃料を捉えられるのか。
この調査は年明けを予定。
「サイエンスZERO」は技術者たちが挑む廃炉の最前線に迫り続けていきます。
2014/07/13(日) 23:30〜00:00
NHKEテレ1大阪
サイエンスZERO「廃炉ロボット 難関調査に挑む!」[字]
福島第一原発の廃炉作業は、放射線量が高いためロボットが頼り。汚染水の中や高所など、環境にあわせて多種多様なロボットが導入されている。縁の下で支える技術にも注目。
詳細情報
番組内容
廃炉に向けた作業が続く福島第一原発。放射線量が高いため、頼りになるのは遠隔操縦のロボットだ。働く環境は、汚染水の中やガレキだらけの床面、入り口が狭小な原子炉格納容器の中などさまざま。そこで、作業の場所や内容に合わせて多種多様なロボットが開発された。目標は2020年に溶けた核燃料の取り出しを始めること。限られた時間の中で、ロボットの作業効率を大幅に上げる縁の下の技術にも注目する。
出演者
【ゲスト】東京大学工学部教授…淺間一,【解説】NHK解説委員…水野倫之,【司会】南沢奈央,竹内薫,【キャスター】江崎史恵,【語り】土田大
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – 社会・時事
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音声 : 2/0モード(ステレオ)
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