中国内陸部の新疆ウイグル自治区は、イスラム教徒のウイグル族が多く暮らす地域である。

 この地方で最近、テロとみられる暴力事件が相次いでおり、沈静化の気配が見えない。

 暴力には断固とした対処が必要なのは当然だ。だが、当局のやり方が地元の憎しみを増幅させていることも否めない。

 中国は漢民族が主体だが、さまざまな少数民族が多様な暮らしを営む多民族国家である。

 暴力の連鎖が示唆するのは、中国政府の民族政策の行き詰まりだ。少数民族との向き合い方を根本的に見直すことが必要だろう。

 先週、カシュガル地区で起きた事件は、犯行集団の規模がひときわ大きかった。刃物をもった数十人が地元政府や警察を襲い、多数が死傷した。

 新疆の中心都市、ウルムチでは5月に朝市で爆発があった。習近平(シーチンピン)国家主席が「連鎖反応を防げ」と命じ、「過激宗教グループ」の摘発が強化された。

 電話の盗聴や、ネット上の交信の監視を含め、中国警察は強力な治安維持能力をもつ。それでも連鎖反応が止まらない理由を深刻に考えねばならない。

 最近伝えられた現地の様子からは、イスラムの習慣を踏みにじるような締めつけが続いていることがうかがわれる。

 食堂経営者が断食月のさなかの開店を強いられたり、スカーフで顔を覆った女性が警察に捕まったり。カシュガル地区の事件も、発端はスカーフの取り締まりだったとの報道がある。

 暴力は許してはならない。だが、日常習慣の否定にまで突き進むのは不穏当であり、もはや取り締まりというより弾圧だ。こうした当局の振る舞いこそが連鎖反応を呼んでいる。

 加えて心配されるのが、在北京のウイグル族学者イリハム・トフティ氏が先週、国家分裂を図った罪で起訴されたことだ。

 漢族とウイグル族の和解をめざす穏健派として知られる人物だ。この措置には内外から強い疑問の声が出ている。

 当局は、国外のテロ組織「東トルキスタン・イスラム運動」がウイグル族を唆し、テロを実行していると断じている。

 容疑者らがイスラム過激派の影響を受けた可能性はあろう。だが、国外の邪悪な組織と、それに扇動された一部分子が悪いとする論法は、政権の政策失敗の責任を転嫁する面がある。

 各民族は平等であり、風俗・習慣は尊重される。宗教・信仰の自由もある。それらは中国の憲法でも、大原則になっていることを忘れてはならない。