右翼の定位置を確保し、前半戦を折り返しても、ヤンキース・イチローの姿勢は、開幕当時とまったく変わっていなかった。規定打席にこそ到達していないものの、前半戦の打率はチームトップの2割9分7厘をマーク。プレーオフ進出を狙うヤンキースの中で、改めて攻守に欠かせない存在であることを証明しても、イチローの胸中に、「不動のレギュラー」の感覚はなかった。
「そんな風に僕には見えない。そうだったら、どんな時でもライトにいるでしょう」
昨オフ、エルズベリー、ベルトランを補強したヤンキースの布陣で、今季のイチローは、外野手の「5番手」として開幕を迎えた。開幕前には、自らの立場を踏まえてハッキリと言った。
「だからといって、僕が毎日やっていくことに変わりはない。ゲームに対することは何ら変わりがないわけで、それをとにかく重ねていく。どこかで切らせてしまえば、本当に切れてしまう可能性があるから、そこは大事にしたい。それをしない僕は僕ではないですから」
定位置を奪い取った意識は、持つべきではない。
開幕後、出場機会は不規則だった。スタメンから外れることも多く、代打、代走、 守備固めとして起用される日々が続いた。球場へ着くたびに、オーダー表を「下から見るようになった」と言ったのも本音だった。それでも、試合の状況を見ながらベンチ裏で体を動かし、予期せぬ途中出場への準備に抜かりはなかった。10年連続200安打の実績に頼ることなく、限られた機会を逃そうとしないどん欲な姿勢を持ち続けていたのだ。
その一方で、外野陣の一角、ソリアーノが攻守に精彩を欠き、7月6日に戦力外通告を受けた。故障の多いベルトランがほぼ指名打者専門となり、イチローが毎日スタメンに名前を連ねるようになった。それでも、イチローに定位置を奪い取った意識はない。
「それは持つべきではない。実際、どういう理由でそこにいるか、僕には分からないけど、僕自身がそう思うべきではないと思います」
球宴期間中も、ニューヨーク市内の自宅やヤンキースタジアムでトレーニングを欠かすことはなかった。並々ならぬ危機感がある限り、イチローのパフォーマンスが変わることはない。
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