社会全体で受け止める支援体制が日本でも求められています。
大学の校舎の一室。
幼い子どもとその母親たちに向け遺伝子について学ぶ授業が開かれていました。
(森屋)お母さんの遺伝子もこっちにあります。
じゃあね混ぜたらどうなるかちょっと今日は実験をしてみたいと思います。
せ〜の!ほら!
(一同)お〜。
(森屋)ほら見て。
全然違う色になったでしょ?お父さんとお母さんの遺伝子が混ざると全然違うみんなが生まれてくるんだよ。
ほら。
遺伝子の仕組みを知る事で人間の多様性や自分自身が尊い命である事に気付いていく事がねらいです。
(森屋)みーちゃんは誰の遺伝子もらったかな?貼ってみて下さい。
(森屋)じゃあお父さんとお母さんは誰からもらったのかな?ちょっと貼ってみて。
(森屋)おじいちゃんとおばあちゃん。
ではじゃあそのおじいちゃんとおばあちゃんとおじいちゃんとおばあちゃんは誰からもらってるんでしょう?じゃあ貼ってみて。
(森屋)たくさんいるね。
みんなね遺伝子をもらってるんだよ。
すごいね〜。
(取材者)何が一番楽しかったですか?混ぜるやつが楽しかった。
(取材者)きれいだったよね。
本当いろんな子がいるんだけどその子みんな一人一人が大切なんだよっていう事を小さいうちから教えたいなと思って勉強会に参加しました。
科学技術がどんどん進んで遺伝子検査なんかを目の前に提示された時にどこをどう考えていいか分からないし恐らく頼る場所も分からないし判断する事もできずにすごく困るんですよね。
そういう事を一つ遺伝子というものが自分に身近で温かいものであるというのを感じて頂いた上で関心を持ってそのあとに学びたいと思ってくれるというそこの一番最初の導入に今回はなると思っているので…。
おなかの中の子どもに障害があるかどうかを判断する出生前検査が今急速に普及し始めています。
この事は私たちに何を問いかけているのか。
番組では2回にわたり出生前検査がもたらす波紋を海外での実態も交え見つめてきました。
3回目の今日は意見の異なるさまざまな立場の人たちの話を聞きこれからの社会のあるべき姿を探ります。
病気をもってる子どもがだんだんよくなってこっちへ来る訳ですけど…。
育てる保護者がいない乳児を預かる乳児院。
院長を17年間勤めてきた今田義夫さんです。
今田さんの乳児院では半数以上が障害児です。
ここ数年我が子の障害を受け入れられない親が急増していると感じています。
出生前検査の先進国アメリカ。
命の選別はビジネスとして急成長しています。
この検査会社は世界60か国にマーケットを広げています。
現在行っている血液検査では10の染色体の異常の可能性を調べる事ができます。
検査の主な目的は妊婦に安心を与える事です。
妊娠初期に検査を受けて妊婦に多くの情報を与える事ができればより安心する事ができます。
既にさまざまな変化は起きています。
かつては妊娠中期になるまで妊婦は周囲に自分が妊娠した事を言えずにいました。
我々の検査は妊娠9週目という早期で受ける事ができ結果もすぐに出ます。
妊婦は早い段階で自分は健康な子どもを授かったと周囲に言えるようになりました。
これは検査で早期に安心できるようになったからであり妊婦にとってとても重要な事です。
ですから中絶を選ぶにしてもそのまま出産をするにしても信頼できる完璧な情報を早く得る事はよい事なのです。
その情報をどう使うかはあくまで患者と医者次第です。
主な顧客は高齢の妊婦ですが今後は若い女性にもターゲットを広げていきたいと考えています。
あらゆる障害や病気を胎児の段階で明らかにする技術の開発に力を注いでいます。
我々の開発した最新の技術を駆使しもっと早くより小さなDNAからあらゆる病気や障害を明らかにしていきたい。
そう思っています。
技術に上限はないのですから。
妊婦や医者にもっと完全な情報をより早く与えるのです。
我々の挑戦はまだ始まったばかりです。
希望する全ての妊婦が無料で出生前検査を受ける事ができるフランス。
フランスで初の体外受精による子どもを誕生させたジャック・テスタールさん。
生殖医療の第一人者です。
そもそも体外受精は不妊に悩むカップルのために始まった研究でした。
しかし時代とともに生殖医療の技術が本来の目的から外れ命の選別に使われ始めた事に危機感を抱いています。
(テスタール)私はこうした技術を必要としない人までが効果の高い技術を簡単に使い過ぎているというけじめのなさを危惧しています。
また不妊に悩むカップルのためだった生殖補助医療の内容がすっかり変わってしまった事を憂慮しています。
現在では不妊に悩むカップルだけでなく病気や障害のある子どもが生まれる事を避けたいと願うカップルにまでも技術が使われているのです。
私がかつて力を注いできた研究とは完全に質が異なります。
私は自分たちだけでは子どもができない人たちのために働いてきました。
そういう人たちがなんとか子どもを授かれるよう医学的に手助けしていたのです。
こうした変化が進歩であるかどうかを検証する必要があります。
私は進歩という言葉は幸福英知をもたらすものだと考えます。
受精卵の選別は人類にとっての進歩にはならないのです。
研究者にとって新たな発見による誘惑は付き物。
特にその発見に市場価値があるとなれば魅力は桁外れとなります。
ですから研究者は自分が何をしているのか常に自覚し研究に責任を持たなければなりません。
出発進行!検査に頼り過ぎる事に疑問を抱く人もいます。
子どもがまだおなかにいる時この母親は出生前検査を受けました。
障害があると分かった場合は中絶も考えていました。
検査の結果胎児に染色体の異常は見つからず男の子を出産。
しかし息子が1歳の時成長に違和感を抱きました。
診断の結果息子は自閉症である事が分かりました。
しかし子育てをしていく中で徐々に考えが変わっていったといいます。
321ブ〜ン!到着。
ねえママ。
は〜い。
坂下りよう。
いいよ。
下りていいよ。
ヒュ〜。
一方で出生前検査を必要とする母親は多いと語るのは日本で検査の普及に努めてきた第一人者名古屋市立大学名誉教授の鈴森薫さんです。
鈴森さんはダウン症の子どもを産んだある母親の事が忘れられないと言います。
母親と向き合う産婦人科医と日々生まれてくる乳児と向き合う小児科医とでは大きく考えが異なると語るのは田村正徳さん。
埼玉医科大学総合医療センターに勤める小児科の教授です。
田村さんは新生児の命を救う仕事を続ける中胎児の病気や障害を理由にした中絶には慎重であるべきだと考えています。
(田村)私が研修医だった頃は18トリソミーのお子さんはほとんど1歳まで生きられないんだと。
そういうお子さんはそれ以上生きてもただ寝たきりで笑う事も泣く事もできないような生活になっちゃうんだからそういうお子さんは生まれた時に18トリソミーだと思ったら赤ちゃん…蘇生といって呼吸していない時に人工呼吸をするとかそういう事は一切しないようにしなさいというふうに教わって教科書にもそういうふうに書いてあって我々はやってきたんですね。
ところがある時にそういう18トリソミーのお子さんでダンスをしたりもしくはかけっこをしたりしてるお子さんのビデオ写真を見て我々は一体何をしてたんだと。
こんな可能性のある子どもを今までただ一様に助けてもしかたないというふうに対応してた。
なんて罪深い事をしてたんだろうと感じて…。
寿命が短くても限られた時間をお父さんやお母さん場合によってはお兄ちゃんお姉ちゃんと一緒に過ごす時間を作ってあげるのが我々小児科医の務めではないかというふうに考えて対応しております。
(田村)僕たちはもちろん障害をもってる方をある程度支えるという努力もしなきゃいけないんですけど一方ではそういう障害をもっている方も実は障害をもってないと思ってる人に対して愛であったり優しさであったり力強さであったりそういう事を与えてくれる可能性を秘めてると思うんです。
ただ頭の中だけでそういう障害があるからマイナスだというふうに判断して切り捨ててしまう。
それが出生前診断の非常に怖いところだと思いますのでこれを今積極的に日本に広めていくという事に対しては私は反対です。
アメリカでは受精卵の段階で子どもの性別などを選択する技術も普及し始めています。
受精卵の診断を行っているこのクリニックには年間500人が訪れます。
その6割は海外からです。
日本からもこれまで100人が来院。
ほとんどが自然妊娠が可能なカップルです。
この30代の女性は会社の後継ぎとなる男の子が欲しいとオーストラリアから来院。
200万円の費用をかけて理想の子どもを手に入れようとしています。
15年前は全ての人が純粋に妊娠できる事だけが目的でした。
今では4人に3人が妊娠だけでなく性別選択を望んでいます。
ですから根本的に治療内容が変わりました。
技術が向上するにつれ要望も多くなり性別だけでなくさまざまな疾患を防ぎたいというニーズも増えています。
少し前までは体外受精に対して議論がありました。
当時車のフロントガラスに「試験管ベビーに魂はない」と書かれていた事もありました。
初めの頃は皆恐れていましたが今となってはパーティーに行けばおよそ半数の人が体外受精を行っているぐらい身近です。
時間の経過とともに慣れ恐怖は消えたのです。
技術は進化しなくてはなりません。
その可能性は大いに残されています。
遺伝子から学べる事は数限りなくあるのです。
今後遺伝子の研究が進んでいく事でがんや知的障害など現在社会で問題になっている何千もの病気や障害を予防する事も可能になってきます。
また私はそうなる事を望んでいます。
そうした事が可能になる事で人類はこれまでにない高みに到達する事ができるのです。
クリニックに通い希望どおり双子の女の子を出産したジュリー・コーンさんです。
既に男の子がいるジュリーさん。
自然妊娠が難しく体外受精を行う事にしましたが性別も選択できると知り女の子を選びました。
病気や障害の有無などを調べる事ができるのも大きな魅力でした。
最初の子が男の子だったのはもちろんうれしかったのですが性別を選べるという事で究極の夢の家族を作ったのです。
デザイナーベビーだったりどんな子どもを選択するかは結局家族次第です。
次の子どもで私が髪の毛の色を選んだりするかですがもし受精卵に悪影響がないなら選ぶかもしれません。
それも夫婦が決めればいい事だと思います。
私は人の手が加わる事で受精卵に何らかのリスクがあるような事はしたくないと思っています。
でも金髪や青い瞳の子が欲しいという親がいるなら別にそれは間違った事ではないと思います。
科学が進んでいき家族の選択が増えただけにすぎません。
危険性を心配する人がいるのも分かります。
でもこうした技術は一般に普及している訳ではなく誰もが子どもを選択するとも限りません。
青い瞳で金髪ばかりの社会になるかというとそうではないと思います。
健康で幸せで自閉症もがんもダウン症もない子どもが持てるとしたらそれを選ばない人がいるでしょうか。
こんばんはマイケル・サンデルです。
NHK「白熱教室」でおなじみの…2001年にアメリカ政府の生命倫理評議会のメンバーになった事をきっかけに遺伝子操作や親が子どもを選ぶ事について考察を続けてきました。
人生のほとんどにおいて我々は物事をコントロールしようとします。
自らの人生において仕事やキャリアをコントロールし人間関係もコントロールしようとします。
例えば車を買う時の事を考えてみましょう。
性能など自分の希望に沿った選択をする事に私たちは慣れています。
色や大きさ前輪駆動車であるかどうかも重要です。
しかし子どもを同じように考えるべきではないのです。
子どもの性別や髪の毛や目の色身長など生殖医療を同じように考えてはなりません。
これらの事はどんどん可能になっています。
しかしこうした流れは親子の関係をリスクにさらすのです。
親から子どもへの無償の愛を失う結果となるのです。
その問いは倫理的に考えると非常に難しい問題です。
なぜならおなかの中の子どもの遺伝的な病気や障害の程度が重くたとえ生まれてきたとしても人間らしい生活を送っていく事が困難な場合親が出生前検査を行いその子をこの世に誕生させないという選択をしてしまう事も理解ができるからです。
しかしこうしたケースとは異なる場合があります。
例えばダウン症候群の人たちです。
ダウン症の場合子どもは豊かで意味のある幸せな人生を送る事ができます。
しかし出生前検査が普及する事で我々と共に生きるこうした障害のある人々に対する見方が大きく変わってしまうリスクが生まれるのです。
人間は多くの場合両親や家族を選べません。
親子関係のような偶発的な出会いによって我慢をしたり心配をしたり日々さまざまな事を互いに学び合う事で実は自分ほど恵まれていない人にも理解を示すといった意識が形成されていきます。
そしてそうした意識が人々の連帯感につながっています。
しかし生まれてくる子どもの特性をコントロールし選択する事にもし我々が慣れてしまったら全てを意のままに操作するという傾向に拍車をかける事になります。
そうなれば人と人との連帯感が失われるばかりか道徳的意識も損なわれてしまいます。
自分とは少しでも異なる人を許容しなくなりつながりが希薄で生きづらい社会を我々自身が作り出す事になるのです。
2014/06/29(日) 01:58〜02:28
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV・選 シリーズ“選ばれる命”(3)「命の価値は定められるのか」[字]
出生前検査の普及で命が“選ばれる”時代へ突き進む先には、どんな社会が訪れるのか。ハーバード大学のマイケル・サンデル教授ら生命倫理のエキスパートたちと考えていく。
詳細情報
番組内容
出生前検査の普及で、命が“選ばれる”時代へと突き進む私たち。その先には、どんな社会が待ち受けているのか…。シリーズ3回目は、アメリカで生命倫理の議論を続けてきたハーバード大学のマイケル・サンデル教授や、フランスで初めて体外受精に成功した生殖医療の第一人者、ジャック・テスタール氏など、各界の識者にインタビュー。人間が命を操作することの危険性や、命の“価値”をどう定義していくべきかを考えていく。
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
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