検査が導入された今社会として一人一人の命を尊重してどう支えていくかを考えていかなくてはならない時だと思います。
生まれてこないと分からない。
生まれてからもどう育つのか分からない。
命の誕生は分からない事だらけだ
だからこそ人類は長い間神様からの授かりものそう捉え誕生を喜び受け入れてきた
出生前検査という技術が出来た。
生まれる前の赤ちゃんに障害があるのか。
少しずつ分かるようになってきた
人類史上大きな大きな変化。
世界中の専門家の間で意見が分かれ人々に戸惑いや不安が生じている
だからこそ今立ち止まって考える
去年4月日本で新たな出生前検査が始まりました。
僅かな血液を採取するだけでダウン症候群など3つの染色体の異常の可能性を調べる事ができます。
費用は20万円ほど。
従来の検査に比べ精度が高く流産のリスクもない事から1年間で8,000人近くの妊婦が検査を受けました。
生まれてくる命に障害があるのか。
私たちは事前に検査で調べる事ができる社会へと突き進んでいます。
妊婦たちが我が子をその手で抱く前から1つの命を左右する重大な選択を迫られる今…。
「シリーズ選ばれる命」。
2日目の今日は妊婦たちの苦悩をどうすれば支えていけるのか考えます。
今妊婦検診で行われる超音波検査や任意の血液検査などでおなかの子どもに何らかの障害や病気を指摘されるケースが増えています。
しかし現状では産むのか産まないのか短い期間で難しい決断を迫られるにもかかわらずそうした決断を支える体制が日本では十分ではありません。
選択を突きつけられた母親たちが今どんな状況に立たされているのかその実態からご覧頂きます。
(司会)大きな拍手をもってお迎え下さいませ。
4月。
来日したイタリア人女性の話を聞こうと多くの人々が会場を埋め尽くしました。
シモーナ・スパラコさん。
35歳の作家です。
3年前おなかの中の子どもを亡くした経験から1冊の小説を書き上げました。
出生前検査で胎児に重度の障害があると告げられた主人公が苦悩の末人工妊娠中絶を決断。
その葛藤と孤独感がつづられています。
「でも息子はまだ足を揺すりとても大きくなってわたしのおなかを蹴っている。
最後の小さな一蹴り。
あの明るい夜に初めてわたしを蹴った時のようなついうっかりしたような小さめの一蹴り。
その後は何もない」。
(スパラコ)子どもが手の届かないところに行ってしまう恐怖。
そしてその後も自分の人生を続けていかなければならない現実。
こうした強い葛藤は本人にしか分かりません。
だからこそ全てを伝える必要があると思ったのです。
出生前検査の普及とともに胎児の障害を理由とした中絶は日本でも増えています。
出産の高齢化に伴い検査のニーズはますます高まっています。
しかし胎児に病気や障害があると分かった時に母親たちの苦悩や葛藤を受け止め支えていく体制はいまだ不十分なままです。
40代のこの女性。
2年半前病院の医師の勧めで出生前検査を受けました。
羊水検査の結果は18トリソミー。
染色体の異常が見つかったのです。
医師からはおなかの子の障害がどの程度なのか産んだ場合どんな支援が受けられるのかなど具体的な説明は一切ありませんでした。
悩みぬいた末女性は人工妊娠中絶を決断しました。
しかし実際に手術を行っている最中も気持ちは揺れ続けました。
「果たして自分は正しい決断をしたのだろうか」。
長期にわたって苦しむ結果となりました。
女性は心の病を患い通院する日々を送るようになりました。
唯一心の支えとなったのは同じような体験をした女性たちが本音を吐露していたインターネット上のサイトでした。
「泣いて笑って」。
1,000人を超える会員たちから毎日のように相談が寄せられます。
「おなかの中から赤ちゃんがいなくなって初めて自分のした事の意味を突きつけられました。
深い罪悪感や自己嫌悪が襲ってきてこれからずっとこんな気持ちを抱えて生きていかなければならないという事にがく然としました」。
「最終的に決定したのは産まない選択でした。
夫が『どんな障害をもった子でも産もう』と言ってくれていたら産んでいた?どうなんだろう…」。
誰にも打ち明けられない会員たちの思いをボランティアで一身に受け止めているのが藤本佳代子さんです。
自らもおなかの子を失った事がきっかけでこのサイトを開設。
悩みを抱える女性たちの相談に応じるようになりました。
赤ちゃんの命を諦めるという時点で本当におなかの赤ちゃんの事を思って諦めたのかそれとも自分が楽になりたかったのか…。
それを赤ちゃんを亡くされたあとで皆さん振り返るんですよ。
流産死産と比べると中絶はつまり殺人ですよね。
だからお母さんたちは自分で殺しておいて悲しいとか苦しいとか言っちゃいけないんだって自分を罰しているんですよ。
だから自分一人で抱えて…言わないで…言えないで…。
だからなかなか出てこないんだと思うんですよね。
はい「泣いて笑って」です。
活動を始めて10年。
今特に増えているのが出生前検査の結果を受けて選択を迫られている女性たちからの相談です。
出生前診断と高齢出産を…。
はい…。
法律では妊娠の継続が身体的または経済的理由により母体の健康を著しく害するおそれがある場合などに限って中絶を認めています。
中絶が可能なのは22週未満まで。
限られた期間内で決断を迫られるにもかかわらず必要な情報やケアを受けられる体制が出来ていないと藤本さんは指摘します。
十分な判断情報があって限られた時間の中ではあるけれども一生懸命考えてそれで周りから押しつけられた意見だとかそういったものではなくて自分がどうするどうしたい…。
そういった中で導き出された決断というのがやはり後々にお母さんを支えてくれる…。
やっぱり自分の人生をすごく左右する事なのでそういった意味で意思決定を支える何かが必要だって思うんですよね。
1つの命を左右する出生前検査。
どう向き合っていくべきか世界中で模索が始まっています。
ドイツでは妊娠葛藤相談所と呼ばれる相談機関を全国1,500か所に設置しています。
ここでは妊婦とその家族が専門の相談員のカウンセリングを無料で何度でも受ける事ができます。
さまざまな支援団体も必要があればすぐに紹介してもらえます。
例えば障害のある人たちの生活相談に応じる団体。
補助金の支給や税負担の軽減について詳しい相談窓口も紹介しています。
診断直後女性はショック状態の中で決断を迫られる上中絶の場合は子どもとの別れも体験します。
全てが短期間にやって来るのでしっかり相談する事が大切なのです。
胎児の命を巡る選択。
ドイツでその議論が本格化したきっかけは東西ドイツの統一でした。
ナチス政権が行った命の排除への反省から中絶に慎重だった西ドイツ。
一方東ドイツは女性の労働力を確保するため中絶に寛容でした。
統一に際し何度も何度も議論を重ね作られたのが…この法律で専門の相談所を全国に設置する事が定められました。
4年前には出生前検査の急速な広がりに対応するため法律を改正。
検査を行う医師は胎児の障害が確定した場合必ず妊婦を相談所に紹介するよう義務づけられました。
産むか産まないかを決めるのは女性の権利ですが胎児の命を守る事も大切です。
国は一人一人が命に向き合い十分に考えた上で決断ができるような情報の提供や支援を行うべきなのです。
重視されているのが妊娠葛藤相談所と出生前検査を行う医療機関との連携の強化。
こちらのクリニックは同じフロアに相談所が設置されています。
胎児に障害があると分かった時多くの妊婦は混乱し相談所に足を運ぶ事さえ難しくなるからです。
医師と相談員は常に情報を共有し最もふさわしい対応を考えます。
最初はこの制度に対して多くの医師が抵抗していました。
相談員が医師と患者の間に介入してくると考えたからです。
しかし最近では小さな病院も相談所と連携をとっています。
女性たちの気持ちを和らげる上で大きなメリットがあると多くの医師が感じるようになったのです。
こうした手厚い支援によって多くの女性が救われています。
こちらの女性は検査で胎児に重い障害が見つかり中絶を選択しました。
決断に至るまで医師と相談所が連携し親身になって支えてくれたと言います。
検査結果を知り医師を訪ねると誰かが相談所へ手を取って連れていってくれた事がとてもうれしかったです。
最終的には子どもを産めない事がはっきりしました。
そして胎児は…。
相談員は最初からどういう結論になろうともそれが正しい道だと私たちに言ってくれました。
女性は中絶をする前に相談所を3度訪れ1人で抱えていた悩みや葛藤を打ち明けました。
相談員は常に中立な立場で具体的なアドバイスを与えてくれました。
中絶する1日前相談所で子どもにお別れの手紙を書く事を勧められました。
考えもしなかった事です。
それから私はすてきなペンを買い夜主人にお願いして1人にしてもらい手紙を書きました。
箱を用意し思い出になる物と一緒に手紙を入れ私の気持ちは軽くなりました。
こうした事がなければ私たち夫婦はここまで分かり合えなかったと思います。
恐らく残りの一生「お前は中絶をした」と自分をなじり続けた事でしょう。
相談をする中で産む決断をした人もいます。
ティーツさん夫婦の娘ミアちゃんは出生前検査でダウン症と診断されました。
相談所に通いお互いの本当の気持ちを確認し合えた事で幸せな出産を迎えられたと言います。
ダウン症の子どもを持つ家族とも会い障害がある子どもを育てていく事を実感できました。
ミアは待ち望んでいた私たちの子どもで授かった命なのだと気付けたのです。
相談所は妊娠中だけでなく娘が生まれてからもダウン症についてのさまざまな情報を提供してくれて私たちの決断は正しかったのだと自信になりました。
出生前検査の技術開発が著しいアメリカでもさまざまな模索が続いています。
アメリカでは今年だけでも50万人以上の妊婦が新たな出生前検査を受けると見られています。
検査の普及でより多くの女性が早期に重大な決断を迫られる事になります。
マサチューセッツ州では州の助成金でさまざまな活動を行っています。
その一つがダウン症の子どもを産んだ母親たちが中心となった電話相談です。
相談件数は年間130余り。
24時間体制で応じています。
更に産むのか諦めるのか悩んでいる家族を支援する相談員の育成も始めています。
相談員の役割はあくまで聞き役に徹し相手の気持ちを整理する手助けになる事。
集まった母親たちは皆おなかの子に障害があると告げられ悩み苦しんだ経験があります。
検査が急速に普及する今だからこそ自分たちが相談員となり悩む人たちを支えていきたいと考えています。
周囲との関わりがある事で世界から置き去りにされたような孤独感から抜け出す事ができました。
そうした経験を生かして今度は少しでも妊婦とその家族を支える側になれればと思っています。
まだ子どもも小さいですし経験も豊富ではないのでこれからいろいろ学びながら母親たちの決断を支えられるよう頑張りたいと思っています。
母親たちが今最も力を入れているのが医療関係者の意識改革です。
訪れたのは総合病院。
遺伝の専門医と障害児を育てる母親そして出生前検査を受けた女性の3人が自らの体験を語ります。
医療関係者からは胎児がダウン症であると分かった時どう告知すべきか質問が相次ぎました。
こうした地道な取り組みを通じ妊婦たちをサポートする体制が少しずつ整い始めています。
医師にとっても告知の瞬間は緊張します。
実際に体験をした方々と話をする事で何がよくて何がよくなかったのか振り返る事ができます。
そうした積み重ねからよりよい告知ができるようになると思いました。
医師に親の視点を伝える事がとても重要です。
医療面でのケアのみならず強力な支援体制もある事を決断に迫られた家族に知ってもらう事が欠かせないのです。
妊婦と家族の決断。
更にはおなかの子の命。
この両者をどうサポートするのか各国で模索が続いています。
日本では去年4月さまざまな選択を支えるカウンセリング体制を作るための臨床研究という位置づけで新型の出生前検査を導入しました。
しかし1年余りたった今医療現場では十分に妊婦の決断を支える事ができていないといった現状が浮き彫りとなっています。
今の日本のカウンセリング体制の実態はどうなのか。
今後どういった体制整備が必要なのか。
更には臨床研究を1年やってみての成果など具体的な提示も学会からは示されていません。
いつ誰が直面してもおかしくない命を巡る選択。
どうしたら一人一人の選択を支える事ができるのか。
妊婦とその家族だけに責任を押しつけず社会全体で受け止める支援体制が日本でも求められています。
2014/06/29(日) 01:29〜01:58
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV・選 シリーズ“選ばれる命”(2)「母親たちの“苦悩”」[字]
出生前検査で胎児の障害が見つかった時、産むべきか人工妊娠中絶すべきか。日本には明確なルールはなく、決断は妊婦と家族に背負わされている。現状から支援策を考える。
詳細情報
番組内容
急激な技術の進歩で、出生前検査は胎児の病気や障害についてより簡単により詳しく調べられるようになってきた。しかし、この技術とどう向き合い、どう活用していけば良いのか、社会的に明確なルールや合意はいまだ未確立のままだ。胎児になんらかの障害が見つかった場合、産むべきか、あるいは人工妊娠中絶をすべきか。命を選ぶ重大な決断は、妊婦たちに背負わされている。その苦悩と向き合い、どんな支援が必要なのかを考える。
出演者
【司会】山田賢治
ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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