ハートネットTV・選 シリーズ“選ばれる命”(1)「障害のある命と向き合う」 2014.06.29

未知の自分と出会う可能性。
その時思いがけず新たな風景に出会い新たなキャリアを積む事になるのだろう。
自らをデザインする試みは終わらない。

生まれてこないと分からない。
生まれてからもどう育つのか分からない。
命の誕生は分からない事だらけだ
だからこそ人類は長い間神様からの授かりものそう捉え誕生を喜び受け入れてきた
出生前検査という技術が出来た。
生まれる前の赤ちゃんに障害があるのか。
少しずつ分かるようになってきた
人類史上大きな大きな変化。
世界中の専門家の間で意見が分かれ人々に戸惑いや不安が生じている
だからこそ今立ち止まって考える
41歳のこちらの女性。
1年間の不妊治療の結果待望の命を授かりました。
妊娠中出生前検査を複数受けその結果胎児に染色体の異常は見つかりませんでした。
今こうした検査を受ける妊婦が増えています。
去年4月にはまた一つ新しい出生前検査が始まりました。
僅かな血液を採取するだけで胎児の病気を調べる事ができます。
費用は20万円ほどかかりますが1年間で8,000人が検査を受けました。
人はなぜ胎児の病気を知ろうとするのでしょうか。
今日はこの問いと向き合います。
出生前検査の広がりは社会に何を問いかけているのか。
番組では3回のシリーズで考えていきます。
まずはこちらをご覧下さい。
これは代表的な出生前検査の一つ羊水検査を受けた人の数を表したグラフです。
年々増えてきている中でここ数年高齢で妊娠する女性が増えてきた事などで検査を受ける人の数が急激に増えています。
ではなぜ検査が広がってきたのか。
その背景についてシリーズ1回目の今日考えていきます。
多くの人たちがおなかの子に障害があるかどうかを知りたい。
更には障害のある子をどう育てていけばいいのか。
そして自分が亡くなったあとに誰が面倒を見るのか。
…といった不安を抱いています。
つまりその不安とは障害そのものが原因ではなく社会の中で障害のある人への理解が進んでいない事そして支援が不足している事が原因ともいえます。
こうした事を考える上で参考になるのがイギリスです。
イギリスでは現在希望する全ての妊婦が無料で検査を受ける事ができるのです。
一方で生まれてきた障害のある子どもを社会全体で育てていくための支援にも力を入れています。
その取り組みをまずご覧下さい。
イギリスでは障害のある人が社会の中で生活できるよう早い段階から支援を行っています。
その一つが学校。
普通クラスに障害児の受け入れを義務づけているのです。
2年生のエマソンくんはダウン症候群。
クラスメートは保育園からのつきあいです。
イギリスではこうして小さい頃から一緒に過ごす事で共に生きる社会の基盤を作ろうとしています。
クラスには担任のほかに障害児をサポートする専門の教師を配置しほかの児童と共に学べる体制をとっています。
あまりに多くの周囲の人々が彼を手助けしようとする事があります。
しかしそれはエマソンの自立を妨げる可能性もあるので授業の最初に彼が一人で集中し学習できるよう配慮しています。
見て頂いたように彼はクラスに非常によく溶け込んでいます。
今ではお互いに慣れて私も子どもたちも彼がどのように学習するかを理解しています。
ですからたとえ後れていたとしても私たちが意図的に手助けする必要はないのです。
この学校に通う障害のある児童は45人。
全校児童の1割を占めています。
ダウン症だけでなく発達障害や肢体不自由など障害もさまざまです。
それぞれの障害への理解を深めるため当事者団体などを招いた勉強会も定期的に開いています。
具体的な授業の進め方など障害ごとにノウハウを教わります。
勉強会に参加するのは教師たちだけではありません。
障害児の親たちも加わりその子に合わせたきめ細かな対応ができるようにしています。
こうして普通学校に通う事で障害児たちはいち早く社会へ順応できます。
クラスメートにとっても共に成長する事は掛けがえのない経験になっています。
彼は学習障害はありますがそれは特別な事ではありません。
ほかの子にもよくある事です。
更にほかの生徒と一緒に活動する事でお互いに学び合う事もできるのです。
こうした手厚い支援を行うには多額の費用がかかります。
イギリスでは年々増え続ける社会保障費は大きな問題になっていました。
そうした中イギリス政府は出生前検査を積極的に導入する事にしました。
検査を無料にし希望する全ての妊婦が受けられるようにしたのです。
検査の結果を受けて中絶を選択する人は9割を超えています。
その一方で胎児に障害があっても産む決断をした人には手厚い支援を行っています。
ダウン症児とその家族を支える活動を続けているウェンディーさん。
自らもダウン症の子どもを持つ母親です。
子どもを産むと決めたら生涯をその子と共に生きていかなければなりません。
中絶をした場合もその事実は生涯付きまとう重い決断です。
少し前までダウン症は十分に理解されていませんでした。
そんな時期に小学校に通った子どもたちはつらい経験をしたでしょう。
彼らは健常者以上に社会で大変な思いをするのです。
それは障害のせいではなく社会の問題です。
我々がすべき事を早急にするべきなのです。
障害のある子どもたちへの支援は学校を卒業したあとも続けられます。
ダウン症のジョーさんです。
7年前からこのスーパーマーケットで週5日働いています。
普通学校に通っていた時明るい性格でクラスの人気者だったジョーさん。
多くの人と接する仕事がしたいとこの職場を選びました。
仕事がうまくいかない時は支援団体が上司との間に入り問題を改善してくれました。
かなり長い間一緒に働いているのでお互いに必要な事は分かり合っています。
確かにたまに混乱してしまう事があります。
例えばバスが遅れて到着し出勤時間を過ぎてしまった時には我々がすぐに状況を確認し彼が精神的に安定できるようにサポートしてその日一日気持ちよく働けるように配慮しました。
彼の隠された才能もだんだん分かってきましたよ。
手品がすばらしく上手でいろいろ見せてくれるしダンスも得意です。
これはつい最近気が付いたんですけどね。
1年前から1人暮らしにも挑戦しています。
住まいは1LDKのアパート。
家賃は全て国の補助金で支払われています。
自立するためには体力が必要とトレーニングにも打ち込んでいます。
炊事洗濯身の回りの事は一人でこなしています。
最初は何もできませんでしたが専門のヘルパーが訪問し教えてくれました。
今でも週に4回やって来て苦手な事を克服できるようサポートしています。
この日は買い物の練習。
計算が苦手なジョーさん。
買い物の時スムーズに会計ができるよう訓練しています。
もちろん彼は自立していますがあらゆる面でスキルアップする訓練が必要です。
料理読書家事買い物計算。
できる事を増やして広げていかないと。
買い物したらお釣りの計算くらいできないとね。
ジョーさんの母親も時々様子を見にやって来ます。
ジョーさんが生まれた時はこうした生活が送れるようになるとは想像もつかなかったといいます。
ジョーを産んだ時息子はたらい回しにされ社会に受け入れられないだろうと思っていました。
でも今息子は地域にしっかり迎え入れられみんなに愛されています。
このまま仕事を続け好きな事や希望に向かって突き進み元気でいてくれたらと願っています。
ジョーは恋人が欲しいと言っています。
結婚も望んでいます。
かなうかどうか分かりませんが絶対に起こりえないとも言い切れません。
出生前検査を無料で提供しているイギリスは産む選択産まない選択両方を支えているのかもしれません。
そして出生前検査の結果次第で産むのか産まないのかを議論する前に社会での受け皿や理解を増やしていく事に目を向ける必要性があるのではないでしょうか。
一方で検査が普及し始めている日本の現状はどうなっているのか。
改めて見つめ直した時に障害のある命を社会がどう育てていくかについてまだまだ厳しい現状がある事が取材を通して分かってきました。
障害があると分かった子どもたちを親が育てきれず保護するケースが増えています。
さいたま市にある児童相談所。
この日保護された子どもの行き先を決める会議が行われていました。
ここ数年保護される中に知的障害や発達障害の子どもが増えています。
親が育てづらく虐待や育児放棄につながっているのです。
検査をすると発達のバランスが悪いとかちょうどボーダーラインの子がいるとかいわゆる発達障害の子がたくさんいるという事でそれで非常に増えているなという間違いない実感があるんです。
行き場のない子どもたちは児童養護施設で暮らす事になります。
しかし施設の定員に余裕がなく受け入れ先を探すのは困難です。
男の子なんですけれども。
はい現在空きはございますでしょうか?児童養護施設では障害などのある子どもの割合は年々増え続け今では20%を超えています。
40人の子どもたちが暮らしている児童養護施設です。
ここでも知的障害や発達障害の子どもたちが増え続け今では定員の2割に達しています。
(泣き声)この部屋では8人の子どもたちが暮らしていますがこれまでどおり2人の職員だけで面倒を見る事は難しくなってきています。
ちょっと待ってって。
それぞれの障害に応じた個別学習も独自に進めていますが今の職員数では限界があります。
打開策として今国は里親制度の普及に取り組んでいますがなかなか進まないのが実情です。
7年間暮らした施設を出て里親と暮らし始めた子どもがいます。
ともきくんには軽度の知的障害があります。
生後9か月で保護されてからずっと施設で生活してきました。
ともきくんの里親になったのは岩木さん夫婦です。
岩木さん夫婦はともきくんの里親になる前にも障害のある子どもを里子として引き受け育てた経験がありました。
そんな夫婦のもとに再び児童相談所から里親になってほしいという連絡が入りました。
夫婦は悩みました。
確かに障害があるという事はそれだけ育てにくいという事が当然ありますからそれももちろんあるんですけどもそれ以前の問題として私自身がやっていけるかしらという心配というか…。
ありました。
不安を抱えながらの初めての面会。
ともきくんに出会った時心が動かされました。
手をつなぐとしっかりつないでくるんですよ。
ギュッとこう…。
だからやっぱりこうやってつなぐのはうれしいのかなというふうに思いましたね。
目の前にそういう子がいればやっぱり家庭で育ってほしいなというのは思いますよね。
だからたまたま障害がただ持ってたという事で。
そしたらそこを中心に考えながらどうしたらというのはまた試行錯誤しながら。
ともきくんと暮らし始めて1年。
ゆっくりと成長を見守っていきたいと考えています。
私が行って抱いてきたりという事もありましたし。
今見ていたらちょっと最後危なかったりしたんですがやり方分かっていてもうこれだったらできるかな。
だいぶ変わったなと今日発見しました。
おっと。
やった〜!夫婦を支えるために2か月に1度児童相談所の職員がやって来ます。
様子いかがですかね?その後。
特に変わった事は…。
ともきくんを里子として預かれるのは原則18歳まで。
そのころ夫婦は70歳を越えています。
どうやって成長を支えていくか相談を続けています。
どう?学校。
丸?本当?何が丸なの?お友達でもいいし。
お勉強でもいいんだよ。
全部?すばらしい。
とにかくもうあまり先の事よりも目の前の事をできるだけサポートして。
とにかく一つ一つ階段を上っていかなくちゃいけないので。
上れなかったらまたちょっと休んでというふうにして。
・「ちゅうちゅうねずみが鳴いていた」・「なんの用かと聞いたらば」・「大黒さまのお使いに」・「ねんねした子のお使いに」・「坊やも早くねんねしな」障害のある子どもを受け入れてくれる里親は全国的に見ればまだまだ足りていないのが現状です。
そもそも出生前検査で分かるのは遺伝子の病気の可能性でしかありません。
出産時のトラブルによる障害や交通事故による後遺症など生まれてから障害と共に生きていくという人も多くいます。
検査でおなかの子に障害のある可能性があると分かった。
そこで産むのか産まないのかを議論するだけではなく検査が導入された今社会として一人一人の命を尊重してどう支えていくかを考えていかなくてはならない時だと思います。
2014/06/29(日) 01:00〜01:29
NHKEテレ1大阪
ハートネットTV・選 シリーズ“選ばれる命”(1)「障害のある命と向き合う」[字]

出生前検査の普及で、日本では胎児の障害が分かった妊婦の9割が中絶を選択している。他方、障害のある命が簡単に失われてはいけないとの意見もある。命の尊厳を考える。

詳細情報
番組内容
世界中で急速に普及し始めている「出生前検査」。去年から日本でも技術革新を受けた新しい検査が始まり、胎児の障害が分かった妊婦の9割以上が、中絶を選択している。一方、多様性や個々の命の重要性が尊ばれる現代において、「障害のある命が簡単に失われてはいけない」と考える人も多い。生まれてくる命を「選ぶ」時代へと突き進むいま、私たちはこの問題とどう向き合い、どのような社会制度を整えていくべきかを考える。
出演者
【司会】山田賢治

ジャンル :
福祉 – その他
福祉 – 高齢者
福祉 – 障害者

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音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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