(荒い息遣い)地球上にある8,000m峰14座全てに登頂したただ一人の日本人だ。
8,000mを超える山は全てヒマラヤに集中している。
まさに地球の屋根を渡り歩いてきた男なのだ。
竹内はしかも14座のうち11座を無酸素で登頂している。
死の領域といわれる標高8,000m。
それでも酸素ボンベは使わないのだ。
大規模な登山隊は組まない。
シェルパやポーターの手を借りる事なくパートナーと2〜3人で一気に登る。
高所登山に挑み続けてきた竹内が今一番気になる存在。
それは下へ下へ海に潜り続けてきた男。
素潜りで水深115m。
日本記録を持つ…自身の泳力だけで115mに到達したのは世界で7人だけ。
月面に降り立った宇宙飛行士よりも少ない。
2人の待ち合わせ場所は東京タワー。
なぜか竹内が指定した。
一年の1/3をヒマラヤで過ごす竹内。
数日前に帰国したばかりだという。
全く違う環境に向かっていきながらも本来…山男の背後から海の男が現れた。
こんにちは。
(2人)初めまして。
登山家の竹内です。
篠宮です。
どうぞよろしくお願い致します。
よろしくお願いします。
会いたかったです。
僕もです。
ようやく会えました。
ですから東京と高い所だったら東京タワーかなと…。
何か語呂のいい数字ですよね。
333mの高さっていうとこれを見れば分かるんですけど実は私…いや〜怖いですね。
信じられないです。
死と隣り合わせの極限状態を何度もくぐり抜けてきた2人。
意識を失っちゃいけないと思ってそれを一生懸命引き止める。
だけどまた…だからこそ見えてきたものがある。
グラン・ブルーと呼ばれる世界になっていくんですが…2人が見てきた世界をお見せします。
高い所が大好きという竹内。
階段を使って東京タワーに上ろうと持ち掛けた。
こっちから上った事ありますか?ないんです。
初めてなんです。
ここが標高…海抜ですね。
お得意の海からの高さで大体…この数字。
これが今の標高なんですか。
なのでこれ1m単位で数字が上がっていきますので手につけて頂いて…。
じゃあちょっとお借りします。
同じものを私持っていますので自分が階段を何段上がったら篠宮さんがふだんもう1m伸ばそうもう1m伸ばそうとしてるその1mが上がっていくのかちょっと体験して頂きたいと。
いいですね楽しみです。
ここから展望台までは88m。
階段にしておよそ600段だ。
いや〜僕あれなんですよ…深い所はまだいいんですけど。
なるほど。
水中のスポーツなんかは…。
小さい頃からですか?どうなんでしょうね。
へえ〜そうなんですか。
でも絶対竹内さんやったらすごい潜れると思いますよ。
それは歩く度にブレーキをかけている事になりますからできるだけそっと音がしないように…。
へえ〜。
2人は息を切らす事もなくあっさり展望台へ。
大展望台。
いや〜着きました。
ここで…。
それぐらいまでもう雲が来ちゃうんですね。
やめて下さいよちょっと…ここね。
うわ〜。
高いですね。
いやいや…。
ちょっとこれは…。
足がすくんでますね。
この上に乗っかっても大丈夫なんですよね?2人乗ると危ないとか…。
全然大丈夫ですか?できればこういう所から…ロープで降りていきたいんですか?僕はちょっと無理ですね。
絶対大丈夫だって分かっていてもこの上には乗りたくないです。
竹内は記録達成を懸けて8,000m峰最後のダウラギリに挑んでいた。
サンスクリット語で白い山という意味だ。
雪崩が頻発しこれまでに60人以上が命を落としている。
山頂へは4日間の行程。
ベースキャンプからスタートし北東稜と呼ばれる雪の尾根を3つのキャンプを経由しながら登っていく。
よし行くぞ。
午前4時半パートナーと2人でベースキャンプを出発。
プジャと呼ばれる出発前の儀式。
山の神に無事を祈る。
目指す山頂付近での酸素の量は平地の1/3。
動きが緩慢になり意識レベルも低下。
身体機能は年齢プラス70歳まで落ちるといわれている。
標高6,800m付近でパートナーに高山病の症状が現れた。
えっ?今日はC1降りて…マジ?竹内はパートナーを下山させる事を決断する。
最後のキャンプ3を出発する。
はいはい。
気を付けて帰って下さいよ。
取材班とも別れたった一人で頂上を目指す。
キャンプ3を出て4時間。
標高7,500mを歩く竹内の姿を確認した。
キャンプを出て既に15時間余り。
山頂に続く稜線を一歩一歩登っていく。
そして午後5時30分。
ついに14座を制覇。
登頂の証しに撮影した自らのシルエットだ。
登頂された時これはどんな気持ちだったんですか?登頂した時は…怖くなる?うれしいとか浸ってる暇なんかないんですか?ないですね。
これはダウラギリに限らないんですけども8,000mの頂上に到達した時はもう怖くなるんです。
そこは…生き物が…自分がいる事が。
ですから頂上に到達した途端にもう怖くなってそこから…「やったぜ〜」ってこう上でずっと喜びに浸って「ああ終わった」みたいな感慨深いみたいな感じではないんですね。
ないですね。
なぜかと言うと…例えば僕だったら海に潜った時に…言葉じゃないんだけれども対話があるような気がする瞬間がちょこっとだけあるんですよね。
そういうのって8,000m超えて一歩一歩頂上に向かっていく時何か感じたりされませんか?敵意?ええ。
敵意というと何かちょっと言い方がよくないんですけど…はあ〜。
怖いですね。
ですから私たちにとって…なるほど。
登山中の事故は8割が下山時に起きるといわれている。
登頂が予定時間よりも大幅に遅れた竹内は最終キャンプに降りる前に日没を迎えてしまった。
山の稜線で光っているのは竹内のヘッドランプ。
ビバークって何ですか?えっもしかして野宿の事ですか?そうですね。
ちょっと待って下さいよ。
それ何mで野宿ですか?今回は7,500でしたね。
そこにテントも何もなくて大丈夫なんですか?それ。
もうただ岩の所に座って「さみ〜」とか言って…。
「さみ〜」って…何度ぐらいですか?もう何だか分かんないですね。
でも寒いという感覚はきっとある程度超えちゃうと気温が何度であろうが寒いという感覚でしかなくってもうとにかく寒かったという記憶しかない。
いや〜すごい世界ですね。
あとどうしても途中でやめる訳にはいかないので自分で降りてこなきゃいけない。
僕びっくりしたんですけども…11?はい。
11も酸素ボンベなしで?そうですね。
一番最初に僕がダイビングというものを始めた時にタンクを使って潜ってた訳ですね。
そこで20mとか30mとか潜って横に泳ぎながら魚を見たりしてた訳なんですがそのあとにフリーダイビングに出会って素潜りで潜るようになったんですよ。
そしたらよりタンクを使わない道具を使わないっていう方が何かこう自由度というか感覚がすごい開ける感じとか海と自分がすごく近くなるような感じがしたんですよ。
それでご自身の場合で無酸素で行った場合と有酸素で行った場合と山との距離感とか自分の体感とかってどんなふうに違いますか?もともと…きっとダイビングも酸素ボンベがない時代から潜りたいという人の思いがあってそこにですねより深くとかより楽にとかっていう時にいろんな酸素ボンベの力を借りてきたんだと思うんですね。
でもきっと私たちはそれをもう一回元に戻そうとしていて私にとって見ればその山を無酸素でボンベを使わずに登ろうとしてた人たちと同じ薄い空気を吸ってみたいとかですね。
そういう酸素ボンベを使った時と薄い空気にあえぎながら登ってる時とでは…それはやっぱり私にとってみれば…自らの呼吸だけで登っていく標高8,000mの世界。
竹内はまるで歩いて宇宙に行くような感覚を覚えるという。
実際登られてて人知を超えたものであったりとか言葉にするとすごく平たいですけれども神の存在というかそういう何かものすごく大きなものを感じられる事ってありますか?チベットの砂漠の中に巨大な白い山の塊が何か…上から天からド〜ンと降ってきたようにあるんですよ。
その壮大さというか神々しさっていうのはこれはそりゃ昔チベットの人たちがこれを見て拝むだろうなと本当に自然に思うんですよね。
中にはですね頂上までは行っていいけれども…じゃあ本当に神様がそこにいるっていう事ですか?地元の人たちがそういうふうに言う訳。
「もちろん頂上にまで登っていい。
だけど頂上の一番高い所には触らないでくれ」と言って私たちはその人々たちの思いをちゃんとくんで頂上には触らないようにしたりもする訳。
絶対駄目だなっていうやってはいけない事だなというのが。
「座」。
座るっていう字ですよね。
座席の座ですね。
それはなぜなんですか?私たちが今生活してる日本の習慣の中には仏教が根づいてると思うんですね歴史的に。
それ故に山というものを日本の…偉業達成の鍵は…食料さえも限界まで減らす事で登山スピードを上げ少人数で一気に登る。
一人前のインスタント焼きそばも2人で分け合う。
最終キャンプから登頂の際に持っていくのはゼリーだけ。
1個41gカロリーは小さめのお握り1個分に相当する。
それでも…。
いつも…やっぱり少しでも軽くして。
食べる前に申し訳ないですけど正直おいしくないです。
あ〜透明ですね。
洗濯のりみたいな。
私はさんざん食べてるんで今食べたくないんですけど…。
道具とか量を減らすっていうのは工夫を重ねる事でもう限界にきちゃってるような気がするんですよね。
それほど大きな軽量化っていうのは難しい状態になってるんですね。
あと削る所ないですよね。
そこで削るのは…自分の体を軽くして要するに総重量を軽くしている。
山男っていうイメージとちょっと竹内さん違うなって僕第一印象で感じたんですよ。
もっとこう…ガッシリしてて脚も太くて熊みたいな雪男みたいな感じを想像してきたんですけどすごいスラッとされててスリムで…。
今体重って何kgぐらいなんですか?60kg台なんですか。
はい。
だって身長は?180で65だって言ったらすごい細いですよね。
篠宮さん身長が…。
大体同じぐらいです。
体重は?あっそうですか。
そう言われたの初めてですね。
僕も結構削ってる方なんですけど。
今日一緒に東京タワー上りましたけど私が手ぶらで上ってる中を篠宮さん7kgの荷物を常に持って歩いてるのと同じという事になるね。
必要なものだけあればどちらも必要ないんでね。
ですから必要ない筋肉はできるだけない方がいいですし。
筋肉も最低限。
プロ野球の始球式で練習も含め十数球投げたところ…。
翌日箸も持てないほどの筋肉痛になったというから驚きだ。
脂肪がある事で保温性が出る。
脂肪がある事はそれはエネルギーとして蓄える事ができるという考え方があったんですけど今は今見て頂いたように…ですからそういうものを組み合わせる事で…じゃあ本当に次世代の登山という感じで装備もそうだし自分の体もそうだしそれと合わせて進歩してる進化してるっていう事なんですね。
竹内は死の淵に立つ壮絶な経験をしている。
2007年7月ガッシャブルム