腹をすかせたサメ。
(スクワイヤ)どこに行った?
(ジュリアン)いたぞあそこだ。
よ〜し確保した。
どう猛な2匹のサメを1万km離れた水族館に運びます。
どうだ?よし。
急いで蓋をして。
オーストラリアからドバイへ。
(ハミルトン)行くぞ。
急げ。
ぶつけるな!急がないと酸素が足りなくなります。
UAEアラブ首長国連邦のドバイです。
ここに世界最大級の水族館があります。
巨大なショッピングモールに造られた水槽には常時3万匹以上の海洋生物が展示されています。
中でも目を引くのが珍しいサメです。
サメの種類や数の多さでは世界でもトップクラスだと思います。
イタチザメが32匹。
あちらにはシノノメサカタザメやオグロメジロザメもいます。
まだどこの水族館も成功していない珍しいサメの繁殖に挑戦したいと思っています。
ポール・ハミルトンはサメの飼育を専門とする研究チームを率いています。
ハミルトンの夢はどう猛なサメツマジロを繁殖させる事です。
(ハミルトン)ツマジロは海に生きる動物としてはまさに完璧な存在です。
(ハミルトン)均斉の取れた流線型の体とシャープな動き。
ツマジロが近づくと辺りに緊張が走るように見えます。
(ハミルトン)水族館でのツマジロの繁殖はこれまでほとんど例がなく是非挑戦したいと思っています。
ツマジロはインド洋や太平洋の暖かな海域に生息しています。
オーストラリアのグレート・バリア・リーフ近海にもツマジロがしばしば現れます。
大物のようだ。
何があがってくるか楽しみです。
(歓声)すごいぞ!引き上げるのに人手がいる。
手伝ってくれ!ライル・スクワイヤは海洋生物を生け捕りにし世界各地の水族館に届ける会社を営んでいます。
探しているものよりサイズが大きいのでこれは海に帰します。
一旦引き上げて水槽に入れよう。
大物のサメだ。
よほど腹が減っていたのかな。
フックを2本もくわえている。
私たちが捕獲した海洋生物は世界中で何億もの人々の目に触れています。
誇りを持ってこの仕事に情熱を注いでいます。
海洋生物の捕獲は厳しい規制の下で行われます。
条件に合わないものは全て海に戻されます。
元気に海に帰っていきました。
スクワイヤの会社はオーストラリア北部のケアンズにあります。
水槽は全て温度が管理されさまざまな種類のサンゴや魚が保管されています。
5匹の若いツマジロもいます。
ヒレや尾の先端が真っ白な事からこの名が付きました。
ドバイ水族館からツマジロを届けてほしいと言われました。
やりがいのある挑戦です。
スクワイヤに託されたのはツマジロの若いオスとメス2匹をドバイの水族館まで届けるという大仕事です。
オーストラリア北部のケアンズからペルシャ湾岸のドバイまで1万km以上あります。
小型の魚とは違い長さ1m以上もあるサメの搬送には確立された方法はありません。
どうやって運ぶか一から考えなければなりません。
失敗は許されませんから。
船で運ぶと数週間かかります。
輸送時間を短縮するためスクワイヤは飛行機の貨物室に載せる計画を立てました。
搬送費用はおよそ3万5,000ドル。
航空運賃だけで1匹あたり1万2,000ドルかかります。
目的地に着くまでの30時間ツマジロの健康状態を確認する機会はありません。
ツマジロを安全に運べる水槽が必要です。
(ジェフ)粗い面が上だ。
特別な水槽を用意する事にしました。
ツマジロは泳ぎ続けていなければ死んでしまうためです。
(ジェフ)よし作り始めよう。
ツマジロは泳ぐ事で水中の酸素をエラから取り込んで呼吸します。
止まっていると呼吸ができないため大きな水槽が必要です。
しかし飛行機の貨物の大きさは幅2.4mまでと制限されています。
四角形の水槽では泳ぎを妨げてしまうおそれがあります。
そこで円形の水槽を用意する事にしました。
これなら水槽の隅にぶつかる心配はありません。
水槽は密閉し上部の空間を酸素で満たします。
更にポンプで海水に酸素を送り続けながら搬送する計画です。
円形の水槽を1匹につき1つずつ作る事になりました。
(ジェフ)まず円の中心にあたる部分に金属の棒を取り付けます。
(ジェフ)こうやってカッターを1周させてきれいな円を切り出します。
これは蓋の部分です。
OK。
次に窓を切り出します。
ここからサメを入れます。
1mmでも蓋に隙間があると水槽の中の酸素が漏れてしまいます。
よしこれでいい。
水槽の蓋の上に酸素を送る装置を取り付けます。
それじゃあエアポンプを取り付けよう。
これは海水に酸素を送り込むための装置です。
この丸い部分から酸素が出てきます。
バケツを持ってきて。
ちゃんと機能しているか試しておきましょう。
いざという時に動かないとサメの命に関わります。
問題ない。
OKだ。
出発は7日後に決まりました。
出発前にエサを与えるのはこの日が最後です。
小さな水槽に排泄物がたまると体に毒素が取り込まれ弱ってしまうおそれがあります。
そのため出発の1週間前から絶食させるのです。
これからツマジロにイワシを2匹ずつ与えます。
このあとはドバイに着くまで絶食です。
専用の棒を使ってエサをやるんです。
ツマジロの場合は一番長いものを使います。
エサを棒の先につけて水に入れるとものすごい勢いで食いつきますよ。
どのサメが食べたかを把握して均等に与えるのが大変です。
5匹のツマジロの全てに同じ量のエサが与えられました。
出発までにドバイへ送る2匹を選びます。
これが出発前最後のエサです。
しばらくは腹ペコだ。
ツマジロをドバイまで運ぶためには複雑な手続きが必要です。
獣医師と商工会議所の認可が必要なのでこれから書類を取りに行きます。
許可なしにはサメをドバイに持ち込めません。
税関で止められて送り返されてしまいます。
滞りなくドバイの水族館に届けるために書類や手続きの不備は許されません。
書類はこれで全部?そうです。
ありがとう。
ではこれを。
それじゃ。
ドバイへ届ける2匹のツマジロを選ぶ事になりました。
その前にオスとメスを見分けなければなりません。
オスかメスかを見分けるには腹を見るのが一番なんですが水面からではサメの腹は見えません。
オスの腹にはクラスパーという交尾器がありメスにはないんです。
スクワイヤが水槽に入り直接目で確認する事にしました。
オスの腹びれにはクラスパーと呼ばれる軟骨が2本延びています。
交尾の際にメスが離れないよう体を固定するためのものです。
大人のオスには長いクラスパーがありますがここにいる5匹は若いためクラスパーが小さく確認するのに時間がかかります。
ツマジロは他のサメも襲うほどどう猛なので用心しないと。
ツマジロが興奮しないようゆっくりと行動しなければいけません。
間近で見ると迫力あるね。
どれも元気そうだ。
オスのような気がするけどはっきり見えない。
(シニア)長時間そばにいるとツマジロが暴れだす危険性があります。
だんだん距離を狭めているようです。
ドバイ水族館の注文に応えるためオスとメスを確実に見分けなければいけません。
今回はクラスパーを確認できませんでした。
5匹ともメスなのか若くてクラスパーが未発達なのか判断できません。
(シニア)お疲れ。
搬送当日網で引き上げて確認する事になりました。
水槽の仕上げ作業が始まりました。
よし慎重に運べよ。
ケアンズからドバイまでは香港経由で30時間かかります。
水槽には余裕を見て45時間分の酸素を入れます。
しかし経由地で遅れが生じ酸素が足りなくなる可能性もあります。
実際過去には失敗した例もあります。
2010年2匹のトラフザメを飛行機で搬送する事になりました。
この時水槽の中には余裕を持って14時間分の酸素が入れられました。
しかし濃い霧のためにフライトは大幅に遅れサメは死んでしまったのです。
サメを水槽に移した瞬間からカウントダウンが始まります。
ですから出発当日は水槽に移す時間をなるべく遅らせたいんです。
スクワイヤは航空貨物の担当者を訪ね水槽が貨物室に積み込まれる時間を確認する事にしました。
当日の行動を分単位で組み立てるためです。
こんにちは。
やあどうぞこちらへ。
どうも。
出発は明日の午後3時20分です。
出発の2時間前には空港に到着して貨物を搬入して下さい。
かなり立て込む事が予想されるので2時間を切ってしまうと飛行機に載せられなくなるかもしれません。
一つのミスも許されません。
出発時間から逆算して朝9時半ごろにツマジロを水槽に入れる準備を開始します。
削れる時間は全て削りました。
1万km離れたドバイの水族館でも受け入れの準備が始まりました。
水族館の巨大なサメが新しく来るツマジロを襲わないように事前に大量のエサを与えます。
サメは満腹であれば眠ったように静かで周りの魚を襲ったりしません。
水族館では400匹のサメやエイに人の手でエサを与えています。
僕が正面にいるサメにエサを与える間君たちは周りをガードしてくれ。
横の方から来たサメを追い払って。
反対側も同じだ。
正面から来るサメ以外は1匹も寄せつけないでくれ。
サメの空腹を満たすために合計30kg以上のマグロが与えられます。
巨大な水槽の中が騒がしくなります。
水槽の底にいるトラフザメや大きなエイも動きだしました。
全てのサメやエイが満腹になるまでダイバーはエサを与え続けます。
サメはすっかり満腹になり目の前で魚を振っても見向きもしなくなりました。
これで大丈夫でしょう。
ケアンズの夜が明けました。
出発の日です。
午後1時までに2つの水槽を空港に運ばなくてはなりません。
プールから引き上げオスかメスかを確認し落ち着かせてから搬送用の水槽に移します。
サメの移動は2段階に分けて行われます。
まず1匹目を予備の水槽に入れて15分ほど泳がせます。
ストレスを受けたサメは体液や排泄物を出します。
サメが完全に落ち着いてから搬送用の水槽に移します。
この作業を繰り返しオスとメス1匹ずつを準備します。
素早く行わなければサメが弱ってしまいます。
10時だ。
スタッフもみんなスタンバイしている。
よ〜しみんな始めよう。
酸素を目標値まで溶かし込みます。
なるべく楽に呼吸できるようにしてストレスを減らしてやるんです。
最初の課題は引き上げです。
5匹が警戒し始めている。
動揺させないようにゆっくり入れよう。
最も体長の大きなものから引き上げます。
網で捕まえるのは簡単ではありません。
サメは魚類の中でも非常に素早い動きをします。
その秘密は骨。
全身の骨格が軟骨で構成されているため動きがしなやかで方向転換が自在にできるのです。
更に体重の半分を占める筋肉が素早く収縮する事で優れた瞬発力が生まれます。
つまり人間が捕まえるのは至難の業です。
時間がかかるとツマジロが興奮する。
あの大きいのを最初に狙おう。
(ジュリアン)ああ。
どこに行った?
(ジュリアン)いたぞあそこだ。
こっちへ来るぞ。
よ〜し確保した。
行くぞ。
ぶつけるな。
急げ。
放すぞ。
よし落ち着いているようだ。
成功だな。
うんいい感じだ。
15分経過しました。
もういいだろう。
再び引き上げて搬送用の水槽に移します。
さあ次の水槽だ。
その前に性別を確認しなければなりません。
よし…どうだ?急げ。
え〜と…。
オスかメスかどっちだ?ああ…。
早くしろ!時間がない。
ああオスです。
水槽へ急ごう。
次はメスだ。
しかし突然予想外の知らせが届きました。
(シニア)待て今日は中止だ。
どうして?台風のせいだ。
何だって!?こいつを一旦プールに戻さなきゃ。
走れ!香港に台風が近づいているため予定の便が欠航になったのです。
信じられないよ。
戻すぞ。
なんて運が悪いんだ。
最悪だな。
台風か。
この日のために手配したトラックや人員など費用3,000ドルが無駄になります。
申し訳ない。
残念だが香港への便は欠航になったのでこのあとどうするかを決めて下さい。
搬送に備えツマジロには1週間前からエサを与えていません。
分かりました。
問題は次のフライトがいつになるかです。
あと48時間以内に出発できないなら一旦サメにエサをやらなくてはなりません。
1週間エサを与えてから再び絶食させると大幅に遅れてしまいます。
あさっての金曜日までに何とか代わりの便を。
すぐに確認します。
ええ。
連絡します。
不測の事態で搬送は延期されました。
スクワイヤはすぐにドバイの水族館に連絡しました。
もしもし。
もしもしケアンズのスクワイヤです。
どうも。
順調ですか?それが残念ながら問題が発生しました。
台風のせいで経由地の香港へ飛ぶ便がキャンセルされたんです。
そうか。
ではこちらも受け入れ態勢を調整しないと。
水族館の側も大がかりな準備をしています。
(ハミルトン)空港から水族館まで普通のトラックでは水槽を運べないんです。
気温が40℃にもなるので大型の保冷車を用意しないと。
ただドバイでは土曜日に大型車の通行が禁止されています。
到着が土曜日なら警察の協力を得なければ。
問題が山積みですね。
また状況を知らせます。
連絡を待っています。
ええそれじゃ。
計画は一からやり直しです。
金曜の午後の便で頼む。
あさって金曜日の同じ時間でよければ水槽2個分のスペースを確保できそうです。
金曜日ならありがたい。
ツマジロを絶食させられる限度はあと48時間。
何とか間に合います。
これ以上ないというほどギリギリの状況です。
台風の接近で搬送計画が遅れるなんて思いもしませんでした。
2日後の出発に備え2匹目のサメの性別を確認する事にしました。
(シニア)どうだ?メスだ。
オスとメスがそろいました。
これで一安心です。
金曜日がやって来ました。
2度目の本番です。
前回と同様朝10時に準備を開始。
午後1時20分までに2つの水槽を空港に運びます。
パパから離れてくれるかな。
よし始めよう。
そいつから目を離すな。
小さいのは向こう側に移してしまおう。
今だ下ろせ。
(アダム)よし!あ〜。
なにもたもたしてるんだしっかりしろ。
前回より苦戦しています。
こいつだな。
よし引き上げよう。
行こう。
急げ。
そっと入れろそっとだ。
予定より10分以上遅れています。
どこかで遅れを取り戻さないと。
(アダム)こっちに向かってくる。
よし追い込んだぞ。
よっと。
時間を節約するため2匹を同時に1つ目の水槽に放す事にしました。
問題ないな。
あとは時間との勝負だ。
段取りは全て頭に入っている。
よし網を。
(アダム)ああ。
こいつからいこう。
よし。
水から出している時間をなるべく少なくしないと。
ポンプから酸素がちゃんと出ている事を確認しました。
なんて忙しいんだ。
2匹目も素早くやろう。
入った。
2つ目の水槽に。
2匹をそれぞれの搬送用の水槽に移し終えました。
酸素は?
(アダム)OK。
じゃあすぐに蓋を閉じよう。
中の酸素が漏れないよう完全に密閉します。
酸素を送り続けて中を酸素でいっぱいにします。
11時半までには2つの水槽の準備を終えなければなりません。
OK。
最後にもう一度蓋の閉まり具合を確認しよう。
完全に密閉されていれば中に酸素を吹き込むとその分穴から酸素が吹き出すはずです。
どうだ?出てくるか?ばっちりだ。
それじゃあ急いで梱包しよう。
まず水槽の下の部分をビニールで覆いその上を更に梱包します。
緩まないようにきつく縛ろう。
まるで巨大なプレゼントです。
無事に届いてドバイの人たちに喜んでもらえるといいんですが。
さあお別れだよ。
サメにさようならしようね。
バイバーイ。
ケアンズの空港まで7km。
4t以上の海水が入った水槽をできるだけ揺らさないように進みます。
積み荷の重みで前に押し出されます。
ブレーキを柔らかく踏まないと前の車に追突しそうです。
午後1時。
空港では香港行きの便の搭乗手続きが始まりました。
乗客は誰も生きたサメと一緒に空を飛ぶ事を知りません。
オーライオーライ。
よ〜しストップ。
貨物置き場に水槽が到着しました。
ライルこっちです。
どうも。
いよいよ出発ですね。
ええ。
貨物室のどこに置くかが決まりました。
2つの水槽は21番と22番の荷台に積み込まれます。
翼の前あたりです。
つまりサメはあなたの座席のほぼ真下に置かれています。
それはいい。
水槽を床に固定し乱気流による揺れに備えます。
間もなく出発です。
ライルもそろそろ飛行機に乗り込まなくては置いていかれます。
チェックインを。
ご搭乗ありがとうございます。
お荷物はお一つですか?あと貨物室にサメが。
まあそうですか。
それではお荷物とサメを確かにお預かりします。
ありがとう。
良い旅を。
それじゃ。
香港行きの便は定刻に飛び立ちました。
ツマジロの水槽は6,000km離れた香港の空港でドバイ行きの便に積み替えられます。
同じ頃ドバイはまだ金曜日の午前中です。
ツマジロの到着まで24時間を切りました。
水族館ではツマジロを休ませるプールを準備しています。
大体出来ました。
そこが曲がっているね。
ツマジロの飼育は私たちには初めての経験です。
水槽に入れた際壁の存在に気付かずに泳ぎ続けぶつかって傷ついたりする事を心配しています。
水族館では水槽にある工夫を凝らしました。
自然界のサメは岸に近づいて水深が浅くなると座礁を避けるため深い方へ引き返します。
そこで水槽にも同じような傾斜を作る事にしました。
この先は行き止まりだという事をサメに気付かせ引き返させるためです。
ツマジロを載せた飛行機が香港の空港に到着しました。
乗り継ぎの便に水槽を積み替えるための時間は3時間しかありません。
2匹のツマジロは既に12時間以上密閉された水槽にいます。
中の酸素は次第に減っていきます。
もしこの乗り継ぎ便に乗れなければ危険な状態になる可能性があります。
無事に積み替えが行われたのを確認しました。
私たちも急がないと。
ドバイまで更に8時間以上のフライトです。
一方ドバイ水族館では翌日の朝のツマジロ到着に備えて緊急時の対策が話し合われています。
空港では水槽の蓋を開けず小窓から中を確認する。
万一サメが横向きやあおむけになっていたら蓋を開けて状態を確認しよう。
サメは極度のストレスにさらされると気絶したり瞳孔が開いたりする。
そうした危険に備えて蘇生の準備を整えておこう。
朝4時15分。
香港をたった飛行機がドバイ空港に到着しました。
既に外の気温は35℃以上あります。
水槽を早く移動させないと中の水温が上昇する危険性があります。
長時間振動にさらされた影響も心配です。
一刻も早く運ばなければなりませんが少しでも手荒に扱うと水槽に衝撃を与えてしまいます。
(ハミルトン)長時間の輸送でかなり消耗している上にここで興奮させたら命に関わります。
サメは衝撃や水の振動に非常に敏感です。
サメには体の両脇に「側線」と呼ばれる感覚器官があります。
液体が詰まった管の中にある産毛のようなものが水圧や水流の変化を敏感に察知します。
狭い水槽の中でツマジロは敏感に揺れを感じ取り長時間ストレスにさらされてきました。
もし貨物室から降ろす際の衝撃で壁に体をぶつけたりすればパニックに襲われる危険性があります。
(ハミルトン)空港にあるのは貨物用の機械ですから繊細な動きは期待できません。
ああまたぶつかった。
(スタッフ)ぶつけるな!サメの状態を確認できるのは冷房のきいた建物に運び込んでからです。
税関手続きを終えたスクワイヤも水槽の元へ急ぎます。
もしツマジロが死んでいたら3万5,000ドルの損失を被る事になります。
2匹を水槽に入れてから今まで確認する機会がありませんでした。
ドキドキしますね。
水槽に密閉されて24時間以上が経過しています。
(ハミルトン)風が通るように扉を半分ほど開けておいて下さい。
2匹の様子をようやく確認できます。
無事だろうか。
緊張します。
若いツマジロを受け入れるのは初めてです。
無事でいてほしいですね。
まだ水槽の元にたどりつけません。
2匹とも元気だといいんですが。
早くこの目で確認したい。
結果を聞かなくては。
やあスクワイヤです。
はじめまして。
無事ですよ。
ああよかった。
2匹ともちゃんと泳いでますよ。
一安心だ。
どちらも元気そうなのでとりあえず肩の荷が下りました。
よかった。
空港から水族館まで12kmを移動するために巨大な保冷車が用意されました。
あまり奥に積み込むと水族館で取り出す時が大変です。
それでいい。
なるべく手前に。
水族館にはこんな大型のフォークリフトはありません。
これは大変だ。
土曜の朝通常は大型車が市内を走れない時間帯ですが特別な許可を得てパトカーに守られながら出発しました。
気温は40℃。
30分で水族館のある建物に到着しました。
地下の駐車場は大型トラックがやっと通れる幅しかありません。
こんなに大きなトラックで生き物を搬入する事を想定していませんでした。
オーライ。
いよいよ最後の難関です。
水槽を降ろしたらすぐに酸素レベルを確かめる必要があります。
(ハミルトン)ゆっくり慎重にいこう。
いくぞ。
問題は奥に積まれた水槽です。
ベルトを用意した。
手伝ってくれ。
ベルトを巻き付けて端まで引きずり出してからリフトで降ろします。
端を持って。
(スタッフ)引いて引いて。
(ハミルトン)みんな荷台から降りて。
こっちに引っ張るから。
(ハミルトン)これでフォークリフトに載せられるだろう。
いくぞ。
ゆっくり降ろすぞ。
最後にぶつけた。
心配なのは水中の酸素の残量です。
出発してから一度も確認していません。
(ハミルトン)130%だ。
蓋をした時の数値は270%だったのでかなり酸素を消費しています。
あと少しで危なかった。
すぐに新しい酸素を送り込みます。
酸素を送ってくれ。
これでサメを落ち着かせる事ができます。
ほっとしました。
泳いでいる姿を実際に見るまでは正直不安でしたから。
地下の搬入口から水族館までの経路にはさまざまな障害物があります。
今いるのは地下で水族館は2つ上の階にあります。
ここからエレベーターに乗って更に迷路のような廊下を奥まで進んでいかなくてはなりません。
水槽が大きすぎて廊下を通れないためサメを1匹ずつ袋に入れて運ぶ事にしました。
僕が袋に追い込んだら引き上げてくれ。
まずはメスのツマジロから。
袋を水に浸し酸素を送り込みながら運びます。
よし。
水に浸かっているか?よし行こう。
酸素が送り込まれているか確認して。
エレベーターだ。
2階へ。
酸素のレベルは?大丈夫です。
(ハミルトン)行くぞ急げ。
このまままっすぐ。
曲がって。
遠いな…。
(ハミルトン)ドアを開けて。
さあ急ごう。
そこを開けて。
もう少しだ。
急いで急いで!気をつけろ。
ここに止めよう。
袋の口を確認して。
持ち上げるぞ。
急げ。
早く水槽へ。
放そう。
うまくいった。
(拍手)1匹目の搬送は成功です。
しかしツマジロを運んだ袋に問題が発生しました。
(スタッフ)うわぁ…。
まさかあの袋をかみちぎるとはね。
ハハハ…誰かの手じゃなくてよかった。
多分エレベーターが止まった時でしょう。
驚いて袋にかみついたんです。
袋の穴を塞ぎオスも無事運び込みました。
大成功だ。
2匹とも元気そうだし悠々としている。
(ハミルトン)思っていたよりスムーズでしたね。
搬送が成功したかどうかはエサを与えてみれば分かります。
エサに食いついてくるようなら大成功です。
こっちだ。
おいで。
お〜!お〜やったぞ!よ〜し。
(ハミルトン)もっと欲しがってる。
すごいな。
2匹とも食欲旺盛健康な証拠です。
完璧だ。
ツマジロを水族館の巨大な水槽に移す時が来ました。
新入りのサメは通常かなり警戒しながら水槽に出ていきます。
そして水槽に入ると周りの魚が一斉に注目している事に気付くんです。
大概のサメは警戒心を強めます。
この2匹が逃げ出そうとするかあるいは悠々と泳ぎ続けるかは入れてみてからのお楽しみです。
準備はいい?よし開けて。
さあ行け。
ツマジロの様子を見るため水族館の展示室に移動します。
あそこにいます。
先頭を切っている。
堂々としていますね。
こんなにたくさんの魚に囲まれながら悠々と泳いでいるなんて。
やはり大したサメだ。
(ハミルトン)大量の魚が群れを成して後ろを泳いでいるのはツマジロが怖いからです。
真後ろをついていくのが一番安全ですからね。
こっちに来た。
1万km以上離れた地へ2匹のツマジロは無事届けられました。
スクワイヤたちは今も世界中の水族館に珍しいサメを届け続けています。
おっ忍者。
ほう〜青忍者の武器は磁石か。
2014/06/28(土) 19:00〜19:45
NHKEテレ1大阪
地球ドラマチック「サメ 水族館に届けます」[二][字]
水族館の生き物はどこからどうやって運ばれてくるのか?オーストラリアに海洋生物を生きたまま世界中に届ける専門会社がある。中東ドバイまでのサメの搬送に密着する。
詳細情報
番組内容
オーストラリア・ケアンズに、グレートバリアリーフに生息する海洋生物を生きたまま世界各地の水族館や研究所に搬送する会社がある。今回の注文は世界的なサメのコレクションで知られるドバイの水族館から。「ツマジロ」という種のサメ2匹を届ける。専用の水槽を用意して空輸する。密閉できるフタを手作りし酸素を送る装置も取り付けた。サメを1週間前から絶食させて準備万端と思ったら…問題発生!(2010年イギリス)
出演者
【語り】渡辺徹
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – 自然・動物・環境
ドキュメンタリー/教養 – 宇宙・科学・医学
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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日本語
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英語
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