今は昔都の外れにあるお寺に僧都と呼ばれる位の高いお坊さんがいました。
(いびき)僧都様起きたら…。
どんな顔なさるやらヘヘヘ…。
僧都さんは学の高さで世に聞こえていましたがとても力が強いことでも有名でした。
でもかなわないものがあるはずと弟子のお坊さんたちが僧都さんの足の指にこっそりクルミを挟んだのです。
ところが僧都さんは先刻ご承知。
ふあ〜!少し足の指に力を入れると硬いクルミが…。
(3人)ひえ〜!ある秋の日僧都さんは宮中に呼ばれていました。
都のお坊さんたちが顔を揃え祈祷が行われることになったのです。
長い読経が終わりましたが僧都さんは頼まれて貴族の高官たちに仏の教えを講義することになり帰る頃には日も暮れていました。
お寺の小坊主はとっくに帰してしまっています。
明るい満月の夜僧都さんは牛車を断り歩いて帰ることにしました。
都路をのんびり歩いていると…。
おやお坊様。
夜分のひとり歩きは物騒ですじゃ。
わしがお供いたしましょう。
それは貧しい身なりの男でした。
退屈しのぎに話しながら帰ろうかとお供を許すと…。
お坊さんの着物は重そうじゃ。
お寺までおぶってしんぜましょう。
ありがたい。
では頼もう。
すると男は行き先も聞かずいきなり走り出したのです。
男はお寺とは反対の方角に走ります。
初めは驚いたもののそこは僧都さんどこへ行くのか興味がわいてきました。
実は男は寂しい場所で人の着物を奪い取る追いはぎ。
僧都さんの上等な着物を奪い売ってやろうと考えていたのです。
やいやいやい!羽織った着物を脱ぎやがれ!脱ぐのにはちと寒そうじゃわい。
やか〜しいわい!四の五の言わずに早よう脱げ!脱がんと投げ飛ばすぞ!おもしろい投げ飛ばしてみよ。
いや…あ〜っと!おんぶされたまま僧都さんが男の腹を締めつけたのです。
痛さに男は身動きもできません。
約束じゃ寺まで送ってもらう。
へい!ハァハァハァハァ…。
これちょっと道草をしよう。
チッ道草じゃと?宴の松原にまいる。
よいな?行きますうう…。
宴の松原は月見の名所です。
よい月じゃこの月に何を感じるかのう。
フン。
言ってみなさい。
い言う…つきたての餅じゃ。
従わないと締めつける力が強くなるので言いなりになるしかありません。
次に向かったのは馬場。
馬の競走…くらべ馬が行われる場所です。
おぬしの走りっぷりはみごとじゃった。
わしを乗せてくらべ馬に出てみんか?くっうぅ…。
よし次。
命じられるまま都路を西へ東へ。
男はもうクタクタです。
ハァハァ…もう堪忍してくれ。
役人にでも何でも突き出すがええ。
まだまだ。
この先に気持のよい社があるんじゃ。
クソ〜!!もうどうにでもなりやがれ!月はもう西の夜空に傾いていました。
月は地平線に落ちても手に入らん。
餅と違うところじゃ。
ケッ!白い餅はついても手に入らんわい。
男は貴族の屋敷に餅つきに雇われたことがありました。
その代金は白い餅ではなく貧しい人が食べる粟餅でした。
ふらつく足でようやくお寺に向かったのは夜も明けようとする頃。
男はすっかり観念していました。
けれども顔を上げると…。
あっ!ひと晩中あちこちを走らせて世話になった。
おもしろかったぞこれは礼じゃ。
あ…あのわしを捕まえないんで?ありがとうございます。
そういや寺でも餅つきがあっての。
手伝いの者にも餅をふるまうそうじゃ。
そののち男が追いはぎを働くことはありませんでした。
あやつ餅つきにやってくるかのう?昔むかし旅のお坊さんが暗くなった山道で歩き疲れていると古いお堂があったのでそこで一夜を明かすことにしました。
くろこまや!くろこまやいでよ!はい。
今夜は石引きじゃ!それ引け秤の目を偽った報いじゃ!引け引け!枡の目を偽った報いじゃ!もっと引け!ものさしの目を偽った報いじゃ!次の日お坊さんは山を下りるとゆうべ鬼が口にしていたくろこまやとは何か町の人に聞いてみました。
お坊さん黒駒屋を知らんのか?大きな米屋じゃ。
味噌も塩も反物だってある。
このへんじゃ知らぬ者はおらんよ。
だがあこぎな商売で成り上がった男じゃ。
施しなんぞ期待できんよ。
そこでお坊さんは店を訪ね心当たりはないかとゆうべお堂で見たことを話して聞かせました。
いい加減なことを言うな!確かに娘は病気で早くこの世を去った。
だが鬼にさいなまれるいわれなどない!私はこの目で…。
娘の供養になどと親切ごかして金や食い物を騙し取る気じゃろう!いや何もほしいわけではない。
私が見たことを娘さんの身内に伝えよという御仏の思し召しなのです。
今夜そのお堂へお連れいたしましょう。
その夜お坊さんは主人を連れてお堂へ向かいその中で待ちました。
黒駒屋黒駒屋いでよ!
(ひさ)はい。
あれは娘の…。
様子を見ましょう。
今夜は火の原じゃ!それ歩け!秤の目を偽った報いじゃ!歩け歩け!枡の目を偽った報いじゃ!もっと歩け!ものさしの目を偽った報いじゃ!あ…熱い!お前は父親の悪行を止めさせようとしたと思っているだろうが今でも不正は行われている。
父親がここに来たときには今の何倍もの責め苦を与えてやる。
どうかどうかお慈悲を。
私はここでどんな目にあっても構いません。
ひさ…。
おとっつぁんは子供の頃から誰からも優しさをかけられることも手助けを受けることもなく生きてきました。
今に人の道を悟ることでしょう。
悟らねば何とする!私が未来永劫地獄に留まってこの責め苦に耐えましょう。
ひさ〜っ!ご主人!ひさひさ!娘はひさは何も悪いことはしておりません。
それどころか不正を正そうとしたのにわしは聞く耳をもたなかった!ひさひさ!どうやら幻覚のようです。
そそんなことが。
地獄だ!わしが地獄の中にいたのだ!苦しみはわしだけでいい!今からでも遅くはない。
娘さんを思いあなたの善を重ねていきましょう。
それからの主人はお坊さんの言葉にすがるように困っている人々に蔵の米を施し貧しさのために亡くなった人々を供養し続けました。
彼岸の頃黒駒屋の悪い噂は消え主人は人が変わったと評判になっていました。
お坊様。
はい。
なんだか花のにおいがしませんか?そうですね。
きっと娘さんに祈りが通じたのでしょう。
そのときお坊さんと黒駒屋の主人はひさが成仏したのだと感じていました。
昔むかし瀬戸内海にはたくさんの船が行き来していました。
けれども古くから戦のあったこの海ではたびたび幽霊が出て人を惑わしたり船を沈めたりしていました。
そこでお盆から次の新月までの夜は絶対に船を出してはならないというお触れが出されていました。
ある夏の夜船乗りの新三が見張りに立ったときのことです。
ひしゃくを貸せ。
おい誰かいるのか?霧の中で人の腕が手招きをしていました。
ひしゃくだひしゃくを貸せ。
ヒィーッ!その不気味な声に新三は思わず手に取ったひしゃくを海に投げました。
するとひしゃくを持った腕がどんどん増え始めました。
腕はひしゃくに海水を満たして甲板に注ぎ始めました。
あくる日ただ1人生き残った新三は海辺の村に流れ着きました。
漁師の千吉は眠り続けた新三の看病をしました。
新三は3日目になってようやく目を覚ましました。
お盆の間夜は船を出してはならないお触れが出ているはずじゃ。
なぜ船を出した?戦が始まったんじゃ。
今武器弾薬を運べばいい儲けになる。
この書き入れ時にお触れなんぞ守っちゃいられねえ。
船が沈んでは元も子もないだろう。
あの夜は雨も風もなかった。
いったい何があった?新三はあの夜起こったことを話しました。
それは船幽霊じゃ。
船幽霊?あぁ。
その昔このあたりで大きな合戦があった。
大勢の武者が鎧のまま海へ沈んだ。
船幽霊はその怨霊だと言われている。
「ひしゃくを貸せ」と言っても絶対に貸しちゃなんねえ。
船が沈んで3日も経ったならじきに次の船が来るはずだ。
千吉どん頼む船を出してくれないか?2人は日が暮れる前に船に追いつこうと必死で漕ぎましたが追いつく頃には夜になっていました。
なんじゃ引き返せだと?おらこの目で見たんじゃ。
このまま行けば船幽霊にあう!
(笑い声)船乗りたちは大笑いして新三たちを相手にしませんでした。
必死の説得は聞き入れられず新三たちは夜明けを待って帰されることになりました。
2人が舳先から海上を見つめていると見回りの船乗りがやってきました。
夜が明けたらすぐに船から降りてもらうからな。
もう寝たほうがいいぞ。
2人が振り返ったそのとき…。
ひしゃくを貸せ〜!うわぁ〜!船乗りは恐怖で腰を抜かしました。
ひしゃくだ!ひしゃくを貸せ〜!耳を塞げ!千吉と新三は耳を塞いでしゃがみこみました。
船乗りは手にしたひしゃくを海に投げ入れてしまいました。
次の瞬間ひしゃくを持った腕がみるみるうちに増えていきました。
無数の腕は絶え間なく海水をすくっては甲板に注いでいきます。
このままでは船が沈んでしまう。
積み荷を海に捨てるんだ!船乗りたちは積み荷の武器を運び出しました。
新三は刀の束を千吉は弾薬の詰まった箱を担いできて投げ捨てました。
船乗りたちは大きな大砲を力を合わせて海へ放り込みました。
武器が水面にぶつかり大きなしぶきを上げると瞬く間に海水でさびすぐに泡になって消えていきました。
すると無数の腕はぴたりと水をすくうことをやめ海の中へと姿を消していきました。
新三たちは恐ろしい一夜を過ごしましたがなんとか命は助かりました。
港にはたくさんの商人たちが武器の到着を今や遅しと待っていました。
幽霊に囲まれ武器を海に放り出した話を商人たちは信じるはずもなく呆れて帰ってしまいました。
しかし新三と千吉は思っていました。
武者の亡霊たちが再び戦でたくさんの人々が命を落とすのを悲しんでいたのだと。
2014/07/13(日) 09:00〜09:30
テレビ大阪1
ふるさと再生 日本の昔ばなし[字][デ]
「おんぶされたお坊さん」
「地獄を知った男」
「幽霊のひしゃく」
の3本です。お楽しみに!!
詳細情報
番組内容
私たちの現在ある生活・文化は、昔から代々人々が築き上げてきたものの進化の上にあります。日本・ふるさと再生へ私たちが一歩を踏みだそうというこの時にこそ、日本を築いた原点に一度立ち返ってみることは、日本再生への新たなヒントになるのではないでしょうか。
この番組は、日本各地に伝わる民話、祭事の由来や、神話・伝説など、庶民の文化を底辺で支えてきたお話を楽しく伝えます。
語り手
柄本明
松金よね子
テーマ曲
『一人のキミが生まれたとさ』
作詞・作曲:大倉智之(INSPi)
編曲:吉田圭介(INSPi)、貞国公洋
歌:中川翔子
コーラス:INSPi(Sony Music Records)
監督・演出
【企画】沼田かずみ
【監修】中田実紀雄
【監督】湯浅康生
制作
【アニメーション制作】トマソン
ホームページ
http://ani.tv/mukashibanashi
ジャンル :
アニメ/特撮 – 国内アニメ
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
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