そんな症状はありませんか?72歳のこの女性は1年前加齢性の難聴と診断されました。
友人に話しかけられてもよく聞こえず日常生活に支障が出てきました。
コミュニケーションの基礎となる聴力の低下。
うつや引きこもりにつながるとも言われています。
難聴は超高齢社会にあって注目される病気の一つとなっているのです。
今難聴の治療や対処法が大きく変わってきています。
その一つが…精巧な音の増幅が可能となりおしゃれな色や形のものも登場しています。
更に人工内耳という精密機器を耳に埋め込む手術が難聴を改善させる治療法として定着しています。
生まれて間もなく難聴と分かったこの男の子は手術で聴覚を取り戻しました。
ふだんの暮らしに大きな影響を与える「聞こえ」の問題をどう考えどのように対処していけばよいのか。
今日は難聴の最新情報を詳しくお伝えします。
今日のテーマは「難聴」です。
ふだんは音が聞こえている事が当たり前であまり意識した事がないという方でも年齢とともにあるいは別の理由で私たちの耳の聞こえは変化していきます。
今日は難聴そして暮らしと切り離せない音の聞こえの問題について専門の方々に詳しく伺っていきます。
それではお話し下さる皆さんをご紹介いたしましょう。
細井さんのご専門は耳鼻咽喉・頭頸部外科学です。
今日は難聴の専門医のお立場から特に補聴器についてお話し頂きます。
難聴が原因でコミュニケーションが障害されますと今ビデオでありましたように社会から孤立しがちになります。
聞こえないんだから参加したくない。
いろんな会合にも行きたくないという事になります。
それではせっかく長い命それから健康な人であってもそれを生かす事ができません。
補聴器はそれを解決するための大きな一つの武器です。
補聴器は年々進歩しております。
ですがどのようにして補聴器を選択しどのようにしたらいいのか。
それが皆さん方にお分かりでない方も多いと思いますのでそういう事を中心に話をしたいと思います。
続きまして…。
小児耳鼻咽喉科教授の…今日は難聴の手術を中心にお話し頂きます。
重度の難聴の方成人の方もそうですし生まれつき聞こえの悪いお子さん。
こういう方が先ほどの人工内耳の手術をして人工内耳を装着しますとほんとによく聞こえるようになります。
今日はこの人工内耳の話も含めてですねいわゆる聴覚聴力改善手術について詳しくお話をしたいと思います。
続きまして日本医師会常任理事の小森貴さんです。
耳の聞こえ全般に関してかかりつけ医のお立場からお話し頂きます。
お年を召されてそれとってもすばらしい事です。
だけれどもその事が原因で聞こえが悪くなってきたというご高齢の方はとってもたくさんいらっしゃいます。
毎日の生活でとっても不便を感じていらっしゃいます。
聞こえにとって何が大切なのか。
聞こえに関するさまざまな知識を今日は正しく学んでそしてどうしていったらいいかを皆様と一緒に考えていきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。
(拍手)まず私たちが音を感知する仕組みについて小森さんお願いいたします。
はい。
耳。
これは外耳中耳そして内耳から成っていてそれぞれがいろいろな役割をして音が聞こえます。
音の聞こえる仕組みをアニメーションで見てみましょう。
(小森)いわゆる音というのは空気の振動ですね。
外耳つまり耳の穴から入った音は鼓膜に達します。
鼓膜から振動となって耳小骨という私たちの体の中で一番小さな骨によって音が増幅をされます。
そして蝸牛と呼ばれる渦巻きの管に伝わります。
蝸牛というのはまさにこの字のようにカタツムリみたいな形をしています。
その内部には細かい毛の生えた有毛細胞というのがあってちょうどセンサーの役割をしているんですね。
これは細かい毛が振動すると電気が発生しこれが聴神経を伝わって脳に送られます。
そして私たちは音として感ずる事ができるという仕組みです。
伊藤さん具体的には耳のどこに何が起こると聞こえにくくなるんでしょうか?この耳の中のどこかに何か異常があると難聴になるわけです。
まず外耳と中耳外の方ですね。
ここに異常があって起きるものを伝音難聴といいます。
そしてもっと奥の方音を感じる内耳あるいはそれを脳に伝える聴神経そこに異常がある場合に感音難聴というわけです。
そして伝音難聴の原因ですが例えば外耳道の耳あかですとか異物そういったもので詰まっても起きます。
一番多いものとしては中耳炎ですね。
中耳炎などで鼓膜あるいは耳小骨が障害を受けて壊れてしまってそういう場合に起きてくる事が多いです。
一方で感音難聴ですがお子さんでは生まれつきのものが実は多いんですが大人の方の場合加齢あるいは騒音ストレスとか血流障害その他腫瘍いろんな原因があります。
内耳で正しい電気信号を作る事ができなくなりそれを伝える事ができなくなっている。
そういう状態なわけです。
またこれはお聞きになった方もいるかと思います。
原因は今もよく分かっておりませんけれども突然聞こえなくなる難聴も感音難聴の一つなわけです。
更にこの感音難聴と伝音難聴この2つの要素を兼ね備えたものが混合性難聴と言われます。
生後間もなく難聴と診断されるお子さんもいらっしゃるんですね。
そうですね。
遺伝ですとか妊娠中に受けた影響でもって生まれながらにして難聴になるお子さんというのがいます。
…といいますけれども生まれてくるお子さんいわゆる新生児の約1,000分の11,000人に1人のお子さんが先天性難聴と言われています。
妊娠中ですねいろんなウイルスや細菌などの影響を受けやすいそういう時に赤ちゃんに難聴が起きてくる事があります。
そういえば最近風疹が大変問題になっておりますね。
風疹の場合……という赤ちゃんが生まれてくる事があります。
昨年のデータですと日本国内で31名の先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれてこういうお子さんでは実は難聴というのも非常に大きな問題となっています。
ですからこの風疹を今後対策をとっていく事も大事な事かなと思っています。
はい。
赤ちゃんは自分では難聴に気付く事ができません。
以前は言葉を話し始める2歳あるいは3歳頃になって初めて周りが気が付いてそして医療機関へ受診するという事がありましたけど最近ですね……という検査があります。
これは生まれて1週間以内にこの子が難聴なのか難聴の可能性があるのかどうかを知る事ができます。
それによって早期に発見して早期に対応していく事が今ではできるようになってきているというわけです。
小森さん難聴にはいろんな種類があるという事が分かったんですがその中で最も数が多いのは何でしょうか?圧倒的に多いのは……だと思います。
ちょうど一昨年この加齢性難聴に関します新しい報告が出ました。
実は難聴というのは30代から少しずつ始まってきます。
ですけれども60歳代から急増して70歳代では実に5割以上それに80歳代では8割もの方が聞こえが悪くて困っているというデータです。
よく年を取って耳が遠くなったなんていいますよね。
誰でもどんな方でも程度の差はすごくあるんですがお年とともに自然に起こるのが加齢性難聴という事になります。
先ほど説明をした有毛細胞。
特別な病気がなくても年齢とともに壊れていくものなんです。
一度壊れたものは大変残念ですが今の医学の水準では元に戻す事はできないんです。
ではこの加齢性難聴になるとどんな症状が出てくるのか患者さんの例をご覧下さい。
テレビを一日に7時間以上見ているという…2年ほど前テレビの音が聞こえづらい事に気付きました。
音量を上げても聞き取りにくい状況は一向に改善しません。
更に友人との会話にも支障が出てきました。
日常生活に不自由を感じるようになった植山さんは1年前耳鼻咽喉科を受診。
診察の結果鼓膜の異常や中耳炎などの炎症は起きていませんでした。
ピピピ…とかプープープーと聞こえたらボタンを押して下さい。
次に聴力を測る検査を受けました。
そこで初めて……事が分かりました。
これは加齢性難聴の特徴の一つです。
今の方は細井さんの病院の患者さんです。
細井さん小さい音とそれから高い音と両方聞き取りづらくなっているというお話でした。
加齢性難聴というのはこの両方が関係しているんですか?はいそうですね。
大きさの問題から最初に説明します。
今ここにありますように聴力のレベルというのはおおざっぱにこのように分けます。
小声の会話だと聞こえにくい「もう少し大きくしゃべってね」と言いたくなるというのは軽度難聴が始まってるわけです。
それからもう少し強くなりますと中等度難聴と我々が呼ぶわけですけども普通の声の会話が聞こえにくくなります。
これぐらいになると何らかの手段補聴器とかを考える必要が出てくるかもしれません。
もう少し大きくなると高度難聴というわけですが大声の会話これが聞こえない。
その下に重度難聴って書いてますがこれは耳元で大声を出してもなかなか聞こえにくいと。
それから全く聞こえないというのも重度になります。
一つは音の大きさといいますかそしてもう一つは高い音が聞こえにくいという要素でしたね。
そうですね。
高い音が聞こえにくいとなぜ困るかというと言葉が分かりにくいという事になって表れてきます。
もう一つ先ほどビデオでもありましたように両方の耳が同じぐらい悪くなります。
これも特徴の一つです。
このグラフを見て頂くとよく分かるんですが横軸横には向かって左が低い音向かって右が高い音と表示されてます。
それで縦軸は上へいくほどよく聞こえる小さい音下へいくほど大きい音です。
30歳代だと水平になってますが向かって右の方にいく高い音の方は年齢が進むにつれてだんだん悪くなってます。
音の強さと音の高さで調べるという事なんですね。
高い音が聞こえにくいというのがどんな感じなのかピンとこないという方もいらっしゃるかもしれません。
そこで30代と70代の聞こえの差を皆さんに実感して頂こうと思います。
これから朗読が聞こえてきますが70代と30代の聞こえのように音を加工してあります。
ではお聞き下さい。
「春は曙。
やうやう白くなりゆく山際少しあかりて紫だちたる雲の細くたなびきたる」。
細井さん随分違いますね。
そうですね。
何といいますかこもったような音になってると思います。
このこもり具合がそれぞれの人によって違うわけです。
ですから高い音がどのように悪いのかという事をよく検査してその人に合わせたような補正をしなければならない。
それが補聴器を個々の人に対して合わすという事になります。
自分の耳の聞こえは大丈夫なのかちょっと不安になってきたという方も多いと思います。
そこで皆さんにここでチェックをして頂きたいと思います。
これから9項目出てきます。
当てはまるなというものがあったらどうぞチェックをして下さい。
それではどうぞ。
いかがでしょうか?会場の皆さんにお聞きしましょう。
1つでも当てはまるものがあったという方は手を挙げて頂いてもいいですか?あっ…ほとんどという感じがしますね。
実は私も1つ当てはまりました。
伊藤さんこのチェックで分かる事は何でしょうか?実はこれは9つの項目全て難聴の症状です。
低い声特に男性などの低い声そういうのが聞き取りにくい。
こういった最初の3つこれは音の通り道に問題があるいわゆる伝音難聴の一つの特徴といってもいいと思います。
残りの4以下ですけれどもこれは内耳あるいは神経の方に障害がある感音難聴の方が疑われる項目です。
かん高い音あるいは音が聞こえても言葉ははっきりしない。
これは高音の方が聞き取りにくくなっている加齢性難聴に特徴的な症状ですしあるいは耳鳴り8番の耳鳴りですね。
特にその中でもキーンという機械的な高い音こういった耳鳴りこれは実は内耳に何か異常が起きているそういう可能性を示すサインといってよろしいと思います。
あくまで目安なんですが何か当てはまるものがあるという方是非一度耳鼻咽喉科を受診して頂きたいなと思います。
小森さんやはり難聴も早期発見というのが大切なんですか?70代80代になっていく時にどの程度の聞こえになっていくのかという事はちゃんと予測ができます。
私が診療しています金沢市では65歳〜74歳の方々に対して2年に1回聞こえの検診をしています。
しっかり検診を受けると自分がどの程度なのかどんな事をしていったらいいかそれを気付いて頂く。
そして私たち医師はその事のお手伝いをするための検診です。
補聴器もいろんな声が聞かれます。
「ピーピー音がして嫌だ」。
でもあとでお話があると思いますが随分進歩してきました。
それに丁寧にその人に合うようにしてさしあげると随分役立つものに変わってきています。
ですから検診で異常があったりあるいはご自分で疑問があったらできるだけ早めに耳鼻咽喉科専門医に受診をして頂く。
これがとっても大切な事だと思ってます。
それでは続いて難聴の治療について見ていきましょう。
細井さんお願いいたします。
治療という事になると薬物治療とそれから手術と補聴器という事になります。
厳密には補聴器は治療といえるかどうか分かりませんが聴力を取り戻すという意味では治療です。
代表的な薬物治療の対象となる病気には…これは割合多い病気でして特徴は一側の耳が…両方じゃないんですね。
数時間以内に悪くなる。
突発的に悪くなるという印象なんですが。
ステロイドとかビタミン剤とか血流を改善する薬などを点滴または内服で投与する。
そうしますと全ての方ではないですが相当よくなる場合があります。
突然高度な難聴ほんとに聞こえないぐらい。
こういう事になるとできるだけ早く病院に行ってもらいたい。
そのように思います。
その突発性難聴の場合できるだけ早くってどのくらい…?1週間以内には来てもらいたい。
それもできるだけ早いほうがいいという事です。
はい分かりました。
薬物療法そして続いては手術ですね。
難聴の手術については実は新しい方法が出てきて劇的な改善も見られるそうです。
伊藤さんまずは難聴の一般的な手術から教えて頂けますか?はい。
ではまず中耳炎などが原因で起きる伝音難聴ですね。
慢性中耳炎に対して行われます鼓室形成術になりますけどこれは耳の手術の中で最も多く行われる手術の一つです。
この鼓室というのはどこかといいますと鼓膜の中の中耳の空間中耳空といいますがここの事を鼓室といいます。
鼓膜に穴が開いたりあるいは音を伝える耳小骨が壊れていったりという事のために音が伝わらなくなっているわけですが。
そして大事なのは鼓室形成術を行う目的これは一つは当然聞こえを改善するという事なんですがもう一つ中の炎症を取ってそして耳だれを完全に止める。
更に病変の進行によりましてはめまい内耳障害あるいは顔面神経まひ場合によっては脳の中の合併症なんていう怖い合併症もあります。
そういったものを予防するそういう目的もあるわけです。
また中耳炎の中にはこのようにこれは鼓膜の写真です。
真珠腫といいまして増殖して周りの骨をどんどん壊していくような病気があります。
まるで腫瘍のように周囲の骨を壊していろんな害を及ぼしてしまいますのできれいに手術的に取らなければいけない病気です。
特に小児の先天性真珠腫という病気があります。
これは非常に再発がしやすいという事で最初の手術でしっかりと摘出をして清掃するという事これがとても大事です。
これは主に中耳炎の方の手術という事なんですよね。
そして最新の手術があるという事なんですがそれはどういうものでしょうか?
(伊藤)人工内耳埋め込み術と言われますけれども以前は補聴器を使っても会話ができないような重度の難聴の方に対して我々耳鼻科医は何もする事ができませんでした。
しかし今では人工内耳という器械がありますのでこれによってそういう方でも音が本当によく聞こえるようになってきています。
ではその人工内耳とはどういうものなのか。
実際に手術を行った男の子の例をご覧下さい。
栃木県宇都宮市に住む…これと…。
(笙悟)カブトね。
妹と仲良く話しながら遊んでいますが実は赤ちゃんの頃先天性の難聴のため耳がほとんど聞こえませんでした。
笙悟君が3歳の時両親は聴力が劇的によくなるという最新治療を受ける決断をしました。
それが人工内耳の手術です。
(新田)そのあとにここの骨に穴を開けまして…耳にかけたマイクによって集められた音は無線で耳の奥に埋め込んだ受信装置へ送られます。
その信号が電極を通して聴神経脳へと伝えられるというのが人工内耳の仕組みです。
手術によって笙悟君は小さな音も聞こえるようになりました。
(取材者)すずむしの鳴き声が聞こえるようになったんだ。
もっと聞こえるようになりたい。
笙悟君の強い希望で5歳の時に左耳にも人工内耳を入れる手術を受けました。
「あ」とか「い」とか聞こえるから聞こえたとおり答えて下さい。
(スピーカー)「き」。
き。
笙悟君は言語聴覚士の指導を受けて聞き取りのトレーニングや人工内耳の調整などを繰り返しました。
「寒くなったね」。
「寒くなったね」。
「パンを焼く」。
「パンを焼く」。
音が認識できても言葉の意味が分からなければ人との会話はうまくいきません。
言葉の意味を理解しながら話す練習を行います。
また家庭での日々の会話も大事なトレーニングです。
両親は笙悟君になるべく多く話しかける事を心がけました。
両親の口の動きが見えないので耳から入ってくる音だけに頼る事になり脳が鍛えられます。
壁に掛けられた書道や絵画の表彰状。
これらは笙悟君と家族の3年間にわたるトレーニングの歴史でもあるのです。
笙悟君は今ピアノに挑戦しています。
(ピアノ)伊藤さん人工内耳すごいですね。
聞こえなかった方そういう方が聴覚を獲得するほんとに画期的な方法といっていいと思います。
ただこの子供の場合言葉を覚える前から難聴があります。
そうしますと人工内耳で音が聞こえるという事これはそのまま言葉を話す言葉を聞き取るという事と一致するわけではないんですね。
人工内耳これは「新しく出来た耳」と言ってもいいのかなと思います。
つまりつけたらそこで終わりではない。
そこから聞こえのトレーニング更に器械の調整ですとか脳を使いこなすようなせっかくある聴力を使いこなすようなそういう脳のトレーニングそういうのが必須となってきます。
そして言葉を育てていくという事ですね。
これは私たちが突然外国…全く分からない外国語の世界に飛び込んだようなそんな状態かと思います。
何か言ってるのは分かるんだけど何を言ってるか分からない。
これでは全く言葉によるコミュニケーションができないわけですけれどもそこから一つ一つ覚えていく。
言葉のシャワーを浴びて言葉の脳を育てていくという事がとても大事なんじゃないかなと思います。
この手術は何歳ぐらいから受けられるんでしょうか?子供さんといいましょうか1歳6か月以上というのが現在の基準となっています。
年齢の上限は特にありません。
聴力検査を必ず行いますけれども両側の聴力レベルが90デシベル以上これはかなりの重度難聴なわけです。
現在ですね保険適用でもって手術が可能となっています。
現在我が国ではこの人工内耳手術約6,500人以上もう既にされています。
この約半分がですねお子さんです。
毎年毎年この人工内耳を受ける患者さんというのは増えております。
この手術ですけれども大学病院をはじめとしました各地のですね各地の大きな病院であればこういう手術を受ける事ができる施設もあります。
ただ小さな子供に手術をするという事で不安を訴える保護者の方もいらっしゃるでしょうね。
そうですね。
やはり1歳6か月まだまだほんとに小さいです。
そういう小さいお子さんに全身麻酔でメスを入れるという事それ自体やはり抵抗もあります。
ですから手術のリスクですね感染なんかも含めましたそういう手術のリスクについてもきちんとまずお話をして親御さんとの納得のうえで手術を受けて頂くようにしています。
そしてあのお父さんもおっしゃってたように早く手術をするとよりいい結果もあるという事なんでしょうね。
そうですね。
少し年齢が高くなっても必ずプラスアルファの効果はあるんですけれどもでも先ほどのお子さんのように非常にきれいな言葉でお話をできるためにはなるべく小さい年齢で受けた方がよろしいわけですね。
今「1歳半以上」となっておりますけれども2歳ぐらいまでに是非受けられるとよろしいのかなと思います。
この人工内耳の手術を大人に行う場合はどうなんでしょうか?そうですねこれはですね実は大人の方ものすごく効果があります。
これは「中途失聴」といいまして以前は音が聞こえていたわけですので頭の中に言葉の世界があります。
そうしますと元あった機能を取り戻すという事ですのでこれはリハビリテーションというものをやはりしていくわけです。
言葉の聞き取りですけれども言葉の約90%以上ぐらいの言葉が聞き取れるようになっていきます。
これはほんと極めて劇的なものがありまして私たち実際手術する者にとっても手術前というのはこう…筆談です。
なかなかコミュニケーションも非常にとりにくいんですけれども手術をしたあとまるで魔法でも見てるんじゃないかと思うような事もあるわけですね。
こういったものを含めまして全ての人全ての方が聞こえるようになる世界それが我々耳鼻咽喉科医の夢でもあり目標でもあります。
さて難聴の治療そして対処のしかたをまず「薬物療法」そして「手術」と見てきましたが続いては「補聴器」なんですがその前に「聞こえ」の問題が私たちの生活にどんな影響を与えているのかこちらをご覧下さい。
栃木県鹿沼市に住む…2人は共に難聴と診断されています。
長年一緒に暮らしている夫婦でさえ聴力の低下によってコミュニケーションにずれが生じたといいます。
地元の老人会の会長を務める高木操さん。
地域の活動の中では特に意思の疎通が難しかったと振り返ります。
高木さん夫婦はこうした問題を2つの方法で解決しました。
まずは…そして解決法のもう一つが補聴器です。
今は2人とも耳かけ型の補聴器をつけています。
今は快適に暮らす高木さんご夫婦ですが聞こえが悪かった時にはコミュニケーションにさまざまな支障が出てきたという事でした。
小森さん超高齢社会の日本においてはこの「聞こえ」の問題というのはとても重要ですね。
そのとおりです。
WHOが2008年に「日常生活に支障をきたす障害」について調査をしました。
2番目の目の問題3番目の心の問題以上に「難聴」が一番の原因になってるんですね。
ふだんの会話でも聞き返しが多くなったり大人数での会話が分からないとスムーズな会話ができなくなって独りぽっちになってしまいます。
それがあまり続くと引きこもりの原因になったり時にはうつ病の原因になる事もあると知られています。
実際にはどんなコミュニケーションのトラブルがあるんでしょうか?
(小森)スムーズな会話ができずに孤立化するという問題があります。
また脳に入ってくる情報が減っちゃいますよね。
そうしますと脳のそのものが活動が低下をするという問題が起こる事があります。
またお歩きになってても後ろから近づいてくる自動車その音聞こえない事がありますよね。
それから東日本大震災の時でも警報が聞こえないために聞こえが悪い方々多くの被害を受けられました。
聞こえだけの問題ではなくて生活そのものの質が低下をするという事をしっかり注目をして考えていかなければいけないと思ってます。
「もうこれはすぐにでも補聴器を手に入れなければ」と思った方も多いと思うんですが補聴器について細井さんお願いいたします。
はい。
「すぐにでも補聴器を手に入れなければ」という話を聞きますと私は「ちょっと待って下さい」と必ず言うんです。
まずあるのは難聴なんですね。
難聴ありきであってまず補聴器ありきではないんです。
ですから自分が聞こえが悪い補聴器を手に入れたい気分補聴器屋さんに行く手に入れる。
これをすると後で後悔する事があります。
例えば耳にがんが出来る事があるんです。
もしですねがんが出来た最初の症状が難聴であったとしたらそれは耳鼻科に行けば「がんが出来てる大変だ。
がんの治療をしましょう」とこうなりますよね。
だけど最初に補聴器屋さんに行くと「補聴器を作って下さい」と言うて行くわけです。
作ってしまうと見かけ上聞こえが良くなる。
良くなるとまあ当分いいかとこうなってしまいます。
そうするとがんの治療が遅れますよね。
いずれその他の症状が現れます。
耳のがんは少ないんですけども先ほどお話がありました真珠腫というのは結構数があります。
これは脳膜炎を起こしたり顔が曲がったりいろんな合併症と我々が言うものを起こしますのでこれも手遅れになってしまう可能性があります。
最初にあるのは何べんも言いますように難聴があるわけですからその正確な診断をしてそれに対処する事が大切です。
次には補聴器を考えるというステップに入ります。
日本耳鼻咽喉科学会認定の補聴器相談医という制度を作ってます。
これは耳鼻科医の中に特に補聴器について講習を受けたりトレーニングをされた方を補聴器相談医というふうに認定しているわけです。
それは日本耳鼻咽喉科学会のホームページを見てもらうと分かると思うんですがその先生のところに行かれますと次にそういう先生方はまた認定補聴器技能者これは補聴器の専門家ですね医者じゃなくて補聴器の器械の専門家にも認定された認定補聴器技能者という制度があります。
認定補聴器専門店という店もあります。
そういう補聴器相談医の先生方はそういう店と連携してできるだけ皆さんの難聴を良い状態にしよう補聴器を使ってしようという事をやってますので相談して頂いたらいいと思います。
そして補聴器にはいろんな種類があるという事ですがどんなものがあるんでしょうか?
(細井)形からですね…
(細井)このような3種類があります。
これはどれがいいというんじゃなくて使い方その人によると思います。
いずれにしてもこの3つは外からの情報をマイクで集めて音を増やして伝えるというタイプという事ですね。
そしてまた機能が次々に改良改善されていっているという事でこれが補聴器の内部ですが。
(細井)ここにマイクとかプログラムとか書いてます。
イヤホンとか電池とか。
こういうふうに小さいところに非常に精密な機械がいっぱい詰まってます。
補聴器は非常なスピードでと言っていいと思うんですが良くなってます。
20年前の補聴器とは全然違います。
10年前とも違います。
形も小型化したわけですが機能も非常に良くなってます。
この5つほど挙げました。
(細井)それから2番目の雑音抑制。
これはデジタル信号処理といいましてコンピューター的な信号処理をするものです。
この発達によりまして雑音と音声を区別して雑音を抑えるという機能が可能になりました。
完全ではないですが相当良くなってます。
指向性マイクロホンというのはその名前のとおりにある方向の音だけを拾うマイクロホンですからこれは非常に効果があります。
それからハウリングというのは少し外すとピーピーと言わしてます。
これを防ぐ方法は今までは「きっちりとその音漏れがないように耳に入れなさい」というふうに言ってたんですがそうしますと耳を非常に強く蓋すると不愉快ですよね。
ですがこれも技術が出てきました。
これによってハウリングが制御されるようになってこれも相当な進歩です。
「無線通信」って書いていますがこれはテレビとか電話などの音を補聴器から直接聞く事ができます。
このようにいろんな機能が最近の補聴器にはついてます。
すばらしいですね。
こんなふうにいろいろなものがあるんですが値段もいろいろでしょうか?そうなんですね。
これは値段もいろいろで10万円弱のものから50万円ぐらいのものまで大きな幅があります。
そこで大事な事は例えば今「12345」の機能は出てます。
ある人にとってはある機能は要らないという事がありえます。
例えばやかましい所では全く使わないんだという人がいた時に静かな所だとそんな雑音を大きく抑制するような機能にお金をかける必要はない事になります。
ですからこれも非常に簡単に言いますとその人に合った補聴器がいいという意味の中にその人が必要な機能をそろえた補聴器を買う。
必要な機能がある補聴器の中で一番安いものがいいと。
そういうふうに考えてもらったらいいと思います。
更に補聴器を買ったあと大切な事っていうのは一体何なのかこちらにまとめてあります。
どうぞこちらをご覧下さい。
病院で加齢性の難聴と診断された…耳穴タイプの補聴器を購入しました。
その時医師から意外なアドバイスを受けます。
補聴器を使ったリハビリ。
実際に使い始めてみるとその言葉の意味がすぐに分かりました。
この音がもう「バリバリバリバリ!」という感じに聞こえましたね。
更に台所では…。
この音です。
触れる音ねこうして触れる音が「ガチャガチャ!」っていう音しますね。
今まで聞こえていなかった高い音が急に聞こえるようになりとても耳障りに感じたのです。
補聴器の使い始めはほとんどの人が訴えるという不快感。
植山さんの通っている病院では検査によってその原因を突き止めます。
そして補聴器技能者がコンピューターに補聴器をつないで不快な音を取り除いていきます。
定期的な調整で次第に補聴器を自分の耳に慣らしていく事それがリハビリなのです。
植山さんは半年ほどかけて補聴器に耳を慣らしていきました。
(水の音)水の音小鳥のさえずり。
補聴器の調整によって今まで聞き取れなかった自然の音が聞こえてくるようになりました。
自然の音を取り戻す事ができたというのには本当にすばらしい事だなあと思います。
細井さん補聴器の場合はお話し頂いたように一番大切な事がこのリハビリ。
つまり細かい調整を行って慣れるという事なんですね。
やはり耳が突如変わると思ってもらってもいいわけです。
補聴器をつけた事によって聴覚系全体が変わります。
ですから徐々に慣れていく事が必要です。
装着方法に慣れる。
声を出して自分の声に慣れる。
生活音を確認する。
いろんな音を聞いていきます。
だんだんだんだん広げていくわけです。
外出して外の音も聞く。
一挙に難しい事をせずに易しい事から慣れていくという事が必要です。
ありがとうございます。
小森さん補聴器をつけた方に対して周りの方が気を付ける事ポイントを教えて頂けますでしょうか?ご家族それから社会の周囲の方のお心遣いがとっても大切な事ですね。
補聴器をつけていらっしゃる方に後ろから突然大声でしゃべったらすごくうるさいだけでびっくりなさいます。
必ず目の前に回ってちょっと合図をして注意を促してからお話をしましょう。
補聴器をしてますと音は十分大きくなっています。
だからそれ以上大きな声で早口でしゃべる事は絶対にしていけない事だと忘れてはいけない大事なポイントですね。
ゆっくりそしてはっきりお話をする事です。
もう一つは単語に区切ってお話をするという事ですね。
例えば「あした8時に待ち合わせだからね」っていうのを「明日8時に待ち合わせだからね」。
そしてできれば目と目を合わせてはっきり口の動きが見えるようにしましょう。
そうすると補聴器をつけていらっしゃる方はすごく喜ばれると思います。
さてこの補聴器についてはさまざまな研究改良が行われています。
実は細井さんは世界初の補聴器を開発中だそうですがどんなものなのでしょうか?耳の音が内耳に入る経路というのは一つは気導です。
これは普通の音ですね。
耳の外に音源があって空気の疎密波が耳の穴の中から入る。
今の青の矢印で内耳に伝わります。
もう一つは緑の矢印の骨導です。
骨をこのようにこうたたきますと骨が響いて音が聞こえますがこれは鼓膜等を介さずに直接内耳に入る骨導という音です。
現在でもこの2つしか現在の教科書にも2つしか載ってないんですが2004年に私はこのいずれでもない経路を発見しました。
「軟骨伝導」と名付けました。
軟骨伝導といいますのは軟骨に振動を与えると骨に振動を与えたのとは全く違う経路で音が伝わります。
よく私講演で「軟骨伝導を聞いた伝導音を聞いた事がある人はおられますか?」と聞くんですが実はここにおられる全員赤ちゃんも含めて誰も聞いた事があります。
それはちょっとやってもらうといいと思うんですがこの指を骨の後ろの耳の後ろの骨を一回ガリガリとかいて下さい。
これは骨から音が伝わっている骨導音です。
それから指をこうこすって耳の近くにいくとこれは摩擦音が出ますから耳につけなければ気導音が聞けます。
この音の大きさを覚えておいて頂いて今度は耳の前にちょぼがありますよね。
前から出てる。
ここをガリガリと1回かいてみて下さい。
大きな音しませんか?骨をかいたりこするよりも耳のこの前のちょぼをガリガリとすると。
皆さん方は耳掃除する時非常に大きな音を聞かれると思いますがこれは軟骨伝導音です。
今これが軟骨伝導を使った補聴器なんですけどもどういう人にいいかといいますと例えば耳の穴が無い方がおられます。
この人は普通のイヤホンは使えませんから普通の気導補聴器は使えないんですね。
または耳だれがものすごく多くて気導のイヤホンを使うと詰まる人がいます。
この人も使えません。
ですがここにありますようにこれは円筒状のものが耳に入ってますがこれが軟骨を振動させます。
穴が開いてますから耳も開いてます。
耳だれが出てもそれは洗えばいいだけの話ですし耳の穴が無い人でも音を伝える事ができる。
こういう今の現在の補聴器が使えない人でも使える補聴器という事になります。
実はここにこの軟骨伝導を体験できるものがあるんですね。
こちらなんですが。
これを軟骨の所です。
ここですね。
おっ。
ここでいいと思うんですが。
聞こえてきたんです。
更に強く押してみますとすごくよく聞こえます。
不思議ですね。
離すと聞こえませんし後ろの骨でも聞こえないんですけどこの小さな耳のここにつけると軟骨に当てると聞こえる。
これが軟骨伝導というものなんだそうです。
これを補聴器に利用しようという。
うわこれすごく楽しみですね。
(細井)そうですね。
今までできなかった知られてなかったルートを使うわけですから今からいろんな利用法もあるでしょうし音楽を聞きながら同時に話ができるイヤホンとかそれからこれを使った携帯電話は今の携帯電話では無いメリットつまりやかましい所で十分音が聞こえるとかいろんなメリットがあるのでそれも考えていきたいと思ってます。
ありがとうございました。
さて今日は難聴についていろいろ伺ってきました。
最後に皆さんからメッセージを頂きましょう。
最初に細井さんからお願いいたします。
先ほども言いましたようにまず補聴器ありきではなく難聴ありきだという事をもう一度申し上げたいと思います。
それから補聴器は現在できなくても将来にわたってものすごい勢いで進歩してますから皆さん方が今はいい補聴器がないと思われてるのならそういう機能ですねそういう事も将来は開発されていくと思うし私も軟骨伝導をはじめ新しいものに挑戦していきたいと思います。
ありがとうございました。
伊藤さんお願いいたします。
私の方からは今日はいわゆる聴力改善手術の事をお話しいたしました。
人工内耳ですけれどもどんどん進歩をしてきています。
補聴器と一体化したようなタイプのものも出てきておりますしあるいは人工内耳あるいは今日の鼓室形成術こういったもの以外にもいろいろな手術埋め込み型の補聴器あるいは内耳の再生手術みたいなものも今はどんどん研究のレベルですが進んできています。
これらを合わせまして全ての人が聞こえるようになってほしい。
そう思っています。
ありがとうございました。
小森さんお願いいたします。
世界中特に日本は急速に高齢化社会を迎えてきました。
聞こえが悪くてお困りの方そういう方々って最近急に増えてきました。
ですから私たちは習わなかったんですね。
これから学びましょう。
そして今日学んだ事をお子様方やお孫さんに伝えてあげてほしい。
明日のみんなの常識にしてほしいんです。
そして長く活躍をされたご高齢の方を心から敬い尊びそして豊かな日本にできるこのスタートになればいいなといつも考えています。
ありがとうございました。
今日は難聴について最新情報をお伝えしてきました。
今日のお話を是非参考にして頂ければと思います。
皆様今日はどうもありがとうございました。
(拍手)2014/06/28(土) 14:00〜15:00
NHKEテレ1大阪
TVシンポジウム「難聴の最新情報〜よりよい“聞こえ”のために〜」[字]
最近、人工内耳の手術や補聴器の技術の進歩で、難聴の治療や対処法が大きく変わってきている。聞こえが劇的に改善した例を取り上げ、難聴の最新情報について詳しく伝える。
詳細情報
番組内容
音の聞こえが悪くなる難聴。難聴になると、聴力の低下だけでなく言葉の聞き取りも悪くなるため、人との意思疎通が希薄になるなど生活の質を低下させる。最近、難聴の治療や対処法が大きく変わってきている。人工内耳の手術で先天性難聴の人の聴力を取り戻すことや、より自分の生活スタイルに合った補聴器で聴力を補うことが可能になっている。番組では、聞こえが劇的に改善した例を取り上げ、難聴の最新情報について詳しく伝える。
出演者
【パネリスト】自治医科大学とちぎ子ども医療センター教授…伊藤真人,日本医師会常任理事…小森貴,奈良県立医科大学学長…細井裕司,【司会】好本恵
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – インタビュー・討論
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz
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