色鮮やかな押し寿司。
一見普通のお寿司に見えますがとんでもない!そうこれは5升のお米をぎゅっとつめ込んだ巨大な押し寿司なんです。
普通のお寿司と比べてもこの大きさ。
およそ70人前の巨大な押し寿司。
高知県東洋町に伝わるかつてこけらずしは祝いごとの席などでつくられていた家庭の味でした。
しかし地域の過疎化つくり手の高齢化が進み東洋町でも目にすることが徐々になくなっていました。
機会があったらつくりたいですね。
もうけど私みたいに年いった人ばっかりやから…。
そんな中受け継がれてきた地域の味を絶やさぬようこけらずしをつくり続ける女性たちがいました。
寿司づくりに関しては素人同然だったおばちゃんたちがこけらずしにつめた大きな思いとは?
(小林さん)まあ昔はどこの家もつくってきたお寿司ですしね。
このままなくなってしまうのも寂しい思いがありますからね。
なんとか続けていって味を若い人にも覚えてもらって。
つくっていってもらいたいですね。
残していきたいですね。
今週の『日本!食紀行』はギュッとつまっているのはお米だけじゃない。
地域の思いがつまった巨大寿司高知県東洋町のこけらずしに学びます。
徳島県との県境高知県の東玄関安芸郡東洋町です。
山と海に囲まれた自然豊かなこの町には昔ながらの日本の原風景が残されています。
古い町並みの中にはぶっちょう造りと呼ばれる雨戸と縁台が一緒になった趣のある民家もあります。
台風の多いこの町ならではの建築様式です。
みんなおばあさんが出てきて…。
(笑い)またユズやポンカンなど柑橘類の栽培が盛んで全国でも有数のサーフスポットとして人気の生見海岸ではサーフィンの世界大会が開かれたこともあります。
東洋町野根にある中島地区集会所。
ここに地元の女性グループ野根キッチンのメンバーが集まっています。
グループができて今年で10年目。
ほぼ毎週1回こうしてこけらずしをつくり自分たちで運営している朝市で販売しています。
具材の準備など忙しく手を動かしながら作業していますが時刻はなんと深夜2時。
いつも大体夜中から…えっと2時から始めますね。
34567…5時間かかりますね。
みんな60過ぎてますからね。
60過ぎてそれだけのことができる元気があるからうんありがたいことだと思います。
5枚6枚…。
私そんな計算ようせん。
深夜から始まるこけらずしづくり。
この日炊飯器で炊いたご飯の量はなんと5升。
70人前のこけらずしをつくります。
炊きたてのご飯の香りが部屋いっぱいに広がります。
ご飯に合わせるのは酢にごしと呼ばれるお酢。
このお酢はこけらずしに欠かせない大事なものです。
前の日の午後小林さんたちが具材の下準備していました。
酢にごしをつくるため焼いたサバの身をほぐし小骨と血合いを丁寧に取り除いた中にあるものを入れます。
ゆうのす?うん。
高知県は全国一の生産量を誇るユズの産地。
ここ野根地区もユズの栽培が盛んな土地で昔からユズの果汁をそのままお酢として使ってきました。
酸味の強いユズのお酢に焼き魚の身を入れてまろやかさを出す酢にごし。
こけらずしの風味を決める昔から伝わる郷土の味です。
昔の人が少しでもおいしくするために工夫したんじゃないかなって思うんですけど。
こけらいうたら主に酢飯が主役やからいがね酢飯がしっかりと味がついていたほうがおいしいんじゃないでしょうかね。
先人の知恵がつまったこけらずし。
古くは江戸時代の文献にもこけらずしの記述が残されています。
野根地区では高知を代表する皿鉢料理の一品としてこけらずしをつくってきました。
お寿司や煮物そしてデザートまでが1枚の大皿に盛られた豪快な皿鉢料理。
その中にこけらずしも入っていたのです。
そもそも「こけら」には薄く切った木の板という意味があり何層にも重なった姿がこけら葺きの屋根に似ていることからその名がついたともいわれています。
と願いを込めて結婚式など祝いの席に欠かすことのできない料理でした。
昔はねお米がごちそうやったがよ。
今ちょっと想像がつきませんけどね。
それから一般の人もなかなかおなかいっぱいお米食べられませんでしたからそれをとにかくようけ食べさせてあげたいわけよ。
振る舞いたいわけよ。
野根地区は古くから米どころとして有名でした。
白米がごちそうだった時代にたっぷりと米を味わえるお寿司。
自慢の米を惜しげもなく使ったこけらずしはおもてなしが大好きな土佐人の気質を表すようなお寿司です。
午前3時を回ったころこけらずし用の木枠に酢飯を敷きつめ具材をのせていきます。
素朴ながらも鮮やかな彩りが目を引きます。
かわいらしいでしょ?具材をのせたあと仕切り板でぎゅうぎゅうに押し込みます。
この作業を5回繰り返して5段のこけらずしをつくります。
ここがいいここがいるね。
ここもいるねここもいるね。
体重をかけながら力を込めて仕切り板を押す。
木枠全体がきしみそうなほどの迫力です。
こけらずしの木枠はつくる量に応じて様々な大きさがあります。
昔はどの家庭にもあったようですが今はほとんど使われることはなくなりました。
木枠には他の家のものと区別するため焼印が押されています。
古い木枠を持っている家があると聞きお邪魔しました。
その木枠は蔵の中でずっと眠ったままでした。
これはもう明治時代からあったがですけどこれは私らの結婚式の時に新しく作ったんです。
明治時代から受け継いできた木枠。
植田さんが嫁いでくるはるか昔およそ120年前のものです。
結婚式の時とかお祭りの時には村の人にもこけらずしを配って結婚式の…お披露目の印やろうかね。
食べてもろうたこと思い出します。
親戚の人でなくてもみんなに…喜んでもらってごちそうもろうてありがとう言うてもろうてね。
捨てたらええようなもんやけどもやっぱり思い出に置いてあるというのかね。
野根キッチンのメンバーの1人小林さんの実家にも木枠がありました。
お母さんの丸岡花子さんもかつては家でこけらずしをつくっていました。
久しぶりに出した木枠にはこけらずしをつくっていた頃のその当時の記憶がつまっています。
祝いがあるとかいうたらねみんな手伝いに来てね言うてもう声かけるから…。
みんな行って自分の家のことみたいにね一生懸命にやってくれましたね。
みんなそうやって祝うてもろうたからね。
家族だけじゃなしに親戚から隣近所…。
高知にはおきゃくという文化があります。
祝いごとがあれば親戚はもちろん近所の人も集まって酒を酌み交わす。
その宴会をおきゃくと呼びます。
そして野根地区のおきゃくには必ずこけらずしがありました。
しかし家でおきゃくをすることがなくなりいつしかその姿を見ることも減っていきました。
(小林さん)地域でこけらずしはもうつくらなくなった。
もうなくなっていきそうですよね。
仕出し屋さんしかしなくなったから。
やっぱり昔からつくり続けてきたお寿司ですからやっぱり…っていう思いだけじゃないでしょうか。
東洋町の人たちにとってこけらずしは地域に活気があった頃の記憶がつまった思い出の味なのかもしれません。
重しのせてよろしいか?こけらずしづくりも後半へ。
5段目までつめ終わった木枠に重しをのせていきます。
1段ごとに力を込めて押した上にのせた重しは55キロ。
こけらずしが固いお寿司といわれる理由です。
だからもっと固くてね…。
というような…あだ名がつくぐらいの固いこけらずしだったんですけどね。
今は昔ほど固くならないように短い時間しか重しをのせていませんがそれでも55キロの重しで40分間じっくり押し込みます。
空が明るくなり始めたころ木枠を押し抜く作業に入ります。
こけらずしづくりのクライマックスです。
(木枠がきしむ音)出てきようで。
(木枠がきしむ音)こけらずしの角が崩れないよう慎重に木枠を外します。
巨大なこけらずしが姿を現しました。
その存在感だけで満腹になりそうな休む間もなくこけらずしを切り分けます。
巨大なお寿司を一口サイズの大きさに。
叩きつけるように切っていますがこの切り方にも意味があるんです。
(松本さん)昔は一晩も置いたぐらい固いお寿司だったのでね大きくて重みのある包丁で叩き切ったっていう風習がね今も残ってて。
で今あのようにして切ってるんですけどもね。
昔ながらのつくり方を大切に伝統の味を守るこけらずし。
深夜から続いた作業もようやく終わりを迎えます。
その頃国道55号沿いにある野根キッチンの朝市では店開きの準備が始まっていました。
メンバーの1人谷さんは朝市を担当しています。
5時過ぎに起きて家のことして旦那のご飯作ってほったらかしてきて…。
朝市に並ぶのはこけらずしのほかお惣菜や地元のお年寄りがつくった野菜など様々。
毎週土曜日しか店を開けないため準備中にもかかわらず待ちわびたお客さんがぞくぞくと集まってきます。
こけらずしも開店前に無事到着。
2つ。
はいありがとうございます。
持ってくるなりお客さんが集まってきます。
ご飯と郷土愛がたっぷりつまったこけらずしは朝市の看板商品です。
大阪の子どものところへたけのこらと一緒にイタズリとか送るんです。
この頃はねこんなに簡単にあるからねうちですることないけどね。
けど幸い朝市でそのままこけらずしを食べて帰る人もいます。
ほんのりとこのユズの香りがたまりませんね。
かつては家庭の味だったこけらずし。
失われつつあるふるさとの味を求める人の多さに小林さんたち野根キッチンのメンバーは手応えを感じています。
(小林さん)朝市に買い物に来てくださる人が多くなってもうこけらでおきゃくをするぐらいの勢いで。
こけらは残っていくかなという感じですね。
っていう風な意味合いで…。
飾らない昔ながらのこけらずし。
地域の記憶がつまったその味を受け継ぎ次の世代へ残していく。
そのために小林さんたちはこけらずしをつくり続けています。
この日も野根キッチンのメンバーが深夜からこけらずしをつくっていました。
しかしこの日のこけらずしには特別な理由がありました。
うちに…孫ができましてその子がちょうど100日を迎えます。
我が家で小さな祝いごとですけども皿鉢でお祝いをしてやろうと思ったことです。
お食い初めのお祝い。
東京から帰省してくる息子夫婦に頼まれ小林さんはこけらずしそして皿鉢料理をメンバーの協力のもとつくることにしました。
息子夫婦は今までこの大きなこけらずしを見たことはないそうです。
驚くと思いますけどね。
まあ今の子ですから…。
どうでしょう?こっちがへこんでる…。
ちょっとへこんでますわよ。
孫の健やかな成長を祈ってつくるこけらずし。
仕上がりが気になります。
まあまあ大丈夫でしょう。
もうだってやり直しがききませんもん。
午前8時集会所に1台の車がやってきました。
息子の隆志さんと妻加奈子さんそして孫の陽咲ちゃんです。
おはようございます。
おはようございます。
加奈子さんは北海道の出身でこけらずしのことはほとんど知りません。
陽咲ちゃんを連れて帰ってくるのも今回が2回目です。
(隆志さん・加奈子さん)おはようございます。
おおばあちゃんやひーちゃん。
赤ちゃん大きくなってるやん。
思わず表情がゆるむ小林さん。
遠く離れて暮らす息子夫婦そして可愛い孫に自慢のこけらずしを見てもらいます。
(小林さん)加奈子さんに見せたくって。
木枠の押し抜きは隆志さんも参加して親子で行いました。
(小林さん)そっとそっとそっとね。
(隆志さん)このままいってええの?
(加奈子さん)ああすごい。
(隆志さん)よいしょ。
(歓声)
(加奈子さん)あっ香りがしてきた。
(隆志さん・加奈子さん)きれい。
え〜。
おいしそうだねひーちゃん。
初めて見るこけらずし。
加奈子さんは興味津々。
陽咲ちゃんもびっくりしているようです。
写真に残すにしてもねえこういうものって用意できないじゃないですか。
自分たちだったらここまでのことできないんでもう本当に私はここに嫁いでラッキーっていう…。
(笑い声)加奈子さんのため陽咲ちゃんのためみんなでつくったこけらずし。
喜びが重なるようにとこけらずしにつめ込んだ小林さんの思いが陽咲ちゃんにも伝わったはずです。
野根地区にある小林さんのお宅です。
この日のためにつくった昔ながらの皿鉢料理も完成していました。
もちろんこけらずしも入っています。
家族が集まりお食い初めのお祝いです。
赤ちゃんの健やかな成長を祈って行うお食い初めの儀式。
長寿にあやかるという意味でひいおばあちゃんに当たる丸岡さんが陽咲ちゃんに食べる真似をさせます。
はい。
あむって。
(笑い声)自分からいきよるわ。
わ〜。
体が丈夫になりようと。
そしてこの日のためにつくったこけらずしでお祝いです。
おばあちゃんが…ばあちゃん朝からつくってきたから。
おいしいですか?おいしいね。
おいしいね。
(小林さん)大きくなったら一緒につくろうね。
(加奈子さん)おおよかったね〜。
乾杯。
おめでとう。
ありがとうございます。
こけらずしそして皿鉢料理を囲んで小さなおきゃくが始まりました。
規模は小さいながらも家庭で行う昔ながらのおきゃく。
思い出話に花が咲きます。
そして加奈子さんにとっては初めて食べるこけらずしです。
…うん!こうぎゅってつまってましたね。
噛んだら噛んだだけ口の中でほどけていっていっぱいになっちゃいました。
地域の思い小林さんの思いがたっぷりつまったこけらずし。
ここで加奈子さんから小林さんに嬉しい一言がありました。
小林さんたち野根キッチンのメンバーが地域の味を絶やさぬようつくり続けるこけらずし。
初めて食べた加奈子さんから嬉しい一言が。
ねえ全然戦力になりませんがあの一緒に…。
次の世代にこけらずしを残していきたい小林さんにとって何より嬉しい言葉でした。
若い人でつくってみたいなっていう人が増えて私たちもちょっとでも伝えていくことができたらいいなあと思ってますけどね。
こけらずしを囲んでのおきゃく。
そして家族の団らん。
かつては当たり前だった光景がなくなっていく今その姿は次の世代またその次の世代に伝統を引き継ぐための大切な道しるべなのかもしれません。
次回の『日本!食紀行』は佐賀県唐津市。
島で頑張る甘夏かあちゃんに学びます。
2014/07/13(日) 06:00〜06:30
ABCテレビ1
日本!食紀行[字]
高知県東部の小さな町、東洋町。黒潮の恵み、豊かな自然、ポンカン、サーフィンで有名なこの地に、謎の巨大寿司があります。その名も「こけらずし」。その秘密に迫ります。
詳細情報
◇番組内容
色鮮やかな「こけらずし」の特徴はその大きさ!なんと5升の米をギュッとつめこんだ70人前の巨大寿司です。かつては祝いの席に欠かせない郷土料理でした。白米が貴重だった時代に、自慢の米を振る舞うためのごちそうだったのです。しかし、いつしか東洋町でも目にすることがなくなっていました。
◇番組内容2
その郷土の味を絶やさぬよう、こけらずしを作り続ける地元の女性グループ「野根キッチン」の活動に密着します。朝市や、家庭で行う土佐流の宴会「おきゃく」もご紹介!地域の人たちの想いがたっぷりつまった「こけらずし」の魅力に迫ります。日本全国各地の「食」を通して、地域の歴史や文化、人々の英知や営みを学び、温かいコミュニティーなどを四季折々の美しい風景とともに描き出す教育ドキュメンタリー番組。
◇ナレーション
有吉都(高知放送アナウンサー)
◇音楽
エンディングテーマ曲
Bom Dia ! / 柏木広樹
◇制作
企画:民間放送教育協会
制作著作:高知放送
◇おしらせ
☆番組HP
http://www.minkyo.or.jp/
この番組は、朝日放送の『青少年に見てもらいたい番組』に指定されています。
ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – ドキュメンタリー全般
趣味/教育 – 生涯教育・資格
映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
映像
音声 : 2/0モード(ステレオ)
日本語
サンプリングレート : 48kHz
OriginalNetworkID:32723(0x7FD3)
TransportStreamID:32723(0x7FD3)
ServiceID:2072(0×0818)
EventID:2581(0x0A15)