イッピン「つよくしなやか 輝く帯〜福岡 博多織〜」 2014.07.13

それから10年後の事でした。
さあ皆さんお待ちかね!登場するのは日本生まれのイッピン。
優れた技が生み出す珠玉の宝。
きょうはどんな技が飛び出すのか。
トレンドを生み出す街東京六本木。
和風小物を扱う店である伝統的な織物を使った商品が人気です。
それがこちらのバッグ。
すっきりとシンプル!洗練されたデザインが印象的です。
使い勝手も抜群!たくさんの荷物を入れても型崩れしない生地で作られています。
(店員)とても張りがあって軽くて丈夫な生地を使っているので日頃から書類を持ち歩いたりとかお荷物の多い女性に人気が高いです。
一体どんな生地を使っているんでしょうか?こちらは博多織の帯地を使っております。
博多織は福岡で生産されてきた伝統の織物。
高品質の帯で知られています。
博多織は張りがありしなやか。
ぴったりと体になじみます。
江戸時代幕府への献上品だったためこの模様は「献上柄」と呼ばれます。
必要以上の硬さがなくてすごく滑らかなので肌にスッと添うようなつけ心地がいいと言いますか丈夫だからこその強さと優しさというか柔らかさなのかなと思います。
丈夫さとしなやかさを兼ね備えた博多織。
そこにはどんな秘密が隠されているのでしょうか。
こちらの会社ですね。
田丸さんが訪ねたのはバッグの生地となった帯を手がけているメーカー。
こんにちは。
よろしくお願いします。
いらっしゃいませ。
工場の中へ案内されると…。
すご〜い。
(機械音)音もすごいし繊維の香りがわっと広がりますね。
なんか随分別世界。
ほとんどの博多織は現在こうして機械を使って生産されています。
ここでは20台の織機が稼働していました。
それぞれの織機に長く張られているのが縦糸です。
(工場長)博多織の特徴としては縦糸が他の産地の織物よりちょっと多いんですね。
大体この規格で縦糸が7000本以上。
7000本!ここに7000本引っかかってるんですか?
(工場長)そうですね。
すごいですね。
博多織は一般的な織物と比べ2〜3倍の縦糸を使うといいます。
原料に用いるのは柔らかくしなやかな絹糸。
しかし一本一本の絹糸はとても繊細。
ではどうやって強く丈夫な布に織り上げることができるのでしょうか?どんどん出来ていってる。
縦糸は0.5ミリもありません。
髪の毛より細いかもしれないですね。
へぇ〜。
これがこんなにたくさん縦に敷き詰められて。
一方横糸はどうかというと…。
絹糸を束ね縦糸の20倍近くも太くしています。
織る時には「筬」と呼ばれるくし状の板で糸を打ち込みます。
画面を横切っているのが横糸です。
縦・横それぞれの糸がギュッと圧縮されるほど強い力で打ち込まれます。
図解してみましょう。
縦糸が上下に交差しその間に横糸を通します。
筬で強く打ち込むと太い横糸を縦糸が包むような状態になります。
織り上がった生地を拡大すると横糸を縦糸がしっかり包み込み盛り上がっているのが分かります。
縦糸にたくさんの細い糸を使うのでしなやかで張りが。
一方太い横糸を使うので肉厚で丈夫になるのです。
では博多織にはどれほどの強度があるのでしょうか。
幅2.5センチ長さ20センチの生地を使って耐えられる重さを測定します。
試験を行った結果1200ニュートンの破断ということが出ています。
独特の織り方によって柔らかな絹糸は驚くほど強い織物に生まれ変わったのです。
伝統工芸士の…この道50年のベテランです。
美しい帯を作るには全てを機械任せにすることはできません。
白木さんの作業を見ていると…。
生地の上にそっと手をのせています。
何をしているのでしょうか?突然機械を止めた白木さん。
縦糸をチェックしに向かいます。
何かアクシデントですか?ここ切れてるから。
糸が切れてるんですか?はい。
実は白木さん手の感覚で織りに異常がないか見極めていたのです。
糸の張り具合を見ているというか当たり具合で手に響いてくるものがあるんですね。
1本でも糸が切れてしまうとごく僅かに振動に違いが出ます。
その微妙な差を手で感知するのです。
細い縦糸を7000本も使うため一枚の生地を織るのに1回は糸が切れてしまいます。
たくさんの糸の中から切れて緩んでしまった部分をすばやく探り出します。
見つけると継ぎ足し用の糸を結びつけます。
複雑に糸を絡ませ合う「のの継ぎ」という特殊な結び方。
見えないほど小さく固い結び目を作ります。
この結び方でないと走ってる横糸がこれに引っかかるんです。
そして帯に支障が出る。
7000本の中から1本切れるだけで作業中止なんですか?そうです。
切れた所までほどいてやり直したりということも。
この部分に筋状の傷が入っているのが分かります。
たった一本糸が切れたのを見逃すだけで正規の商品にはなりません。
そのため白木さんは手の感覚を研ぎ澄ませ糸の状態をチェックしているのです。
一本の帯が完成するまでおよそ5時間。
張りがあってでも結構柔らかいですね。
そう柔らかいけれどもコシがあるというか。
そうですね。
一本できるまで気が抜けない作業ですね。
そうですそうです。
きれいに織ってしまうまではなかなか緊張の連続ですね。
そうですよね。
糸一本おざなりにすることのない丁寧で細かい作業。
それが美しく気品ある博多織を生み出すのです。
博多織の起源は鎌倉時代に遡るといわれています。
中国から博多商人が技術を持ち帰りました。
福岡の街を歩くと至るところにある模様が…。
公共の建物や…。
タクシーにまで同じ模様が。
これはどれも博多織独特の献上柄です。
江戸時代のはじめ福岡を治めたのは秀吉の軍師・黒田官兵衛の息子…長政は高度な技術で作られた博多織を幕府に献上しました。
表面に施された幾何学的な模様。
献上された帯に共通して用いられた図柄です。
仏具などをモチーフにした縁起の良い柄として大切に伝えられてきました。
へぇ〜。
すてきなお店がありますね。
博多織の献上柄は洗練されたデザインとして今も好まれています。
本当にいろんな商品が置かれてますけれど…。
バッグかな?この辺も献上柄。
デニムもありますね。
これも献上柄。
いろいろあって楽しいですね。
ふだん使いの小物にもピッタリとマッチ!最近は若い女性の間でも人気といいます。
こちらのお店にはよくいらっしゃるんですか?ふだん着物とかも着ないですしただ気軽にこうやって持てる物が売られているのを知って格好いいなと思ったんです。
こちらにはまたユニークな…。
お財布かな?革素材とそしてまた献上柄。
面白いですよね。
和風の献上柄と洋風の素材である革を組み合わせた財布。
上品な仕上がりです。
こんにちは。
いらっしゃいませ。
こんにちは。
この財布のここの部分の素材って何なんですか?縦糸をずっと少し浮かせている絹独特の光沢感が出ているのは博多織の献上柄の特徴と言えます。
高級感が出てきれいですね。
角度を変えてみると光を反射して美しく輝きます。
このキラキラとした光沢はどのようにして作られるのでしょうか。
こんにちは。
お邪魔いたしま〜す!訪ねたのは財布の生地を作る会社。
どうぞお願いします。
よろしくお願いします。
光沢のあるきらびやかな献上柄の帯を作っています。
柄は一緒なんです。
糸の色が違うんですね。
すごい。
光の当たり方で柄の見え方が違うというか。
立体感が変わる感じがしますよね。
本当にとてもきれいに光をひろうそんな柄ですね。
早速工場に案内してもらいました。
こちらが献上柄を織り元なりに少しアレンジしたものです。
出来上がった生地を拡大してみると模様を作る糸が生地にのっています。
献上柄を織り続けて40年の職人…ここが模様になる。
献上の柄になる。
ここが地の糸になる。
織機には地の生地を織る縦糸とは別に模様となる糸が設置されていました。
縦糸を上下に交差させそこに横糸を通して織り上げるだけ。
柄を入れる場合模様となる縦糸を生地の上に覆いかぶせるように同時に織り込みます。
献上柄は縦糸の張り具合によってその表情が大きく変わります。
糸の張り具合はおもりで調整。
特別に通常より弱く糸を張って織ってもらいました。
すると…。
あ…。
この辺の緩みというか浮きですよね。
(木下)汚いでしょ。
張りが弱いと模様がしっかりとした形になりません。
しかも適度に張っている時と比べて光沢がないことが分かります。
逆に糸を張りすぎると模様に膨らみがなくなりやはり光沢が出ません。
へぇ〜。
同じ糸使って同じ機械で同じようにやっているのに重さだったりとか張り方だったりで柄が変わるんですね。
絹糸はデリケートなため日々の気温や湿度によって張り具合が変わります。
そのため木下さんは毎日糸の張りを確認し調整を行っています。
自分で触って…。
こんな感じかなってチェックされるんですね。
そうです。
手で分かるんだぁ。
ちょっとずれるだけで…。
ちょっとおもりが軽かったり重たかったりしたらもう…。
目立ってしかたないですもんね。
繊細な作業ですよね。
浮かび上がるような光沢を持つ献上柄。
その豊かな表情は繊細な職人の作業なくしては生まれません。
洗練された高品質の帯を作ってきた博多織。
福岡を代表する地場産業として全国に知られてきました。
しかし生産高は最盛期である1980年代の17分の1にまで落ち込んでいます。
復活に向け生産者はさまざまな試みを行ってきました。
私たちの博多織というのはどうしても低価格層の商品にはしたくない。
新商品開発の方向性の軸を決めていかないと…。
メーカー3社と地元のデザイナーで作る開発グループ。
博多織を使った新しい製品の開発を模索してきました。
何しろ時間がなかった。
ドレス生地にしていいと思う。
今常識を打ち破る博多織が生まれようとしています。
その一つが市内の高級ホテルにあります。
わぁすご〜い!こちら1泊20万円のスイートルーム。
ソファーの生地。
カーテン。
そして壁紙まで。
部屋のインテリア全てが博多織です。
これは「平成献上」と名付けられた新しい模様。
伝統的な献上柄の雰囲気を残しつつ和洋どちらのスタイルにも使えるようにデザインされました。
すごい気持ちいい。
椅子にある素材の感覚と違うからとても新しい感じ。
座るのに緊張しそう。
そしてここにも。
しかし完成までにはさまざまな苦労があったといいます。
こういう建築資材で使うためには幅が900〜1200ぐらいないと使えないんです本来帯ですから。
それからホテルで使うとなるとどうしても防災という加工を施して頂かないと当然認められない。
防炎対策やコストなどこれまで直面した事がない課題が立ちはだかりました。
それをどんな方法で解決したのでしょうか?
(機械の音)失礼します!こんにちは。
こんにちは。
開発グループの一人…このメーカーでは40年前既に帯の生産をやめ雑貨の生地作りに取り組んできました。
普通の帯とか作るものより長いんですか機械は?幅は当然広いですね。
帯はこのぐらいの幅で織ります。
これは1メートル20センチ幅ありまして。
帯作りでは使わない幅の広い織機を使って丈夫で滑らかな壁紙を作り出しました。
しかしたくさんの縦糸を使って太い横糸を織り込む伝統的な博多織の製法を変えることはありませんでした。
絹糸だけではなかなか難しい部分がございましたので絹以外の繊維も使ってね…。
ネックは博多織で使われる絹糸に防炎加工ができなかったこと。
そこで讃井さんはさまざまな化学繊維を試し風合いを損なわないポリエステルを使うことを決意します。
ポリエステルは絹糸に比べ滑りやすいという欠点があります。
絹糸しか扱ったことのない職人たちは工夫を重ね欠点を克服。
1年がかりでポリエステルを使った博多織の壁紙が完成しました。
現在レストランやホテルで使われていますが今後はマンションなどにも広めていきたいと考えています。
新しい博多織に大手自動車メーカーも注目。
高級車用の座席シートとして実用化できないか検討されています。
更に今開発中の博多織があります。
さてそれは…。
これステンレスの糸なんですね。
これを糸に見立てて織物を織ってみたり…。
なんとステンレスを使って織物を作ろうというのです。
織ったものがあるんですけど。
外に出しても負けない織物っていうのを考えてですね。
海外からの発注がきっかけで生まれたこの織物。
100年間屋外にさらしても傷まない強さを持つといいます。
讃井さんはステンレスと博多織の技術を組み合わせれば最強の織物が作れると考えています。
やっぱり770年以上続いている技術が我々の代になって市場が和服が売れなくなったから駄目になったということはやはり許されないことだと。
先輩たちの開発力すごいものがありますのでその技術を更に進化させて現代生活に取り入れられる博多織というのを目指していかないかんと思います。
絹糸一本一本を触らせて頂いて機械に任せているところ。
でも結局人が最後いろんな所を管理して作り上げられていくきれいな作品の一つ一つにすごく感動もありましたし皆さんとても冒険心を持って博多織献上柄に取り組んでいらっしゃるというかロマンみたいなものを感じることができました。
古くから着物を引き立てる美しい帯として愛されてきた博多織。
現代のライフスタイルに合わせ日々進化を続けています。
2014/07/13(日) 04:30〜05:00
NHK総合1・神戸
イッピン「つよくしなやか 輝く帯〜福岡 博多織〜」[字]

今回は博多織。洗練されたデザインと、丈夫でしなやかなことが特徴。これまでにない発想で大胆な新商品を開発している。美しい博多織を生む職人技を田丸麻紀がリサーチ。

詳細情報
番組内容
博多織の帯を生地に使った、おしゃれなバッグや雑貨が人気だ。博多織は、丈夫さとしなやかさという特徴をあわせ持つ織物。大量の縦糸と、太い横糸を、高度なワザを持った職人が自在に織り込んでいく。洗練された光沢ある模様は、糸のごくわずかな張り方の違いで、驚くほど表情を変える。最近は、これまでにない発想で、大胆な新商品も開発している。伝統を受け継ぎながら、日々進化を続ける博多織を、田丸麻紀がリサーチする。
出演者
【リポーター】田丸麻紀,【語り】平野義和

ジャンル :
ドキュメンタリー/教養 – カルチャー・伝統文化

映像 : 1080i(1125i)、アスペクト比16:9 パンベクトルなし
音声 : 2/0モード(ステレオ)
サンプリングレート : 48kHz

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