「妻の家事ハラ」をうたった旭化成ホームズの広告がネット上で物議をかもしている。この件で一番驚いたのは、実は私かもしれない。「家事ハラ」は昨年秋、私が出版した『家事労働ハラスメント〜生きづらさの根にあるもの』(岩波新書)での造語だからだ。
ここでは、「家事労働ハラスメント(家事ハラ)=家事労働を蔑視・軽視・排除する社会システムによる嫌がらせ」と定義し、こうした蔑視によって、家事労働の担い手とされる女性が、貧困や生きづらさへと追い込まれていくことを伝えようとした。それが「妻からの家事ハラ」では、「家事をやらされる男性のつらさ」を指す言葉に転化させられてしまっていた。
この問題の本質は、こうした少数派の言葉の無力化であり、それを繰り返してきた「社会の装置」だ。
あっという間の定義の逆転
家事労働は人の生を支える重要な労働だ。育児や介護も、子供や高齢者に食べさせ、衣類を選択するといった家事労働の連鎖といっていい。日本では、そうした労働は「女性」「主婦」といったブラックボックスにぶちこんでしまえばそれで解決とされ、政策的支援は極めて弱い。
労働時間の設計でも家事労働は無視され、1日8時間という労働基準法の規定など守る方がおかしいと言わんばかりの扱いを受ける。ブラック企業と労使交渉で、「労基法? ウチはそういうのはやってないんで」と言われたと、ユニオンのメンバーが苦笑していたが、日本社会の空気を見事に表現した言葉といえるだろう。
このような社会設計の結果、女性は、長時間労働と保育サービスの不備に苦しみ、出産で6割近くが正社員の仕事をやめている。両立できる再就職先としては非正規雇用しかなく、 ・・・・・続きを読む
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- 竹信三恵子(たけのぶ・みえこ)
和光大学現代人間学部現代社会学科教授。東京都出身、1976年に朝日新聞に入社。東京経済部、シンガポール支局、東京学芸部次長などを経て、編集委員。2011年4月から現職。朝日新聞では、連載「社員じゃないけれど―多様化する女性雇用」「家事の値段―見えない労働を測る」「『8時間労働』のゆくえ」「現場が壊れる」などで、女性問題や労働問題を多く扱う。09年、貧困ジャーナリズム大賞。著書に「日本株式会社の女たち」「ワークシェアリングの実像―雇用の分配か分断か」「ルポ雇用劣化不況」など。
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