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井野博満氏:川内原発再稼働の前に知っておくべきこと
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マル激!メールマガジン 2014年7月30日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第693回(2014年07月26日)
川内原発再稼働の前に知っておくべきこと
ゲスト:井野博満氏(東京大学名誉教授)
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九州電力川内原発の再稼働に向けた動きが加速している。原子力規制委員会は川内原発1号機、2号機の審査を終えて、7月16日に事実上の審査のパスを認める「審査書案」を公表した。8月15日までパブリックコメントを募った上で正式に審査書が確定し、地元の同意が得られれば再稼動が可能になるという流れだ。
審査書案の公表を受けて会見した原子力規制委員会の田中俊一委員長は「原発再稼働の判断についてはコミットしない」と述べている。規制委はあくまで規制基準を満たしているかどうかを科学的な見地から判断するだけで、再稼働の判断は政府が行うものという立場だか、一方で安倍首相は規制委の決定を尊重して再稼働を行うとしており、再稼働の責任をお互いになすりつけているかのような印象は拭えない。
今回公表された審査書案は400ページ以上に及び、原発施設の設計の在り方から実際の施工上の対応、電源の安全確保対策、重大事故の想定や緊急時の要員確保まで記述されていて、一見するとあらゆる事態を想定しているかに見える。しかし、東京大学名誉教授で原子力施設に詳しいゲストの井野博満氏は 今回の審査書案では過酷事故への対策が不十分であると指摘する。原発事故の対応で必要なことは、いかに原子炉を安全に「停める、冷やす、閉じ込める」かが鍵となるが、規制基準が想定している過酷事故のケースはいずれもひとつのトラブルが中心に考えられていて、それと並行して起きる可能性のあるトラブルが十分に考慮されていないと井野氏はいう。
さらに川内原発では、仮に冷却機能が失われて炉心損傷が起きても、その段階で事態の進行を押さえ込む防護機能が十分ではなく、次に生じるメルトスルーにどう対応するかという対策しか想定されていないという。このような事実は専門家が読んで初めてわかることで、一般の人が規制基準や審査書案をいくら読んでも、知ることができない。
そもそも再稼働を誰がどういった権限で判断するのかという法的枠組みを日本は持っていない。そのため安全基準への適合の可否のみを審査しているはずの原子力規制委員会の判断が、事実上、再稼働にお墨付きを与える格好になっている。このままでは総無責任体制の下で原発だけが回り出すことになり、万が一の事故の際にもその対応が甚だ心配だ。
川内原発再稼働に向けた動きと今回公表された原子力規制委員会による審査書案を参照しながら、原発の規制の在り方、規制基準の問題点、原子力規制委員会や立地自治体の役割と責任などについて、ゲストの井野博満氏とともにジャーナリストの青木理と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・3.11の教訓はどこへ 原子力規制委員会の内幕
・川内原発 審査書案の“死角”とは
・立地自治体と“専門家”のあるべき姿を考える
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今福龍太氏:ブラジルサッカー惨敗に見る「世界の危機」
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マル激!メールマガジン 2014年7月23日号
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マル激トーク・オン・ディマンド 第692回(2014年07月19日)
ブラジルサッカー惨敗に見る「世界の危機」
ゲスト:今福龍太氏(東京外国語大学大学院教授)
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7月13日に閉幕したサッカーのワールドカップ・ブラジル大会は高い身体能力を備えた選手を揃えたドイツが、高度に統制された戦術のもとで全員が精力的に走り回る合理主義サッカーで世界の頂点に立った。しかし、今大会で最も多くの耳目を引いたのは、何と言ってもホスト国で「サッカー王国」の名をほしいままにしてきたブラジルが、準決勝でドイツに7-1という歴史的なスコアで敗れた「ミネイロンの悲劇」だった。
文化人類学者として長年ブラジルやラテンアメリカを研究してきた東京外国語大学大学院の今福龍太教授は、今大会、ブラジルが大敗しドイツが優勝したことについて、これは単にブラジルサッカーの危機を超えた「サッカーの危機」、ひいては「世界の危機」を反映するできごとだと評する。
ドイツは徹底したデータの集積、そしてそれに基づいた科学的な分析に基づく統率の取れた戦術によって、他チームを圧倒した。それはサッカーというゲームの意味を度外視し、単純により多く得点するための最適解を求めた結果だった。今福氏はドイツや今大会で優勝候補のスペインに大勝するなどして健闘が目立ったオランダのような、手段を選ばずに貧欲に得点を狙いにいくようなプレーはブラジルサッカーではあり得ないことだという。ブラジルのサッカーでは単純に多くの点を取ることよりも、想像力溢れるプレーや美しいゴールの方により重きが置かれていると言っても過言ではないほどだと今福氏は言う。
ドイツの勝利至上主義の背景に、勝利することによって得られる莫大な経済的利益があることは言うまでもない。勝つことで得られるマネーが年々膨張してきたことがより一層サッカーの情報化、データ化を促し、選手の個性は消し去られ、チームは選手を単なる駒のひとつとして戦術にはめ込んでひたすら得点を目指すというスパイラルに陥っていく。
今回のワールドカップで顕在化した「合理性」対「偶然性」の価値対立は、実際はサッカーの枠を遙かに超え、今日われわれの社会生活の至るところで衝突している価値対立と共通していると今福氏は言う。その価値の衝突に自覚的にならない限り、われわれは今大会でドイツが見せた「合理主義」を無批判によいものとして受け入れ、その対価としてブラジルのサッカーに見られるような「別の大切なもの」を無自覚に捨て去っている場合が多いのではないか。そしてブラジルサッカーと同様に、その「別の大切なもの」こそが、むしろ何に代えても守っていかなければならないものの場合が多いのではないか。
ワールドカップ・ブラジル大会に投影された今日のわれわれの生きにくい世界の縮図を、ゲストの今福龍太氏とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・ブラジル=偶然性と、ドイツ=合理性の戦い
・グローバル化とジェントリフィケーションが奪う、サッカーの本質
・「思い通りのことが起こる」ことが快楽なのか
・もっとも知的な人間は、知的な計算をやめる
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鬼頭宏氏:人口減少という歴史の必然と向き合うために
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マル激!メールマガジン 2014年7月16日号
(発行者:ビデオニュース・ドットコム http://www.videonews.com/ )
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マル激トーク・オン・ディマンド 第691回(2014年07月12日)
人口減少という歴史の必然と向き合うために
ゲスト:鬼頭宏氏(上智大学経済学部教授)
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少子高齢化と人口減少という、世界の先進国に共通する問題で最も先頭を走る日本。安倍政権は6月24日に出した「骨太の方針」で50 年後に1億人程度の人口を維持することを目標に掲げている。しかし、歴史人口学が専門の鬼頭宏上智大学教授は、先進国における人口減少は歴史の必然であり、避けられないものとして向き合うことの必要性を説く。
鬼頭氏は一つの文明が限界を迎える時、その社会は調整局面に入り、調整の一環として人口減少が起きるとして、日本にも縄文時代以降3度の人口減少期があったことを指摘する。最初の人口減少期となった縄文時代後期には、気候変動などによりそれまでの採集・狩猟生活が限界を迎えたために一時的に人口が大きく減少している。しかし、その後稲作が導入され、日本は再び人口増加に転ずる。他にも、室町末期から鎌倉前期と江戸末期にそれぞれ人口減少期を経験しているが、いずれもそれまで社会を支えていたシステムが限界を迎え、新たなシステムに切り替わるまでの調整の一環として人口が減少したのだという。
では、今回の人口減少の背景にある文明の限界とは何を指しているのか。鬼頭氏は日本を含む先進国の人口減少は実は1970年代から始まっていたと指摘する。医学の進歩や平均寿命の延びなどもあり、実際に日本の人口が減少に転じたのはここ数年のことだが、1970年代には既に合計特殊出生率が人口維持の前提となる2.0を割り込んでいた。そしてそれはローマクラブによる「成長の限界」やレイチェル・カーソンの「沈黙の春」など経済成長や物質文明の限界を示唆する各種の報告や、74年に開かれた国連による第3回世界人口会議などともほぼ同じ時期に起きている。また、第4次中東戦争やオイルショックなども重なったことで、20世紀の物質文明の限界を世界の多くの人が感じた時代だったと鬼頭氏は言う。
現在の調整局面を経て、次の時代の文明がどのようなものになるかは今のところ誰にもわからない。先進国が人口減少という難題を抱える一方で、世界の人口は今や70億を超え、将来的には100億まで増えることが予想されている。地球が養える人口の限界が80億人と言われる中、先進国で深刻化する少子化と人口爆発を続ける途上国の格差の問題を、われわれはどう捉えればいいのだろうか。日本は人口急減社会に耐え、新たな文明システムの軸を見つけることができるのか。人口問題を入り口に世界や日本が置かれた現状と、これからなすべきことなどを、歴史人口学に詳しいゲストの鬼頭宏氏とともに、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。+++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++++
今週の論点
・人口減少は、文明システム成熟の「必然」
・日本は1970年代に「静止人口」を目指していた
・日本の人口が半減すると何が起こるのか
・限界に向けて増え続ける世界人口と、女性の地位向上の関係
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