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【暮らし】

規制といたちごっこ 危険ドラッグ 大麻・覚せい剤しのぐ害も

過去に販売されていた危険ハーブ(脱法ハーブ)。カラフルなパッケージの中に化学物質を混ぜた植物片が入っている

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 全国で危険ドラッグ(脱法ドラッグ)の事件・事故が相次ぐ中、その依存性や有害性が大麻や覚せい剤をしのぐ実態が浮かび上がっている。規制されると、構造が少しだけ異なる新物質が次々と流通。専門家は「より危険性が高まっている」と指摘する。 (山本真嗣)

 「誰かが自分を殺そうとしている」。昨年末まで危険ハーブ(脱法ハーブ)を使っていた愛知県の三十代男性は、幻覚や幻聴に苦しんだ末、父親を殴るなどして精神科に入院した。

 十代から大麻を常用していた。仲間から「逮捕されるリスクがない」と紹介され、数年前にアダルトショップで購入。当初は多幸感が続くなど大麻の効果に似たものを使用。昨年、覚せい剤のように気分が高揚するタイプを使うと、歯止めが利かなくなった。

 気持ち良かったのは最初の一カ月だけ。目がさえて全く眠れず、食欲もなくなり、体重は約二十キロ減。薬の切れ目がつらく、一晩で三回分を使うほどになり、車を運転しながら吸って信号待ちの車に追突したことも。会社は解雇され、ホームレスになった後も、拾い集めたアルミ缶を交換した金でハーブを買った。

 男性は「大麻でも、ここまでぶっ壊れなかった」と後悔する。三月からは薬物依存症者らが回復を目指す民間のリハビリ施設「三河ダルク」(愛知県豊橋市)で暮らす。三河ダルクの松浦良昭代表(49)は「大麻や覚せい剤よりも、症状の悪化が早い」と話す。

     ◇

 「材料も量も分からない。闇鍋みたいなものだ」。国立精神・神経医療研究センター依存性薬物研究室の船田正彦室長(48)は警告する。危険ドラッグの主な化学物質は、大麻に似た作用のある合成カンナビノイド系と、覚せい剤に似たカチノン系。これらを乾燥した植物片に混ぜると危険ハーブになる。これらの依存性や有害性は十分に解明されていないが、業者は規制逃れのために新たな物質を作り、それらが複数混ざり合う商品も。使用者が中毒で搬送された病院でも原因が分からず、処置が遅れる危険性があるという。

 同センターの研究グループが、合成カンナビノイド系の化合物をマウスに投与した実験では、依存性は大麻の十〜二十倍。脳神経細胞に与えると神経線維が切れたり、細胞が減ったりする有害性が確認された。

 厚生労働省の研究班は二〇一二年九〜十月、精神科病床がある全国千六百九施設を対象に調査。一年以内に薬物を使用した患者で、幻覚や妄想などがあった人の割合は、危険ドラッグ乱用者が45・2%と、覚せい剤乱用者の34・1%を上回っていた。

 調査を担当した同センター診断治療開発研究室の松本俊彦室長(46)は、「危険性は覚せい剤に勝るとも劣らない」と指摘。危険ドラッグ依存症の外来患者の症状は、年々悪くなっているという。「業者はどれだけ危険なのかを試して作るわけではない。規制逃れで物質が変化し続けている結果、有害性も強まっているのではないか」と推測する。

 <危険ドラッグ> 大麻や覚せい剤などの危険薬物に似た成分を含んだドラッグ。厚生労働省は薬事法に基づき、中枢神経に影響する恐れがある1380種(30日現在)を「指定薬物」と定め、製造や販売を禁止。吸引などによる事故や事件が相次ぎ、4月から薬事法で所持、使用、購入、譲り受けも禁止した。

 

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