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Listening:<クローズアップ2014>東電元会長ら「起訴相当」 検察審、「安全神話」批判

2014年08月01日

検察審査会で東京電力の勝俣恒久元会長らの「起訴相当」が議決され、議決要旨を張り出す担当者=東京都千代田区の東京地裁前で31日午前11時29分、竹内幹撮影
検察審査会で東京電力の勝俣恒久元会長らの「起訴相当」が議決され、議決要旨を張り出す担当者=東京都千代田区の東京地裁前で31日午前11時29分、竹内幹撮影

 東京電力福島第1原発事故を巡り、業務上過失致死傷などの疑いで告発された東電の勝俣恒久元会長(74)ら3人を「起訴相当」とした東京第5検察審査会の議決は、検察に判断の見直しを迫るだけでなく、東電や規制当局の安全軽視の姿勢を厳しく批判した。専門家の考えと「市民感覚」とのずれが鮮明になった形だが、起訴するかどうかの判断に当たって検察との「二重基準」が存在することには疑問の声も聞こえる。

 「こういう判断もあり得るとは思っていたが……」。起訴相当の議決を聞いた検察幹部の一人は、驚きを隠せなかった。

 検察審査会は、当時の東電幹部らの姿勢を厳しく非難し、検察に再捜査を求めた。それだけでなく、電力事業者と規制当局に「原発は大丈夫だろうという雰囲気が存在していたのではないか」と指摘。「安全神話の中にいたからということで、責任を免れることはできない」と述べ、一般常識とのずれを強調した。

 検察と審査会の判断を分けたのは、予測困難な巨大津波による事故に対する心構えのあり方だった。考えられる限りの備えを求めた「市民感覚」と、従来の検察や裁判所の考えには大きな隔たりがある。

 過失事件で刑事責任を問うには、事故を予見できた可能性(予見可能性)の立証が必要だ。抽象的な危険性の認識だけでは足りず、事故を具体的に予測できていたとの立証が求められるとされ、東電幹部らは「想定外の津波で、事故は予見できなかった」と主張していた。

 検察の捜査では、地震や津波の研究状況などを明らかにした上で、東電側の主張をどう覆すかが焦点となった。着目されたのが(1)政府の地震調査研究推進本部が2002年、福島県沖でも津波地震が起きる可能性を発表した(2)東電で08年、津波水位が最悪の場合15・7メートルになるとの試算結果が出た−−の2点だ。検察は、(1)については東日本大震災の規模は当時の研究者も想定し得なかったと判断。(2)の試算も最も過酷な条件設定だったとし、巨大津波の予見は困難だったと結論づけた。

 一方の審査会は「原発は事故が起きると被害は甚大で、影響は長期に及ぶ。原発事業者の取締役らは、安全性の確保のために極めて高度な注意義務を負う」と前置きした。その上で「対策が必要な津波だと認識できていれば、予見が可能だったと言える。算出された最高値に基づき対応を考えるべきだった」と批判。発電機を高台に置いたり、過酷事故対策として緊急マニュアル整備や訓練などをしたりしていたら「被害を回避し、少なくとも軽減できた」として旧経営陣の刑事責任は問えるとした。

 検察は今後、勝俣元会長らからの再聴取などを進めるとみられる。だが、ある捜査幹部は「我々は判例上認められてきた基準で捜査したが、審査会はそれ以上を求めている。再捜査は難しいものになるだろう」と語った。【吉住遊、石山絵歩】

 ◇強制起訴、相次ぐ無罪

 検察の不起訴処分に対し、検察審査会が2度、起訴すべきだと議決をした場合に自動的に起訴される「強制起訴制度」は、司法に民意を反映させる新たな仕組みとして2009年5月にスタートした。同じ時期に導入された裁判員制度に比べると注目度は低かったが、社会的に関心の高い事件で強制起訴が相次いだ。

 初の強制起訴は、11人の死者を出した兵庫県明石市の歩道橋事故で県警明石署の元副署長が10年4月に業務上過失致死傷罪に問われたケース。続いて乗客106人が死亡したJR福知山線脱線事故で、同月にJR西日本の歴代3社長が同罪で強制起訴された。4例目では、東京地検特捜部による陸山会事件で不起訴処分とされた小沢一郎衆院議員が11年1月、政治資金規正法違反で強制起訴された。

 しかし、明石歩道橋事件の1審では時効成立を理由に「免訴」とする判決が言い渡され、福知山線事件と陸山会事件では無罪が出された。これまでに強制起訴された8事件のうち無罪判決は4件を占め、1審で有罪とされたのは2件にとどまっている。

 このため「検察審査会は証拠よりも感覚で判断しているから無罪が相次いでいるのではないか」「強制起訴される被告の負担を考えても、検察と市民感覚の『二重基準』ができている現在の制度を見直すべきではないか」などと制度を批判する声も上がっている。

 ある検察幹部は「市民感覚を刑事手続きに反映させるという点では、検察審査会の機能は重要だ」と制度の意義を認める。一方で「事故などの結果が重大だった場合は、とにかく刑事罰を科すべきだという風潮に疑問を感じる。刑法は道義的責任を取らせる法律ではない」と懸念を示した。【近松仁太郎、山下俊輔】

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