まどかの章 15 ☆☆☆ インキュベータ社(社長室)
あぁ~疲れた。しかし、あの程度の会議ひとつ終らせるのに5時間も掛かるってどうなんだろうね。ほむら、ボクの会社ってどうしてこんなに無能な奴が多いんだと思う? 待遇が悪いから有能な人材が集まらないのかな? もっと給料を上げた方がいい?
貴方の考える有能の定義がわたしにはよく分からない。
合理的に動いてくれるだけでいいんだけど。君のようにさ。
……。
葉巻、ぷか~。そう君の働きは実に素晴らしい。100のミッションをこなしてまだ1度もミスがないなんて文句の付けようがないよ。……おかしなものだね。我が社の第4ファームで君が生まれたとき、君のことなんて誰も気にも留めなかったのに。君の未来なんて貴族の愛玩具となるのが関の山だったろうに。9歳で魔力が発現して以来、君を取り巻く世界は一変した。奴隷でありながら最高の生活環境を与えられ、大切に大切に育てられた。当然だよね。魔法因子のない親から魔法使いが生まれる確率、いくらか知ってるかい? 500万分の1さ。
……。
君はこの机に飾られた薔薇と同じだよ、ほむら。丁寧に育てられた薔薇は綺麗な花を咲かせて周りの期待に答えてくれる。でも丁寧に育てられるのは君が薔薇であるから。ボクらのような雑草とは違うんだ。
貴方、勘違いしているようだけど、私は貴方の期待に応えようと働いている訳じゃない。自分の為に働いているだけ。…こんな下らない話を聞かせる為に私を呼んだのかしら? 用がないなら私は…。
いや待ってくれ、ほむら。実は君に頼み事があってこの部屋に来て貰ったんだ。プロジェクトリーダーになって貰いたい。非合法、高難度、魔法必須の仕事だ。君にしか任せられない。非常に危険で命を落とすかも知れないけど、その分報酬は弾ませて貰うよ? 副社長の椅子、我が社の株式の5%無償譲渡、10億ゴールドの臨時ボーナス…。
私は屋上からジャンプなんてしたくないし、私の望みは地位でも名誉でもお金でもない。言った筈よね。私の望みは…。
分かってるさ。まどか、だろ? だからその望み…。ファーム時代の君のルームメート。イエローW型奴隷、ID:39543999、鹿目まどかも報酬に加えるからさ。
……今までアレコレと理由を付けてはぐらかしていたのに。いったいどういうつもり?
いやー。それだけボクも切羽詰ってるってことさ。確かにまどかを失うのは痛いよ。君がまどかを得たら、我が社に留まる理由なんて何処にもない訳だからね。でも今ここで君に全力で頑張って貰わなければインキュベータ社に先はない。プロジェクトが軌道に乗るまででいいんだ。それで報酬を渡そう。君がまどかの所有者となるんだ。後は君の好きにすればいいさ。
…本当? 本当にまどかを貴方のファームから解放してくれるの?
疑っているのかい? 心外だな。ボクが契約で嘘を付かないのは、いつもボクの側にいた君が一番良く知っている筈じゃないか。
そうだけど…。
まどかを助けたいんじゃなかったの? だからこそ今まで大人しくボクの命令に従って来たんだろ?
……。
ん…。君がいらないなら他の者に愛玩奴隷として売ってしまってもいいんだけどな…。チラッ。
ま、待って!
ニヤッ。
……分かったわ。
じゃ、契約成立ってことでいいね。早速だけど……。引き出しをゴソゴソ。ホムンクルスプロジェクトが頓挫した今、我が社が生き残る道はコレしかないと思うんだ。はい、これが君の仕事だよ。資料バサッ。
ソウルジェムプロジェクト…? ペラペラ…ペラペラ…。これって、まさか…。
そうさ。旧人類じゃなくて新人類。魔法使いの奴隷を交配させて魔法使いを繁殖させるのさ。丁度都合のいいことにマギカ王国の旧巴家の魔法使いが今朝方スレーブドームで競られていてね。駄目もとで落札してみたんだけど、その子、繁殖母体として実に申し分ない資質を持っているんだ。ほんと惚れ惚れするよ。
マギカ王国、旧巴家の姫…。巴マミ。
なんだ知っていたのか。うん。マミだよ。巴家は1000年近く続く伝統のある家柄で家系図も確かだから交配のとき正確に血統を調べることが出来るんだ。フフッ…。ボクはいつか魔法使いの血脈の謎を解き明かしてルーン史上最強の魔法使いを生み出してみせるさ…。
マミの護衛の騎士も二人競りに掛けられた筈。…美樹さやか。あと…佐倉杏子。
彼女達は落札していない。魔力はどちらもあるようだけど、美樹さやかはストレスに弱くて直ぐ癇癪を起こすからね。キレたら何をするか分からないって奴隷としては致命的な瑕疵だよ。佐倉杏子の方は君と同じく突然変異体の魔法使いだ。魔法因子の血統データがないからどう交配をさせたらいいのか分からない。どちらも残念ながら繁殖母体には適さないね。
そう…。
君の仕事は巴マミを管理して魔法使いの繁殖事業を軌道に乗せること。魔法使い相手だから一般人には出来ない仕事だ。勿論、繁殖させるには母体だけじゃ無理。交配相手の魔法使いが必要なんだけど、マミの血統と相性抜群の魔法使いが競りに掛けられるのを悠長に待っている時間的余裕はボクらにない。手段を選ばずやってくれ。
手段を選ばずって…そもそもソウルジェムプロジェクト自体、合法なの?
さぁ…。魔法使いの繁殖なんて前例がないからね。まぁ、奴隷には違いないのだから違法ではないと思うけど。でもボクのような平民が社長の会社がそんなことをやっているなんて、貴族どもにバレたらさぞかし厄介なことになるだろうね。良くてインキュベータ社は倒産。悪くて社員皆殺しなんじゃないかな。だからマミはとある貴族のお屋敷へ送ったことにしてあるんだ。万一監査が入ったら、ボクらは仲買をしただけでマミはここにいないと口裏を合わせてくれよ?
本当は何処にいるの?
このスレーブタワーの地下最下層、第9ファーム。マミだけでなくプロジェクトに必要な人材、器材、全てそこに揃えた。社内で選り抜きのエリート達、血統解析のスーパーコンピュター、新生児保育器、遠心分離機、冷凍倉庫、CTスキャナ、培養室、手術室、分娩室…。巴の交配相手が最後のピースだ。君が用意することでこのプロジェクトは始動される。
待って。魔法使いのコマンドが何人か必要だわ。魔力量3兆MPオーバーで実戦経験のある人が3人…。出来れば5人…。
無理だ。魔法使いを雇うのは危険過ぎる。今回はホムンクルスプロジェクトのようにインキュベータグループから切り離していない。情報が外部に漏れでもしたら言い逃れが出来ないよ。
じゃ、魔法使いは私ひとりでマミを24時間監視の上にマミの相手探しもしろって言うの? ふざけないで。どうやってやるっていうの? 出来る訳ないじゃない。
だから高難度の仕事だって言ったろ? しょうがないなぁ…。じゃ、こうしよう。魔法使いは無理だが、まどかを第9ファームに移送しよう。報酬の先払いだ。まどかを君の管理下に置く。後は君の好きにすればいい。但し、第9ファームの外に連れ出すのは駄目だよ? それはプロジェクトが軌道に乗ってからの報酬だ。
えっ…。まどかと…一緒に暮らせるの…? モジモジ…(////
あぁ、今日中に第9ファームに届けるよ。大変な仕事だからね。楽しみがないとやってられないだろう? 愛しいまどかを君の奴隷にして何でも君の思うがままにすればいいさ。
ま、まどかは私の親友で…。そんな…変な関係じゃ…。奴隷なんて、そんな…(////
親友としての関係だけでいいの? ふーん…ちょっと意外だな…。まどかに遠慮しているのかい? まぁ、君が9歳の頃にまどかと引き離されて今年で4年だ。君たちはその間、何度か面会室でしか会ってないものね…。あぁ、そうだ、積もり積もった話もあるだろう。明日は休みにして、まどかと二人水入らずでゆっくり過ごしなよ。仕事はあさってからにしてさ。
い、いいの?
勿論さ。いくら時間的余裕がないからといって、君に休みなく働けと命令している訳じゃない。ボクは成果さえ出してくれたらそれでいいんだ。仕事のスケジュールも何もかもプロジェクトリーダーの君に任せるよ。…明日だけでなく、たまには休日を入れてジックリとまどかを可愛がってやりなよ?
……まどかと一緒にいられる…まどかと一緒…まどかと…(////
あぁ、そうだとも。これからはまどかと同じ部屋で暮らせるんだ。休日どころか毎晩一緒さ。でもその代わり魔法使いは君だけだ。何時如何なる時もマミの波紋を常に感じ取って、何か異常があるときは即座に時間を停止させてマミの元へ駆けつけるんだ。…どうだい? 大変だけど、頑張れるかい?
コクン…(////
わかった。じゃ、よろしく頼むよ。ほむら。
え、えぇ…。フラフラ…フラフラ…。扉、パタン…。
ニヤッ。
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